リバーシ
「俺たち付き合うことにしたから。」
静寂。男が一人止まり前の男女を見据える。
「そうなんだ。おめでとう。でも何で僕にも言わなかったのさ。僕たちの仲じゃないか。」
どこか安心したような吐息の後笑い声が聞こえる。
「ははは。ごめんな。でもなんか恥ずかしかったんだよ。」
「隠してたわけじゃないんだけど私たち結構昔からつるんでんじゃん?だから逆にいいずらくって。」
三人は再び歩き出しいつものように並んで談笑を再開する。
「それにしても恋人なしはついに僕だけか。君、ちゃんと幸せにしてあげなよ。僕も協力するからさ。」
目をそらしながら幸せそうな親友に言葉をかける。
そろそろ分かれ道。
「じゃあ僕はこっちだから。乱暴されたらすぐ僕に言うんだよ。」
「あはは、うんわかったよ。」
「おい、俺はそんなことする奴に見えるのか。」
「冗談だよ。じゃあバイバイ。」
一人は右に曲がり、二人は男が帰るのをしばらく見ていた。男はちっともこちらを振り返らなかった。
「行っちゃったね。」
「ああ。、、、あいつには悪いことしちまったな。」
「しょうがないよ。私たち付き合い長いんだし。、、、それより私たちも帰ろ?」
女は俯きがちに男に手を差し伸べる。その手はどこか震えているようにも見えどこか頼りない。
「っ!そうだな!」
二人は手をつなぎ夕日に向かい歩き始めた。
この時間が永遠に続けばいいのに。そんなことを考えながら。
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「ああ!ああああああ!あああああああああ!」
男は一人部屋で暴れていた。帰ってきて数分。だが中はまるで空き巣が入ってきたかのような有様だった。
「何で!何で何で何で!僕じゃないんだ!」
嘆き悲しみ、男は答えがはっきりしている疑問を抱いた。
「何で僕じゃダメなんだ!チクショー!あああああああ!」
何度も何度も拳が頭を叩く。
ボロボロだった。身も心も。それでも自分を傷つけるのはやめなかった。
挙げ句の果てに男を女を恨み出した。
「ちゃんと僕を見ないから!だから僕は!
許さない許さない許さない許さない!」
こんなのは不毛なことだ。男は気づいているがやめられなかった。心から黒い水があふれ止まらない。何かに当たってないと気が済まない。
どこまでいっても男は独りだった。