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第三十三話     話し合いは絶対にしなければいけないということでもない。

約二ヶ月ぶりの更新です。

計8327文字です。

前回までのあらすじ。


人造生命体ホムンクルスの女性と交戦中。


P.S 結構手ごわいかもしれない。






交戦中のエルジナという名前らしい女性が僕の顔面に右手で殴りかかってきて、それを膝を曲げて身を沈めることでかわし、追撃してきた左手を体を半歩だけ動かしてかわして、先程、エルジナに新たに生えた右手、右二肢と仮称したそれによる脳天めがけて振り下ろされた一撃を左手の剣で受け流して、先程生えた左手、仮称左二肢で僕の胸部を打とうとしたところを右手で絡み取り、関節を外そうとしたとこで彼女の右足が迫ってきたので手を放してバックステップで回避する。


「そううまくはいかないか」


今の攻防のうちで間接を外すつもりだったのだが、先程から攻防からも感じているとおり中々手強く、それを実行することが出来なかった。


予備動作を排する技法、無拍子を用いて彼女の右肩を狙い左手の剣を突き出すが、ギリギリで右一肢が振り上げられて剣を弾き、僅かに服を掠める。


そのまま今度は右手で脇腹に向かって拳を繰り出し、彼女に左二肢で防がれると剣を弾き上げられて上に上がっていた左腕を折りたたむと同時に左足で震脚を行い、左肘を突き出す。


左一肢で防がれるが、軽く地面が割れるほど威力の震脚を行った上で威力の込められた一撃はそれなりに聞いたようで彼女は三歩ほど後ずさっていた。


無拍子で行った一撃も当てるつもりだったのだが、やはり身体能力が人間よりも優れているらしくギリギリで逸らされてしまったことに若干、感嘆を覚える。


「人型でしたから愛玩用かと思っていましたが、そうでもないようですね」


いくら身体能力を強化されている人造生命体ホムンクルスだとしても僕の無拍子からの一撃はそう簡単にかわせるものではない。


それなりに訓練をつんでいると見て間違いないだろう。


リトリル君の世話役かと思っていたが、護衛役も兼任しているようだ。


「それ以上の肉体の変化はあるんですか?」


「・・・・・・」


僕の問いに答えず、彼女は攻撃を仕掛けてくる。


人造生命体ホムンクルスとは名が表すとおりに人工的に作られた生き物のことを示す。


種類は豊富で、人型もいれば、犬型、龍型、合成型など色々あるが、基本的に戦闘を行うものの場合はそれに特化させるため、多くの場合が人の形をしていないらしい。


その製法は魔族の一部のみが知っていて、魔族帝国ヘルヘイムの全人口の6割は人造生命体ホムンクルスが占めている。


人造生命体ホムンクルスの数が多いのは、魔族の個体数が少ないことが原因であり、それが能力的に人間よりも優れた魔族と人間が長い間、争い続けていられる理由でもある。


少ない個体数を補うために生み出された人造生命体ホムンクルスは基本的に肉体のスペックが高く、魔族のような能力は持たないものの何かしらの肉体的改造を受けていて総合的な強さは人間以上魔族未満とされている。それでも魔族と比べて圧倒的に数の多い人間と渡り合うために人造生命体ホムンクルスは多く生み出されて、現在の均衡を築いている。


「・・・・・・貴様、本当に人間か?」


「失礼ですね。それ以外の何に見えるんですか?」


激しい攻防を繰り返し、その中でエルジナの左二肢上腕を斬りつけて、さらに懐に踏み込んで震脚で地面を砕きつつ当身を食らわすとエルジナは後退して険しい表情で話しかけてきた。


「普通と比べて多少は非常識な身体能力を有してはいますが、僕ぐらいの人間は他にもそれなりにいるでしょう」


実際、ナヴェルのほうが肉体の能力的には上だし、確認はしてないが『自由の剣(エインフェリア)』の団長であるイゼルブも上だろう。


ただ、技術的には僕のほうが高い上に方向性も微妙に違う。


片や実戦の中で生死を賭けて磨いた力、片や狂人達による狂気により狂わされた力。


片やエネミーを倒すための力、片や人を殺すための力。


エネミーや獣と戦えば、ナヴェル達の戦い方の方が効果的であるが、対人では僕が絶対的に優れている。


「次はこちらから行きますよ?」


「っ!?」


言うと同時にトップスピードまで一気に速度を上げて、彼女の視界から外れる。


迂回して彼女の傍を左側から右側に駆け抜けると同時に剣を一閃。


「くっ!?」


ギリギリで反応したようだけど、それでも体を浅く切り裂く。


脚を止めずに彼女の視界に入らないように移動し続ける。


「あっ、くっ、つぁっ」


致命傷は避けているが僕が彼女の傍を通り過ぎるたびに傷が増えていく。


「くぅっあぁ!」


僕が近づいてきたことに反応して、腕を振り回すもその腕は空を切る。


父さんもそうだが、僕らは武術家じゃない。正々堂々、正面からぶつかり合う必要なんかなく、ただ殺すために行動する。


僕の一番得意な戦い方は暗殺スタイル。


悟られず、逃がさず、姿を見せず、抵抗させず、鳴かせず、沈黙の中、闇の中、恐怖の中、警戒の中、平穏の中、人混みの中、危機もなく、返り傷もなく、失敗もなく、容赦もなく、苦戦もなく、不意打ちで、一撃で、計算づくで、余裕で、確実に、絶対に、完全に、狡猾に、徹底的に、目的を遂行する。


暗殺に限らず、僕は必要ならば目的のために手段を選ばずに行動する。


いつしか付いた他称が『無慈悲な独裁者』。


自らのルールのみで動き、法すらも僕を縛る枷にはならない。


「まぁ、こんなところですか」


「はぁっ!はぁっ!はっ!」


全身を切り裂かれて、顔も、腕も、胴体も、脚も、ありとあらゆる場所から血を流し、元はスレンダーでスタイルもよく、顔も整っていたのだが、血塗れのその姿はホラー映画に出てきそうな感じだ。


「こ、のぉっ!」


「頑張りますね」


「けはっ!」


体中の力を振り絞って繰り出してきた左一肢による一撃をかわして、僕が蹴りを腹部に叩き込むと彼女はふらついて後ろへと下がっていく。


「立っているだけでも辛いでしょう。・・・・・・これで、終わりです」


軽く右腕を横に振ると、服の内側に仕込んでいたナイフ四本を指の間に挟む。


ふらつく彼女に容赦なく、僕は体を捻り特殊投法でナイフを放つ体勢になる。


「リト、リル様、お逃げ、ください・・・・・・」


「え、エルジナ!」


「眠れ」


「あっ」


勢いよく放たれたナイフの四本は狙い通りにエルジナの体を貫き、特殊投法で投げられたナイフを四つも同時に受けた彼女の体は一瞬、宙に浮いて仰向けに倒れると地面を滑った。


滑り終わると彼女はピクリとも動かない。


「える、じな?・・・・・・やだ、やだよ!エルジナ!エルジナァ!!」


硬直していたリトリル君が倒れているエルジナに駆け寄る。


「起きて!起きてよ!エルジナ!エルジナ!」


自分が血に染まることを気にすることもなく、涙を流しながらエルジナの体を必死に揺する。


悪役だなぁ、僕。


そんなことを思いつつ、近づいてくと僕の接近に気づいたリトリル君が憎悪の眼で僕を睨み、僕とエルジナさんの間に立ち塞がった。


「来るな!それ以上近づいたら殺してやる!」


リトリル君が左手を前に構えて、僕を威嚇する。


能力を発動しているのか、異質である真っ黒な左手から真っ黒な雫が滴り始めた。


「一応、君の命は僕の手の内にあるんだけど?」


自分の首を指差して、リトリル君に『スレイブ』のことを指摘しながら一歩踏み出す。


「来るなって言ってるだろ!」


更にもう一歩。


「う、うあぁぁぁぁぁ!!」


叫びながら突っ込んできたリトリル君を軽くかわして、背後をとって右腕を捻りあげる。


「うぁっ!」


「とりあえず、大人しくしててくれる?」


「うるさい!殺してやる!殺してやる!あぁっ!」


腕を更にきつく捻りあげて、叫び声を封殺する。


「頼むから大人しくしててよ。これじゃあ、彼女の治療が出来ないよ?」


「お前が!お前が殺したくせに何が治療だ!!」


「殺してないよ。よく見てごらん」


「え・・・・・・?」


凄い勢いでリトリル君が首を回して、倒れているエルジナさんを見る。


「ヒュー、ヒュー、ヒュー」


ナイフが両肩と両足の太腿に突き刺さっているエルジナの胸は僅かだが上下していて、掠れた息を吐き出している。


「早く治療しないと手遅れになるけど?」


リトリル君がハッとして、僕が手を放すと僕にすがり付いてきた。


「お願いします!何でもしますから!エルジナを助けてください!お願いします!」


「言われなくとも」


見た目は全身血だらけでひどいけど、急所は全部外しておいたから出血さえ止めればどうにかなる。


「【滴り落ちる血を洗い流すは慈愛に満ち足りし水の精の欠片『水霊の介抱(ヒール)』】」


全身を水で覆い、傷を癒していく。


腕輪に高位精霊であるルカルサの欠片でもある水の魔法石をつけていておかげで威力が上がっている上に、魔力を多めに込めているので全身に負った傷でもちゃんと治せている。


傷が癒えてくると刺さっているナイフを抜いて、刺さっていた四箇所を重点的に治療する。


「とりあえず、これで命は大丈夫かな」


「本当に?」


「起きるまでは安静にしておくのが一番だけど、こんなところに寝かせておくわけにもいかないから明日は出来るだけ静かに運んでいこう」


「うん・・・・・・。あの」


「ん?何かな?」


リトリル君はおずおずとそれでいてどこか警戒するような様子でこちらを伺っている。


「どうして、エルジナにあんなひどいことを、したの?」


当然といえば、当然の疑問だ。最初から殺す気がないならそういうつもりはないと説明し、敵意がないことを示せばいい。


しかし、こんなことをしたのにもそれなりに理由がある。


「上下関係の明確な認識と適度な敵意、それと力試しってところかな」


魔族帝国ヘルヘイムに行く前にその国の人口の6割を占める人造生命体ホムンクルスがどれくらいの力を持っているのか知っておいたほうがいいと思ったのだ。


彼女がどの程度の実力者かは知らないが、彼女を最低ラインに考えても紅雪もいることだし、どうにかなるだろう。


とりあえず、彼女が眼を覚ましたときに逃げられないように気をつけないとなぁ。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







委託施設ユニオンからの依頼を受けて、俺達はフェイ(フェイディアルトと名前で呼ぶと長いので、ナヴェルって奴が呼んでいた呼び方で呼ぶようになった)の故郷である『アルプフェア』に向かった。


道中、襲ってくるエネミーを協力して撃退しながら、記憶を失っているとはいえ、戦い方は体が覚えているらしく俺より優れた剣の使い手であるフェイに訓練をつけてもらい着実に実力を着けていった。・・・・・・何故か訓練を受けているときやアドバイスを受けているときにティニーとアイシャから睨まれているような気がするんだが、気のせいか?


そして、もうすぐ『アルプフェア』に着くというところまで来たときにそいつは現れた。


「生きていたのか、フェイ」


黒く長い髪を持った男が突如、俺達の道を遮るように立ちはだかりフェイを見ながら声をかけてきた。


「お前は、誰だ・・・・・・・?」


「何?」


フェイが相手が誰だか思い出せずに、そのことを苦々しく思いながら発したと思われる問いかけに目の前の男が若干、驚いたようだ。


「あの、フェイディアルトさんは記憶を失ってるんです。私達は彼女を記憶を取り戻すためにこの先の『アルプフェア』に向かうところで、あなたのことを今、彼女は覚えてないんです」


「・・・・・・なるほど。だから、普段着ているはず甲冑も外していたのか」


アイシャの説明に男はフェイの姿を見て、疑問に思っていたのだろうと思われることの理由についても納得したらしい。


「甲冑のせいで知られてないはずの彼女の素顔を見て、フェイって判断できたってことはあんた、彼女と親しい間柄?」


「まぁ、それなりに親しい間柄ではあったな。俺もこの先の『アルプフェア』に住んでいたことがあって、その頃からの仲だ」


「そう、なのか・・・・・・」


ティニーの問いかけに男が答えて、フェイは親しい間柄だった男のことを思い出せない自分に罪悪感を感じているようだ。


「でしたら、一緒に」


「別件でここに着たが、まさかここで俺が引導を渡してやることになるとはな」


「え?」


アイシャが一緒に行こうと誘おうとした言葉を遮り、男は腰に差してあった剣を抜いた。


「どういうことだ?」


「・・・・・・まさか、あんた、裏切った奴等の仲間!?」


俺達もそれぞれの武器を構えて、戦闘態勢になる。


それと同時に俺達を囲うように武器を構えた連中が現れた。


「フェイはもちろん、お前達にもここで死んでもらう」


「ふざけんな!お前、フェイと仲がよかったんだろ!?どうして、こんなことをする!」


「言っただろう。親しい間柄だった、と。親しかったのは過去のことで今は敵だ」


言い終わると同時に目の前の男が俺に向かって駆け出し、それにつられるように俺達を囲んでいた敵もアイシャ達に襲いかかってきた。


初撃の右上からの振り下ろしを剣で受けると、俺も反撃に転じようとしたのだが、続けざまに二撃、三撃と次々と剣が繰り出され、防戦一方となってしまう。


「くっ。なめるなぁ!」


迫った剣を力任せに弾き返そうと力を込めた。


「っ!」


「甘いな」


しかし、加えた力をうまく逸らされてしまい敵の前で俺は無様に体勢を崩してしまった。


「くっ!」


容赦なく俺に振り下ろされる剣を目の前に俺は地面に転がって、髪の毛を少し切られたがギリギリで剣を回避した。


男は俺を追撃することも無く、余裕をもって俺を見下ろしていて、俺はこの攻防だけで俺とこいつの間で大きな実力差があることを悟った。


ここまでの旅で俺は多少の危険はあったが、ここまで実力差がある相手と命を賭けた戦いをしたことがなかった。


気を抜けば、震えそうになる体を起き上がらせて周りを見てみれば、後衛であるティニーとアイシャをフェイが護るように戦っていて、個々の実力的にはフェイのほうが上らしく周りに既に二人ほど伏せているが、それでもあっちはこの男を除く、全員がかかっていて、数に翻弄されていてアイシャやティニーも中々詠唱に集中できていない。


「よそ見している余裕があるのか?」


ハッとして振り向くが、男は俺がそっちを振り向いてから斬りかかってきて、俺は再び防戦一方となってしまう。


「ぐっ。くそっ!」


俺も何とか隙を見つけて、切り返すが易々と受け流されて、斬り返される。


何度か同じような攻防を繰り返し、俺が状況を変えようと無理矢理、力押しの鍔迫り合いへと持っていった。


俺のほうが力が強いらしく、少し押しているが男は涼しい顔でそれを受けている。


「この程度か?」


「そんなわけないだろ!【焔よ、その雄々しき姿を示せ『朱柱キャンドル』】!」


鍔迫り合いで抑えた上で足元から火柱を発生させる『朱柱キャンドル』で攻撃を仕掛けた。


しかし、次の瞬間、相手の剣から力が抜け、鍔迫り合いをしていた目の前の男を見失い、力を込めていた俺は前のめりに倒れこみそうになり、そこで発動しそうだった『朱柱キャンドル』を避けるために大きく前に跳びこむように転がる。


「この程度か」


起き上がりかけていたときに聞こえたきた声に反射的に剣を顔の横に構え、次の瞬間、剣から衝撃を受けて、また地面を転がるはめになった。


「はぁ!はぁ!はぁ!」


いつもならこれぐらいの運動量でこれだけ息を乱すことはないが、命の危険に晒されているという精神的負荷からかいつもより体力の消費が激しい。


ちらっとアイシャ達の様子を見てみれば、多くの敵が倒れているが、アイシャ達、特に前衛のフェイは消耗が激しく、傷も負っていて、敵もまだまだ残っていた。


「終わりだ」


正面を向けば、正眼に剣を構えた男の姿。


斬身ざんしん


踏み込み、俺に向かって剣を振り下ろす男に対して、俺は咄嗟に剣を防ぐべく自分の剣を頭上に構えることしか出来ず、剣が接触したと思った瞬間だった。


「『パンツァーフレイム』!!」


「「「ぎゃぁぁ!!」」」


男が急に後ろに飛び退いたかと思うと、目の前を炎の壁が通過していき、炎は向こうで戦っていた敵の数名に直撃した。


「俺様の縄張りで何、好き勝手やってんだ、ゴルァ」


声のしたほうを振り向くと、金髪の女性が睨むようにこちらを見ていた。


「ラクーシャさん、か」


は・・・・・・?彼女が、フェイの母親?


そう言われて、よく見てみれば、確かに耳が長く、両目とも碧眼でエルフの特徴を満たしているし、顔もどことなくフェイに似ている気がしないでもない。


「ん?・・・・・・テメェ、エク坊か?ついでに、そっちは馬鹿娘か?」


男の顔を見て、考え込んで確認するかのように問いかけた後、向こうで同じく乱入者である女性、ラクーシャを見ていたフェイを見て、馬鹿娘と呼んだ。


「お久しぶりです」


「おう、久しぶりだな。で、馬鹿娘。テメェは俺様に挨拶なしか?」


「え?あ、その」


「挨拶しろっつってんだよ!『ストライカーウィンド』!!」


その場でラクーシャが剣を振るうと、剣から風が巻き起こり、フェイとフェイの近くにいた敵を吹き飛ばす。


「がはっ!」


「「フェイ!」」


「フェイディアルトさん!」


地面に叩きつけられたフェイの名前を叫び、何故、こんなことをするのかと怒りを込めて、ラクーシャに視線を戻せば、彼女自身困惑しているようだ。


「あ?テメェ、今のを防げないほどグズだったか?」


「記憶を失ってるようです。あなたが母だということも、あなたの理不尽さ具合も忘れてしまっているようで」


「マジか?」


「俺も彼らから聞いただけです」


「じゃ、そこのヘタレ、今の話は本当か?」


・・・・・・俺か?


「答えろ、ヘタレ。聞いてんのか、ヘタレ。俺様を無視とはいい度胸じゃねぇか、ヘタレ」


「俺はヘタレじゃない!」


「黙れ、ヘタレ。エク坊にぼろくそにされてるテメェなんかヘタレで十分だ。そんなどうでもいいことより俺様の質問に答えろ、ヘタレ」


本当にフェイの母親か、この人?・・・・・・まさか、記憶を失う前のフェイもこんなだったとかないよな?


「本当だ。そこにいる男の仲間に襲われたときの傷が原因でフェイは記憶を失くしてる」


「・・・・・・エク坊、ヘタレの言うことは本当か?」


彼女が殺気のこもった目で男を見つめる。


「事実です。今も殺そうとしていたところです」


「テメェ」


「俺の道に彼女は邪魔だ」


じっとラクーシャは男の目を見つめる。


「・・・・・・チッ!まだそんな眼をしてやがったか。時間が解決すると思ってたんだがな」


「俺が生き方を変えるのは目標を達成したときだけです。ところで、先日、俺のギルドの人員があなたの勧誘に来たはず。その返事を聞かせてもらえますか?」


「ハッ!お断りに決まってんだろ!テメェも俺様の返事が分かってたから、雑魚をぞろぞろと連れてきたんだろうが」


「そうですか」


ラクーシャの返事を聞くと剣を鞘に戻して、彼女に背を向ける。


「撤退するぞ」


「何だと!何を言ってんだ!」


男の仲間の一人が男の指示に反対する。


「黙れ。万全の状態で、彼女一人が相手ならともかく、戦闘で人員が減り、疲弊した状態で彼女を含めた複数の敵を相手に出来ると思っているのか」


「何だ?逃げんのか?」


「味方に引き込めず、勝ち目も薄い。そんな状態であなたと戦うつもりなんてないです。命が惜しくない奴はここで残って彼女と戦うんだな」


ラクーシャに話しかけた後、部下にそう告げると、男はその場から離脱していき、他の仲間たちも戸惑っていたが、男の後を追っていった。


男達が完全にこの場からいなくなり、緊張がとけると思わず俺はその場に座り込んでしまった。


命の危機にさらされ、手が思い出したかのように急に震え始め、そんな自分の手を見て、情けなさと敵に終始、翻弄され続け、おまけに殺されそうになったことに悔しさを感じた。


「ヘタレ、休んでんじゃねぇよ」


顔を上げるとラクーシャが俺を見下ろしていた。


「テメェが唯一の男手なんだからテメェが馬鹿娘を担いで来い」


どうやら『アルプフェア』に移動するらしく、ラクーシャは俺にフェイを運ばせるつもりらしい。


「あ、ああ」


頷いて、剣を鞘にしまおうとした。


「そんなボロ剣、ここで捨てていっちまえよ。そんな使えねぇもん持っててもしょうがねぇだろ」


「え?」


そう言われて剣を見てみれば、剣の真ん中ぐらいのところに半分ぐらいまで切れ込みが入っていた。


何故と思うとほぼ同時に、あの男の最後の斬撃を思い出した。


もし、あのとき、ラクーシャの乱入がなかったら・・・・・・。


「ッ!」


思い至ると同時に全身に鳥肌が立ち、震えが手から全身へと変わった。


・・・・・・もっと、もっと強くならないといけない。


自分の命のためにも、周りの人達を護るためにも。


強く、強く、そう思った・・・・・・。



大変お待たせいたしました。前書きにも書いたように約二ヶ月ぶりの更新をようやくすことが出来ました。今回は前回からかなり時期を空けて書き上げたので前回までと比較して違和感を感じるかもしれませんが、どうかご容赦下さい。

 今回の話は戦闘シーンを中心に書くつもりだったのですが、元々、戦闘描写が長くない上にブランクもあり、短くなってしまいました。申し訳ありません。紅月とエルジナの戦いを中心に書くつもりが、何故か倒れた後のやりとりが長くなってしまったという事態になってしまいました。本当に申し訳ありません。

 後半の聖夜編も聖夜一行や聖夜視点で書くのがかなり久しぶりだったので、違和感を感じる方もいるかもしれませんが、どうかお見逃し下さい。エクジスが何時の間にか大きく移動していることに疑問を覚えるかもしれませんが、あの後、かなり急に速めに移動したということで納得していただければ幸いです。

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