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冬の君に言葉を捧ぐ

 静かに雪の降る、冬白軍の領土。そのほぼ中心に位置する建物は、流巡では珍しい洋館だ。

 そんな洋館の中庭に、冬白の能力者たちが集まっていた。お茶会のような優雅さだが、紅茶を飲んだりお菓子を食べているわけでもなく、作戦会議をしているらしい。

 

「以上が、現在の冬白軍の状態です。何かご質問はありますか?」

 

 とは言っても、まともに取り組んでいるのは夜半だけだ。冬白軍における能力者の集まりは、作戦会議よりも報告の意味合いが強い。

 長方形のテーブルに突っ伏して眠っている雪鈴、陽が反射して美しく煌めく雪を眺めているフィエルード。順に見遣り、夜半はため息をついた。

 

「肝心のお嬢様がいらっしゃらなくては、まったく意味がありませんね。席を外して探しに行って参りま……」

「あら夜半、その必要はないですわよ」

 

 パステルカラーのワンピースを揺らしてやってきた霜月は、上品な仕草で一礼した。その動きに、可愛らしくカールしたココア色の髪が揺れる。

 

「ごめんなさい。隊員の方々のお話していましたら、遅れたようですわね」

「そうでしたか。その者たちには、後で言っておきます」

「構いませんわ。だから、皆さんを脅かすのはやめてくださいね。夜半」

「……承知しました」

 

 冬白軍は、主に霜月を慕う者が集められている。もしお目付け役である夜半がついていないとなると、話しかけてみたいという隊員が霜月を囲む。

 そのため夜半がさらに目を光らせるのだが、霜月はむしろ人と話すのが楽しくて仕方がないらしい。メイドの頭痛の種だ。

 

「どうも、霜月お嬢様。今日も美しいですね。清純な雪の輝きも、そこに貴女がいてこそ。華やかながらも可憐なのは、貴女とよく似ています」

 

 フィエルードは、敵も味方も構わず女性を口説くと有名な能力者だ。その話術だけでなく、整った容姿や洗練された所作に、他の軍にも彼のファンがいるという。

 戦闘力も申し分なく、これで見境ない口説き魔でないのなら、夜半にとっても霜月の婚約者としてふさわしいと思えるのだが。

 

「まあ。嬉しいですわ、フィエルードさま。これほど素敵な言葉でわたくしを表現してくださるのは、夜半以外にはフィエルードさまだけですのよ」

「それは、見る目と語彙力がないせいでしょう。僕の方こそ、貴女ほど才色兼備のお嬢様は初めてです」

 

 笑い合う二人はかなりのマイペースだが、彼らを止めるような者は冬白軍にはいない。

 元の世界では今も大きな経済力を誇る旧家の令嬢、冬白軍隊長でもある霜月と、それに釣り合うだけの身分と力を、同じようにどちらの世界でも持つフィエルード。

 もはや冬白軍は、流巡の中の小さな王国だ。

 

「ふわぁ……。夜半さん、これ聞いててよく眠くならないよね。おれなんか、見てるだけでも眠いよ」

「お嬢様を見飽きることなどありえません。それに雪鈴様は、いつでも眠そうですが」

「んー? そうだっけ?」

 

 言いつつまた船を漕ぐ雪鈴は、今日は珍しく冬白軍の領土にいるだけで、一度出ていけばまたしばらくは帰ってこないだろう。極度の方向音痴であるところは難点だが、彼は役に立つ。

 

「ねえ夜半、今後の方針はどうなっているのですか?」

「まだ未定です。今回の会議で決定をと考えておりますが、いかが致しましょう」

「そうですわね……。先の春芽軍との総力戦で、負けてしまったことは致命的ですわね。ならば今は、領土を取り返すことに専念しましょう」

 

 春芽軍と冬白軍、それぞれから能力者三人と一部の隊員だけが参加した戦いで、冬白は敗北した。その打撃は大きく、冬白軍の領土は減り、広さの面でも春芽軍に負けたのだった。

 

「しかしこれまでのように、こちらへ攻め込んでくる者から領土を奪うだけでは、元に戻るにもいつになるやら。そろそろ攻めに転じませんか? 霜月お嬢様」

「それでは、きっと予想されていますわよね。冬白も、黙ってはいないだろうと。けれど、これまで通りですわよ……しばらくは」

 

 霜月は、ただの世間知らずで温室育ちの令嬢とは違う。女ながらも跡取りになれるよう、様々な教養がある。そこが他の隊長と一線を画しているところだ。

 そんな隊長の含みのある言い方に、眠っていた雪鈴もいつのまにか視線を向けている。

 けして霜月に忠誠を誓っているわけではない彼だが、冬白軍の有力者なだけはある。その実力は、部外者を嫌う夜半にさえスカウトさせたくなるものだった。

 

「さて、美しさだけでなく賢さも兼ね備えた貴女には、どのような作戦が見えているのです?」

「いますわよね。多くの領土を持っていて、攻めやすい方々が。――無所属の、雷鳴部隊」

 

 美しくも冷たい声に、辺りの雰囲気までもが凍りついたかのようだった。

 

「……なるほど。月並みですが、綺麗なバラには棘があるということですね。そんな妖しいところも、貴女の素敵な魅力です」

 

 動じないのはフィエルードばかりだ。それだけ器が大きいからこそ、霜月の婚約者に選ばれたのだろう。

 

「ふふ、ありがとうございます。雷鳴部隊を攻めるタイミングはわたくしが決めますから、それまではこれまで通りにお願いしますわ」

 

 フリルたっぷりのワンピースの裾をひるがえして、霜月は颯爽と去っていった。

 

「終わったよね? じゃあ、おれもそろそろどっか行こうかな。用があったら呼んでね、夜半さん」

 

 ひらひらと手を振ってある一方向へ向かった雪鈴が、次にいつ帰ってくるか、はたまた本当に帰ってくる気があるのかは、夜半にすら読めない。

 

「フィエルード様は、いかが致しますか」

「彼女がいつも通りと言うのなら、僕もそうするまでですよ」

 

 くすり、とフィエルードは不敵に笑う。先程の霜月よりさらに、強さを隠した表情で。

 

「……やはり彼女は美しい。女性には花や宝石よりももっと、言葉が似合う。しかしそれでも、彼女を飾るには及ばないのだから」

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