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第二十八話   我と責務、どっちを選びますか?どっちが正しいですか?

計11158文字です。

前回までのあらすじ。


さらば、『ケルビナ山塔』。


P.S ケイトさんからもらった剣はとても良いできだった。ナヴェルに羨ましがられたりしたが、あげる気はない。そもそも得物の大きさが違うし、剣としてのできはともかく総合的な評価ではナヴェルの剣のほうがいいじゃないか。







こっそりと抜け出した甲斐もあり、道中に『血の栄光(ブラッドグローリー)』の襲撃を受けることもなく、最初の僕の目的地であった多種族連合アルカディアの首都『ギフトア』に辿り着くことが出来た。


流石は首都というだけ、町中が活気に溢れている。


また委託施設ユニオンの本部があり、商業の中心地となっていることからか人間王国ミッドガルズの王都『オルガナ』よりも人が多く動き回っている。


街の様相を観察しつつ人波をかき分けて歩いていき、今はこの人通りが若干少ない目的地について、目の前の目的地を眺めている。


「・・・・・・くそっ!やっぱりかよ!」


「そんな・・・・・・」


「これからどうすれば・・・・・・」


フードで未だに顔を隠したナヴェルが怒声を吐き出すと、それに釣られるように呆然としていたナヴェルの部下達から途方に暮れた声が零れ落ちる。


僕はそれに構わず、そこにある残骸を踏み分けて焼け跡に入る。


「都合の悪い物があったか、用無しと判断して『狩人衆イェーガー』の拠点を潰すためか、いずれにしろここはもう廃墟には変わりないですよ」


狩人衆イェーガー』が拠点として使っていた建物があったこの場所はどうやら『血の栄光(ブラッドグローリー)』の手によって火が放たれたらしく僅かに焼け残った残骸だけが残る廃墟となっていた。


人通りが若干少ないのもこれがその一因を担っているのだろう。


「クリムゾン、何をするつもりだ?」


「燃やされたとはいえ、何か残ってるかもしれないでしょう?」


「・・・・・・そうだな。おい、全員、何か残ってないか探すぞ」


ナヴェルの掛け声で呆然としていた隊員達は何処かまだ覚束ない様子ではあるが、指示に従って捜索を始めた。


「ナヴェルさん、金庫などの重要なものが置いてあったのは?」


「それならこっちだ」


ナヴェルの後についていき焼け跡の一角に辿り着くとそこをナヴェルと二人で手分けして残骸をかき分けていく。


「ありましたけど、」


「・・・・・・全部、持って行かれてるな」


金庫は焦げているものの原型を保ち、残骸の下に埋もれていた。


しかし、見つけた金庫は扉が開けられていて中身は空になっていた。


「この金庫を開けられたのは?」


「俺を含む副隊長三人と総隊長だけだ」


「となると、ナヴェルさんを除くその中の少なくとも一人は確実に裏切ってますね。エスティさんの言っていたことを信じれば二人の副隊長のどちらか、あるいは両方がになりますが」


ナヴェルは苦虫を噛み潰したような表情になりながら、僕の問いに答えた。


確認が取れていない以上、可能性は低くはあるが総隊長が裏切っていないという確証はない。


死体が出てくるか、本人と連絡をとり確証を得ない限り総隊長が裏切ったという可能性も考慮のうちに入れておくべきだろう。


「この分だと倉庫のほうも全滅だろうな・・・・・・」


「使える物は根こそぎ奪い取っていったでしょうね」


周りの様子を見ても、他の隊員達が何か見つけられたような様子は見られない。


「これからどうするつもりですか?」


「まずは現状の把握だな。どれくらいの隊員が残っているか確認しないとどうしようもならねぇ。それと新しい拠点も探さねぇといけねぇか」


落ち込んでいた表情からこれからのことを考えてナヴェルが思考を切り替えたようで表情を引き締めなおしていた。


「となると、まずは」


ナヴェルが続きを言おうとしたが、言葉を止める。


物々しい金属音を鳴り響かせながら、白を基調とした甲冑を纏った集団が焼け跡の傍にやってきて僕等を逃がさないように囲んでいった。


「どちら様かご存知ですか?」


「『自由の剣(エインフェリア)』。多種族連合アルカディア領内の守護を主目的とするギルドだ。実質、多種族連合アルカディアの軍だがな」


へぇ、彼らがあの『自由の剣(エインフェリア)』か。


ギルドの中でもそのトップに君臨する五大ギルドの中で最も権力を有するギルド。そして、ナヴェルが言ったように多種族連合アルカディアにおける軍隊の役割を担っている。


「全員、そこを動くな!」


鋭い声とともに包囲していた騎士達の間から白を基調としながら青と赤で装飾の施された鎧を着た、青い髪の美青年が出てきた。


「貴様らには放火、強盗及び殺傷の容疑がかけられている!大人しく投降しろ!!」


「犯人は現場に戻る、ってことですかね。僕達、誤解されているようですよ?」


隊員達は動揺しているようで僕と一緒にナヴェルへと指示を仰ぐべく視線をよこしている。


ナヴェルはその視線を受けながら、僕らに警告をした美青年に対して一歩踏み出す。


騎士達はそれに反応して身構え、警告をした美青年も剣に手をかける。


「待て、俺だ。ラジィ」


ナヴェルがフードをとって顔を晒すと美青年、ラジィと呼ばれた人物が驚いていた。


「ヘイズ大隊長!?ご無事でしたか!?」


「ああ、何とかな。それと俺は今は副隊長だ」


「あ、し、失礼致しました」


ラジィは恐縮したように縮こまりナヴェルに頭を下げた。


「その、申し上げにくいのですが、ヘイズだい、副隊長には我々についてきていただきます。理由は先程述べたとおりです。あ、ですが、私はヘイズだ、副隊長がそんなことはしていないと分かっていますが、一応命じられたことですので・・・・・・」


「分かってる。それに確認したいことや伝えたいこともあるからちょうどいい。武装は解除したほうがいいか?」


「お願いします。全員を連れて行くが、手荒な真似はするな」


ラジィはナヴェルに武装解除のお願いをすると、騎士達に命令して僕達の武装を解除して拘束していく。


隊員達はナヴェルが従ったことでそれに習い抵抗をせず、僕も特に抵抗することなく拘束されて、騎士達に囲まれながら移動していく。


街中を移動中、同じように拘束されながら歩いているナヴェルの隣まで来て話しかける。


「あの人と知り合いなんですか?」


「ああ。昔、ラジィは俺がまだ大隊長だった頃、俺の元で中隊長をやってた。俺が副隊長に昇進する前に『自由の剣(エインフェリア)』に引き抜かれていったがな」


視線は集団の先頭のラジィに向けたまま二人で話し合う。


「一団を率いているってことはそれなりに出世したんだろうな。元々、才能がある奴だったからそれが芽吹いたんだろう。ただ、相変わらずかたっくるしい性格をしているみたいだが」


「さっきの態度を見る限りいい青年だと思いますよ。まぁ、あれだけでは我と責務に挟まれたときどちらを選択できるかは分かりませんが」


そのどちらを選んだとしても悪いというわけではない。かといって、いいわけでもない。


責務を選べば大勢から見ればその行為は正しく、肯定されるだろう。しかし、自らはその行為を肯定することも出来ず、苦悩することになるだろう。


我を選べば自らが本当に欲するものを護れるだろう。しかし、その行為は大勢から見れば間違ったものであり、非難されるだろう。


九のために大事な一を切り捨てるか、大事な一のために九を切り捨てるか。


前者が社会に生きる人としては正しく、後者が人間という存在としては正しいと僕は思う。


そして、この二つは矛盾し反発しあう。


「・・・・・・個人的にはそのときに我を選ぶ人のほうが付き合いやすいですけどね」


責務を選ぶ人間はどんなに親しくなろうとも他の多数のために裏切られる可能性がある。


我を選ぶ人間は僕より優先順位の高い事柄と天秤にかけられない限り裏切ることはない。


僕自身、我を選ぶ人間である以上大勢を敵に回すような事態もあるだろう。


そのときに信用できそうなのは同じく我を選べる人間だ。だから、付き合うならそういう人間のほうがいい。


「俺はお前から見てどっちだ?」


「ナヴェルさんなら我を選ぶでしょうね。義務で本当に大事なものを見失うほど馬鹿じゃないでしょう?」


ここまでの付き合いでナヴェルの性格は大体は把握できた。


彼は自分が本当に優先するべきものを理屈ではなく、本能で理解している。


彼の中で民衆の優先順位が上位にきているのは間違いないだろうが、それ以上に優先するべき事柄と天秤にかけた場合、彼は悩みに悩んだ末に民衆ではないほうを選ぶだろう。


まぁ、これは僕の考察であって絶対とは言えない。人の心ほど分からないものはないのだ。


世界最高の頭脳を持つ居候曰く『人の心の大部分は推測することは出来ても、人は他人からしてみれば理解できない理由で百億分の一以下の確率しかなかったありえない選択肢を選ぶこともある。人の心ってのはあらゆる数式や科学原理をも超える世界最大の不可能問題だ』らしく、世界を手玉に取る母さん曰く『人の心を誘導し制御することはそれほど難しいことじゃないっス。だけど、信念を折ったり心を完全に支配するのはとてもとても難しいっス。特に私達のような役はなおさらっス』らしい。


ちなみに母さんに語尾に〜っスとつける癖は無い。このときはそういう語尾を持つキャラを演じていたに過ぎない。


母さんが言う役とは人の在り方ようなもので、『理解不能エゴイスト』のメンバーは人の在り方や人の在り方を突き詰めた状態である『第三世界』の住人が持つ狂気をそれぞれの呼称で表している。母さんなら役、居候なら専攻、父さんなら嗜好、僕なら罪、メンバーではないけど僕らに影響された妹の蒼花は信奉と言っている。


「どうだろうな?そんときにならねぇと俺には分かんねぇけど、出来るだけ両方を選べる道を探すんだろうな」


「その選択肢があるならそれが望ましいんでしょうね」


二者択一、片方を切り捨てなければならない場面がくることもある。それにどちらを選んでも救われない場面もあるかもしれない。


僕は過去に我、恋人であるアリスを生かすことと責務、テロリストであるアリスを殺すことを天秤にかけて殺すことを選んだ。


我である生かすことを選んだ場合、僕が殺されるというもっての他の選択肢を潰し、捕縛という手段をとっていたが、理想に狂った、いや理想に染められたアリスにとって理想に尽くすことが出来なくなるということはアリスをアリスたらしめる重要な構成要素を奪い取るということであり、アリスを失意の底に追い込むことと同意義だ。価値観を摩り替えることも出来ないことではなかった。しかし、僕が全身全霊で愛したアリスは理想を抱えていたアリスであり、価値観を摩り替えてはそれはアリスであっても僕が愛したアリスではない。


なまじ、人の内面が分かってしまうだけにその差異も僕は顕著に感じ取ってしまい、彼女に謂れのない失望を向けてしまっただろう。


ゆえに僕が愛したアリスはあの場面で僕に殺されて肉体的に死ぬか、僕に理想を奪われて精神的に死ぬか、どちらにしろ死という選択肢しかなかった。


そして、僕は彼女を殺した。彼女が彼女のままであってほしかったから殺した。


けど、彼女を生かすべきだったのではないかと思うことが今でもある。理想を失ったアリスも愛することが出来たんじゃないか?愛することは出来なくても本当に彼女を想っているなら生かすべきだったんじゃないか?疑問が尽きることは無い。


結局は怖いから、愛を失うことを恐れて他人に肯定される責務に逃げたんじゃないかと思ってしまう。


何て脆弱、何て無様、何て傲慢。


自分の愛を信じられない弱さからみっともなく逃げ出して彼女のため、大衆のためと殺すことを正当化して押し付ける。


それに気付いてしまえたから僕は自己嫌悪や罪悪感で立ち直るのに時間がかかった。だが、結果として彼女の死が僕を僕として確固たるものに至らしめた。・・・・・・両親と居候のシナリオ通りに。


それを知ったとき、当然怒りを覚えたが納得もしていた。僕を溺愛している母さん達がアリスの身辺を僕以上の情報収集能力で調べていないはずもなく、アリスの事情を知っていたはずなのに母さん達が何故自分達にも害が及びそうな人物との付き合いを黙認していたのか合点がいったのだ。


全ては僕の狂気を完成させるために。そのために僕の想いも、アリスも、アリスが所属していた組織も丸々利用したのだ。


そして、僕は母さん達のシナリオ通りに狂気、僕的に言うなら罪を得た、いや罪自体は最初から持っていたけど目覚めていなかった、それが目覚めさせられた・・・・・・傲慢という罪を。


僕は誰よりも傲慢であろう。母さんよりも、父さんよりも、居候よりも、他の誰よりも。


僕の価値観を押し付けよう。善も、悪も、命も、あらゆるものも。


僕のために存在してもらおう。国も、人も、物も、何もかも。


僕が望むものしか僕の世界にはいらない。そのために、人権も、意思も、希望も、命も、死も、絶望も、規律も、束縛も何もかもを無視し、操作し、略奪し、削除し、創造し、贈与し、解放し、利用しよう。


それが僕がアリスと引き換えに手に入れたもの。全身全霊の愛が目覚めさせた誰にも侵されることのない傲慢という名の狂気。


だから、アリスの死から立ち直って以来、僕の中で責務は我と天秤にかけるものでなく、我の中に存在する他と比べるものに成り下がった。


しかし、僕の我の中で優先順位の高いものに平穏があるから、社会と反発する我を何よりも優先させながら社会に潜り込み社会に溶け込むことの無い、一見社会の一部でありそうに見えながら絶対に相容れない社会不適合者となってしまった。


「まぁ、選択を迫られたときはせめて悔いの無いようにしたほうが賢明ですよ」


「言われるまでもねぇよ」


言うのは容易いが、実際に選択を迫られたときに悔いのない選択が出来る人間がどれほどいるだろうか。


そんな選択を強いられないことが一番なんだろうけどね・・・・・・。


そんなことを考えながら僕達の行く先、多種族連合アルカディア及び委託施設ユニオンの中枢である場所、街の中心にそびえ立ち東西南北に棟を長く伸ばしている白亜の神殿を模した建造物を眺めた。











〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






委託施設ユニオンの本部にある一室に押し込められてしばらく経つと戻ってきたラジィに連れられて『円卓の間』に連れて行かれた。


円卓の間は基本的には委託施設ユニオンの幹部級の人間しか入れず、議会は別にあるものの多種族連合アルカディアの政治はここで決められていると言ってもいい。


「これが俺が知ってることだ」


狩人衆イェーガー』を含む五大ギルドのギルドマスターは委託施設ユニオンの幹部級と同等の権利を持っているためこの部屋にも『狩人衆イェーガー』のギルドマスターの席が用意してあり、総隊長であるフェイがいつもは座っているはずの席に座りながら俺は『ケルビナ山塔』で起こったことを報告した。


「『血の栄光(ブラッドグローリー)』、か。やはりもっと早くからあのようなならず者の集まりは排除するべきだったか」


金髪で鋭く尖った眼をしている男、『自由の剣(エインフェリア)』のギルドマスターでもある団長、イゼルブ・ゲノスがいつものように冷たい声で冷静に淡々と喋る。


「だから言っていただろ?あの愚物共はさっさと処分するべきだと」


血のような赤い長髪、同じく血のように赤い眼をした男、異種族のみで構成される委託施設ユニオン唯一のギルド『訪れし種(イレギュラー)』のギルドマスターでもある代表、ヴァルスギアが侮蔑や嫌悪感を隠さずに吐き捨てる。


「私共としても彼等には大変迷惑を被っているのでどうにかして欲しいと常々奏上していたはずですが?」


切れ目で眼鏡をかけた水色の髪を肩口まで伸ばした女、多種族連合アルカディアの商業を、ひいては国を越え全ての商業をまとめあげているギルド『境界無き商会(グレイス)』のギルドマスターでもある取締役、コリス・シャークレイが不満が含まれた声を発した。


「それが出来なかったのは私のところと『狩人衆イェーガー』の合意を得られなかったから。そのことには私も責任を感じています。申し訳ありません」


純白の服を纏った白い髪の盲目の女、魔術師のみで構成されるギルド『真理ウィッチパーティー』のギルドマスターでもあるリーダー、ファールリーベ・モディアが申し訳無さそうに謝罪する。


血の栄光(ブラッドグローリー)』には以前から何度も警告がされてきたがそれに従うこともなく、イゼルブ、ヴァルスギア、コリスは『血の栄光(ブラッドグローリー)』の解体を申請していたのだが、ギルドの解体には五大ギルド全ての了承が必要でありフェイとファールリーベが了承しなかったために解体が執行されることはなかった。


「今ここで過ぎ去ったことを話しても仕方なかろう。これからのことを話し合わねばならん」


白髪混じりで顔に皺が少なからず存在する老人、議会とこの円卓の間の繋ぎ役であり、この場での進行役を務める人物、ファフニル・ギフトが話の流れを変える。


「まず、『血の栄光(ブラッドグローリー)』は解体する。とは言っても、現状では委託施設ユニオンがその存在を敵対勢力に認定するに留まってしまうがのぉ。それでよいか?」


「当然だ」


「そうしろ」


「異議なし」


「はい」


ギルドマスター四人とファフニルの視線が俺に集まる。


「現在、『狩人衆イェーガー』総隊長、フェイディアルト・フリス君の生死が不明なため現在の『狩人衆イェーガー』の決定権は君、ナヴェル・ヘイズ君に委任される。君の意思を聞かせてもらえるかの?」


「・・・・・・俺も賛成だ」


ファフニルに促されて、俺も『血の栄光(ブラッドグローリー)』の解体に賛成する。


ここまで被害が出ちまった以上、フェイの意見を聞いたとしてもそう返事をせざるを得ない。


「それとこの事件が収束し次第、『狩人衆イェーガー』の五大ギルドからの脱退も議論せざるを得ないが、構わんかね?」


「・・・・・・ああ」


大半が寝返り、弱体、縮小化した今の『狩人衆イェーガー』に五大ギルドにいる資格がないのは俺にも分かる。


議論とは言っているが、脱退はほぼ確定だろう。


「さて、とりあえず、五大ギルドの代表全員が揃った。確認のためにもそれぞれの調査で判明した被害状況を改めて報告してもらおうかの」


「『自由の剣(エインフェリア)』は『狩人衆イェーガー』程ではないが離反者が出た。ほとんどが末端の人員であり、実力者が一人抜けたが前々から行動が問題視されていた者であり、除名処分を進めていたところだったから補強もすぐに済んだ。また、他のギルドでも離反者が多かれ少なかれ出たらしく、中にはギルド自体が『血の栄光(ブラッドグローリー)』に吸収されたところもあるらしい。それに多種族連合アルカディア領内の数箇所で『血の栄光(ブラッドグローリー)』らしき集団による殺傷、誘拐、強盗事件が起き、鎮圧したとの報告が上がっている。現在、『自由の剣(エインフェリア)』全体に警戒態勢を取らせている」


「俺のところではエルフが一人、連絡が取れなくなってる。そいつはちっとばかし思想が過激でな。かつてはこの辺り一帯の地域はエルフの物であったっつう説を深く信じ込んでてな、人間に奪われた土地を取り返すっていつも言ってやがった。そいつとは別のエルフの一人は奴等だと思われる集団に捕らわれそうになったところを現地の『自由の剣(エインフェリア)』と協力して蹴散らしたってよ。念のため俺ら『訪れし種(イレギュラー)』もそうだが、それ以外の異種族の奴等も『ギフトア』に集めてるところだ」


「『境界無き商会(グレイス)』では一部の人間が商品とガルドを持って離反しました。中には『血の栄光(ブラッドグローリー)』らしき人物たちと共謀して倉庫を襲った者もいました。全体の四割の利益が損失され、物流も多種族連合アルカディア領内はともかく他国へ、特に魔族帝国ヘルヘイム魔族帝国ヘルヘイムに接している人間王国ミッドガルズの北方地域『ゲードンム』へは困難になります」


「『真理ウィッチパーティー』からも離反者が出ました。しかし、末端の人員だけで幹部級の人物は全員残っています。物資的な被害もほとんどありません。使い魔や探知魔法で『血の栄光(ブラッドグローリー)』の捜索をしましたが、今のところは見つかっていません」


「『狩人衆イェーガー』はさっき報告したとおりだ。今のところ、どれだけの人員が残っているかも分からねぇ。壊滅状態で被害状況の正確な把握も出来ねぇ」


それぞれが現状、分かっていることの報告をして思っていた以上に被害が多かったことを知った。


「ふむ・・・・・・。『自由の剣(エインフェリア)』のほうでは『血の栄光(ブラッドグローリー)』の所在は分からんかね?」


「人員を街の警備を重点におき、調査をさせている人員が少ないため調査はあまりはかどっていない。先の暴動で捕らえた人員に尋問をしているが、どうやら下っ端には捕らえられたときに備え拠点の場所を知らされていなかったらしい」


「ヘイズ君は何か聞いていないかね?」


「少なくとも俺は覚えてない。エクジス、エスティ、マグナは知っていたかもしれないが、エクジスはどっかに行っちまったし、他の二人は死んじまったし、他の奴等も皆殺しにされたからな」


俺がファフニルの問いに応えると、俺の後ろにずっと沈黙を保ったまま立っていたクリムゾンに視線が向けられる。


クリムゾンはあの現場でエスティとマグナを殺し、皆殺しまで実行した重要人物なのでこの場まで証人として俺が連れてきていた。


もちろん、そのことも報告済みだ。


「・・・・・・発言してもよろしいでしょうか?」


「よろしい。君の話を聞かせてもらおうかの」


「まず始めに情報源を絶ってしまって申し訳ありません」


クリムゾンが頭を下げる。


「元大隊長二人は何かしらの有益な情報を持っていた可能性が高いのは分かっていましたが、ナヴェルさんが深手を負っていたため彼等のような実力者を生かしておく余裕がなかったためにナヴェルさん及び生き残りの命を優先しました」


「ふん。まるで足手まといがいなければ、二人を捕まえられたような物言いだな」


「すいません。言葉の綾です」


ヴァルスギアの言葉にクリムゾンが先の発言を訂正するが、実際こいつならそれくらい出来るのではないかと俺は思う。


「雑兵に関してもナヴェルさんの生存が伝わり追っ手が放たれるのを防ぐために全滅という手段をとらせてもらいました。しかし、この雑兵に関しては既に『自由の剣(エインフェリア)』で捕らえてある下っ端と同様にたいした情報は与えられていないでしょう」


「そうだろうな」


「しかし、皆殺しというのはやりすぎではないでしょうか?」


「彼等は既に十分な害悪です。過剰に殺したとしてもやり過ぎということはありません」


イゼルブがクリムゾンの見解に同意して、ファールリーベが不満をこめて意見を発するがコリスが未だに甘い意見を言うファールリーベに呆れる。


俺もやり過ぎだとは思うが、ここまで被害が出た以上甘い意見が通るはずもないと分かっているので無言に徹する。


「それと、ここからは私の私見になりますが・・・・・・」


クリムゾンがファフニルを伺う。


「言ってみよ」


「ナヴェルさんの報告にもありましたが、エネミーを召喚した魔術『魔獣召喚デモンズ』は今までに確認されていない術、で間違いないでしょうか?詠唱まで正確に述べれば【我が呼び声に応えろ、我に隷属せし魔よ。その忌まわしき力の楔、我が意思をもって解き放たん。災厄となりて現れろ『魔獣召喚デモンズ』】ですが」


「・・・・・・はい。我々『真理ウィッチパーティー』でも確認されていませんのでまず間違いないと思います」


「となると、この術が古代魔術ロストである可能性が大変高くなります」


「それの出所、か?なるほど、古代魔術ロストの出所は遺跡か口伝。どちらにしろその術の出所が掴めれば奴等の居場所を突き止める足がかりになるか」


「ご理解助かります」


イゼルブがクリムゾンが言いたかったことを汲み取ったらしい。


「余計なことかと思われますが申しますと、『魔獣召喚デモンズ』の術の性質も相まって現在の『血の栄光(ブラッドグローリー)』の戦力は無視できないほどに膨れ上がっています」


「わかっておる。国家に刃向かう可能性も視野に入れている」


「その可能性が高いかと。元大隊長のエスティが現在の社会に随分不満があるようで、『血の栄光(ブラッドグローリー)』に加わり活動することでそれを解消する、という旨の発言をしていましたので」


そういやぁ、エスティの野郎が力を認めさせるとか言ってやがったな。


あいつら、本当に国に刃向かうつもりだったのかよ・・・・・・。


「ふむ・・・・・・。イゼルブ君、警戒態勢の更に強め、大きな戦いになることを想定しての警備体制を整えておいてくれるかね?」


「了解した」


「ヴァルスギア君は」


「人より優れた力を持つ異種族が奴等に捕らえられないように、だろ?戦争の可能性もあるっつって保護を急がせる」


「『境界無き商会(グレイス)』は物資の流れから不自然に大きな買い付けがないか目を光らせて居場所を探ります」


「『真理ウィッチパーティー』は『魔獣召喚デモンズ』の出所の調査、ですね?」


「うむ。・・・・・・ナヴェル君は『狩人衆イェーガー』の被害状況を把握し、『狩人衆イェーガー』の立て直しが出来るまで一時的に『自由の剣(エインフェリア)』の指揮下に入ってもらう」


「・・・・・・分かった」


そうするしかねぇよな・・・・・・。


まさか、ここまで大事になるとは。クリムゾンがすぐに俺に話さなかったのも仕方ねぇか。


ここに来る前に話されてたらあまり頭の良くねぇ俺は一人で焦って早まった行動をしてたかもしれねぇ。


この場で俺より大局的な判断が出来る連中が集まっているところで話すことでこうしてちゃんと対策を立てることが出来た。


俺の性格をそこまで把握していることともそうだが、俺がこいつをこの場まで連れてくることまで想定してたんじゃねぇかと思うとこいつが何者なのかますます謎が深まっていった。

というわけで、今回はあっという間に移動しました。飛ばし飛ばしになっている気はしますが、これが私の文才の限界です。ご容赦下さい。

 紅月の過去にあった事情の話がアリスだけに偏ってしまっているこの状況にどうしようかと思っています。他の二人はアリス程に設定を考えていないためどうにも出来ない状況です。

 後半のナヴェル視点は地の文が少なくなってしまいました。申し訳ありません。詠みづらいかもしれませんがお許し下さい。

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