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第16話 帰らぬ修学旅行 2日目 ~0:43 T県立総合病院 3F手術室前

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

 すっごく静かだった。

 時々聞こえてくる音と言えば、エレベータが動く音。そして時々そのエレベータが開いて、看護師さんやお医者さんが黙って歩く音だけだった。

 カーペットが敷き詰められた床なのに、それだけ音が聞こえるってことは、やっぱり静かなんだと思う。

 ドラマとか映画だったら、なんていうのかな、手術ランプ? 赤い光に包まれて白い文字が光る……そのランプを見上げながら、じっと静かに座っているんだろうけど、実際は少し違うんだね。

 マリちゃんは、あの銀色の扉のずっと奥の方にあるらしい手術室で、今、がんばっているんだと思う。

 家族でもない私たちは、あの扉の奥には入られない。

 大人しく、待合スペースで先生と二人、特に会話もなく、「手術が終わりました」と教えにきてくれる誰かを待つことしかできない。

 時々忙しそうに出てくる看護師さんに振り返っては、違った……と気落ちすることばかり繰り返して、もう何分たっただろう……。

「あっ!」

 次田先生が声を上げた。

 終わった!?

 そう私が飛びついたのは完全に無駄足となった。

「いや、親族の方に電話するように言われていたのすっかり忘れてた……」

 先生は慌ててスマホを取り出しながら、ソファから立ち上がると、少し離れて電話をかけたみたい。

 こういう状況が多いからだと思うけど、病院内の携帯電話の使用は原則禁止という貼り紙はされてありながらも、電話をかける人のためのスペースは確保されていた。

 私の位置から、次田先生の頭がちらちらと見えるけど、その会話までは聞こえなかった。

 一人になると、嫌な想像しかできなくなる……。マリちゃんが……死んじゃうなんて……。


 だっ、ダメダメ! 私は思いっきり頭を振り回した。


「へ!?」

 先生の驚いた声が響く。

 私は一瞬のうちに、再び胸の中が不安で染まった。

 でもそれはすぐほっと息を吐いたことで、消えてしまった。驚いたのは電話の相手に対してみたい。

 そっか、電話中だったね……。もう! まぎわらしいんだから! 気持ちの整理が追いつかない。片付けても片付けても、不安が散らかるよ。

 そして1分もしないうちに先生が戻ってきた。

 ただ、その表情は引き続き驚いている。

 どうしたの先生?

「ん? あぁ……いや、ご家族に連絡したんだけど……10分も経たないうちに着くって……」

 へ……?

 

 えぇ!?


 私は一拍の間をおいて驚いた。通路の向こうを通りかかった看護師さんがこちらを少し睨んでる気がしたけど、そんなことはお構いなし!

 だ、だってここ、私たちの住んでる町から言うと、県外だよ!?

「だから、先生も驚いてんだよ……」

 でも、無理もないかも。自分の子供が病院に救急車で運ばれたなんていきなり言われたら……。それこそビックリしてテンパっちゃったのかも。だからちょっとおかしなこと言ったのかもね。

「まぁ、そうだといいけど……」

 うん……。いや、まぁよくはないいけどね?

「菱島、」

 待合スペースのソファに座る私の隣に戻り、次田先生が改めて名前を呼んだ。

 私はちょっぴり不安になった。

「タクシーを呼んでやるから、先に帰りなさい」

 やっぱり……絶対そう言うと思った。

 いやだ。

 マリちゃんが頑張ってるのに、私だけ先になんて帰らない。

「もう夜も遅い。寝ないといけないだろ。さっきまで震えていたんだぞ?」

 残念だけど、さっきまで監禁? されてたから眠くなんてないもん。

 私を助けるために頑張ってくれたマリちゃんが今こんな状態なのに、私だけ帰るなんて薄情なこと、絶対にできない!

「……はぁ……」

 先生は諦めてくれたのかな? 深ぁい、意地悪なため息を吐いて、近くにあった自動販売機の前に立った。

 私がマリちゃんと仲良くなったきっかけの自動販売機。

 いつ見ても、私はあの時のことを思い出し、一人ニヤニヤしちゃってたけど、今は違う。

 その角ばった機械を見ているだけで、あの時のカッコいいマリちゃんが浮かび、そして私の中のいろんなマリちゃんが浮かんでくるけど、最後には、あの、数十分前のマリちゃんの顔が覆いかぶさってくる。

 血の気のない、ぐったりとして何度呼んでも、目を開けてくれないマリちゃん。

 はっきりと不安になる。

 先生は、まぁ当然だけど、そんな私の心境も知らず、のんきに飲み物を買っていた。

「――熱っ!」

 取り出し口に噛みつかれたかのように、慌てて手を引っ込めている。ちょっぴり和んだ。

 先生はつまむようにして黄色い缶を取り出す。

 よっぽど熱いのだろうか。私がそんなことを考えているうちに、先生はそれを私のところへ持って来て、

「ほら」

 へ?

「体は冷やすな。さっきまで自分も被害者だったことを忘れるなよ」

 そう言って隣に缶を座らせた。

 せんせい……。

 私はジャージの袖で手を隠し、コーンポタージュの缶を手に取る。

 その熱すぎる缶を、なぜだか抱きしめずにはいられなかった。

「……ばっ、こら、なに泣いてんだ」

 だって……。

「あいつも頑張ってるんだ。菱島がめそめそしてどうする」

 ……うぅん! ないでなんがないぼん!

 私は、目が乾燥したから! 痒くなったので、目を一生懸命擦った。

 一しきりこすり終えて瞼を頑張って開く。

 その瞬間、おかげで潤った視界に映る、手術室へと繋がる通路、その扉が開いた。

 お医者さんだろうか? 助手の人かな? マスクや帽子でよくわかんない。

「すみません、先生」

 と次田先生を見るなり駆け寄ってくる。その声で、女性ということは分かった。

 こちらが返事をする暇もない。立ち上がるのがやっとだった。

「輸血用の血が足りていないんです!」

 えぇ!?

「あの患者様は血液型がO型でしたよね?」

「はい、間違いありません」

 次田先生の返答に一瞬の隙間もなかった。やっぱり担任の先生ってそんなことまで把握しているものなのかな?

 助手さんはその自信に満ちた声に、なぜか顔をしかめた。

「……今日のお昼、と言っても、もう昨日になりますけど、救急外来で同じ型の血液を使ってしまいまして、輸血用の血液が足りておりません」

 そんな……。

 じゃあ私の血を使ってよ! マリちゃんを助けて!

「ごめんね、輸血って、同じ血液型じゃないとできないの」

 え? そうなの??

「それにね、血を採るって行為は色々と基準が定められているの。あの女の子と同じくらいの年齢の子ではできないのよ」

 マスクやら帽子で覆われた顔のせいもあってか、ひどく非情に聞こえちゃう。

 そんなの……関係ないよ! だってこのままだとマリちゃんが助からないんでしょ!?

「やめろ菱島。あの――」

 と先生が言いかけた時だった。

 エレベータの扉が開く。

 降りてきたのは、病院の人ではなかった。

 ニット帽をかぶった、スキーウェアのような防寒バッチリのジャケットを身に着けた二人。

 そう――あの時フロントで見かけた、慌てていたあの二人だ。

 実はこの二人、登山家みたいで、先程マリちゃんを助ける時に力になってくれた人たちなのだ。

 でも、そんな二人がどうして?

 私でも気になったことだ、当然助手さんは警戒して、

「どうされました? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

 耳がつままれるような声。

 だけど、二人は構わずこちらに向かって走ってきた。むしろ、その声を頼りにやってきたようだ。

「次田先生」

 そういって、二人はゴーグルを外した。

 そうだった。今さら気付いた。

 こんな夜中にゴーグルをつけてウロウロしているなんて、いくらなんでもおかしい。

「え?――あ、え!?」

 そう、私も驚いた。その見知った顔に。

「こんばんは、サキちゃん」

 藍お姉さんだ!

 声は震えて、無理をしてくれた笑顔は、見ている私の胸の中をちくりとさせる。

「先生、ご無沙汰しております。菱島さんも」

 その隣で、ニット帽のせいで余計に整ってしまった白髪を見せたのは、マリちゃんのおじいちゃんだ。

 おじいちゃんと外で会うのは、運動会の時以来だね。

 おじいちゃんも、顔がこわばっている。

「ご安心を。この二人は、あの子のご身内の方です」

 次田先生がフォローする。

「あ、そうなんですか!?」

 助手さんは目をぱちくりとさせて、頭を下げる。

「あのお――、あの子は助かるのですか!?」

 二人はなりふり構わないとばかりに、助手さんに詰め寄る。

「輸血が足りていないのです。すみません、どちらかご協力お願いできませんか?」

 そりゃ藍お姉さんだったら大丈夫だよ。多分自分の血を全部あげちゃうかもしれないよ。

 そう思っていたのに、二人は静かに目を合わせて、

「「……」」

 顔を俯かせると、

「申し訳ありません、私たちはあの子と血液型が違うのです。私も、父もAB型なのです」

 そうなんだ……。私と一緒で血を分けてあげることができないんだね。二人も悔しいだろうな、きっと。

 助手さんは瞼を持ち上げて驚いてる目をしていた。この人は顔、というか目に出やすいタイプ……私と一緒だ。

 当てが外れたんだから仕方ないか。

 でもどうしよう、先生! このままだと……マリちゃんが……マリちゃんが!

「菱島、落ち着けっての」

「「先生」」

 藍さんたちが声を重ねた。次田先生へと目を向けている。なんだろ……、その眼差しには妙な力強さというか、確信というか、期待というか……なんだろ?

「俺が血を提供するから」

 先生は助手さんに姿勢を正した。助手さんもやはり驚いているけど、さっきまでと違って、瞳の色は明るい。

「俺も同じO型です。良いですね?」

「はい! ではこちらに――」

「あ、ちょっと」

 と、断りを入れて先生はこちらに振り返る。「菱島、そういうことだ。きちんと待っていられるな?」

 せ、先生……!

 も、もちろん! そんなこといいから早く行ってあげて。

「わかった。じゃあ静かに待ってろ。柚羽さん、申し訳ありませんが、生徒をよろしくお願いします」

 そう言って先生は看護師さんと一緒に扉の向こうに――。

「先生!」

 と藍さんが呼び止める。でもその先生は助手さんの方へと向けられていたみたいだ。

「お嬢様を……どうか、よろしくお願いいたします!」

 藍さんとおじいさんが深々と頭を下げた。

 



 え?……お嬢様?

隔週日曜日更新します!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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