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第三話     浅はかな人間ほど扱いにくいものは無く、腹黒い人間ほど厄介なものだ

ちょっと長め

前回までのあらすじ。


会いたくないけど仕方ないので王様に渋々会いに行った。


P.S 聖夜がノインさんに早速フラグを立てた。美形なんて滅べばいいと思う。





「審議の結果、我等は二人共、勇者であると認めることにした」


僕達が立っているところよりも高い位置にある玉座からこの国の王、レイザード・クロムウェル・ミッドガルズがそう宣言した。


肥えた体に胡散臭い笑顔を浮かべている。勇者が二人だと知ったときはうろたえていたくせに何を今更偉そうにしているんだか。


「ありがとうございます」


内心、くそったれと思ったが形式的に礼を述べると聖夜も頭を下げる。


「お前たちを呼んだ用件は巫女から聞いたか?」


「魔王を倒すためとしか聞いてないが?」


王に向かって平然とため口を聞けるその精神は本当に感服するけどさ、ちょっとそれはまずいんじゃない?


王と一部を除いた人間なんか隠してるつもりだろうけど不快感を露わにしてるし、そいつらが切りかかってこないのは勇者だからご機嫌をとっておこうって魂胆か。


「大まかに言えばそうなるが、もう少し詳しく説明しよう。巫女」


「はい」


ノインさんはここ、謁見の間に入ってから下げていた頭を上げて僕らを見る。


「まずここが不知火様が言われたように聖夜様達が住んでいた世界と違うのはもうご理解いただけましたか?」


「ああ」


ノインさんの話に耳を傾けつつさりげなくさっき聖夜がため口を聞いたとき他と違った態度をとった人間に目を向ける。


「こちらの世界には人以外にも私達と同じように国家のようなものを作り上げている者たちが存在します。魔王率いる魔族帝国ヘルヘイム、龍王率いる龍種同盟ドラグーン、精霊王率いる精霊領域アストラル、様々な種族が入り混じった多種族連合アルカディア、そして、我が人間王国ミッドガルズ、この五つが現在確認されている国家です」


「現在ってことは他にもあるのかもしれないのか?」


玉座を中心に左右に別れて並んでいる貴族共のほとんどは王と同じような反応をしたが、別の反応をしたのは四人。


まずは玉座の右側の列の一番前にいる鎧を着た、顔を右上から左下に大きく傷跡が縦断している大男。纏ってる空気が他の連中とは違う戦士の空気だな。大方、軍を任されている人間か?


「我が国は大陸の端のほうにあるため海と他の国家に挟まれ、大陸の奥地を探索できないでいますのでその可能性も捨てきれません。現に精霊領域アストラル龍種同盟ドラグーンを越えた先にありますから」


「なるほど。他の種族が邪魔で先にいけないのか」


二人目は左側の最前列にいるモノクルをかけた学者風の男。さっきの男のような荒々しい雰囲気はないが、こいつは冷たい雰囲気を持っている。その立ち位置からするに恐らくは政治のほうで重要な役職についているんだろう。


「他の四つの国家と我が国関係は龍種同盟ドラグーンとは相互不可侵条約を結び、多種族連合アルカディアはどの国家にもつかない中立協定を結び、精霊領域アストラルとは友好条約を結び、魔族帝国ヘルヘイムとは対立関係にあります」


「魔族が敵で、精霊が味方、龍と多種族連合アルカディアの奴等がどっちつかずってことか?」


三人目と四人目は一括りでいいだろう。王の左右に座っている王妃と王女らしき女性。


片方の女性、王女らしきほうは王と同じ金髪を肩口まで伸ばして赤い色のドレスに身を包んでいる。ただ、父親の王とは違いその眼は母親である王妃と同じスカイブルーであり、父親のような目の輝きの濁りを感じない。将来はいい君主になると思う。


そして、王妃らしき女性。翠の髪を腰まで伸ばし、眼はスカイブルーで青のドレスを着ていて王女とは違い落ち着いた風格のようなものを感じる。おっとりした空気の中にも王者の威厳が感じられるし悪い人ではなさそうだが僕が一番関わりたくない人種、思考が読みにくい人だと分かる。


「正確に言えば龍種同盟ドラグーンは無干渉で、多種族連合アルカディアは全ての国に対して協力的です。ですから、私達の国にとって魔族帝国ヘルヘイムさえどうにかなれば比較的安心に暮らせるんです」


王妃と眼があったような気がすると、彼女は笑みを浮かべて僕を見て、いや、品定めしてきた。僕が周りを観察していたことに気付かれたらしい。


「ですが、敵対国家以外にも私達の暮らしに害をなす存在がいます。それらはエネミーと称していますが、エネミー全体で共通した性質はただ何もなかった地にいつの間にか現れ、他の生物を襲うということと黒い霧のようなものを纏っている以外になくその姿は多岐にわたっています。ですので、被害を防ぐためにもそれぞれの町に防壁を築いて暮らしています」


「ザコキャラがうじゃうじゃいるってことだな」


「一つ、質問いいですか?」


王妃の視線を感じるがとりあえず気づいていない風にする。


「何でしょうか?」


「今までの話からしてこの世界はかなり物騒のようですけど、僕らの世界ではそういう争い的なことは一部の地域を除いてないので戦闘のような経験は皆無に等しいです。それなのに何故、わざわざ喚ばれたのでしょうか?」


「それは歴代の勇者様は総じて魔力量が多く、身体能力も優れ、かつ特殊な能力に目覚めるからです。向こうの世界で身体能力が低かった方でもこちらの世界では身体能力が向上すると文献には記されています」


召喚されれば否が応でも必要最低限の能力を身に付けさせられるということか。


「歴代ってことは前がいたのか?」


「はい。元より勇者様というのは人間が魔族に対抗するために遥か古に大魔導師様が召喚術を作り出したのが始まりで、これまでにも何人かの勇者様が召喚され勇者様が存命の時期の国は栄えています。ただ召喚に必要な条件などは分かっておらず、勇者様がいない間は毎年決まった日に召喚の儀をすることになっているんです」


常に勇者の存在に縋って存続してきたってことか。呼び出された方はいい迷惑だろうに。


しかし、今まで何人も呼び出されながら未だに魔族が滅んでないということは僕らも達成できない可能性が高いな。つまり、この地に骨を埋める覚悟もしないといけないか・・・。


「特殊な能力というのは?」


「勇者様それぞれが持つ魔法で再現できない奇跡と言われています。あるかたは物質を崩壊させる力を、あるかたは魔法を進化させる力を、あるかたは龍に変身する力を。目覚めるまではどんな力なのかも目覚めさせる方法も分かりません」


魔法を先に使いこなせるようになりたいからその辺は好都合だ。


「他にご質問は?」


「俺はない」


「僕はとりあえずあと一つ。・・・元の世界には帰れるんですか?」


「・・・・・・ごめんなさい」


「いえ、方法があるかどうか確認したかっただけですから謝らないでください」


大体こういう展開になれば帰れないが王道だからね。それに帰れなくても僕は困らないし。


「まぁ、帰れないもんは仕方ねぇしこうなったら前向きに考えようぜ」


「・・・今の質問は聖夜のために聞いたんだけど?」


「どういう意味だ?」


「はぁ・・・」


目の前の事態に精一杯取り組むのはいいけど、あっちにいる子に対しての気遣いが足りない。


あっちには聖夜の返事を待ってる人達がいるんだよ?あの人達なら死体が出ない限り何時か帰ってくると信じて待ってそうだしなぁ。


そうなると、あっちに帰る方法を模索もしくは創造しないといけないか。・・・いや、聖夜のことだからこっちでも女を落とすだろうし、魔王退治も中途半端にするわけにはいかないから行き来する方法か。


ああ、何で僕がこんなに気を回さないといけないんだか。僕もたいがいお人よしだよな。


「いきなり呼び出されて疲れも溜まっているだろう。今日はゆっくりと休むといい」


王がそう言ってこの場は解散となり、僕の異世界初日は終わった。(聖夜は僕と別行動した際に偶然ノインさんと出会って城の中を案内してもらいながら色々と話したらしい。)



さて、これからどうやって動くかな・・・?








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜










自室に戻ると娘のヴィーゼが苛立ちながらやってきた。


「母様、よろしいのですか?」


「あら?何のことかしら?」


何に対して苛立っているのか分かっていながらとぼけると年頃の娘に似合わない険しい顔になった。


「勇者のことです!このままあの愚王の手駒を増やすような真似を黙って見過ごすのですか!?」


「実の父親を愚王なんて呼んだらいけませんよ。誰が聞いてるか分からないのですから」


「どうせ母様の部屋の近くには信用の置ける部下しかいないじゃないですか」


父親と違っていい子に育ってくれたけど感情をこんなに制御できないようじゃ王族としてまだまだね。彼くらい演技がうまければ文句はないのだけど。


「勇者のことなら私達が何かをしなくても将軍か宰相が何かしらの手を打つでしょう」


「それでは奴らに勇者を渡すのですか?」


「いいえ。恐らく彼等は誘いを断るでしょう。そのせいで彼等が襲われ殺されるようなら捨て置いても問題はなく、生き残ったならその後に接触すればいいでしょう。でも・・・」


「でも?」


「彼は、欲しいわね」


最初は私も騙されたが彼は逸材だと思う。


もう既にこの国が不安定であることに気づいているだろう。私を観察していたようだから当然将軍や宰相の野心にも気づいているはず。


初見とはいえ私を僅かにでも騙したその演技力と私の心の内に気づいた観察力は放っておくには惜しい。だけど、彼のような人間は誰かに従うような人種ではない。


「協力者としてなら力を貸してくれるかしら」


そうと決まれば彼の手を借りるための算段を考えないといけないわね。


ヴィーゼが不満そうな顔をしているのを尻目に策を練りはじめ、愚王を引きずり落とす日が近づいたことに僅かに笑みがこぼれた。





簡単な勢力図を出してみましたが今後の展開次第で変わるかもしれませんがご了承下さい。

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