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第11話 帰らぬ修学旅行 1日目~21:32 旅館『庵治美亭』‐本館

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

 私は、ハッキリ言って疑問というか、不思議というか、要するによくわからなかったけど、言われた通りに行動してみることにする。

 会議のために持って来ていたペンと、ルーズリーフを2枚取り出し、青山君と常盤君をこっそり呼び出した。

 二人は未だ自分の思いが告げられず、消化不良とばかりに口を尖らせながらも、私についてきた。

 長峰さんは相変わらずちょこんと座っている。距離的には小声で話さなくても聴こえていないだろうけど、念のため、さらにテーブル二つ分離れて3人で座った。

 聖奈は、二人の騒ぎに乗じて暴れていた男子たちを追い返して、にらみを利かせていた。

 さて、テーブルにルーズリーフとペンを2組置く。

 ねぇ、名前書いてくれる?

「はぁ? なんでんなことしなくちゃなんねぇんだよ?」

 青山君は、まぁ予想通りというか、露骨に不満を叩きつけてきた。

 常盤君も、言葉にはしないけど、同じ考えなのだろう、私を見つめ返す瞳に力強さを感じる。

 別に手紙の内容を書けっていってるんじゃないんだし、いいでしょ?

「だからって何故名前を?」

 常盤君がインテリっぽく静かに訊いてきたことが、私の何かをキレさせた。

 ごちゃごちゃうるさいっての! これで解決するんだから大人しく名前書きなさいよ。

 冷静に考えると強引すぎる説得だったけど、本人たちも、この状況をどうにかする方法が思いつかないことが分かってるみたいだからか、それぞれペンを取った。


「――できたけど、ホントに名前だけでいいのか?」

 え? じゃあ手紙の内容書いてくれるの?

「あぁ!? 書く分けないだろ」

 じゃぁ訊かないでよ!

『青山 聖斗』、『常盤 新』。それぞれの名前が書かれた紙を回収。下の名前なんて知らないけど、まぁそこでウソをつく必要ないし、損するだけだから大丈夫でしょ。マリだって、『例えば名前……とか』としか言ってなかったから、そこまで重要じゃないんだと思う。


 で、よ。


 これを……長峰さんに渡せばいいってことね。

「それでどうにか……あの二人のどっちがウソをついてるかわかるの?」

 男子を追っ払い、戻ってきた聖奈が言った。

 長峰さんに声をかけ、さっそく二枚の紙をテーブルにそっと置いた。

 長峰さんははっと小さく息を呑んだ。

 視線を左右に忙しくさせているせいで、どちらの名前に反応したのかはわからないけど、狙いはそこではない。

 やっぱり、心に決めてきていたのね。

 私がそう告げると、長峰さんの肩が小さく上がった。

「ど、どういうことなの、ミキちゃん?」

 聖奈が目を丸くする。まぁそうでしょうね。私だってあの子から説明された時、そう思ったもの。

 長峰さん、ウソをついてるのはあなたね。

「う、うそだなんて……」

 そうね。ウソなんて言葉は酷すぎるわよね!

「み、ミキちゃん? 自分で言っておいてそれは……」

 だ、だって、あの子がそう言ったんだもの! 私もヒドイとは思ったけど……。もう、あとで言ってやるんだから!


 本当に一通の手紙しか来ていなかった……うぅん、あなたは早とちりをしたのね?

「早とちり?」

 かばんの中の手紙を見つけて、思わず驚いた長峰さんは、もう一つの手紙に気付かなかったのよ。だから、このフロントに来てさらに驚いた……。

「二人男の子がいるんだものね」

 長峰さんを見るやいなや、競うように話しかけてきたんでしょうね。で、名前を書いてないものだから、どちらかわからず、バカな男子が暴れはじめて、確認のチャンスを逃した……。

「……」

 長峰さんは顔を赤くして俯いたままだ。

 戻ってもよかったかもしれないけど、その間に二人ともいなくなってしまったらと思うと動けなかったのね?

「う、うん……」

 長峰さんがこくりと頷く。

 でも、これで、筆跡からどっちの男の子かわかったでしょ? 私たちが連れてきてあげるわ。



 長峰さんが指名したのは、青山君だった。

 大人しい彼女がやんちゃそうな彼を選ぶとは意外だったわ……。

「そう? 大人しいからこそ、元気な男の子が気になるって話、珍しくないと思うわ」

 私と聖奈は、ガッカリして気を失いそうになっていた常盤君を一頻り宥めたあと、会議へ出るために宴会場へとやって来ていた。

 まだ全員は集まっていないみたい。特に先生たちの姿が少ない。A組の担任の先生だけだ。

 だから、雑談をしていても、まぁ問題はなかった。

「でもぉ、」

 聖奈が人差し指を顎に当てる。「断るつもりはなかったのかなぁ?」

 どういうこと?

「だって、名前が書いてない手紙、だったんでしょう? 差出人がわからない……ロビーに来て、二人いるにしろ、自分の好みじゃなかったとか、もっと言えば、嫌いな人だったらどうするつもりだったのかなぁって

 確かにそうね……。まあ、今回で言えば、青山君だったから、長峰さんもあの場所に留まっていたんだと思うわ。そうじゃなかったら……私なら帰るわね。

「あら? ミキちゃん結構ドライなのね」

 だって、直接断るなんて、逆に勇気いるじゃない?

「でも手紙でご丁寧に誘ってくれてるんだから、私ならきちんとお断りするかなぁ……。まぁ今回みたいに名前を書いてないのはダメだと思うし。二人もいたら、また違うと思うけど」

 確かにね……。まぁその点は、あの子も言ってたわ。

『長峰さんが帰らないできちんとその場所にいるってことは、もう決めた相手がいるってことだし。まぁ、長峰さんが、いい人ならって話だけど……ってゴメン。ちょっと急いでるから。とにかくさっきのこと試してみたら、なんとかなると思う』

 

 ……。なにか続きがあったのかしら? にしても、妙に急いでいたわね。一体何があるっていうのよ?

 一応、室長副室長以外は、部屋で待機――という名の自由時間なのに。本館に用事があったのかしら?


「ごめん、お待たせしたわね」

 そう言って入ってきたのは、D組の担任の安田先生だ。次田先生もその後に続く。

 先生たちの緊張した面持ちが、嫌でも伝わってくる。

 本来の室長会議は、明日の一日のスケジュール確認と、感想レポートの回収、そして今日の反省会が主な内容。

 明日は午前中に観光地を2つ周るくらいで後はほとんど移動。つまり家に帰るだけ。確認するほどのこともない。せいぜい、バスに乗る前にトイレに行くとかそんな程度だと思う。

 感想レポートは私たちの部屋は完璧ね。ここで回収できてない部屋には、このあと先生がつきっきりで寝るまでに完成させるという、非常につまらない修学旅行の夜になるとか。

 まず最初はレポート回収。やんちゃな男子の2部屋がまだということだったけど、噂通り先生が派遣されることになった。

 そして次にスケジュール確認。まずは先生たちが修学旅行のしおりのスケジュールをなぞる。

 次に、旅館の若女将さんの飯田さんから、明日の朝食の時間と、起床後お布団やシーツをどのようにしておけばいいのか、また寒さが苦手な人には、毛布を持っていくことなども案内してくださった。

 そして、バスガイドさんたちから、バスに乗る前の注意事項が告げられた。といっても、それほど大げさなことじゃなくて、このタイミングでサービスエリアによるとか、不安な子は事前にトイレに行っておいて欲しいとか、そういうこと。あと、バス酔いする子がいたら教えてくださいとのことだった。

 どうも、今日はバス酔いした子がいたみたい。体調が悪い時は遠慮なく言うことを改めて先生からも告げられた。

 そうよね。我慢しても酔う時は酔うし、戻しちゃってからじゃ遅いもの。


 さて、最後の反省会。

 これについては、他の子たちは想定外だったでしょうね。

 まずは、私たちのクラスの生徒が、色々と事件に遭遇し、途中別行動になったことが次田先生より語られた。まぁこれについては別に反省というわけではないけどね。

「みんなも、無暗に事件に首をつっこまないように」

 と注意を受けたけど、いや普通ツッコまないし……。ていうかそうそう事件に遭わないわよ。……って、説得力ないわね。

 そして、次に告げられたのは、現在、旅館において、盗難事件が多発しているという事実だった。

 これについては、緩んでいた生徒たちも、きゅっと身を引き締めた。

 部屋の施錠はもちろんのこと、各部屋の金庫を必ず使うことが言い渡された。

 即座に対応したこともあってか、今のところ、時乃瀬小の生徒の被害は届けられていないらしい。

「部屋に戻ったら、改めて各部屋確認してくださいね。もし、何か失くしていた子がいたら、すぐに担任の先生に伝えること。ただのど忘れというか、置き忘れだと思っても、必ず伝えてください。でも、勝手に探しに出歩かないようにね」

 でも置き忘れかもと思うと、それこそお風呂場とか探しに行っちゃうわよね。

 安田先生が説明している傍らで、次田先生と、B組の担任である桜井先生が何か耳打ちをしている様子が視界に入る。

 なに?……あんまり楽しそうな話でないことは確かみたいね。

「本当なら、」

 安田先生の話が続くので、注意を戻す。「旅館を替えたい気持ちですけど、」若女将の前でハッキリ言うわね……。「いきなり百人近くの人間を止めてくれる所なんてありませんし。みなさんも修学旅行が中止になるのは嫌ですよね?」

 低学年じゃあるまいし、元気よく「はーい」だとか、「やだー!」とかは言わない。黙ってみんな頭を上下に動かすだけ。

「ですので、きちんと先程の約束を守ってくださいね」

 みんな黙っていた。うぅん、思春期だからとかじゃなくて、身近に犯罪がやってきたことへの、言いようのない不安感から声が出ないのだと思う。

「さて、それじゃあ10時消灯ですからね、忘れないように。10時には各部屋に点呼に行きますからね! もし誰か一人でもいなかったら……その部屋には罰として校庭の草むしりをしてもらおうかしら」

 えー!?

 さすがにこれには子供らしく声が出た。

 ご時世的に、如何にも炎上しそうなことだけど、時乃瀬小は今の岩清水校長になってから、厳しくなったことで有名だ。もう10年近く時乃瀬小の校長をされている。

 と言っても、おかしな体罰だとかはむしろ、校長になってから監視が厳しくなり、教師の言動や教育は徹底されている。

 だが、それは当然生徒にも同じことだ。信賞必罰がモットーらしく、生徒がコンクールで受賞したり、スポーツの大会で優勝したりだとかすれば、きちんと褒めてくれる。というか、挑戦する生徒を一番応援するのも校長先生で、どんな大会でも必ず、忙しくても5分という僅かな時間だけでも顔を出すという。

 その分、ルールを守らない生徒には厳しい。

 以前モンスターペアレントが乗り込んできたこともあるということだが、校長先生は一歩も引かなかったみたいだ。

 でもそれも横暴ではなく、私たち生徒や、その親から見ても、そのモンスターの言うことは無茶苦茶だということが分かったのだから。

 まぁ、その話は置いといて……って私の独り言に、置いといてもなにもないんだけど。

「はい、文句言わない。みんながきちんとしていれば、私がしますから、安心してね」

 安田先生のスマイルは、もうそれ以上生徒の不満が出現することを完全に封鎖してしまった。


「なんだか怖いわね……」

 部屋に戻る途中、聖奈が言葉を漏らした。

 そう? 私は幽霊の方がよっぽど怖いけど……。と言いたかったけど、そこは我慢した。

 ていうか、私としては、まだ幽霊説が拭えてないし、人間が犯人ならむしろ少しだけ安心なんだけど。

「部屋の鍵なんてかけてて、どうにかなるのかしら?」

 さすがに鍵を開けることはできないでしょ。カードキーを複製なんてそう簡単にできないんだし。

「まぁそうね」

 それよりも、浅野たちがちゃんと部屋にいるかが心配よ。なんだか出歩いてそうだし。私嫌だからね、こんな寒い季節に、校庭の草抜きなんて……絶対風邪ひくわ!

「そう? みんなと草抜きなんてそう簡単にできるこじゃないから、これもいい思い出になるかも」

 聖奈はどことなく楽しそうである。

 何言ってんのよ。ホント変な所で前向きというか……いまだにあんたの興味の対象がわかんないわね。


 ひゅっ……。


 小さなつむじ風でも隣を駆けて行ったかと思ったら、それはマリだった。

 凄い速さで走って行こうとするので、思わず叫ぶように声をかけてしまう。

 ちょっと! 危ないじゃない! 何走ってんのよ。

「あ……!」

 私は驚いた。

 こんなにも必死な顔をしている所、初めてかもしれない。

 いや、絶対初めて見た。

「良かった……」

 そして彼女はふぅと小さく息を吐いて、表情を解す。

「え? なに? どうしたの?」

 聖奈が訊き返すも、「ごめん!」とすぐに走り出した。

「追ってみよう。きっとなにかあったんだわ」

 うぅん、絶対何かあったのよ。


 追いかけてたどり着いたのは、私たちの部屋だった。

 部屋の中では、浅野たちの班4人がきゃいきゃいとおしゃべりしたり、歯を磨いたりと自由に行動している。なんの変哲もない空間だ。

 むしろ平和な感じ? さっきの会議の殺伐とした……って言いすぎかしら? とにかく、今この旅館を渦巻く緊張感などとは無縁の様子だった。


 その時だった。

「……やられた……」

 マリが、私たちの目の前で、両膝をついたのは。


隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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