鏡よ鏡、120
ひとみが眠っている間、誠は明け方に出ていったのだろう。
「今日は仕事休も」
別に疲れていたわけではなかったが、出勤する気にならなかった。
部屋を暖めて風呂の用意をした。洗い物を済ませて会社には今日は休むことを伝えた。
紅茶を飲みながらミニトマトとチーズを噛りながら、 出張先で出逢った女を選択し、妻と娘を棄てた父親のことを考えた。ひとみは、父親の無責任さについての母親の愚痴を聞きながら育った。ひとみは母親に合わせるように父親の悪口を一緒に言っていた。それでもなぜか父親を嫌う感情がないことを、いつ頃からかひとみは自覚していた。
いつしか、聞き飽きてしまった母親の愚痴を耳にしながら、そんなことばっかり言ってるから棄てられんだよ、などと考えるようになっていった。