1ー1 初めての都市へ
外の世界に憧れを抱いたのは4つの頃だった。小さな村に住む俺は隣に住むノアと一緒によくシア婆ちゃんとゼノ爺ちゃんの家に行って外の世界の話しを聞かせてもらっていた。
ゼノ爺ちゃんは昔、冒険者をやっていたみたいで俺とノアによく
「自分すら守れねぇようじゃあ大事なモンは守れねぇぞ」
と言って体術や剣術を教えてくれた。最初は遊び半分でやっていたのに途中から二人してのめり込んだのを覚えてる。そんな俺らを見て爺ちゃんはいつも「カッカッカッ!」と大きく笑っていた。
シア婆ちゃんはギルドの受付嬢をやっていたらしく、爺ちゃんとの出会いや、爺ちゃんが猛アピールで求婚してきた時の話を笑いながら話していた。外の世界の話しを聞いたのもシア婆ちゃんからで、受付嬢をやっていたこともあってたくさんの事を教えてもらえた。木々が生い茂る森にある巨大な大樹の迷宮や、燃え盛る火山の灼熱の迷宮など、その他にも神話や英雄譚も聞いて、その度にいつも目をキラキラさせていた。
幸せだった。あの頃はこんな生活が永遠に続くと信じて疑わなかった。だが、幸せは永遠には続かない。
6年たち俺達が10になる頃、ゼノ爺ちゃんが死んだ。寿命であった。
ノアは一日中泣いて、目の下を真っ赤にしていた。爺ちゃんは最後に掠れた、だが強い意志のこもった声で言った。
「…フィン…泣いてんじゃねぇよ…お前まで悲しんでどうする……。男なら…大事な女、しっかり守ってやれ…」
俺は涙を堪えて頷き、ノアが泣き止むまで抱きしめてやった。そんな俺らを見てやっぱり爺ちゃんは弱々しく「カッ…カッ…カッ…」と笑って、優しい笑顔を浮かべて死んでいった。婆ちゃんもその瞬間を涙を流しながらも笑顔で爺ちゃんを送っていた。
次の日から婆ちゃんはいつも通りの生活を送り、「お爺ちゃんが居なくなっちゃったけど頑張らなくちゃね!」と優しい笑顔で張り切っていた。
だが、悲しむ俺たちを笑うように天は幸せをさらっていった。
爺ちゃんが死んでから1年後、婆ちゃんが病に倒れ亡くなった。治せない病じゃなかった。けれどその日は運悪く嵐で薬師の到着が遅れ、間に合わなかった。
薬師が間に合わないと分かった婆ちゃんは、最後の願いだと言って俺とノアに「笑ってちょうだい」とあの優しい笑顔を向けた。俺とノアは泣きながら必死に笑顔を作った。ぐしゃぐしゃの笑顔を。
「ありがとう…」
一言そう呟くと、婆ちゃんは静かに目を閉じた。
その後ノアは俺の胸に顔を埋めてずっと泣いていた。そんなノアを見て泣きそうになった時に爺ちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
(そうだ、俺がしっかりしなくちゃ…!!)
泣きそうになった心に喝を入れ、ノアの頭を優しく撫でて笑顔で語りかける。
「ノア、いつまでも泣いてちゃあ婆ちゃんが心配で天国に行けないよ。悲しんでるノアより、笑顔で強いノアを見せてあげよう?」
「ひぐっ…でも…もうお爺ちゃんにもお婆ちゃんにも…会えないよ…」
「大丈夫!これからずっと俺がノアの傍にいてやる!」
「…ほんと?」
俺は力強く頷き、言葉を返す。
「 俺はノアの前で絶対に死なないし、ノアのことも俺が必ず守る!だからこれから一緒に頑張ろ? 」
「…うん!」
まだ涙で潤む目を擦りノアは笑顔で頷いた。
あの日から5年の月日が流れ、いつもと変わらぬ朝がやってきた。
薄らと太陽の日差しがカーテンの隙間から顔にあたり、瞼の上から眼球を刺激してくる。眩しさを感じて布で頭まで被り再び夢の世界へ行こうとした時に外から声が掛かった。
「おーーい!フィーーーン!!あーさでーすよーーー!!早く起きろーーーー!!!」
朝だというのに元気が有り余ったような聞き慣れた声が寝起きの頭にガンガンと響いてきて耳を塞ぎたくなる。が、そんなことをすれば声のヌシは部屋まで上がってきて寝ているフィーゼにムーンサルトニードロップを御見舞してくるだろう。あの時は死ぬかと思った…。
そうなることが分かっているので渋々カーテンを開け、窓から見下ろす。そこにはやはり幼馴染みのノアがいた。子供の頃から身長がぐんぐん伸び、175センチあるフィーゼと6センチほどしかかわらないぐらい大きくなっている。短パンからすらっと伸びた長い美脚もその長身の源であろう。子供の頃伸ばしていた長い黒髪もバッサリ切り、今は短く切りそろえられている。髪の中から覗く顔は昔の幼さを少し残した可愛らしい顔立ちである。そんなノアと目が合うと、はにかみながら手を振ってきたので手を軽く振り返し窓を開けて返事をする。
「起きたから準備してから行くよ」
「うん!待ってるぜ!フィン!」
「お〜う」
いつものやり取りを終えるとノアはいつもの場所へ走っていった。今更ながら言うとフィンというのは俺の愛称だ。
「さて、じゃあ準備しますか」
グッと伸びをして背筋を伸ばしてから着替えに取り掛かった。鏡の前に立ちいつもの動きやすい白のシャツと脛までの丈の焦茶色のズボンに着替えて1階に降りる。朝に弱い母フラメルはまだ起きていないようなのでテーブルの上に積まれているフルーツの山からリンゴを一つ取り食べながら向かうことにした。
ドアを開け、外の爽やかな空気を吸いながら2度目の伸びをする。まだ日が射し始めたばかりということもあって少しばかり空気が冷えている。フィーゼも朝は弱いが(というか基本的には時間にルーズだが)、目が覚めてしまえば早朝の気温や空気は好きな方であった。
「…うっし、行くか!」
気合を入れて歩き出しいつもの場所へ向かった。
村の朝は早い。目的地に向かう途中に村の住人をちらほら見かけ、挨拶を交わしていく。
(にしても、結構人増えたよなぁ)
ここバラカ村は最近になってちょっとずつ拡大し始めた村である。前までは70人いるかいないかというとても小規模な村であったのだが、村で暮らしたい人が増えたのか分からないが都市から人が流れてくるようになった。その結果70人前後だった人口はすでに100人を優に超え村の土地もかなり広くなり、穀物や野菜、果物まで以前より多く収穫できるようになり村全体が潤ってきている。
「フィン!アンタリンゴだけじゃ足りないだろ?これ今朝取れたトマト持ってきな!ノアちゃんと喧嘩せずにわけんだよ!」
「ん!ありがとおばちゃん!!」
前を通るといつも何かしらくれるおばちゃんだ。この村の人は優しい人が多いというのも魅力の一つなのかもしれない。おばちゃんから有難くトマトを貰って目的地━━シア婆ちゃん達の家に着く。
「遅い!ってあぁ!それオバチャンとこのトマト!?」
「おうそうだ、終わったら食おうぜ」
「うん!よ〜し、今日は張り切っちゃうぜ?」
「御手柔らかにね」
そう言うと、揃って準備運動を始める。フィーゼとノアは毎朝早朝にここに来ては稽古を行っていた。ゼノ爺ちゃんの教えを疎かにしないことと、ゼノ爺ちゃんにいつも家の裏庭で剣術と体術を教わっていたこともあってやっぱりやるならここだろうとなってあの日からずっと続いてる日課だ。その甲斐あって二人は相当強くなっているのだが、競い合う相手がフィーゼとノアしか居ないので本人達は自分たちの強さをイマイチわかっていないのであった。
「まずは体術からだね」
「体術なら負けねぇ」
「一昨日負けてなかったぁ??」
「うるせぇ!昨日勝ってるだろが」
「ハイハイわかったわかった〜。んじゃいくヨ!」
そんな軽い言い合いから一気に気を引き締める。
先に仕掛けてきたのはノアだ。素早く間合いを詰め、上段への右脚の回し蹴りを放つ。それを腰を低く下げることで躱すのと同時に右手を引き絞り、鳩尾に向けて振り抜くがノアは左手で拳を右へ流しあいたフィーゼの顔に向けて肘鉄を入れる。
「がふっ!?」
「へっへーんどーよ!」
「くっほ、ほおやお(くっそ、この野郎)…!!」
ノアがドヤ顔でシュッシュッとシャドウをする。その姿にカチーンときたフィーゼはさっきの攻防が遊びだったと思わせるには十分な速度で攻める。
「えっ!?ちょっ、まっ…!!?」
流れるような攻撃によって腕のガードが崩れ、身体の軸がぶれる。その隙を見逃す訳もなく顎へのアッパーを狙う。当たる既のところで止めるとその凄まじい拳の速度によって風が生まれノアの髪が上向きになびく。
「ま、参りまし…た…」
「うむ宜しい」
「フィン、なんか最近更に腕上げてない…?」
「分かるか?これも鍛錬の賜物だよな」
んな馬鹿な、と少し呆れの入った目を向ける。負けたもののノアもかなり腕を上げており、フィーゼも手を抜けないなと感じ始めていた。
「次だ次、お前の好きな剣術だぞ」
「体術のお返しくれてやんよ〜」
使用するのは実際の剣ではなく木剣だ。重さは普通の剣より少し軽いくらいだろうか。木剣を互いに構え、睨み合う。
最初に動いたのはフィーゼだ。右上から斜めに振り下ろすとノアは体を左へずらし右下へ受け流す。反撃に来ると思い、フィーゼはすぐさま距離をとる。が、ノアは不敵な笑みを浮かべると、霞の構えをとった。
「…っ!?」
その瞬間自分のやられるイメージが頭に浮かび、とっさに防御姿勢をとろうとしたが、
「遅かった…!?」
「秘剣!!燕〇し!!!」
一の太刀、二の太刀、三の太刀とほぼ同時に放たれ逃げ場のないフィーゼは防ぎきれず吹っ飛ばされた。
「グハッ…!?」
肺の空気が一気に押し出され一瞬呼吸が止まる。
「あちゃー、ちょっとやりすぎちゃった…?」
「ゴホッゲホッ…せめて寸止めしろよ…!!」
「アハハごめんねー。にしてもまだ完成しないなぁ燕返〇。」
ノアいわく三つの太刀を完全に同時に出せてこそらしい。
そんなやり取りをして、残りの朝の鍛錬を終えオバチャンのくれたトマトにかぶりつき今日の朝は終わった。ついでにトマトにかぶりついて「ぅんまぁ〜い!」と言ったノアの顔はとてつもなく可愛かったとだけ言っておこう。
ノアと喋りながら家に戻ると二人の家の前でフラメルとノアの両親ダリアとジーネが話をしていた。どうしたのだろうと思い近寄り声をかける。
「三人とも集まってどうしたの?」
「あら、おかえりフィン。今ちょうどあなた達について話し合っていたところよ」
「あたし達についてってどう言うこと?」
「お前達もそろそろいい歳だからな。都市ブラドに行ってジョブの加護を受けさせに行こうと思ってな。その話し合いだ」
この世界にはジョブが存在し、戦闘向きジョブと非戦闘向きジョブとに分かれる。ジョブは都市や発展した街などのギルドで授かることが出来、フラメルとダリアとジーネもジョブに就いている。フラメルとジーネは料理が上手くなったり掃除などで疲れなくなったりと家事全般に補正がかかる「家事師」、ダリアは作物が実りやすくなったり耕す際の腕力の上昇など農業に対して補正のかかる「農夫」のジョブについている。どれも非戦闘向きジョブである。ゼノとシアからもジョブの話しを聞いていたこともあって二人共揃って喜びだした。
「お、俺にもやっとジョブが…」
「やったぁ!あたしずっと楽しみにしてたんだぁ!!何が候補で出るかなぁ?」
歓喜に打ち震えるフィーゼと喜びを顔どころか体全体で表すノアを親達は大きくなったなぁと成長した子らを優しい眼差しで見守っていた。
「よし、そうと決まればさっそく準備に取り掛かろう」
「はい!」「はーい!」
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その日の昼頃に、フィーゼとノアは週に一度都市に向かう馬車に乗り出立することになった。都市まで二日ほどかかるので荷物もそれなりの量になる。馬車が週に一度だけと言うのもそのせいだ。それに都市に向かうのは村の農作物などを売りに出すという目的もあるため荷台はそれなりに物が置かれていて割と窮屈だ。だが二人はジョブが手に入ると思うだけでそんなことどうでも良くなっていた。
「フィン〜?ちゃんと必要なもの持った〜?」
「うん、ちゃんと持ったよ母さん」
「ノアも大丈夫?」
「むこうであまりはしゃぎ過ぎるなよ?」
「もちろんだよママ!パパも大丈夫!戻ってきてからはしゃぐから!」
「ハッハッハッ、戻ってきたら皆でお前達が初ジョブを授かったことを祝ってやろう。だからいいジョブに就いてこい」
「はい!」「うん!」
馬車が動き出し見送りをしに来た村のみんなに手を振り一時の別れを告げた。そして二人は互いの顔を見やい盛大にニヤけたのであった。
あれから一日たち周りの景色が見慣れたものからすっかり別世界に変わる。青々とした草原が広がり周りを見渡しても今通っている道以外何も無い。よく目を凝らせば遠くの方に森らしきものも見えた。フィーゼとノアは村の外に出たことはあるが精々村付近にある森に動物を狩に行くことぐらいで、ここまで離れたところに来るのは二人共初めてだった。バラカ村付近の森の中には兎や鹿などしか居ないが村周辺から離れた森、とくに都市付近の森はダンジョンがある事もあってゴブリンなどダンジョンの上層にいる魔物が跋扈している。
「そろそろ都市付近だ。周りに気をつけろよ」
「あ、はい」
実は結構都市に近づいており、予定より早くつきそうである。御者が言うには今回は馬の調子が良いらしく歩みが早いらしい。そして早くも魔物が蔓延るエリアに近づいていた。この道はギルドの冒険者も利用する時があるらしくそこまで魔物は寄ってこないとは言っているが周りへの警戒をするに越したことはない。さっきまで楽しい雰囲気だったフィーゼとノアに緊張が訪れる。
「ははは、んなツッパんなくて大丈夫だ。俺だって長年やってるがゴブリンに襲われたことは大して多くねぇよ」
「そう、ですか…」
「ふぇ〜…なら安心だねぇ〜」
御者の体験談を聞きノアは間抜けな声を出し肩の力を抜く。だがフィーゼは周りの警戒を続ける。ふと、ノアが遭遇した時はどうしているのかと聞くとどうやらゴブリンの苦手な臭いを放つ臭い袋や、ボウガンなどを使って追い払っているらしい。冒険者の使うような道に好き好んで近づく魔物は多くなく、1〜2匹程度なのでそれらの対処法で何とかなるそうだ。そしてそれは正しく、御者の言う通り都市付近に近づいても魔物は現れず、そのまま夜を迎えフィーゼとノアは荷台で床についた。
次の日の早朝、まだ日が登りきっておらず周りに薄らと霧が立ち込めている。そんな中荷台という悪環境の中でも難なく眠り続けるフィーゼをノアが激しく揺さぶり起こす。
「ねぇ!ちょっとフィン!!アレ見て!」
「ぅん…なんだぁ…」
このまま眠り続ければ何をされるか分かったものじゃないので渋々起き、未だ開ききらない目を擦りながらノアの指さす方向を見る。
「おぉ…あれが都市か…」
遠くの方に白い建物が見え、視認できる距離まで近づいていることが窺えた。都市ブラドは城郭都市であるため市街の周りをぐるりと高い壁が囲っており未だ街を見ることは出来ないものの、その白く高い壁により都市がどれほど繁栄しているがわかる。
「あと少しだよ。あと少しでお婆ちゃんたちが言ってたギルドやジョブをみることができるね」
「ノア…」
ノアを見ると、目には今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっていた。こういう少し涙脆いところは昔と変わらない。
「今そんなになってどうすんだよ。着く前にゴブリンに殺られたら元も子もないだろ。そういうのは着いて安心できるまで我慢しろよな?」
「…うん!頑張る!」
そう言うと、ゴシゴシと涙を拭いた事で少し赤くなった目を細めてにっと笑った。そんな傍から見ればホッコリするような空間を作り出している時、御者から驚愕の声が飛んできた。
「なんだあの数!?あれじゃあ対処しきれねぇ!」
御者の視線を辿るとその先にはゴブリンがいた。普通であればゴブリンに遭遇したからと言って騒ぐほどではないのだが、その数がまずかった。通常1〜2匹程度のところそのゴブリンたちは15匹纏まって動いていたのだ。この数は流石に臭い袋とボウガンだけでは厳しいだろう。
「まずい…!このままじゃやられちまう!!」
どうしたらこの状況を打破できるか必死に御者が考えていると、荷台から声が掛かる。
「御者さん、ここは俺達に任せてくれないか?」
それは他ならぬフィーゼとノアである。二人は御者の返事を聞く前に荷台から飛び降りフィーゼは拳を構え、ノアは持ってきていた木剣を構えた。
「!? お前ら何してんだ!!早く戻れ!死ぬぞ!」
「大丈夫だよ御者さんっ。あたし達こう見えて鍛えてるから」
「それに婆ちゃんたちが言うギルドやらを見て村に帰るまで死ねないしな」
確かにそう言われてみれば二人共構えが様になっていると御者は思った。戦闘態勢に入った二人を見たゴブリンがニタニタとその醜悪な顔に気持ち悪い笑みを浮かべると先頭にいた一匹がノアを標的に走り出す。が、すぐさまフィーゼがノアの前に出てゴブリンの道を塞ぐ。邪魔が入ったことでゴブリンは明らかにイラつきを見せていた。
『グギヤァァァァ!』
そんな耳を塞ぎたくなるような声と共にゴブリンはフィーゼに向かって上段から棍棒を振るう。その時フィーゼは小さな疑問を浮かべた。
(?…遅すぎないか?)
ゴブリンの振るう棍棒はノアの振るう剣と比べると天と地ほどの差があった。そんな攻撃がフィーゼに当たるわけもなく半身になり最小限の動きで躱す。その際にがら空きになったゴブリンの顔面にカウンターを入れた。この時フィーゼは相手の耐久力がどの程度のものか分からないため少し強めに拳を降り抜いた。
拳はシュッという風切り音と共にゴブリンの頭部を容易く砕いた。ボゴッという鈍い音を上げ吹っ飛び仲間の元へ帰っていく。地面に叩きつけられたゴブリンの顔は陥没し、悲鳴すら上げられず息絶えていた。
「え…?」
そんな声を出したのは御者でもありフィーゼでもある。御者はただフィーゼの強さに驚愕していただけなのに対し、フィーゼは拍子抜けしたことから出た声であった。
「フィン〜随分派手にやったんじゃない?」
「いや…そんなつもりは無かったんだが…」
戸惑いつつもゴブリンの情報をノアに伝える。
「そっか、じゃあ苦労せずに倒せそうだね」
「…そうだな。とりあえずやるか」
ゴブリンとはそういうものだと割り切りフィーゼも意識を戦闘に向ける。その時ゴブリンはと言うと、仲間が簡単に死んだこと驚きを浮かべていたが次第にその表情を怒りに染め二人に襲いかかってきた。一匹では勝てないと悟ったのか今度は全体で掛かってきた。だがそこからは一方的な戦いであった。いや、戦いと言うより蹂躙であろう。向かってくるもの全てにその剣と拳を以て一撃で屠っていく。ノアは返り血が嫌なのか血が出ない程度の絶妙な力加減でゴブリンを撲殺していた。フィーゼもそうしているのだがノア程上手くは行かず拳からゴブリンの血が滴り落ちている。
一瞬のうちに10匹が屠られ流石にやばいと思ったのか残りのゴブリンは近くの森に逃げ帰っていった。
「アンタら何もんだよいったい…」
「「普通の村人(村娘)ですけど?」」
ゴブリンを一掃し終えた二人は馬車の荷台に乗り直すと御者に呆れを含んだ顔で何者かを問われ、当たり前だと言わんばかりに即答された御者は盛大に溜息を吐いた。後から聞いた話だが、ゴブリン15匹とは冒険者になりたての者が四人以上集まってやっと無傷で勝てるものであり、二人だけでましてやジョブの加護を受けていない者が太刀打ちできるレベルではないらしい。そんな話をしていると、ついに目的地である都市ブラドの前まで来た。
遠くから見ても強い存在感を放っていた白い壁は間近に迫るとただデカいだけでなく、何人たりとも寄せ付けることはないと思わせる神聖な雰囲気を醸し出していた。検問所も何事もなく通り抜け、巨大な門を潜ると賑やかな人々の笑い声や話し声が聞こえてきてとても活気に溢れる場所が広がっていた。子供たちは走り回り、多くの店の店主は明るいよく通る声で集客を行っている。大通りを歩く主婦たちは揃って世間話に花を咲かせる。ギルドがある街なので重装備の騎士や軽装備のシーフ、マントを纏ったウィザードなどもいて装備の新調やアイテムの補充等をしていた。値段交渉で声を張り上げる者もいてその怒号さえも街の喧騒の一つになっていた。
「うわぁ…これが都市…!」
「もう安全だから泣いてもいいぞ?」
「こんなの泣いてらんないよ!凄いよこんなの見たことない!」
前まであんなに泣きそうだったノアの表情は笑顔で初めて見るものに目をキラキラと輝かせていた。そんなノアにふっと笑顔を作る。周りの賑やかな街並みを楽しんで移動すること数分、ギルドの前に到着する。荷台から降りて御者に二日間滞在する旨を伝え村へ戻る際の細かな時間を決めて別れる。
「御者さんありがとうございました。帰りの時もまた宜しくお願いします」
「おうイイってことよ。それより最後に一つ聞かせちゃあくれねぇか。どうしてお前らはあそこまで強いんだ?」
「へへぇ〜それはね?あたし達が4歳の時からゼノお爺ちゃんに剣術や体術を教えてもらったからだよっ」
「ほぉ、そのゼノお爺ちゃんってのは何もんだ?」
「昔冒険者をやってたみたいですけど、実は俺たちもそんなに深くは知らないんですよ」
「…そうか、悪かったな止めちまって。じゃあ初の都市を楽しめよ」
「はい!」「はーい!」
そうして遠ざかる馬車に手を振って見送り、ギルドに向き直る。3メートルはありそうな木でできた大扉を目の前にゴクリと唾を飲む。
「よし…いくぞノア」
「何だかあたし緊張してきた…」
覚悟を決め、大扉を押すと、ギィィという音と共にゆっくり扉が開きギルド内の様子が明らかになっていった。
手を振り二人と別れた御者は一人考える。ゼノと言う名で昔冒険者をやっていた者…そこで電流が走ったように一人の第1級冒険者を思い当たる。まさか!という思いもゴブリンとの戦闘を思い出し一瞬で消え確信に変わる。後ろを振り返ると丁度二人がギルドの扉に手をかけ中に入っていくところだった。
「またすげぇ奴らが来たもんだ…!」
御者は面白くなってきたと言わんばかりの笑みを浮かべ、ギルドに入っていく二人を見送った。
ここまで読んでいただきありがとうございました
誤字脱字はもちろんアドバイスなどもして頂ければ幸いです。私は語彙力が足りないため文章を書くのに一々時間がかかりますので更新は遅めになりそうです。すいません。頑張って早く書けるようになります。はい。。
次回ですがここまで来たらわかると思いますが授かるジョブは…
もちろんチート並みでいきます(`・ω・´)キリッ
そのせいで色々問題が起きる描写を上手く描きたいです。(願望)