第五話 美形をからかっても罰は当たらないと思いたい。
今回は後書きにアンケートがあります。
前回までのあらすじ。
宰相、グレゴリオに警戒心を植えつけておいた。聖夜が呼んでいるらしい。
P.S 協力者候補(メイドさん)に少し情報を流して軽く脅して置いた。悪い子じゃないと思うので巻き込んでしまうのは少し心苦しい。・・・もし、協力してくれてうまくいったなら何かお礼をしようと思った。
って、P.Sのほうが長いじゃん・・・・・・。
メイドさんに案内されて馬鹿みたいに広い王宮を歩いていると、すれ違う人達の注目を集めてしまい勇者という面倒な立場に立たされたことを何度も思い知らされる。
一人なら人目を避けてこっそり移動することも不可能じゃないけど、今はメイドさんがいるし今までは監視の目があったから下手な行動はとれなかったのでそういう行動をとることが出来なかった。
そんなわけでさらされたくもない好奇の視線に耐えながらこんなところに金を使わず国のために使え、と言いたくなるほどの無駄にきらびやかな王宮の廊下を歩きつづけると中庭らしき場所にたどり着いた。
この中庭も手入れが行き届き、植え込みや花が綺麗に整っていて軽いスポーツなら十分に出来そうな広場もありその向こうには噴水まで備え付けられている。
その広場の中心に聖夜とノインさんが何かを話しながらいた。
「聖夜」
「お、やっと来たか」
「こんにちは、不知火様」
僕が声をかけると聖夜が振り向き、ノインさんの挨拶に僕は会釈を返しておいた。
「あれ?マリィが案内をしてきたんですか?」
「マリィ?」
「その子のことです」
ノインさんが不思議そうに尋ねてきてそういえば名前を聞いてなかったことを思い出し、一歩離れた左斜め後ろにいる彼女に振り返る。
『申し遅れました。ここで働いているマリィ・トリアといいます』
「あ、いや、気を回せなくてすいません。僕は不知火 紅月です・・・って、さっき聞いてたから知ってますよね。まぁ、色々とよろしくお願いします、トリアさん」
色々という部分に含んだ意味合いに気づいたらしい彼女はどこか釈然としない表情でしていた。
「え?あれ?今・・・?」
「あ〜。また無駄な特技ってやつか?」
「まぁね。ただの読唇術だよ」
ノインさんはトリアさんの声が出ていないのに会話をしている僕を見て混乱していたけど、聖夜は苦笑していた。
まぁ、聖夜といるとよくトラブルに巻き込まれていくつかの技能を見せてたから耐性でもついてるんだろうけど、最初の頃は今のノインさんと似たような反応だったんだよなぁ。
「で?いきなり呼び出して何の用?・・・まさかとは思うけど、もうこっちでも女性関係の問題でも起こしたの?」
「お、おい!人聞きの悪いことを言うな!」
聖夜が慌てながら僕の言葉に反論したけど・・・、聖夜、慌てると返って僕の話が真実味を帯びてくるだけだよ?実際、ノインさんとトリアさんが少し白い目で見てるし。
「そ、そうじゃなくてな!俺たちの力がこっちに来て上昇してるらしいってのを昨日聞いただろう?それで今の能力を把握しておこうって話になったんだ」
「話になったねぇ・・・。ノインさんと?いやいや、昨日も一緒に城内を仲良く散策されてたようだし、・・・随分と手が早いようで」
話を逸らそうとする聖夜の言葉の端をとらえて更に追い討ちをかけてみた。
「なっ・・・!!な、なな、何だ?う、羨ましいのか?」
僕の追い討ちに面白いくらい反応してくれて健気にも僕に反逆してくる聖夜が涙ぐましくて、
「そりゃあ、そんな美人さんと仲睦まじくしてたら嫉妬もしたくなるってもんだよ。ノインさんも聖夜と話してる時は楽しそうで満更でもなさそうだし、悔しいけどお似合いの美男美女のカップルなんだから嫌味の一つや二つは見逃してくれてもいいじゃないか」
止めを刺してみた。
ふふふ、母さんに幼い頃から言葉で嬲られて鍛え上げられた僕に言葉で勝とうなんて百年早い!ましてや羞恥心なんてとうの昔に克服したんだよ!!・・・・・・・何か思ってて空しくなってくる。
「あ・・・、う・・・、あぁぁぁぁ!!とにかく!お前をここに呼んだのは力試しのためだ!」
顔を真っ赤にした聖夜が硬直から解けると叫んで本来の道筋に戻した。
天然でくさい台詞をよく言うくせにこうしてからかうとちゃんと反応するんだよなぁ。恥ずかしがる感性があるんならもう少し女の子の心の機微にさとくなってもよさそうなのに・・・。
「あぅあぅ・・・、わ、わたひとしぇ、しぇいやしゃまがお、おに、おにゅあいの・・・?」
って、ノインさん!?やばいくらいに顔が赤くなってますけど!?言語機能に異常が出るほど照れなくてもいいじゃないですか!?しっかりしたあなたは何処に行ったんですか!?
「の、ノインさん?大丈夫ですか?」
「きゃ、きゃっぷる?わ、ひゃたしとせいやじゃまが・・・?あぅ、う?おにやあい・・・」
・・・・・・・完全にトリップしたみたいだ。
聖夜は荒れた息を整えながら顔の火照りを鎮めてる最中なのでトリアさんに助けを求めてみた。
『・・・自業自得です』
僕に非難の眼を向けていて助けてくれそうも無い。
ということは、僕がどうにかするしかないわけで・・・、
「はぁ・・・、ノインさん。ノインさん」
呼びかけながら肩を揺する。
「かっぴゅる・・・。わらひとしぇいやしゃまがぁ・・・・・・・・・・・・・・」
頃合を見計らって彼女の目の前で手を打ち鳴らす。
「ひゃうっ!!」
「ノインさん、大丈夫ですか?」
ゆったりとした声音でノインさんに呼びかけると段々、彼女の目の焦点が合ってきた。
「え、あ、不知火、様・・・?」
もう大丈夫だろうと思い、彼女から離れる。
「悪戯が過ぎたんじゃないか?」
「いや、ここまで照れるとは思わなくて。メインターゲットの聖夜より照れちゃったし」
「で、猫騙しで気付けか」
正確に言えば、暗示や催眠術をかける初期手順で意識を無理矢理掌握して猫騙しで意識を浮上させたんだけど、それは流石に言いにくいから黙っておくことにした。
「それで、腕試しってことだけど、素手でやるの?」
「それなら、」
「私が用意しておいた」
声が聞こえると同時に僕と聖夜の前にそれぞれ木剣が突き刺さった。
声がしたほうを振り返れば顔に大傷をつけ鎧を着た男がこちらへと歩いてきていた。
「・・・あなたは?」
「この国で軍の全権を任せられている将軍のアーゼル・リベリスだ」
「どうも、不知火 紅月です」
アーゼル・リベリス、か。グレゴリオのような陰湿さを感じない男だけど、強者が出す独特な空気と野心を隠すこともない豪胆な気迫を感じる。
グレゴリオとは違って物理的な意味で手こずりそうだな・・・。
「元々、この腕試しは将軍が言い出したことでな。お前が来るのが遅かったからその間に武器の調達に行ってくれたんだ」
「申し訳ありません、将軍」
将軍をパシリに使うなんて何考えてるんだか・・・。ノインさんなんか凄い申し訳なさそうに謝ってるじゃないか。
「何、勇者の実力がこの目で見れるならこれくらい安いことだ」
僕らの力が自分達の脅威になるか知りたいんだろうな・・・って、この気配は。
「その意見には賛成ですわ」
別の入口から護衛を傍に控えさせた王妃と王女が姿を現した。
王妃が来るなんて、あの人、絶対僕のことを疑ってるだろうからなぁ、・・・やりにくい。
「リデアか。随分、耳が早いな」
「無礼者!王妃様に向かって何という口の聞き方だ!」
「止しなさい、ヴィーゼ。あなたたちも、剣から手を放しなさい。将軍のああいうところは今に始まったことではないでしょうに。いちいち目くじらを立てるものじゃないわ」
王妃に向かって敬いのかけらも見せないリベリスに対して王女が反応したが、王妃本人によって押しとどめられ、護衛が剣の柄に手をかけたのも目ざとく見つけてたしなめた。
今までの情報から推測すると王妃がリデア・クロムウェル・ミッドガルズ。王女がヴィーゼ・クロムウェル・ミッドガルズってことか?
「勇者様方が腕試しをすると聞いて興味を持たぬ者はいないのではありませんか?」
「ふん。あの愚王は関心すら見せんだろ」
「あの人は執務で忙しいだけです。そういうことですから私達もここで見学させてもらいますが、よろしいでしょうか、勇者様方?」
「俺は別に構わないが」
って、聖夜またため口?・・・ああ、ほら、護衛の皆さんが殺気立ってるし、王女様も目がつりあがってるじゃないか。
「王妃様方にご覧になっていただけるというのなら、そのような光栄な話を断る理由など僕にはございません。ただ、ご満足頂けるほどのものを見せられるかどうかは分かりませんのでそれでよろしいのならどうぞご覧ください」
僕がへりくだって了承すると、殺気が若干緩和され、王妃、リデアも今度は目配らせで護衛を抑えてくれたので護衛と王女、ヴィーゼは怒りをおさめてくれた。
「そういうことでしたら私もここにいても構いませんね?」
グレゴリオが僕が来た通路から現れた。
「お好きにどうぞ」
全く、これで王を除く派閥のトップ全員が揃っちゃったじゃないか。やりにくいことこの上ない。
「で、どうやってやる?」
「俺とお前で勝負をするのが手っ取り早いだろ」
聖夜が木剣を抜いた。
「・・・すいませんが、リベリス様、審判をお願いできますか?それと、ノインさんとトリアさんは下がっていてください」
「もとよりそのつもりだ」
まぁ、それが一番僕らの実力を近くで見れるしね。
「頑張ってください、聖夜様」
・・・うん、まぁ、ノインさんは聖夜に気があるから仕方ないとはいえ、少し寂しい。
トリアさんに目を向けてみる。
『お怪我をなさらないように気を付けてください』
そう伝えた後に一礼をして後ろに下がった。
それを二人が十分な位置まで下がったのを確認して僕も木剣を引き抜く。
剣なんて滅多に使うことないんだよなぁ・・・。どちらかというとナイフみたいな小回りの利くやつのほうが『僕ら』は使い慣れてるし。
「ほどほどに頼むよ?練習で怪我なんてしたくないし」
「何言ってんだ。それじゃあ、腕試しの意味がないだろ」
言いながら一旦、少し距離を離して向かい合う。
聖夜は少し高めに剣を構えて、僕は中段で剣を構える。
「始め!」
「いくぞっ!」
リベリスの開始の合図とともに聖夜が突っ込んできた。
さて・・・、とりあえず、『彼』じゃなくて『僕』が相手をしようか・・・。
というわけで、今回は戦闘シーンへのつなぎの回です。それと別の人格の存在を匂わせてみました。まだその出番はもう少し先になりますが、キーワードに多重人格と書いてある以上そろそろ匂わせとかないとまずいだろうと思い、無理矢理ねじ込みました。
さて、前書きに書いたとおりにこの作品をより読者の方々に気に入って頂くためにこれからの方針のアンケートをとりたいと思います。
物語を進行させると紅月は王国の目を逃れることになります。そこから先、作者には以下の通りの構想があります。
A、一人で各地を転々と様々な人と出会いながら旅をする。
B、辺境の村でひっそりとトリアと暮らしながら夜になれば魔狩りの生活、そして、トラブルを解決する。
C、ギルドに加入、あるいは立ち上げて、クエストのようなものを中心としてこなしながら過ごす。
以上の三つです。次の投稿までに多いものを採用したいと思いますのでどんどん感想の部分意書いて送って下さい。よろしくお願いします。
ついでにご意見・ご感想などを書いていただけると嬉しいです。




