表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

第4話 帰らぬ修学旅行 1日目 9:42 戸石SA

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「菱島さん、お待たせしました」

 警察署に行くと小さな会議室に私たち一家は通された。

 安っぽいパイプ椅子に、噂の三人がいかにも面倒くさそうな顔をして座っている。かしこまって背筋を伸ばしているのは背の低いおじさんくらいだ。性格なのかな?

「どうですか?」

 と安田刑事さんがお母さんに促すけど、「え? えーっと……」お母さんは明らかに困惑している様子だ。

 い、今かな・・・?

 私は心臓をバクバクさせながら、それでもできる限り平然を装った。

 近くで見ないとわかんないよねー!

「何よサキ? 急に大きな声だして!」

 といつもの調子よりお母さんが私を叱る声も若干大きい。

 私は気にせず、たたたっと駆け出し、そして派手に転んで見せた。

「何やってんだ……」

 お父さんが呆れた声を出す。よし! バレてない。

 私は転んだ先に掴んだ靴を、思いっきり強引に引っ張った!

「きゃっ――」

 その女の人は、小さい悲鳴を上げた。

 あ、ごめんなさい! つい弾みで。

「ちょっと! 返して――」

 え? お姉さん……私が言うのも変かもしれないけど、足汚いね。


「――多分だけど、犯人は逃げ出した時は裸足だったか、少なくとも靴は履いてないと思うの」

 マリちゃんが私に覗いてほしいと言ったのは、犯人の足だった。

「玄関から入ってきて、すぐに豆まきをしたんだよね? もし靴のまま上がって来てたら二人も不思議に思ってたでしょ?」

 確かに。そんな違和感はなかったよ。

「そして犯人は想定外に早く帰ってきたおじ様に驚いて慌てて飛び出した。サキちゃんの家の庭や道路を歩いて逃げたんだとしたら、靴をどこに隠していたかによるけど、多少は汚れてると思う」

 でも、そんなにいつまでも汚いかな?

「それだけ変装していたら足先より他に隠すことがいっぱいあるからね。靴や靴下で隠してる場合もあるから」

 まぁもちろん、きちんと汚れを取っていたら難しいけど――。とマリちゃんが加える。

「ところで、おじ様が帰ってきた時のこと思い出した?」

 あ、うん。お父さんが帰ってきた時は外の街灯は見えなかったよ。

「ということは、犯人はおじ様よりも背が低いってことになる。」

 じゃあ、あの几帳面なおじさんかな?

「うぅん。靴を履いても背が低くみえるならそれはないと思うよ」 

 あ、それなら犯人はあの大学生!? 髪も茶色いし!

「髪色は光の影響で多少変化しただけだと思う。仮にもし本当に茶髪が犯人の決め手なら、犯人の計画性がなさすぎるよ。靴を履いて背が高いなら脱いでも多分高い。サンダルならそれほど厚みもないし。靴を履いた状態でお父さんより背が低い人は論外。そこから考えると……」


 犯人はあの女性だった。ストッキングを咄嗟に穿いてしまったがために、足の爪に残った泥に気付かなかったことも決め手となった。ビニールのポンチョは近所の公園のゴミ箱から見つかった。

「上半身を隠さないと胸が隠せない。そして二人はてっきり男だと思っているからもしすぐに追いかけても女性を疑いはしなかったと思う。声を録音で流すなんてのも計画性が伺えるね」

 なるほど……。とにかく、マリちゃんが来てくれたおかげでまた私たち家族は救われたってことだね!

 今年の節分はいつもより余計に豆を投げて、鬼を追い出すことに必死となった。


 さ、そんなつまらない思い出はもう消し去るよー!

 やっとやっとの修学旅行!

 昨日の夜はもう待ち遠しくて興奮して全然眠れなかったし! 7時間くらいしか寝てないし!

 大丈夫かな? バスの中で寝ちゃったりしないかな……!?

「なにやってんのー!? もう出るわよー!」

 お母さんが下の階から呼んできた。まぁ朝から大きな声が出るもんだね。

 修学旅行の荷物があるので、生徒はみんな車で登校OKなのだ!

 バスはすでに学校に並んでいた。いいねいいね、この感じ! 5年間いつも6年生が帰ってくるバスをどれほど羨ましい気持ちで私が見つめていたと思ってんのさ!

 お母さんが散々急かすから不安だったけど、フェンスの向こうに見える校庭には、まだ各クラス数名程度の生徒しか来てなかった。もう、お母さんいっつもそうなんだから。集合時間8時10分で出発は30分だよ? 今はまだ7時半になったばかりなのに……。

「調子に乗って食べ過ぎちゃダメよ!? それとお小遣いは使い切るんじゃなくて、きちんと計画的に――」

 行ってきまーす!

 お母さんの小言から逃げるように私は車を飛び出した。

 お母さんはそれでも何か叫んでいたようだけど、すぐに車の荒いエンジン音が遠のいていった。

 私は校門を前に立ち、しみじみとした気持ち? になった。

 ただいつもより早く学校に来ただけなのに特別感満タンだね!

 ――ん?

 視界の端に車が停まる。

 正門より随分手前、それこそ学校の敷地の端っこの方に路上駐車した車。

 クリーム色の小型の可愛い車だ。私も将来はあんな車に乗って大学生活とか満喫してみたいものだ。

 などと思っていたら、降りてきたのはマリちゃんだ!

 マリちゃんはその小さな体に、同じくらいのサイズ感の旅行バッグを提げてよたよたと降りてきた。

 私は正門を潜るよりも先にマリちゃんの許へ向かおうと走り出した。まぁどうせ中に入ってもまだ仲のいい子が来てないと退屈なだけだし。

 少し近づいて私はぎょっとした!

 その車の運転席から降りてきた人物は全身茶色のタイツを着ていたのだ。クリスマスの時のトナカイのコスプレみたいって言えばわかりやすいかな?

 私が呆然と立ち尽くしていたのを、目聡いマリちゃんは気付いたのだろう。

 声は聞こえないが、そのタイツの人に向かって慌てて何か言っているような身振り手振りだ。

 しかし、そのタイツさんはそのせいか私に気付き、大きく手を振ってきた。

 ……もしかして、藍お姉さん!?

 藍さんとは、マリちゃんの年の離れたお姉さんである。年が離れてるせいか、マリちゃんを非常に可愛がって止まない人なのだ。きっと送迎の役を買って出たのだろう。

 私は恐る恐る近づいて行って、その正体が予想通り藍さんだと確信できる距離までやってきた。少し安心したけど、未だに驚きは消えない。

「サキちゃ~ん! 元気? 久しぶりね!」

 藍お姉さんはクールなマリちゃんと違っていつも元気ハツラツだ。

 とは言っても今日は私もテンション高いよ! 負けないくらい元気な声で挨拶した。

「2日間よろしくね」

「もういいから帰って」

 マリちゃんが耳まで真っ赤になってるのは、この吐く息が白くなるほどの寒さのせいだけではないはず。

「あぁ、2日も会えないなんて寂しいわ……」

「たった2日、ていうか1日と少しじゃん」

 ははは。相変わらずだ。マリちゃんには悪いけど、お姉さんといる時のマリちゃんは普段私たちに見せてくれないマリちゃんになるので、私としては嬉しい限りなのだ。

 ところで藍さん、凄い格好ですね……。

 全身タイツなんか着てると、藍さんの抜群のスタイルがより鮮明になる。

「あ、これ!? いいでしょ?」

 え? はぁ、まぁ。

「明日はバレンタインでしょ!? チョコレートを意識した格好なのよ!」

「だからって茶色の全身タイツ選ぶのおかしいよね? しかも今日は13日だから関係ないし」

「だって明日会えないんだから今日見せておかないと!」

「明日には帰るんだから明日でいいよ……」

 見るのはマリちゃん的にもOKなんだね。まぁ藍さんなら嫌がっても見せてきそうだけど。

「もう行こうっ? じゃあね」

 マリちゃんはあっさりと藍さんに背を向けた。

「じゃあね! おみやげはいいから楽しんできてねー!」

 お姉さんは手をぶんぶんと振っていた。

 まだ振ってる……これはマリちゃんが正門をくぐっても振ってそうだね。

「おはようございます!」

 正門にはいつの間にかバスガイドさんが立っていた。

 ブラウンのウェーブを靡かせた40歳くらいの女性だ。大人な雰囲気が漂う。

「ここの生徒さんはみんな早いですね。今日はよろしくお願いしますね」

 すごい丁寧だ……。私たち小学生にも丁寧にお辞儀をしてくださる。

「こ、こちらこそお願いします」

 マリちゃんも丁寧に答える。少しつらそうなのは荷物が重いからだろうか。随分大きな荷物だね。

 マリちゃんがゆっくり敷居をまたぐ中、私はまだ振ってるのかなと気になって振り返る。

 やっぱり……お姉さんまだ振ってる……。

 でも、なんだろ……。なんとなくマリちゃんを見ているような雰囲気がない気がした。

 まぁ遠いからよくわかんないけどね。

 ――ところでマリちゃん、その荷物何が入ってるの? 随分重そうだね。

「……わかんない」

 ……へ?

「準備しようと思ったら藍が『私がやる』って言って……何もかも準備してたの。必要最低限の着替えとかは入ってると思うけど……」

 そ、それは大変だったね……。開けるのが楽しみなような、怖いような……。旅館についたら一緒に見せてね?

「う、うん……」

 マリちゃんは歯切れの悪い返事をした。過去に似た経験でもあるのかな? 5年生の時にも宿泊研修ってあったし、なにか苦い思い出があるのかも。

 ちなみに、私とマリちゃんはもちろん同じ部屋で寝るんだよ~! いいでしょ?


 その後、一人……五人……十人……と続々と登校してきて、時間までにはきっちり学年全員が揃った。

 校長先生の長ーい話が終わり、各クラスバスに乗り込む。

 A組から順番に出発していく。一緒の目的地なのに、お互いに窓の向こうに手を振りながら。

「あー、いろいろ話があったと思うけど……」

 次田先生がだらだらとマイクを持って、

「とりあえず迷子にだけはならないでくれよ。心配だから」

「うそつけー」「メンドくさいだけでしょー!」「そっちこそしっかりしてくれよー」

 クラス中から野次が飛ぶ。

「よくわかってるな。さすが俺のクラスの生徒だ」

 何に感心してるんだか……。まぁシンプルで分かりやすいけどね。

 そうこうしている内に、バスはぐらぐらと出発した。

 バスガイドさんは今朝、門の所で出会った人だった。

「あの人なんだね」

 マリちゃんがじっとガイドさんを見ていた。

 うん、みたいだね。あのお姉さんなら嬉しいよ。

 色々とお話してくださって、みんなも笑ったり、へぇーって感動したりであっという間に最初のトイレ休憩になった。ていうかいつの間に高速道路に乗ってたんだろ。

「――あー、サービスエリアに着いたけど。家族旅行じゃないんだからな。余計な物は一切買うなよ。トイレだけだから、トイレに行きたくないやつはバスに残っとけ。あとバス酔いしたやつがいたら遠慮なく報告してこいよ。はい、行ってこい」

 相変わらずの低血圧なお話だ。ガイドさんや鏡越しの運転手さんも少し怪訝な顔をしていた。多分、珍しいタイプの先生だと思われてるんだろうね。

 マリちゃんどうする?

「私は行ってこようかな」

 じゃあ私も行く。一緒に行こう?

 ってやりとりしている間にほとんどの生徒が降りていた。みんなテンション上がってるから無駄に降りてるよね絶対……。

 トイレの方に向かうと私たちの学校の生徒であふれかえっていた。これでもD組とE組は別の場所でトイレ休憩をするように工夫してるらしいけど……。

 先生やガイドさんたちが必死で誘導したり、一般のお客さんに頭を下げたりしている。中には走り回って駐車場の方に飛び出して、派手にクラクションを鳴らされた生徒がいたので必死に謝っている先生もいた。

 こういう時、女子は不利だよね。トイレは必ず混むから……。

 どうするマリちゃん? 次のサービスエリアにする?

 って相談しようと思ったらマリちゃんがいない!?

 慌てて左右に視線を向けると、マリちゃんがささっと建物の中へ入っていくのが目に入った。

 私は急いでその後を追う。幸い(?)見張りの先生は頭を下げていたので私たちには気付かない。

 でもマリちゃんはさらにその歩みを速めた……というか走り出した!

 どうしたのマリちゃん!

 私は追いかけながらそう声をかけようとした。ドアが開き、温い空気に飛び込むやいなや、私の隣で、

「あれ? 財布がない!?」

 サービスエリアの建物の入り口に入ってすぐの所は、両側の壁に自動販売機がずらりと並ぶコーナーだったんだけど、その一番手前の自動販売機の前でおばさんがバッグの中を覗いてそう言ったのだ。

 スリ!? 私はつい足を止めそうになったけど、マリちゃんも気になる!

 通路兼自動販売機コーナーの廊下の先には両開きの自動ドアがデンっと固く構えている。一度に複数の人が行き来できるような大きさだ。

 マリちゃんはその扉の数歩手前。そしてさらにマリちゃんの前には3人の男の人がいた。

 マリちゃんの右前方にいる一人は、こちらに向かってきており、右手にはビニール袋が提げられていた。お土産でも買ったみたい。左手はコートのポケットに突っ込んでいた。

 マリちゃんの正面にいる一人は扉の向こうへと向かっている。左手には缶コーヒーが握られていた。右手はパンパンと体のあちこちを叩いている。

 最後の一人、マリちゃんの左手前方にいる一人も中に入ろうとしている。両手を上着のスカジャンのポッケに入れいてるみたい。横顔が見えた。若い青年って感じ。やたらにキョロキョロしていた。


 えぇ!?

 吹き抜ける風と共にやってきた衝撃の映像は、なんとマリちゃんがある男性に飛びついた瞬間だった!!



 マリちゃんが飛びついたのはどの男性だろう?

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ