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第八話  役者を舞台に上げるには脚本が必要だ。

今回は計4252文字です。

前回までのあらすじ。


城を出て旅を始め、隣町に着いた。


P.S 僕らが街の宿屋で休んでいると深夜に仮眠をとっていたのか、監視が外れたのでこっそりと出かけてきた。




街に着いたその日は疲れをとるということで宿屋でのんびりして翌日の今日は街をうろついてみる事にした。


「そういえば、城下町ではたいして散策をしませんでしたからこうしてこの世界の人達の暮らしを見るのは初めてになりますね」


『ここはまだ王都に近いですから活気があります』


確かに人が多く行き交って露店などもたくさん見受けられる。


露店には食材、武器、素材など色々なものが並んでいる。


そのうちの一つを覗き込む。


「いらっしゃい。ゆっくり見ていってくれよ」


露店にも色々あるみたいだけど、特にこの男の人のところは色んなものがごった返している。タンスや紙、包丁、服があると思いきや、剣や装飾品、素材、食材、何故か生きた鶏まで売っている。


「色々ありますね」


「こっちで店を開いてたんだが、田舎に帰ろうと思ってよ。必要最低限の物以外は全部、売り払うことにしたんだ。後ろにある俺の元・店も売りに出してるぜ」


そういう男の背後にある家にも確かに値札がかけられていた。


「お店というのは何をしていらしたんですか?」


「ただの質屋だよ。けど、経営がうまくいかなくなってな」


「この鶏も質の一つですか?」


「ああ。そんなもんまで質に入れる馬鹿がいやがったんでな」


「こっちは物がよさそうですね」


翡翠があしらわれたネックレスを手に取る。


『魔法石ですね』


それを同じく覗き込んだトリアさんが翡翠を見て、そう口を動かした。


そういえば本で読んだな。確か、精霊は石に宿りやすく、石に精霊が宿り持ち主の魔法の補助をしてくれる石だったかな。


ちなみに、精霊は目に見えないがそこら中に存在するらしく、これが一番低位の精霊。意思を持つようになると物に宿ることが可能になる、これが中位の精霊。そして、実体化出来るようになるのが高位の精霊。そして、それらを束ねるのが精霊王らしい。


高位精霊、精霊王は精霊領域アストラルから出ることは滅多にないらしく、精霊王に至ってはその姿を見たことがある人間はいないそうだ。


「翡翠は風でしたっけ?」


『はい。そうです』


精霊はそれぞれ属性を持ち、各属性ごとに属性を示す色が決まっている。


赤が炎、青が水、緑が風、黄色が土、紫が雷、水色が氷、白が光、黒が闇となっている。


そしてこの八つの属性は八元素とも呼ばれ魔法の基礎となっている。


まぁ、本の受け売りだけど・・・・。


で、翡翠は緑の宝石だから風の精霊が宿る魔法石ってことになる。


「兄ちゃん、それ買ってくかい?」


「・・・・そうですね。いくらですか?」


「5万ガルドだよ」


「5万ですか。まぁ、いいでしょう」


「毎度」


お金は城を出るときに二十万ガルドほどもらってきたので十分にある。


「はい。どうぞ」


『?って、何時の間に!?』


受け取ってから一瞬の早業でネックレスをトリアさんにかける。


あまりの早業にトリアさんも一瞬ネックレスを見失い、気づいたら自分の首にかけてあったため驚いている。・・・・ほんとに無駄な特技だよなぁ、これは。

 身に着けるものの着脱ぐらい一瞬で出来るようにならないと立派な大人にはなれない、などと両親に訳の分からんことを言われて、まだ純粋に両親の言うことを信じていたその頃の僕は真面目にそんな技能を身につけたんだよなぁ。おかげで着替えには一秒もかからなくなってしまった。しかも、ちょいちょい役に立つから下手に文句も言えず余計に腹が立つ。


「魔法が使えない僕が持っていても意味がありませんから、あなたが持っていてください」


『あ、ありがとうございます』


視線を商品に戻すと、一本のナイフが眼に入った。


それを手にとって、感触を確かめる。


「これは?」


「そいつはただのナイフだから700ガルドだ」


ただのナイフ、か・・・・。一見すればそうだけど、刀身がかなりしっかりしている。普通の原料で作っているんだろうけど、これを作った人物の腕が相当いいせいか下手なことじゃ壊れないだろうし、切れ味も悪くなさそうだ。


柄の末端を覗いてみると小さく文字が刻まれていた。


K.W・・・・。これを作った鍛冶屋のイニシャルかな?ナイフにまで自分のイニシャルを刻むなんてよほどの変わり者らしい。


「これももらっておきます」


「毎度」


お金を払ってナイフを懐にしまう。


機会があれば、これを作った鍛冶屋に会ってみたいな。



いい買い物をして若干機嫌がよくなって街を歩いていると、少し雰囲気の違う人達が集まる建物があった。


多くの人が武器などを身につけていて、その建物に出たり入ったりをしていた。


「ここは?」


委託施設ユニオンの支部の一つです。委託施設ユニオンというのは誰かに何か仕事を依頼したいときに委託施設ユニオンに依頼するとその仕事を引き受けてくれる人を探して仲介してくれる組織のことです』


「それでああいう人達が出入りしてるんですか」


『各町に支部があり色んな情報が集まることもあって冒険者が集まりやすいんです』


その建物に近づきながらトリアさんの説明を聞いていると建物の脇にある掲示板らしきものを見つけた。


「これも依頼ですか?」


『はい。ですけど、ここにあるのは正規の依頼ではないものです』


「どういうことですか?」


委託施設ユニオンを通した依頼は報酬や委託施設ユニオンへの仲介料を払わないといけません。しかし、困っていてもそういったお金を払えない人達もいます。そうした人達は依頼を委託施設ユニオンの脇に設けられているこの掲示板に依頼を張っておくことで善意ある方を探しているんです。この方法だと仲介料は発生しませんが、報酬は依頼人との交渉次第で変化しますし、そのほとんどがただ働きになることが多いのであまり冒険者の方々は利用しません。もちろん、犯罪行為に抵触する依頼は張ることは出来ません』


依頼内容を見てみれば、エネミーの討伐、人探し、北の盗賊退治や草刈り、荷物運びなどの雑用も混じっていて、それぞれ依頼内容と依頼主の居場所しか書いていない。


「一人じゃ出来なさそうな依頼のときはどうするんですか?」


委託施設ユニオンで依頼を受けてくれる人達が集まるまで待つか、ギルドに依頼するかのいずれかになります。ギルドというのは複数人で一緒に依頼をこなす人達の集まりで、ギルドとして委託施設ユニオンに登録すれば色々優遇してもらえたり、そのギルドの知名度が高ければそこに所属しているというだけで一種の価値がつきます。ただ、委託施設ユニオンから強制的な依頼を回されたり、依頼人から指名されたりすることもあるのでいい面だけとは言えません』


「いい蜜だけ吸える話なんてそうそうありませんからね」


そう言いながら掲示板の下のほうに張ってあった依頼を一つ手に取った。


『不知火様?その依頼を受けるのですか?報酬はもらえないかもしれないんですよ?』


「まぁ、初めてですから最初は慣れるために簡単そうなものを善意でやってみるのもいいと思いまして。あと、僕は割りと子供が好きなもので」


依頼は拙い字で書かれていて幼い子供が書いたのだと思う。


依頼内容は『おおかみさんにとられたくまさんをみつけて』とだけ書かれている。


狼というのは恐らくエネミー、子供の所有物であった熊ということは恐らくぬいぐるみのことだろう。


報酬は間違いなくゼロ。けど、この依頼にはするだけの価値がある。


エネミーに盗られたということは間違いなく街の外でこなす依頼。当然、エネミーが街道などの人目のつくところに住むはずもなく、狩場である街道から少し外れた人目のない場所に住んでいるはず。そして、正規の依頼でないだけに委託施設ユニオンが僕がこれを受けたことを知ることも出来ず、何か不審なことが起きたところで疑問を覚えることも出来ない。


・・・・・これだけの条件が揃えば、僕を消す絶好の機会だろう。


同じ条件を満たすエネミーの討伐や盗賊退治では無償で受ければ不自然に見えるかもしれない。しかし、子供の依頼なら無償で受けてもごく自然に見える。


幸いにも勇者は二人もいる。なら、自分にとって不利益を被るかもしれない気に入らないほうを消しても問題はない、むしろ消した方が好都合と考えるはず。


さぁ、舞台は用意した。僕の脚本どおりに踊ってくれよ?三流役者グレゴリオ・・・・・。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






隣町に着いて、宿屋で今後のことについて話し合った。


「つまり、当面は旅をしながら委託施設ユニオンで依頼を受けて力をつけるってことか?」


「はい。聖夜様も私もまだまだ魔族と戦うには力が足りません。依頼を受ければ人脈も広がり、実力もつき、報酬ももらえるといういいことだらけですから」


魔族がどれだけの強さかは知らないが、歴代の勇者が魔族を倒せなかったことを考えるとまだ俺は魔族の足元にも及ばない強さなんだろう。


それに何と言っても俺は殺すということを知らない。アイシャの話によれば魔族は人に近い姿をしているらしい。そんな魔族を殺すのに俺はその場面で躊躇するだろう。だから、少しずつでも殺すという行為に慣れないといけない。


慣れたくはないが、そうしないと生き残れない・・・・・。


「聖夜様、大丈夫ですか?」


「・・・・大丈夫だ」


どうやら顔に不安の色が出てしまったらしくアイシャが心配そうに俺を見ている。


「無理はしないで下さい。何かあれば私が支えてあげますから・・・・・」


「ありがとう。アイシャ」


アイシャの気遣いが嬉しくて自然と笑みが浮かんでくる。けれど、すぐに顔を引き締めて自分の手を見つめる。


「大丈夫だ。俺はやれる・・・・。やってみせるさ・・・・」


紅月との生き残るという約束もある。俺は死ねないんだ。だったら、覚悟を決めてやるさ・・・・・。



というわけで、ご都合主義な展開になりますが次回はグレゴリオが仕掛けてきます。どんな風になるかはもう大体決めてあるので楽しみにしていてください。

 ご意見・ご感想の方は随時お待ちしています。

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