第14話 帰らぬ修学旅行 ?日目 ~??:?? ?????
申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。
そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。
誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。
ま、マリちゃん!?
マリちゃんが……キリンに乗って、その長いの首を締め上げている!?
んはっ!?……ゆ、夢か……。
なんだか暗いなぁ……。まだ夜かな?
そっか、私結局寝ちゃったんだね。
あーあー……みんなとお話したかったのになぁ
それにしても真っ暗だね……私寝る時は間接照明つける派なんだけど……。
まぁ仕方ないか。
そうだ!
せめてミキティの寝顔は写真に納めておかないと……。
思い出だし、ね?
ん……?
あれ? 手が思うように動かない……。
もしかして…………。
手が痺れた!?
変な寝相だった時に、時々なるよね。
えー、でも、両手が動かないってそんな……。
ん?
寝起きでぼーっとしていた頭が、だんだんと意識を取り戻し始めたみたい。
な、なにこのネチャネチャした感じ……!?
く、暗くて見えない……というか、なにか目にあたる感じ。
……。
そうだ!……私、あの時、ふとんのシーツを替えてもらおうと、廊下に出て……。
そしたら、なにか首のあたりがびりってきて……。!!
あぁ! 思い出したら痛くなってきた……!
乙女のうなじを傷物にするなんて……絶対許さないんだから!
……て、私、今誘拐されてるってこと!?
痛いってことは、夢ではないけど、死んでもないよね?
でも、ここどこ? って全然分かんないし。
なんだかホコリ臭いなぁ。
口も何かで塞がれてるから、声もでない……。
ていうか、さ、寒い……。右肩に柔らかい感触があるから……布団だと思うけど。
でも寒いよぉ……。エアコンくらいつけてくれないと! 人質にする前に死んじゃうよ!?
……まりちゃぁん……。
● ● ●
「おい、他の部屋の生徒はもう戻れよ。就寝時間はとっくにすぎてるぞ」
群がっていたやじうまたちに、次田先生が大した迫力もなく言う。聖奈も協力して声をかけている。
まぁそうよね、大きな声出したら、それこそ迷惑がかかるってものだし。
でも生徒の方はお構いなしというか、修学旅行の夜という興奮剤のせいで、いつも以上にわーきゃーとかき乱す。
「えーもう少しいいじゃーん」「ケチー!」「結局なにがあったの?」「いや、オレの部屋の時計もおかしいかも!」「先生、お腹が痛いって子がいるんですけど」
などなどまぁ好き勝手に騒いでるわ。
そんな中、私たちは自室の特権……まぁ当たり前だけど、部屋の中へ入り、噂の仲居さんたちに声をかけることができた。
部屋の中には件の3人だけ。浅野とか水野とかは廊下でキャッキャと盛り上がっていた。
「――え? あ、同級生の方ですか?」
仲居の北村さんが驚いた。
何故かって言うと、マリを見たからだ。
聖奈が同室の生徒として紹介したんだけど、そのサイズ感に驚いたんだと思う。言葉的にも。
でも、それほど小さいかしら?
確かにクラスで……いや、学年で一番小さいけど……顔立ちはどちらかというと大人っぽいのよね。瞳も切れ長で悪く言えば生意気に取られて、よく言えば美人系よね。
なんて話はともかく、北村さんたちはマリの正体がこの部屋の利用者ということがわかると、さすがプロね、すぐにも姿勢を正して、
「この度はご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした」
お手本のようなお辞儀をしてくださった。
3秒ほどして、お顔をお上げになった。マリは、その北村さんたちを前にして、かくりと首をうなだれて、
「せっかくの修学旅行だったんですけどね……」
ただでさえ細い声をより一層ダイエットさせた。
いっ!? バカ! なに言ってんのよ。
私の動揺と同じく、旅館の人たちは大慌てで汗を拭う。
「申し訳ございません! ただいま全力で修理にあたっておりますので、今しばらくお待ちください!」
「代わりと言ってはなんですけど、少しお話を聞かせてもらえますか?」
「はっ、お話……ですか? えぇ。もちろんです、私どもでよろしければ……」
北村さんと近藤さんはお互いの顔を確認して、こくりと頷いた。
あんたホント良い性格してるわね……。ろくな大人にならないわ、絶対。
「お話といいますと、やはり定番の浦島太郎や桃太郎……」
なんでですか! 1年生じゃないんですよ。寝る前のお話って意味じゃないです。
つい私がツッコんでしまったわ。
「この旅館のことについてです」
マリはあんまり怒ってないわね。言われ慣れてる、とか?
「若女将さんと仲の良い人は誰ですか?」
その質問に目を丸くしたのは私だけではなかったわ。旅館の人たちも驚いていた。
「若奥様……飯田様、のこと、ですか? さぁ……」
北村さんは思案する。でもそれは、困っているんだろうけど、不安な感じではなくて、
「飯田様は私ども下の者にもご丁寧に指導してくださり、優しくお話かけてくださる方で、もちろんお客様の前ではお見せしませんが厳しい部分もあります。ですがそれは責任者としての当然の配慮だとも思います。みなさんと仲が良いといいますか、お客様はもちろん、仲居や番頭、厨房の料理人たちや、外部委託の
清掃の方々ともです。それにすごいんですよ、私たちの誕生日なんかも全てご記憶なさってて、私なんて腕時計をいただきましたの!」
と袖を少しまくって、時計を見せてくれた。どこのブランドだったか忘れたけど、可愛い時計だわ。
「それもあって、私たちも誰かの誕生日には、かならずプレゼントさせてもらってますわ」
「先日誕生日だった料理長の時はみながプレゼントするから、彼も持ち帰るのに困っていたな! 私も沢田くんと買いに行ったけど、私はかさばらないようにタオルを買ったのだけど、彼女はまぁ立派な物を贈っていたよ」
「そういえば飯田様は何を渡されてましたっけ?」
「むぅ!?……そう言えば記憶がないな。まぁ旦那様のことを考えれば、な」
「旦那様?」
とマリがここで口を挟む。
3人はビクリと肩を弾ませた。噂に違わぬ分かりやすさね……。
「旦那様……いえ、副館主のことですが、」
近藤さんが補足を続ける。「彼との関係上、特定の方と仲良くなることは、組織としてのバランスを崩すことになるとお考えでしょうからね。だから皆と平等に接されているということです。優れた方ですよ、まったく」
どういうことかしら……。まぁでも、飯田さんも、従業員の方々からは随分慕われてるみたいね。
「裏を返せば、一定の距離感で常に人と接しているということですね」
マリの言葉は遠慮がない。配慮がない、とも言えるかもしれないわね。
でも確かにそうとも言えるのかな? あれ、でもじゃあ、私が見たあの感じは一体……。
「まぁ確かに……。あまり旅館の外での話は聞かなですね。今はこの旅館のことで頭がいっぱいという感じですね」
聴いてる感じ、いろいろ大変そうね、この旅館も。
「話は変わりますけど、この旅館って、玄関以外から外に出る方法はありますか?」
急に変わるわね。マイペースならぬ、マリペース、と言ったところかしら。
あ、いや、今のなしで。なしよりのなし。
「外に?」近藤さんは怪訝な顔をする。「いやぁ……従業員出入口は色々あるけど一般の方は立ち入り禁止ですし、そもそも鍵が掛ってます」
さっき侵入したことは黙っておこう。あそこは、出入りが頻繁だから鍵が常時開放されているのかしらね。
「避難用の非常扉は非常時以外電子ロックが掛かってるから……トイレの窓くらいかなぁ?」
と、北村さんを見やる。彼女はこくりと頷くと、
「ですが小さい窓なので、皆さまでも苦労すると思います。それに高い位置にありますし。小学生の方ではとても……。まぁ窓の大きさ的には、小学生の方の方が通れるとは思いますけどね」
と付け足したのだった。
どうなの? 必要な話は聞けた?
「私はミキティに賭けるよ」
はぁ?
「もうこの幽霊騒動は終わると思うし。それに、正直なところ、私たちには関係のないことだしね」
い、今更そんな……。
ていうかホントに終わるの!? ウソついてたら許さないわよ!
「それよりも……」
と廊下の奥を観ると、先程監視カメラの確認をお願いしていた仲居の日野さんが走ってきた。
「確認取れました! あななたちのお友達は映ってなかったと思うわ……多分」
多分?
「あ、うぅ……死角がないわけではないの。でも玄関の出入口はきちんと画面に収まってるから」
ってことは、まだこの旅館の中にいるってこと?
「それと、もう一つ依頼されてたことなんだけど、」
へ? そうなの?
マリに視線を向けると、こくりと頷いた。い、いつの間に……。
「そっちはバッチリ映っていたわ。でもそんなに不思議なことでもないと思うけど」
「おぉい、もう終わったみたいだぞ。早く寝ろよ」
と、次田先生が言うものだから、日野さんは慌てて帰って行った。
どうするのよ? もうごまかせないわよ、きっと。
「あれ? 菱島はどうした?」
ほらぁ……。どうするの?
「先生、協力してくれませんか?」
「協力? なんだ、浦島太郎と桃太郎くらいしかソラで話せないけど」
「菱島さんを助けだします」
と、マリが取り出しのは二枚の紙きれだった。
どこからか切り取った文字を貼り付けたような見た目をしていた。
こ、これは、怪文書!? PCを使ってだけど、短い文章が書かれているわ……。
『お前の大切なものが破壊されたくなければ、本館最上階の女子トイレに来い』
そしてもう一枚には、
『お前の大切なものは預かった。返してほしければ、私の言う通りに行動しろ』
と書かれていた。二枚目は下半分が破れているように見える。
な、なによこれ!? 二枚目なんてこれ……完全に脅迫状じゃない!?
「でしょ?」
でしょ?――じゃないわよ! なにのんきなこと言ってんのよ! 早く警察に言わないと……。
「待て待て」と次田先生が止める。
なによ先生……まさか、この期に及んで学校の体裁とか言い出すんじゃないでしょうね!?
「いや、どういうことだ? 大切な物って?」
そりゃあサキに決まって……るわよね?
「私の持ち物は特に消えていなかったし。それ以外考えられないよ。ミキティはここにいるし」
……。
は、ハァ!? な、なによそれ、どういう――。
「なんだかんだで一番騙されやすそうで攫われやすそうなミキティがここにいるから、サキちゃん以外考えられない」
いい加減にしなさいよ!
「で、菱島がいないから攫われたってことか!? 警察に連絡しないと……」
「警察への連絡は不要です。多分……いえ、」
マリが腕を組んで、その艶が失われない黒い前髪を払った。そして小さいため息を吐く。
「助けてからでも遅くはありません。そうしないと、旅館の方々の苦労が水の泡ですし」
サキは一体どこ!? あんた指示通りに行動にしてるの?
「してるわけないでしょ」
隔週日曜日更新していきたいと思います!
回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。