第十二話 不幸とは落とし穴のように不意にやってくる。
計4697文字です。
前回までのあらすじ。
一人旅を始めた。
P.S 自由って素晴らしいと改めて実感した。
城から抜け出して早くも十日、次の街『リーガ』に着いた。
僕はとりあえず多種族連合を当面の目的地として南へ向かっている途中だ。
ちなみに、王都『オルガナ』から見て北に魔族帝国、東に龍種同盟、西に海、南に多種族連合が存在している。
「こっちのほうが『トリリドス』より活気があるな」
『トリリドス』というのは『オルガナ』の西にある僕とトリアさんが一緒に立ち寄ったあの街のことだ。
あのときは街の名前なんて気にしなかったが、城で書物を読み漁っているうちに地名なども頭に入れた。
まぁ、『リーガ』の方が活気がある理由は考えてみれば簡単なことで多種族連合は首都に委託施設の本部を置き、委託施設の幹部たちが国を統治している。
そして、多種族連合はどの国とも中立的な立場であり、委託施設も同じように中立的で広い地域で展開していることもあり、この大陸の商業の核となっている。となると、当然『オルガナ』と多種族連合の間にある南部地域『ハーメンツ』も経済が活発になってくるというわけだ。
人間王国の平民たちの間では、平凡な生活を送りたいなら西部地域『コーネリア』、金持ちになりたいなら南部地域『ハーメンツ』、魔術的な研究をしたいなら東部地域『ヴィーグドル』、戦いたいなら北部地域『ゲードンム』に行けと言われているそうだ。
『ゲードンム』は魔族帝国に近いことからか治安が悪く、魔も強いものが多いらしい。
『ヴィーグドル』では珍しい素材を持つ魔がいたり、珍しいものが採取できる場所が幾つかあり、魔術都市『べグ・エイア』があることから魔術師が多くいるらしい。
『リーガ』に着いて、真っ先に僕が向かったのはこの街にある委託施設だった。
ここに来るまでの間に魔術の練習がてら魔を屠りまくっていたので素材がたまってしまい、換金しなくちゃもうこれ以上袋に入りそうになかったからだ。
ちなみに『オルガナ』〜『リーガ』間で出会った魔はゼリースライム、ピヨ、蜂型魔ビーだった。
魔の種類も城にあった図鑑で確認されている種は頭に叩き込んだ。ちなみにビーの素材は針だ。
委託施設に入るとそれなりに人がいて、依頼掲示板を見つめている人達やカウンターで手続きをしている人達、設けてあるスペースで旅人同士、情報交換をしている人達がいた。
それらを眺めながら空いているカウンターに着く。
「どのようなご用件でしょうか?」
「これの換金をお願いします」
僕が腰に下げていた袋をカウンターの上に乗せ、受付嬢の人が袋の中を覗き込む。
「少々お待ち下さい」
受付嬢が受付の脇に置いてある魔法陣が刻まれた台の上に素材を出す。
この魔法陣は素材の鑑定機能があるらしく、委託施設の全施設に常備されているそうだ。
「お待たせいたしました。合計で1500ガルドになります。金庫にお預けしますか?」
「いえ、受け取っていきます」
委託施設は銀行のようなこともやっているらしく、有料でガルドや物を預けられる金庫を貸し出してくれている。まぁ、金庫を持ってない今の僕には関係ないけど。
「では、こちら銀貨15枚で1500ガルドになります」
「どうも」
こちらの通貨は金貨一枚で1万ガルド、銀貨一枚で100ガルド、銅貨一枚で10ガルドの代わりになる。ガルド自体は鉄で出来ていて、金貨、銀貨、銅貨、ガルドには偽造できないように特殊な細工が施されているらしい。
「それと、登録申請お願いできますか?」
登録申請というのは依頼を受けるに当たって、その依頼を受けるか妥当か判断するためにその人物の実力をランク付けすることだ。
受付嬢の人は僕が登録申請していないことに少し驚いたようだけど、すぐに営業スマイルを取り戻す。
「登録には200ガルドかかりますがよろしいでしょうか?」
「はい。じゃあ、これから二枚で」
渡された銀貨から二枚を抜き取る。
「では、こちらのほうに手を置いてください」
カウンターの上に魔法陣が刻まれた器具が置かれる。
「これは?」
「人がそれぞれ持つ魔力波長を測定する器具です。個人を認証するのに同じ型をもたない魔力波長は適しているんです」
「・・・・・・魔力波長というのは簡単に測れるものなんですか?」
「いえ、このような器具を使わないと測るのは無理です」
なら、セーフか。魔力波長をもし王宮の連中に測られてたとしたら僕の偽装工作が見破られてたかもしれない。
一安心して、器具に手を乗せると魔法陣が一瞬だけ輝いた。
「はい。これで登録は完了です。情報を保存しますのでお名前を教えてください」
「クリムゾンです」
受付嬢が少し器具の操作をする。
「・・・・・・クリムゾン様の登録完了しました。ランクはEからスタートしますのでご了承下さい」
ランクはE〜SSSランクまであり、Cランクの人間が一番多いそうだ。
「どうもありがとうございました」
銀貨を素材を入れていたものと別の袋に入れてカウンターから離れる。
依頼掲示板に近寄り、依頼を確認すると商業が盛んな『ハーメンツ』地方だからか護衛の依頼が多い。
護衛の依頼はどんなに低くてもCランクでなければ受けられないため必然的に僕が受けられる依頼も数が限られてくる。
「えっと、『ビーの針 10個納品』、『ゼリースライムの核 5個納品』、『草刈り』、『ウルフ 20匹討伐』、『ゴブリンの爪 10個納品』、『ギーナルの実 10個納品』、『アイエの水 5瓶納品』、『アイエフィッシュ 10匹納品』か」
一見楽そうに見える草刈りだが、内容を読んでみると広い敷地の草刈りなのでわりに合いそうにない。
ビーの針とゼリースライムの核を先に換金したのは失敗だったかな。
ゴブリンは依頼書を見ると街の東の街道付近に生息しているらしい。
ギーナルの実は『リーガ』の西にある『ギーナルの森』に生っているらしく、森の奥のほうには『アイエ湖』という湖があるのでアイエの水とアイエフィッシュというのはそこの水と魚のことだろう。
・・・・・・これでいいか。
『アイエフィッシュ 10匹納品』と『アイエの水 5瓶納品』を手に取り、さっきと同じカウンターへ向かう。
「この依頼を受けたいんですが」
「はい。少々お待ち下さい」
受付嬢が登録申請をした器具を取り出して操作をする。
「では、ここに手を乗せてください」
僕が手を置くと魔法陣が一瞬輝く。
「クリムゾン様、依頼受諾完了しました。依頼を完了されたらここへ品物を持ってきてください」
踵を返して委託施設から出ようとしたとき
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?僕のことかな?」
振り返ると僕より声をかけてきた幼い中学生一年生くらいの少女とそれより年下でありそうな少年がいた。
「はい。さっき、アイエ湖の依頼を受けましたよね?」
「そうだけど?」
「私達、ギーナルの実の依頼を受けようと思っているんですがよかったら一緒に森まで行ってくれませんか?私達、Eランクで見ても分かると思いますがまだ子供で自信がなくて・・・・・・」
・・・・・・別に断る理由もないか。
「いいよ」
「ありがとうございますっ。じゃあ、依頼を受けてきますのでちょっと待っててください。行くわよ、ルル」
ルルと呼ばれた男の子を連れて女の子がカウンターに行って、受付をすませると戻ってきた。
「お待たせしました」
「ん、じゃあ、とりあえず自己紹介しようか。僕はクリムゾン。クリムって呼んで」
「私はレイラ・ディテスです。こっちは弟のルル・ディテスです。よろしくお願いします。ほら、ルルも挨拶をしなさい」
「よろしく、お願いします」
「よろしく」
ディテス姉弟の実力のほどは分からないけど、Eランクの依頼だし何事も起こらないだろう。
行く前に釣り糸とか買わないとなぁ。まぁ、どっちにしろただの糸だと紅雪はともかく僕じゃあ切断なんて出来ないし、ただの糸は耐久度が低くて何度か使うとすぐに切れちゃうから釣り糸は買うつもりだったから丁度いいか。
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「『ルブ・ポルガ神殿』?」
「はい。過去に召喚された勇者様で白龍を倒したという偉業を成し遂げた方を祭っている場所です。その勇者様が亡くなられたのがこの街でしたのでこの近くにお墓として建造されたんです」
依頼をこなしながら旅をして、ランクを上げるためにランククエストを受けようということになった。
その内容が『ルブ・ポルガ神殿の奥にある所定の物を持って帰ってくる』というものだった。
「そんなところに行くだけでいいのか?」
「『ルブ・ポルガ神殿』はこの街『ルブ・ヘリア』から一日ほど北に歩いたところにあるのですが、昔はちゃんと管理されていたのですが今は魔の住処となっているんです」
「なるほど。それなりに関門はあるわけか」
住処ということは結構多くの数がいるはずだ。それを払いのけないとランクアップは出来ないってことか。
「『ルブ・ポルガ神殿』のように昔の偉人にまつわる土地というのは今では魔が居ついて一般の人が近寄れなくなっているんです。一番安全なアイエ湖でさえ周囲の森には魔が住み着いてますし」
「へぇ、そのアイエ湖ってのはどういうとこなんだ?」
「そんなに有名な話ではありませんが、昔、巫女であったアイエ・ゲーテスは当時の勇者様ととても仲がよく、恋人同士になったそうです。しかし、ある魔族との戦いで勇者様が瀕死の重傷を負ってしまいました。当時の技術では手の施しようが無く、アイエ様は勇者様の回復を願って昼夜を問わず当時神聖なる場とされていて名前もついていなかった湖で祈りを捧げていたと言います」
「その勇者はどうなったんだ?」
「アイエ様の祈りもむなしくお亡くなりになられました。その後、それを知らされたアイエ様は一緒にいた者達が眼を放した隙に勇者様の亡骸と一緒に行方知れずになってしまいました。一説には祈りを捧げていた湖に一緒に身を沈めたと言われていますが、遺体は見つかっていません。それが現在のアイエ湖です」
「・・・・・・それで、時々その巫女さんの霊がうろついているのが目撃されているって話がついてそうだな」
「・・・・・・時々、行方不明者が出たり、妙な音がしたりはするそうです」
・・・・・・すげぇ気になる、そこ。
「機会があったら行ってみるか」
「え!?」
俺がそう言うと、動揺してアイシャが挙動不審になる。
「・・・・・・怖いのか?」
「い、いえ!?そ、そんなこと、な、ないですにょ!?」
怖いんだな・・・・・・。
まぁ、だいぶ先のことになるだろうからそれまでに説得するか。
というわけで、今回は多くの名詞が出てきましたが、適当につけたのでそれぞれに特に意味はありません。新しい名詞を出そうとするたびにどういう風につけるか悩んでしまいます。設定も色々と作っていますが全部を使いきれる自信は申し訳ありませんが、ありません。出来る限り頑張ってみますがその点、ご容赦下さい。
私は伏線を張るのが下手なので皆さん分かっているとは思いますが、紅月はもちろん湖でイベントを起こします。同行するキャラをつけたのは誰かがいないと会話がなくなってしまうからつけてみました。そのうち別れさせる予定です。
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