第一話 御代志安定と鳴沢碧咲
第一話 御代志安定と鳴沢碧咲
「御代志さん、本当にこんな所に行くんですか……?」
「行くも何も、ここまで来たのにそんなことを言うのかい?私の助手は実に弱気なことを言うんだね」
「いや〜……確かに行くとは言いましたけど、いざとなると怖くなりまして……」
「はあ〜……全く、君は男だろう?可愛いのか情けないのかどっちかにしてくれないか?」
「……いや、待ってください。なんでその二択に絞られるんです?」
「ま、別にいいんだよ?君が帰りたいのなら帰っても。ただし、この帰り道を1人で帰ってもらうことになると思うけど……?」
「や、やめてください!行きます!行きますから一人にしないで下さい!」
「ふふっ、素直で可愛いなあ。碧咲くん、それでこそ私の助手だよ」
「もー、御代志さ〜ん……」
俺の雇い主、御代志安定は俺の言葉に満足そうにニヤリと笑う。外見は完璧なのにこの人は性格に難がある。それもかなりの変人と言わざるを得ないほど可笑しい。
誰と出会ってもこの態度とはスタンスは変わらない。世間知らずなのか怖いもの知らずなのか、自分が相手よりも必ず上であるということを示してくる。
ここ半年、彼を見てきて分かったことはそれだ。
正直、もうこれ以上彼について知りたくないというのが本音だ。だが、俺は嫌でもこの人のことを知っていくことになる。
何故ならば、俺と彼は………悪霊退治を担う専門家であるからだ。
遡ること、数時間前。
それは昼休みの時間に起きた。
「だああああ!!なあ聞いてくれよ!!俺見ちまったんだって〜!!」
そう俺の耳元で騒いだのはクラスメイトの石澤だった。野球部に所属しているからか声が馬鹿でかい。俺の近くでメガホンを持っているようだった。うるさい、なんだよ、と適当に返すと、俺の席に乗り出して石澤は血の気の引いたような顔をしてきた。
「なあ、鳴沢聞いてくれよ!!俺見たんだよ!!あの出るって遊園地で……お、女の霊をさぁ!!!」
「はあ?なにそれ、今どき幽霊とか寝ぼけてんの?」
「寝ぼけてねえよ!確かに、夜にあの近く通ったんだけどよ、それでもいたんだよ!ほんとなんだよ!」
「いで!!分かった、分かったから肩をつかむな!痛いんだよ!」
石澤のゴツゴツとした手がガッチリと俺の肩を掴む。尋常じゃない力だ。これが女の子だったらどれだけ良かっただろうかと脳内で変換しようとすると、それを覚ますように揺らしてくる。
「なあ〜!頼むよお!!俺怖くて眠れねえんだよ!!!俺の見たのが本物かどうか、【御代志先輩】に聞いてくれよお〜!!お前仲いいんだから頼むよお〜!!」
鼻水涙がぐちゃぐちゃになった顔で俺を見る。相当参っているようだ、目の下のクマが尋常じゃない。聞けば気になって部活にも集中出来ないほどだという。
「分かったよ、聞けばいいんだろ?その代わり【報酬】はいくらになるか分かんないよ?」
「いい!構わん!真実が分かるのならどんな事でもする!」
「うーん……分かった、じゃあ依頼引き受けよう」
そう言って、俺は鞄の中からちりめんで出来た小さな袋を取り出す。ボタンを取り外して、その中に入っていた紙を取り出した。
それは御代志と書かれた御札だった。鬼灯と狐が描かれている黒と朱のデザインのものだった。
「御代志安定代理、鳴沢碧咲。確かにご依頼承りました。貴方に安息な時が訪れますように……」
そう言って石澤にそれを渡した。
これは契約成立の証で、何かの効果があるとかは特にない……と御代志さんが言っていたけど実際はどうか分からない。
俺はため息をつきながらそっと窓の外を眺めた。昼休みの教室はうるさい。クーラーを付けるにはまだ早い。生ぬるい風がカーテンをすり抜けて肌にじわりとまとわりつく。
今日は何時に家に帰れるのだろうか……。
と、俺の心は絶望感で満ち溢れていたのだった……。
……俺、鳴沢碧咲は、不幸なことに、御代志安定という男の助手をすることになってしまったのである。
そして、それはそんな不幸な俺と御代志安定という男が紡ぐ悪霊退治を専門とした物語である……。
初めまして、二つ目の作品です。
よろしくお願いします。