第二十六話 偶然の縁って結構強い繋がりでもある?
計7441文字です。
前回までのあらすじ。
ストーンゴーレムを爆破。
P.S 後は雑魚だけだから何とかなりそうだ。
フィリアちゃんの『灼炎の暴食』で高熱に熱せられた部分をすかさず凍らせるて急速に冷やすことを何度も繰り返すことでストーンゴレームの外殻を脆くしていき、ヒビが入ったところで『地槍』を大量に作り出して、更に『錬金混成』で粉塵を生成して、『爆式』を打ち込むことで着火して粉塵爆発を引き起こす。
脆くなったところにあの爆発では流石に耐え切れなかったらしい。まぁ、これで耐えたら粉塵爆発を何度も繰り返すだけだったけど。
さっきの轟音が原因で残っていた魔の大半が驚いて逃げていったようだ。
「【冷たき刃よ『氷貫』」
同時に無声で『暗剣』を発動してもうたいして数の居ない残っている魔の命を刈り取る。
「・・・・・・これでやっと一息つけるか」
「ふぅ、なの」
フィリアちゃんも気が抜けたのか地面に腰を下ろす。
「【救済を我等に恵みたまえ『小光癒・域』】」
効果を対象ではなく範囲にした『小光癒』でフィリアちゃんやナヴェル、生き残りの隊員達を回復させる。
「とりあえず、どうしますか?休んでから上に戻るか、今すぐ上に戻るか、どちらにします?」
ナヴェルに話しかけて見るが、ナヴェルの周りを護っている隊員達は剣を向けてきたりはしないが僕に対して警戒したまま剣から手を放そうとしない。
いくら助けられたとはいえ、非常時において得体の知れない相手に対しては正しい対応だから別に文句はないけどね。
「よせ、お前等。悪いな、こいつらも悪気があるわけじゃねぇんだ」
「別に構いませんよ。至極当然の反応ですから」
「これからだが、まずは早いところ場所を移そう。時間的にそろそろ」
ナヴェルが言い終えるより早く、それがやってきた。
「これは?」
「ちっ!もう時間だったか!」
響き渡る地響きに僕が気を張りなおし、ナヴェルが舌打ちをする。
「ナヴェルさん、これは何ですか?」
「組み換えだ。『ケルビナ山塔』が今まで踏破されなかった理由でもある内部構造の組み換えが始まったんだ」
そういえば、そろそろ日が変わる時間だったか。日が見えないところにいたから気付かなかった。
「下手に動かないで固まったほうがいい。下手に動くと分断されるかもしれねぇ」
「ですね。っと」
「キャッ!」
言ってるそばから足元の地面が動き出し始め、フィリアちゃんが短い悲鳴をあげて僕の足にしがみつく。
壁がせりあがったり、地面ごと下に落ちていったかと思うと右に流されていったり、左に流されたり、上に持ち上がったりして、フィリアちゃんがその度に悲鳴をあげて僕の足にしがみついてくる。
フィリアちゃん、多分ジェットコースターとか乗らせたら駄目なタイプなんだろうな。
そんなことを考えながら流されていると、突然空中に放り出される。
「ふぇ?キャァァァァアアァァ!!」
フィリアちゃんは一瞬だけ間の抜けた声を出した後、落下していく感覚に悲鳴を発して僕の足にしがみつく。
「ったく」
フィリアちゃんがしがみついている足を振り上げて、フィリアちゃんを目の前に持ち上げると足にしがみついている腕をほどいて抱きかかえる。
さほど高いところから落とされたわけでもないので下にあるものをクッションにして落下の衝撃をうまく殺して着地する。
近くにナヴェルたちも落ちてきていて体勢を崩しながらも着地している。
フィリアちゃんが放り出されたならあまり体術に覚えのない彼女は受身もとれず、ただここに打ち付けられていただろうから僕にしがみついていたのは正解だろう。
「フィリアちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・」
「フィリアちゃん?」
「・・・・・・こ、怖かったの」
「怪我のほうは?」
「大丈夫な、の・・・・・・ッ」
若干涙目のフィリアちゃんは僕に抱きついていることに気付き、顔を赤くして離れようとしたけどその動きを途中で止める。
「どうかした?」
「・・・・・・腰が、抜けたみたいなの」
「ああ、なるほど。じゃあ、こっちのほうがいいか」
「キャッ」
恥ずかしそうに視線を逸らしながらも自分では立てないので僕に抱きついたままのフィリアちゃんの膝の裏に手ですくい、お姫様抱っこにして抱えなおす。
恥ずかしいだろうけど、こっちのほうが僕は移動しやすいので我慢してもらうしかない。
羞恥で更に顔を赤くするフィリアちゃんを尻目に僕は特に気にもせずに辺りを観察する。
「ナヴェルさん、そちらは無事ですか?」
「ああ、全員無事だ」
「そうですか・・・・・・。ここがどの辺だか分かりますか?」
「さっきのところよりは深いところだ。ここは『墓場』っつう、山塔に幾つかあるって言われてる死骸集積所だ」
「なるほど。それでこれですか」
「え?・・・・・・ッ!」
僕が納得して、フィリアちゃんが僕の視線を追って足元に視線を向けるとそこにある無数の白骨を見て息を飲む。
ここは地面一杯に白骨が積み重なっていて、さっきも白骨をクッションにして着地したおかげで大分威力が殺せた。
「組み換えの時に一定の範囲内に一定量以上の死骸があると、組み換えのときにここに運ばれてくるらしい」
「あそこにあった死骸が一定量以上だったということですか」
最初に裏切りで命を落とした人達だけでも結構いたからここに運ばれてくることは決定事項だったってことか。
「そうなると、時間も考慮のうちに入れて裏切りを実行したんでしょうね。他の誰かに見つかる前にここに死体が運ばれてくるように」
「だろうな・・・・・・」
ナヴェルは僕達と一緒に周りに落ちてきた大量の死骸に顔をしかめる。
部下を失って心を痛めている、か・・・・・・。
僕だったらどうなんだろうか・・・・・・?基本、単独行動が多かったし、仲間も大体が欲望と狂気の『第三世界』の住人だったせいか僕と同等かそれ以上の実力だったから死ぬということが想像しにくいし、僕って身内以外には結構淡白だから気には留めてもあっさりと割り切りそうな気がする。
裏社会の人間とはあまり関わりはないし、表社会の人間も深い付き合いはしてない・・・・・・、あれ?まともな付き合いをしてるのが狂人達しかいない?
いやいや、恋人だったアリス・・・・・・・、は理想にとりつかれたテロリストだった。命・・・・・・、は孤独を好む情報屋兼殺し屋だった。だ、だったら初恋の桜さん、はそんなに付き合いはなかったっけ。
・・・・・・聖夜ぐらいか?真っ当な人間でまともの付き合いをしてるのは。
・・・・・・帰ったら友人関係を少し見直してみよう。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと自分の交友関係にショックを受けただけ」
「?」
どうやら少し表情に出てしまったようでフィリアちゃんの問いかけに応えると、彼女はよく分からなかったようで首を傾げていた。
「これからどうしますか?」
「ここに落とされる前に場所を移して休むつもりだったが、落とされちまったからな。とりあえず、ここで明日まで待ってそれから脱出する」
「明日までですか?」
「ああ。休んでから行動して途中でまた組み換えに巻き込まれるより明日の組み換えが終わるまで休んでから一日をフルに使って脱出したほうがいいだろう」
「そうですね」
そんなわけでここでしばらく時間を潰すことになり、腰の抜けたフィリアちゃんを近くの壁に寄りかからせようとしたのだが、骨の上に腰を下ろすことは嫌なようなので僕は背中の弓と矢筒を隊員の一人に預けてフィリアちゃんには背中に乗っかってもらって自分で僕の首に捕まってもらうことにした。
「・・・・・・何をするの?」
「いや、こんなところじゃたいしてやることもないでしょ?だから、発掘でもしようかと思って」
「墓荒らしなの」
「そうとも言うね」
さて、骨の風化具合からこの辺が二十年ぐらい前の骨だから、ここから探していくか。
人間以外の白骨は無視して、人間の白骨をチェックしていく。
そんなことを何時間も続けているうちにいい加減ぶらさがっているのに疲れたフィリアちゃんを下ろしたり、持っていた食料を食べたり、『小光癒・域』をかけたりして、大体八年前の白骨を調べているとやっと見つけることが出来た。
「まさか、本当に見つかるとはね」
ここ以外にも『墓場』が幾つかあるって言ってたし、目印を持っていなかったりして見つからないだろうと思うけど、見つかればいいなぁぐらいの気持ちで時間を潰すために探していたのだが予想が裏切られた。
都合が良過ぎる気がしないでもないが、これも縁ということだろうか。
「何かあったの?」
途中から飽きてぼんやりと僕の行動を見ていたフィリアちゃんが僕が何かを見つけたのに気付いて声をかけてきた。
「ん、まぁね」
言いながら、その白骨死体が持っていた道具袋から出てきたそれを眺める。
内側に『K TO Y』と刻まれた未完成の指輪、そして
「み、『ミスリル』なの!?」
「見つけることが出来ていたとは・・・・・・。愛の成せる業ってことかな?」
薄い緑色で光沢のある鉱石を掌に転がしながら感嘆する。
『ミスリル』があることに驚いて詰め寄ってきたフィリアちゃんが手を伸ばすが、僕はその手から遠ざける。
「僕もちょっと必要だからその後であげるよ」
「ちゃんと残してくれるの?」
「そんなにたくさん使うわけじゃないから十分残るよ」
フィリアちゃんを引き下がらさせるとナヴェル達のほうにも声をかける。
「ナヴェルさん達は今回はそれどころじゃないようですから僕らで貰ってもいいですよね?」
「好きにしろ。確かにあいつらが言ってたことが確かなら『狩人衆』は相当まずいことになってるからな。今は依頼に構っている暇はない。それに助けてもらった礼も出せねぇしな」
「それじゃあ、ありがたく貰いますよ」
『ミスリル』を僕の道具袋の中にしまうと、『ミスリル』を持っていた白骨死体に向き合う。
「あなたの最後の贈り物は僕がちゃんと届けておきます。その代わりということで、駄賃にこれはもらっていきますよ」
骨になってなおその右手に握られていた剣を奪い取る。
何年も手入れされていないにも関わらず、その鋭さが失われていないことが感じられる綺麗な刀身を持つ片手剣を一振りしてその感覚を確かめる。
思ったとおりの良い感覚に満足しつつ、柄頭を見るとK.Wの文字が刻まれていた。
白骨の腰についていた鞘ももらうと片手剣を鞘に納め腰のベルトの間に挟み、白骨に手を合わせた。
「安らかに成仏してください・・・・・・」
その姿も知らない男性の冥福を祈った。
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今日も変わらない日常が過ぎる。
酒に溺れて、体を買われて、快楽に身を委ねる。
それだけの日々。
「今日は何時にも増して飲んでるな」
「うっさいわね。私の勝手でしょう」
声をかけたマスターを睨んでから酒を流し込む。
「もう一杯っ!」
マスターは肩をすくめながらも酒をグラスに注ぐ。
数日前、クラントが雇った『ミスリル』捜索隊が内部に潜り、その三日後、依頼失敗の報告が届いたそうだ。
多くの人員が魔の大群に奇襲を受け、何故かその場にいた大魔にやられ、僅かな人間がほうほうの体で逃げてきた、ということらしい。
多分、この前抱かれた坊やも一緒に潜ったのだろう。
せっかく忠告をしてあげたって言うのに、私の言うことに耳を貸さずに内部に潜ってそのまま死んでしまったようだ。
・・・・・・ちょっともったいない気がしないでもない。少し気になってはいたし、何よりアレが凄かった。
生娘のように馬鹿みたいに翻弄されて、何度も昇り詰めた挙句最後はあまりの気持ちよさに失神して、次の日は足腰が立たなかった。
そこらの男娼よりも圧倒的に上手だった。
朝、眼が覚めたときには既に姿はなく、後始末もさてれいてベッドから手の届く範囲に朝食まで用意してあった。
その朝食も家に残っていた食材で作っていたにも関わらずかなりおいしかった。
後日、その話を仕事仲間にしたところ獲物を狙うような目つきをしていたが、私には関係のないことだ。
ともかく、またこの山塔で知人が死んだ。そのせいで少し気分が悪いだけということだ。
名前くらい聞いておけばよかった・・・・・・。
そんなことを考えながらグラスを傾けて、酒を口に含む。
「ここにいましたか」
「ッ!?ゲホッ!ケホッ!」
「あ、マスター。一番安いのをください」
いきなり背後からかけられた聞き覚えのある声にむせながら、そんな私を気にかけず坊やは隣の席に腰掛けていた。
「ケホッ。あ、あんた、何でここにいんのよ?」
「何で、と言われればあなたに会いに来たんですよ」
「そ、そういうことじゃなくて・・・・・・はぁ、何だか心配してた私が馬鹿みたい」
何だか馬鹿らしくなって酒を一気に流し込む。
「魔に襲われて捜索隊は壊滅状態になったって聞いたけど?」
「面倒なことになってますけど、聞きます?」
「・・・・・・いいわ、面倒事に巻き込まれたくないもの」
「それが賢明ですよ」
そう言って、酒に口をつけている坊やは外見に似合わない落ち着いたというか、大人の雰囲気を持っている。
「で、私に会いに来たってことだけど何の用?」
「ちょっとした届け物です」
私の前に手を伸ばすとグラスの隣にそれを置く。
「これ・・・・・・っ!?」
「偶然見つけたので届けにきました。あなたの手元にあったほうがいいかと思いまして」
それは私が大事にしている指輪と同じ形の指輪。あの人が持っているはずの私のとペアになっている指輪だった。
震える手でゆっくり指輪を手に取ると、内側に刻まれた『K TO Y』の文字が眼に入ってきた。
間違いなく、あの人が、持っているはずの、指輪・・・・・・。
「無念でしたでしょうね。目的の物は見つけたのに戻ってくる前に力尽きてしまった」
今度は私の前に『ミスリル』を置く。
「ユーマさんは自分が死ぬかもしれないことは百も承知だったんでしょう。だから、完成前の指輪をあなたに贈った・・・・・・。死んで渡せなくなるより未完成でも自分の気持ちの篭った作品を贈りたかった・・・・・・、そういうことだと思います」
「あ、あぁ・・・・・・」
あの人の、ユーマの死をとっくに乗り越えたと思ったのにこうして彼の死の証として指輪が返ってきてしまったことで再び、悲しみが込み上げてくる。
見る見るうちに涙が頬を伝い、嗚咽が漏れてくる。
「・・・・・・あなたが望むならユーマさんの代わりに指輪を完成させますが、どうしますか?」
指輪を持っている手を胸に抱きしめて首を横に振る。
「・・・・・・私、が、完成、させる、わ」
「そうですか」
涙声で私が答えると、坊やは酒を一気に飲み干して席を立つ。
「・・・・・・本名を教えてもらえますか?」
そういえば、さっきから坊やは死んでしまった彼のことをユーマと呼んでいた。
「どう、して、分かった、の?」
「あなたはこう言ったんですよ。『ユーマ・ウィシュテル。そう名乗っているわ』、って。名乗っているというのは自分がそういう名前だって周りに言っているということ。別に偽名であっても名乗っていると言えます。無意識のうちに自分は本物のユーマではないと言ってしまったんでしょう。そして、あなたの部屋にあった指輪の『Y TO K』の文字。さっきの台詞の推測を前提とするとあなたの名前がユーマでないことになり、同時にあなたが贈られる側のKということになります。指輪を大切に思っていたことからもあの指輪が贈られた品だという推測が立てられ、贈る側のイニシャルYとあなたの話を聞いて、山塔で死んでしまったあなたの恋人の名前がユーマだと判断できたということです。・・・・・・まぁ、指輪がペアのものであるか、その指輪を彼が死の間際まで持っていたか、その辺は確認していませんでしたし、内部に潜った当初は探す気はありませんでしたので彼を見つけられたのは偶然、というか奇跡ですが」
何だ・・・・・・、私、隠しきれてなかったんだ。
・・・・・・もしかしたら、予感でもあったのかもしれない。坊やがこうしてユーマのものを見つけてきてくれるかもしれないって。だから、身の上話をしてしまったのかも・・・・・・・。
そんな自分らしくないことを考える一方で、自然と口は坊やの求める答えを発していた。
「・・・・・・ケイ、ト。ケイト・ウィシュテル」
「そうですか・・・・・・。マスター、ここに御代は置いておきます。では、ケイトさん。僕はこれで失礼します。っと、ああ。ユーマさんが持っていたあなたの作った剣はその指輪と『ミスリル』の代わりに貰っていきます。以前、あなたの作品のナイフを買って以来のファンなもので・・・・・・。では、失礼します」
ナイフ・・・・・・?昔、父さんの真似して鍛冶屋みたいにナイフや剣を売って金を稼いでいたときのものだろうか。
才能があるって父さんには褒められてたけど、それじゃあ生活をしていけなかったからすぐに止めたけれど。
そういえば、ユーマも気紛れに作ってプレゼントした私の剣を褒めてくれたっけ・・・・・・。
握り締めた手の中に指輪の感触を感じながら、ユーマとの思い出を思い出して涙がまた溢れ出した。
というわけで、ユーマ・ウィシュテル改めK.W改めケイト・ウィシュテルの登場でした。
ぶっちゃけ、読者の方から文句が来るのではないかとヒヤヒヤしています。作者の思考から生まれた今回のちょっとした謎解きですが、読者の方にはこんなんじゃ納得出来ないという方もいるのではないかと書いていて思っていてビクビクしています。その辺は私の貧困な想像力と文才による至らぬ点としてどうかご容赦頂けるとありがたいです。
今回はK.Wの謎解きためのだけに作った話で『墓場』の設定は移動している途中偶然見つけたなどの都合の良過ぎる展開を避けるため、ユーマの死体を見つけることに少しでも説得力を持たせるために急遽追加しましたので不可解な点もあるかと思いますがお許し下さい。
次回で『ケルビナ山塔』を去ります。私の構想だと戦闘が数話先の話になり、それまでの数回は本格的な戦闘シーンは多分ないと思います。
ご意見・ご感想の方は随時お待ちしております。・・・・・・今回は何かと言われそうで不安です。