表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

夕闇に浮かぶ月

 夕暮れの空が、赤と紫のグラデーションに染まっている。沈み始めた陽は、何もかもをオレンジで照らして他の色をも隠す。

 

「そろそろ時間だし、見回りに行こっかな。種里ちゃんも来る~?」

「行く。行きたい!」

「よーし、しゅっぱーつ」

 

 すかさず零哉の襟を捕まえて――零哉は別に逃げようとしていたわけではないのだが――、紗奈は隠れ家の出口へ歩く。

 入ったときとはまったく違う通路を進めば、およそ半分程度の時間で外に出ることができた。

 上るときには使えないような、通路や仕掛けがあったことも関係しているのだろう。

 

 その間中歩きにくいとか、離せとか文句を言いつつ、抵抗はしない零哉が種里にはなんだかおもしろかった。

 

 どこにしろ、今日はこれ以上そこから動かないというときに、零哉たちは付近の見回りをする。

 季節軍のように人手が多ければ、交代制で見張りをたてることもできる。だが、三人のような少人数の無所属は、隠れ家と見回りで奇襲を防いでいた。

 

 夕暮れから夜明けにかけてを、姿が見えにくいから、好機だと考える者も流巡にはいるのだ。

 例えば秋色の部隊には、特に隠密行動を得意とするものがある。

 

「紗奈、そっちはどうだ」

「気配もないっぽいし、誰も見えないよ」

「種里は」

「こっち、いない。大丈夫」

 

 任された方向に目を凝らしつつ、種里も気配を探る。

 あまり広くない範囲とはいえ、信頼され任されたという事実は、種里にとってうれしいことだった。

 

 基地を見上げれば、オレンジ色に照らされた廃墟は、他と区別がつかないほど特徴がない。

 これまで夜を過ごした場所も同様だ。それなのに中は入り組んでいて迷路のよう。

 そんな建物が、流巡には数多く存在している。

 

 最初から、戦うことを想定された空間。流巡は、何のために創られた場所なのだろうか。

 

「……引っかかるなぁ」

 

 ぽつりと、誰にともなく紗奈が呟いた。じっくり辺りを観察し、どの方向からの攻撃にも対応できるよう体勢を変える。

 

「誰かいるな」

「遠く?」

 

 種里もきょろきょろまわりに視線を巡らせる。

 

 零哉が二人に索敵を任せているのは、いざという時に自分が応戦するつもりだからだ。

 三人の中では、零哉が一番不意打ち攻撃への応戦が得意なのだ。それを理解していて、紗奈と種里も零哉に背を預けているのだった。

 

「あ、珍しいなぁ。無所属さんだ」

 

 三人共に、まったく気配を感じさせずに現れたのは、柔らかいミルクティ色の髪の少年だった。

 コンクリートの路上、足音をほとんどたてずに歩み寄ってきた。

 優しげな色合いの濃いブラウンの瞳で、流巡では珍しいことに左手首どころか肘まで真っ赤なバラが巻きついている。それは夕陽に染まり、美しい花をより赤く見せて――あるいは魅せて――いるかのようだった。

 

 彼自身も無所属らしい。バラの名を持つ部隊は、どこの季節軍にも存在しないからだ。

 

 軍に入っておらず少人数で行動する、零哉たちのように領土を持っている者は、このように狙われやすい。

 

「こうなるって、わかってるんだよね? 知ってて、そうしてるんだよね?」

 

 しゅるしゅるとどこからか音がしたかと思うと、零哉たち三人は地面から現れた茨のつるに捕まっていた。

 つるは抵抗する間も与えない隙のなさと、気配のなさを合わせ持っていた。

 これが彼の能力なのだろう。

 

「こんな強力な能力……聞いたことねぇぞ」

「うん、そうでしょう。ぼくの名前は輝石きせき 夕月ゆづき、よろしく」

 

 にっこりと、この場には似合わないふんわりした笑顔で彼――夕月はそう言った。

 

「逃げようとしちゃ駄目だよ? バラだから、棘があって痛いからね」

 

 武器を出そうとした紗奈の動きに感づき、夕月は警告しつつ、さらにもう一本の茨が紗奈を拘束した。

 

「ね、なんで君たちは無所属なの?」

「それ聞いてどうすんだ」

「ううん、別に? 無所属なのに、君には仲間がいるんだね」

「……?」

 

 夕月の質問の意図はわからないものの、零哉が返答することは認めているらしい。

 隙をうかがう意味も兼ね、零哉は夕月との対話を続ける。

 

「お前だって流巡ここにいるってことは、なんで部隊なんてもんがあるのかぐらい、わかってんだろ」

 

 部隊に所属するのは、何も自分の安全のためだけではない。隊長や部隊長と同じ願いを持っていて、それと同調することもまた、部隊に所属する理由になる。

 その他には隊長や部隊長、その部隊に所属する者に情を持つことも、理由の一つだ。

 

「……だからぼくは、部隊にいられないんだ。部隊って、仲間だから」

 

 寂しげな表情が、夕闇にわずかに隠される。だが、すべてを隠すことはできない。

 

「お前、仲間が欲しいのか?」

「違う、ぼくは……。っ、うぅ」

 

 零哉に気圧されたように一歩下がった夕月が、ぐらりと体勢を崩しかける。危ういところで踏み止まり、倒れることはなかったが、三人を捕らえている茨が先程より確かにゆるんだ。

 

「紗奈、よせ」

 

 すかさずバラのつるを振りほどき、武器を構え夕月を攻撃しようとした紗奈を、零哉が制する。

 零哉の指示に従い、紗奈はぴたりと動きを止めた。

 

「大丈夫か?」

「……近づかないで!」

 

 夕月は自分を守るように、茨で零哉の行く手を阻む。

 そしてそのまま、茨を使い遠くへと逃げていった。

 

「追わなくていいの? あの子、けっこう領土持ってたよ」

「やめろよ、紗奈」

「月みたい。遠い……」

 

 ぽつりと、種里は夕月の去っていった方を見つめ呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ