第二十一話 忘れられない人って必ずいるものだ。
計5566文字です。
前回までのあらすじ。
上級魔術を使わせてみた。
P.S 自分で調節するだけあって自調律は便利だな。魔術の改造を楽しいと思ってしまう僕は居候に毒されたんだろうか。
雷系上級魔術『天より降る剣』。
僕がかなりの重症を負った『巨人呑み込む大波』より威力の高い魔術と真っ向から勝負しようだなんて普通なら自殺行為なのだが、複数の中級魔術の制御不足を見てからある考えに至った。
それが魔術を『使える』だけに重点を置いたあまりに発生する術の構成、制御の甘さだ。中級魔術でさえ使いこなせていない彼女が難易度が更に高い上級魔術を使えばどうなるか。更に術の制御、構成の甘さが目立ち、本来の威力が発揮されないのだ。
案の定、ひたすらに強化をして勇者としての膨大な魔力を存分に使い頑丈にしたとはいえ『水弾・大』でその威力のほとんどが減衰された。何とかそれを突き破った力も直ぐに『水盾・純』を張って十分に防げた。
このぶんだと恐らくはロップの『巨人呑み込む大波』よりは威力が低いだろう。
「上級魔術は凄いとは思うけど、やっぱり十分に使いこなすのが先か」
余波に当てられて気絶した彼女を背負いながら次の町へと足を進めながら自分の術習得の方針が間違っていないことを再確認した。
初級魔術でも弄れば十分に使えることも確認できたしのんびり習得していくか。
考え事をしながら右手で持っているフィリアちゃんの杖を振るう。
『雷装』で強化されているそれで赤い毛並みのウルフ、レッドウルフの顎を打ち上げる。続けて打ったほうと反対側の杖の部分で晒された喉を突いて殺す。
「【闇の誘い、苦悶の声『暗剣』】」
ナイフの形をした闇を飛ばす初級魔術『暗剣』を発動して周りに居たゴブリンの急所にそれぞれ的確に打ち込む。
殺しはするもののフィリアちゃんを抱えているため素材を剥ぐこともできず、特にお金に困っているわけでもないのでそのまま進んでいたのだが。
「ん・・・・・・」
「起きましたか?」
小さく声を出した彼女に顔を向けてみると、薄っすらとまぶたが開き始めていた。
「・・・・・・なの?」
「とりあえず、立てますか?」
まだ意識がはっきりしていない彼女に問いかけると、最初は首を傾げていたのだけど段々と意識がはっきりしてきたのか顔を赤く染める。
「お、降ろしてなの!」
「分かってますから、暴れないで下さい」
年頃の乙女が男に背負われるとやはり恥ずかしいらしい。
彼女をゆっくりと地面に降ろす。
「杖を少々お借りしましたので返します。少し汚してしまいましたけどそれは勘弁してください」
軽く布で血を拭って彼女に杖を返す。
彼女は血がついていたことに顔をしかめるがそれを受け取って辺りを見渡す。
「あなたがやったの?」
「僕以外に誰がいるんですか?起きたなら素材を剥ぐのを手伝ってもらえますか?」
これでやっと手が空いたので魔の素材を剥ぐことが出来る。
レッドウルフは牙、ゴブリンは色がついている爪が素材として使える。
フィリアちゃんは最初は気絶したときことや僕との勝負のことを思い出していたのか、色々と考えていたがその後は特に逆らうこともなく、素材を剥ぐのを手伝ってくれて剥ぎ終わると二人で並んで歩き出した。
「ところで、確認はしてませんでしたけどフィリアさんはこの先の街へ向かってたんですか?」
「そうなの。『ケルビナ山塔』を目指してるの」
「『ケルビナ山塔』ですか」
『ケルビナ山塔』はこの先の幾つかの街を経由した多種族連合にある『秘境区域』でもある大きな山のことだ。ほとんどが断崖絶壁で形成され、人が登るのは不可能とされている。
しかし、その山頂にはちょっとした平野があり、その平野を全面的に使い街が建設されている。
それというのも、『ケルビナ山塔』の麓と頂上をつなぐ転移魔法陣があり、山の内部から色んな鉱石が取れるのだが、山肌は少し掘り進むと硬い地層にぶち当たり、唯一その地層の無い山頂からしか山の内部に入ることが出来ないことから鉱石目当てに山の上に住み着く人間が増えていったということらしい。
ちなみに、この転移魔法陣というか、現存する転移魔法陣のほとんどが古代魔術であり、そのほとんどが汎用性には優れているおかげで使えているのだが詳しい解明には至っていない。巫女しか使えないらしい僕が召喚された世界間転移魔法陣と『ルカルサ』の誰でも使える入り口と出口も古代魔術だ。
「差し支えなければ何の用で行くか教えてもらえますか?」
無言で歩いていくのは気まずいのでとりあえず、話題として無難なものを選ぶ。
「卒業研究なの」
卒業研究?・・・・・・確かこの世界で学校らしい学校は『ベグ・エイア』の魔術師養成学校だけだからそこの卒業研究ということかな?となると、『ケルビナ山塔』にある鉱石が目当てなのか?
「えっと、鉱石目当てということですか?」
「そうなの」
「卒業研究というのは?」
「魔術装飾体を作ることなの。買って手に入るものも自分で取りに行かないと駄目なの」
魔術装飾体を作ることか。それだと錬金術の習得が必須になるけど、確かに魔術装飾体なら作ったものから魔術の知識、技術もはかれる上に自分で取りに行くことで戦闘能力をはかることも出来るか。
きっと彼女が作りたいもののために鉱石が必要なんだろう。
「あなたは?なの」
「え?」
「あなたは何処に何をしにいくつもりなの?」
「とりあえずは多種族連合の首都『ギフトア』に行くつもりです。少し調べたいことがありまして、色んな人が集まる『ギフトア』に行けば情報が集まっているはずですから」
『ベグ・エイア』でも調べられるんだろうけど、王家の目が光っているだろうからあまり近づきたくないんだよなぁ。
「・・・・・・」
「どうかしましたか?」
何やら考え込んでいるフィリアちゃんに声をかけると、彼女は僕を指差した。
「あなた、私についてくるの」
「・・・・・・いきなり何ですか?」
「私はあなたに負けたの。それは私に未熟なところがあったからなの。だから、あなたの傍であなたの観察をして足りないことを学ぶの」
負けを素直に認めて次のために行動を起こせるのはたいしたものだと思う。
「僕の意見は?」
「『ギフトア』に行くなら『ケルビナ山塔』に少し寄り道しても大丈夫なの」
確かに少しだけ寄り道すれば行けるけどさ。
「そうと決まれば早く行くの」
スタスタと先に進んでいくフィリアちゃんの背中を見ながら溜息をつく。
「僕、行くって言ってないんだけどなぁ」
言ってもあの様子だと聞いてくれないだろう。
正直、『秘境区域』には『ルカルサ』のときみたいに何か巻き込まれそうだからあまり近づきたくない。
そう何度も簡単に厄介ごとに巻き込まれることは普通ならないんだろうけど、絶対に無いとも言い切れない。
断りたいのだけど、無理矢理拒否したらまた泣かれそうな気がする。
女の涙っていうのは母さんで慣れてはいてもどうにも苦手だ。
そんなものに流されるような柔な育てられ方はされてはいないんだけどそれを見たくない。
思い出してしまう。
僕の腕の中で涙を流しながら死んだ最も親しかった彼女のことを。
「はぁ、まったく君の言うとおり僕は女々しいよな、命」
君のことはもちろん、初恋の人も、愛した人も忘れられない。
だけど、それでいいと思う。
「何してるの!」
あてもない世界、少しくらい誰かの我侭に付き合うのもいいか。
先のほうでむくれているフィリアちゃんに向かって歩く速さを速めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
依頼を一つこなして私達は街の宿に着きました。
「何だったんだろうな、あいつら」
「いい感じはしませんでしたね」
依頼でこの街の近くの洞窟を探索の最中に怪しげな集団と接触した私達は戦闘になり、相手には逃げられましたが勝利を収めました。
「あそこって何かあるのか?」
「どうでしょう?私は聞いたことはありませんが」
「ん〜、多分、お宝目当てじゃないかな」
「何か知ってるのか?」
「不確かな情報なんだけどね。昔、あちこちで活動していた盗賊集団『宵闇の宝箱』の隠し財宝が何処かに眠ってるって話」
「『宵闇の宝箱』?」
こちらの世界のことをまだよく知らない聖夜様が首を傾げます。
「ティニーさんも仰ったように昔、あちこちで盗みを働いていた集団のことです。そのあまりの被害の多さに多種族連合、人間王国から指名手配されてその集団は解体されました」
「で、その逃亡生活の中で自分たちが盗んだ中でまだ手元にあった宝をどっかに隠したっていう噂があるの。当時はそれこそたくさんの人が探したみたいだけど結局見つかんなくて今じゃ探そうなんて考える奴は滅多にいないんだけどあいつらの一人がバロックって言ってたから多分そうだと思う」
確かにこっそりと会話を聞いていたときに途切れ途切れに聞こえた単語の中にバロックという言葉がありました。
「バロックというのは何なんですか?」
「そっちは知らないんだ。バロックって言うのは『宵闇の宝箱』の最後のリーダー、バロック・フレシテルのこと。一番最後に捕まって、宝を隠したのはこいつだって言われてる。まぁ、最後まで口を割らないまま処刑されちゃったもんだから真偽のほどは分からないんだよね」
「けど、ただの宝探しにしては随分と怪しすぎる連中だったぞ?」
そうです。聖夜様の言うように彼らはただの宝探しではないように思えます。
「それは多分あれだと思う。『宵闇の宝箱』の中で一番眉唾物の噂のせいじゃない?」
「その噂というのは?」
「指名手配されたきっかけが古代魔装、氷杖『コキュートス』の強奪って噂」
古代魔装の強奪!?
「時期的にも『ベグ・エイア』から『コキュートス』が行方不明になった時期と指名手配の時期が一致するんだけどね。『コキュートス』なんか持ち歩いてたらそこから溢れる魔力ですぐに見つかるし、それを隠蔽できるほどの高位の魔術師は『宵闇の宝箱』にはいなかったし、それに『コキュートス』が保管されていた保管庫までは物理的にも魔術的にも厳重な警備がしいてあったから物理的な警備はともかく、魔術的な警備はこれも超高位の魔術師がいないと突破なんて出来ないから『宵闇の宝箱』には盗むのは不可能。だから、この噂は誰も信じてないの」
そ、そうですよね。いくら悪名高い盗賊でも『ベグ・エイア』の厳重な警備を潜り抜けることは出来ませんよね。
「古代魔装ってのはよく知らないが、話を聞く限り相当やばそうな代物みたいだからな。噂が本当ならああいう奴等がその力を求めて動いていても確かにおかしくないか」
「そうですね。しかし、彼らは何の根拠があってその噂を信じているのでしょう?」
「さぁ?でも、もし見つけられたらまともなことには使われないだろうね。全く、最近は『血の栄光』がただでさえ不穏な動きをしてるのにまた別の集団なんてこの国もそろそろ危ないかもね」
「『血の栄光』?」
「傭兵ギルド、というか、無法者の集まり。凶暴な連中の集まりで犯罪スレスレことも平気でやってる連中のこと。っていうか、噂だと犯罪にも手を出してるって聞いてる」
「私も彼らが不穏な動きをしているという話は聞いたことがあります」
彼らは現在、王宮で最も危険視されている集団です。
「そいつらとあの連中が仲間っていう線はないのか?」
「ないない。あいつらは宝探しなんて地味なことをするような連中じゃないもの。そんなことをするくらいなら人を殺して奪ってるよ」
私もそう思います。
「・・・・・・なぁ、ティニーはバロックのことには詳しいのか?」
「え?いや、私はそんなに詳しくはないけど」
「聖夜様、まさか・・・・・・」
「ああ。『コキュートス』を探そうと思ってる。もしも噂が本当であいつらに見つかったらまずいことになるはずだ。だから、それを阻止するためにも俺達が先に見つけるべきだと思う」
聖夜様が凛々しい表情でそう宣言されました。
・・・・・・カッコいい。
「アイシャ、いいか?」
「ふぇ!?あ、は、ふぁい!!」
あぅ、つい見惚れてしまいました。
「ティニーはどうする?」
「う〜ん、聖夜達のおかげで材料集めは順調だしその片手間に材料集めの手伝いを続けてくれるなら一緒に行こうかな」
「助かる」
こうして私達の旅の目的が古代魔装氷杖『コキュートス』の捜索ということになりました。
というわけで、今回はよくありがちな主人公の過去の女性と聖夜達のほうの物語の進展を書いてみました。紅月の過去の女性関係は最後のほうにほんの数行しか出ませんでしたが紅月のような特殊な環境下の人間は早熟であるべきかなと思い、テンプレ的ですが女性関係を少し出してみました。
聖夜達に関しては今までたいした目的もなかったので少しは目的を持たせるべきだと思い、『コキュートス』の捜索をさせることにしました。そこから国を巻き込む戦いに身を投じていく、という感じです。
魔術に関しては初級魔術は今回出てきた『暗剣』で打ち止めです。自調律で多少変化したのは出しますが、根本的には今出ているもので打ち止めにしようと思います。
ご意見・ご感想は随時お待ちしています。
ここから下はネタです。ただ私の妄想が歯止めを利かなくなったものなので見たい人はご覧下さい。
IF もしも召喚された先が○○だったら・・・・・・?
「何だこれ?うわぁ!て、手が抜けない!?誰か助けてくれ!」
「大丈夫か!?」
「・・・・・・うわ、あれ絶対厄介ごとじゃん。」
「しっかり掴まれ!」
「だ、駄目だ!もう吸い込まれる!うわぁぁぁ!!」
「くっ!?しまった!俺の手も抜けなくなってる!くそっ!」
「へ?ちょ、聖夜!?何で僕の服を掴むの!?ああ!引っ張られる!?くそっ!」
「助けてくれたっていいだろ!」
「厄介ごとには巻き込んで欲しくない!って、ああ!!何で折れるんだよ!?ちゃんと整備しろよ!糸が切れなくてもそれじゃあ意味がないじゃないかぁ!!」
「「うわぁぁぁ!!」」
「いってぇ!何だよこれ!?」
「使い魔のルーンが刻まれてるのよ。すぐに収まるから大人しくしてなさい。まったく、何でよりによって平民なんかが出てくるのよ・・・・・・。」
「「ぁぁぁぁ」」
「?何の声?あれ?何でまだ扉が閉じてないのかしら?」
「「ぁぁあぁあぁあああ!!へぶっ!」」
「きゃあ!!」
「おい!また平民が出てきたぞ!」
「それも二人だ!」
「いてて。」
「やっと痛みが引いてきた・・・・・・って、あんたはさっき俺を助けてくれようとした人か?」
「よかった無事だったか。ん?あれ?ここ、何処だ?」
「さらば、僕の日常・・・・・・。こんにちは、異常事態。」
「俺は平賀 才人。よろしくな。」
「俺は光 聖夜だ。同じ使い魔同士仲良くしような。」
「僕は不知火 紅月。よろしく。」
「ってか、紅月でいいか?お前だけ何で使い魔になるのを免れてんだよ。」
「口は達者なほうなんだよ。それに使い魔なんて確実に面倒な束縛なんて欲しくないし。」
「ははは、お前らしい。」
「今日から働くことになりました不知火 紅月です。よろしくお願いします。」
「私はシエスタです。私のほうこそよろしくお願いします。」
「し、不知火さん!大変です!」
「どうかしましたか?シエスタさん?」
「ミス・ヴァリエールの使い魔のお二人が私のせいでメイジ様と決闘を!あなたは彼らの知り合いでしたよね!?あなたからも彼らを止めてください。」
「ん〜、詳しい事情はよく分かりませんけど、大丈夫だと思いますよ。・・・・・・仮にも神の左手、『ガンダールブ』が二人。ただのメイジに負けるはずが無い。」
「そこのお姉さん、ちょっといい?」
「!?誰だ!?」
「っと、杖を下ろしてくれない?あなたと似たような目的だよ。ミス・ロングビル、いや、『土くれ』のフーケさん?」
「破壊の杖?」
「ああ。今の私の獲物はここの宝物庫に眠るそれさ。邪魔はしないでおくれよ?」
「別に僕はそんな物騒なものに興味はないよ。お好きにどうぞ。」
「最悪は失われし『虚無』の系統の使い手が四人、そして、それぞれに伝説の使い魔・・・・・・。それらが対立しあうこと。そうなれば、間違いなく世界を巻き込んだ戦争、いや、戦争という枠組みに収まるかも分からない事件が起こる。・・・・・・運命は時として残酷なほどに都合よく出来てるものなんだよ。」
to be continue.......
続きません。ただのネタです。二次創作を読んでいるうちに妄想が膨らんだんです。原作も途中までしか知らないし、口調もよく分かりません。本格的に書くつもりはないので見にくいですが会話文だけです。
あ、ルイズの名前が出てない・・・・・・・。ま、いいか。




