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夏の暑さは秋に散る

 秋色軍の領土に数多くある木々は、今日も鮮やかな色彩で紅葉している。光季などは作り物のようで綺麗ではないと言うが、いろははこの風景を気に入っていた。

 自分たちの領土を示すそれは、流巡での実力の証拠だ。多いほど『願いの時計』で願いを叶えられるチャンスがあるということだから。

 

 秋色軍の本拠地、控えめながらも隊員たちが寝泊まりできる広さはある廃墟。共用の部屋の一つにて、いろはは外を眺めていた。

 ふと、開くドアの音に振り返る。そこにいたのは、光季と舞だった。


「珍しいな、いろはが自分からおれら戦闘に誘うなんて」

「はい。この巡は、それだけ特殊な気がして」

「特殊? んー、そーかも。まあ舞は、はーちゃんの言うことなら信じるけどー」

 

 そう言って舞は、いつも通りにいろはに抱きつく。寂しがり屋の舞は、気を許した仲間にくっつくのが癖だ。そんな舞を光季が容赦なく引きはがした。

 

「おそらくこの巡は、短期決戦かと。現に、領土の過半数が春芽か冬白のものです。次はきっと弱い所……夏陽か秋色がなくなります」

 

 窓からは秋色だけでなく、他の軍の領土が見える。最も広いのは桜が咲く春芽軍。次いで、雪が積もっている冬白の領土。残りの四割は、ほぼ均等に二つの軍と無所属、そして中立の土地だ。

 

「それで、どこに仕掛けるんだ?」

「夏陽です」

 

 すぐに答えたいろはに迷いはなかった。今領土の少ない夏陽軍ならば、勝機はある。

 無所属の領土は、ほぼ零哉たち雷鳴部隊のものだ。新たに加入した夕月が彼らの弱点であった能力面をサポートし、無所属ながら雷鳴部隊にはそう簡単に手出しできない。

 

「本気モードだね、はーちゃん。かっこいー」

「そうと決まれば、とっとと行くぞ。おれがついてくからには、勝たせてやる」

 

 一足先に部屋を出ていく光季が、振り返ってまっすぐいろはに視線を向ける。再び舞がいろはの腕に抱きつく。

 春芽や冬白には及ばないかもしれない。派手な能力ちからもなければ、優れた戦法が作れるわけでもない。しかし、この頼れる仲間たちがついているのだ。いろはは彼らを守りたい。

 

「はい、頼りにしてます。舞も……光季、も」

 

 彼の名を口にする時、ほんの少しだけ緊張する。仲間に対するもの以上の気持ちが、混ざってしまう気がして。

 足早に先を行く光季と、わずかに頬を染めたいろはを交互に見て、楽しげに舞が笑った。

 

 秋色の領土と隣接した、夏陽軍の領土。舞の能力『金木犀きんもくせい』で姿を消し、いろはたちはそこに侵入した。

 隠密行動は秋色軍の特色である。目立った強みのない秋色だが、この不意打ちの攻撃に定評がある。

 

「能力者は……夏陽 宙也だけか。おれら三人なら問題ないだろ」

 

 姿は見えなくても、声は聞こえる。背の高い向日葵畑の中に隠れ、小声の光季の偵察報告を聞く。

 

「では、行きましょう」

 

 それぞれ武器を構え、姿を消したまま宙也に迫る。偶然にも彼一人だ。花を切り落とし、すぐに退却してしまえば今回の戦闘は成功だろう。

 そのはずだった。

 

「宙也、伏せていたまえ!」

 

 突然の声に身構える間もなく、攻撃体勢だったせいで無防備ないろはたちを水流が襲う。水に弾き飛ばされたいろはが見たのは、紫陽花の咲く左手をかざした夏陽 彩歌だった。

 それで理解する。彩歌の能力『紫陽花』によって、返り討ちにされたのだと。だが先程まで、彼女はいなかった。

 

「どうして……」

「驚いたかい? 秋色の能力者諸君。きみたちの戦法など、このわたしにかかればお見通しさ」

 

 どこかの中学校のものであろうセーラー服に、サイズの大きいパーカーを重ねた彩歌が胸を張る。

 

「特別に説明してあげよう。きみたちの出現頻度や場所、その他諸々の要素も加え分析した。まあ、わたしの力を持ってすればこんなものだ」

 

 彩歌はさも簡単なことのように言うが、そんなことはない。膨大な情報、さらに的確に分析ができるだけの頭脳が必要だろう。夏陽 彩歌は優秀な参謀だ。

 

「作戦は、どこぞの計画クラッシャーに壊されないようなシンプルなものに限る。さあ、好きなだけ暴れたまえ」

 

 不敵に笑った彩歌の後ろから、さらに誰か現れる。狙われた舞は、ギリギリのところでその剣を避けた。さらに追撃していくのは、夏陽 シズ。

 単純な力比べでは、舞は圧倒的に不利だ。『金木犀』で姿を消して、弓矢で応戦する。

 

「敵はシズだけじゃないっすよ? 仲間に気を取られてていいんすかねえ!」

 

 宙也が触れた手首の向日葵が輝く。いろはに向けられた『向日葵』の光線から守るように、光季が立つ。

 

「『彼岸花』!」

 

 瞬間、鏡で反射されたかのように光線が宙也に向かう。

 これが光季の能力『彼岸花』の力だ。能力による攻撃だけに限られるが、光季は攻撃を反射することができる。

 

「まるでお姫様を守る騎士っすね、光季。このまま、俺の相手をするっすか?」

「望むところだ。いろはの邪魔になる奴は、おれが倒す。おれは、いろはのもんだからな」

 

 光季の剣と宙也のナイフがぶつかり、高い金属音が響く。今もこの場に残っているのは、いろはと彩歌だけだ。

 彩歌の担当は作戦参謀、つまり非戦闘員だ。その頭脳こそ恐ろしいが、実際の戦闘ではいろはの方が有利である。

 片手に銃を持ち、彩歌に向けた。

 

「確かにわたしは戦闘に向いていない。だが、能力があればどうだろうね」

 

 先程と同じ水流が、いろはを襲う。それを『コスモス』の瞬間移動で避け、銃を撃ち込む。彩歌はそれを水で弾きつつ、手にした銃でもいろはを狙う。

 

「わたしだって、仮にも隊長です。あなたになんて、負けません」

 

 もう一丁銃を持つ。『コスモス』による瞬間移動の回数を増やしつつ、落ちる精度を二丁分の銃でカバーする。

 ついに至近距離まで近づき、彩歌の花を撃ち落とした。

 

 大きな音が響いた。何事かと振り返ったいろはの元に、光季が吹き飛ばされてくる。

 土埃の向こうに立っているのは宙也だ。少し離れた所でも、舞がシズに負けていた。

 

「いろは、悪ぃ……」

「……いいえ。光季も舞も、頑張ってくれました」

 

 いろはは銃をそれぞれ宙也とシズに向ける。まっすぐに見据える瞳には、強い意思が宿っていた。

 

「わたしは秋色軍隊長、秋色 いろは。この名にかけて、隊員なかまたちはわたしが守る!」

「威勢がいいっすねえ。そういえば、いろはとはあんまり戦ってこなかったっすけど、俺ら二人を倒せるんすか?」

「容赦はしないぞ」

 

 その言葉には答えず、感情を揺らすこともせず『コスモス』を使う。

 消えたいろはをみつける前に、彼女は宙也の背後に立っていた。

 

「……バン」

 

 声と同時に撃たれた弾丸が、宙也の向日葵を落とした。次いで、流れるような動作でシズに弾を撃ち込む。避けられても、瞬間移動で追い詰める。

 シズの能力『グラジオラス』はその範囲内であれば、敵味方問わず攻撃する。よって、下手に使用することはできないのだ。

 

 放った弾丸の一つが、シズの花をも落とした。

 この戦闘はいろはたち秋色軍の勝利だ。能力者三人ともなれば、持っている領土も広い。夏陽軍の領土のほとんどが、秋色のものになった。

 

「負けちゃったっすね。いろは、ちょっといいっすか」

「はい、何ですか」

 

 いろはと宙也は、同じ四巡目だ。一巡目は、同じ部隊に所属していたこともあった。今の軍は敵同士だが、個人的な敵意などはない。

 

夏陽軍おれらはこの巡から降りるっす。理由はまあ……いろはも同じこと感じてるんじゃないっすか?」

「そうですね。この巡には、なんだか違和感があります。きっと、気づいてる人は少ないでしょうけど」

「俺は隊長として、仲間を守る義務があるっすから。彩歌に頼んで、調査でもしてみるっす」

「わかりました。個人的な範囲で良ければ、わたしも協力します。わたしだって、仲間を守りたいのは一緒ですから」

 

 戦うのは同じ理由だが、いろはは宙也とは違う道を選ぶ。

 それが正しくはない道だったとしても。

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