花散る流巡の戦い
何事もなかったかのように歩き出す零哉と紗奈の後ろを、慌てて種里は追いかける。
他に頼れる相手がいないのだ。種里には、二人についていくという選択肢しかなかった。
「ま、待って!」
種里の声に、二人は足を止め振り返る。
「どうしたの? 種里ちゃん」
「まだ何か用か」
問いかけられ、何か言おうとするも種里の口から意味のある言葉は出なかった。ただ迷ったように、手が上がったり戻されたりしている。
「わかんない」
そうとだけ口にする。何が、とも言わない。おそらく、何もわからないが故だろう。これから自分がとるべき行動も、何もかも。
「どっかの軍にでも、所属すればいいだろ。その方が後々有利だ。願いのチャンスは減るだろうが、無難だからな」
「そうそう。人数多いとこがいいなら、春芽かなー?」
二人共、自分たちの仲間になれとは言わない。
戦力が未知数でも、流巡に迷い込んだ人間を最初にみつけた軍が、その人をそのまま所属させることが多い。しかも零哉たちは二人だけだ。戦力は多い方が戦いには有利になる。
普通はすることを、しないのには理由がある。
「レイヤとサナのところ、だめ?」
種里の言葉に、二人は意外そうな表情になった。顔を見合わせ、視線だけで声のない会話をする。
結局それだけでは終わらず、議論は続く。
「だって、戦力はあった方がいいでしょ? 種里ちゃんかわいいし」
「最後のはともかく。だからって、オレらに協力するような奴なんか限られてくるだろ」
「それこそ種里ちゃんが決めることだよ。よし、聞いてみよ」
二人の間で話はついたらしく、ぴょんと跳んで種里に近づいた紗奈が問いかける。
「種里ちゃん、私たちと来る?」
まっすぐに種里の目を見つめながら、紗奈は手を差しのべてさらに聞く。
「私たちは二人だけだから、種里ちゃんも必ず戦うことになるよ?」
「怖くない、大丈夫!」
ためらうことなく、種里は紗奈の手をとる。零哉を見てうなずいてみせる。その表情は、けして追いつめられ他に行き場のない者の顔ではなかった。明確な意志で、種里は二人についていくことを選んだのだ。
「どうする? 零哉」
「いいんじゃねえか。オレたちの仲間になって、種里が後悔しないってんならな」
零哉は意味深なことを言いつつ、はっきりとは口にしない。だからといって、種里も今さら拒否することはない。
紗奈の真似をして、種里も二人の隣に並ぶ。弾む足どり二人分と、落ち着いた足音が一人。誰もいない街に、静かに響く。
その中に、わずかにずれた足音が混じっている。隠そうという努力が見えるものの、リズミカルな種里と不規則な紗奈の音にそれは逆に目立つ。
迷路のように入り組んだ、狭い路地裏の一つに三人は入っていく。人一人ならば、余裕を持って歩ける程度の幅だ。当然、足音の主もついていく。
角を曲がった所は広場で、零哉たちの姿は何故か見えない。思わぬ広さと消えた標的に、足音の主は困惑する。
「尾行が下手だね~。うーん、仲間だったらもっと上手いやり方、教えてあげたのになっ」
死角から足音の主に短刀を向けた紗奈が、距離を詰める。きらりと刃は光を反射した。
「秋色の奴か。領土持ってんなら相手してやる」
「……望むところ!」
正面から向き合う零哉に、足音の主である少女は啖呵を切ってみせる。しかし紗奈の短刀が、零哉を襲わせることを許さない。
「それどころじゃないよね? この状況で逆転できたらすごいもん」
「あんたたちが……無所属なのに領土広いってチームなんだ」
「当ったり~。もっと褒めてくれてもいいんだよ」
得意げに笑いつつも、紗奈に油断は見えない。
「領土、もらうよ。種里ちゃん!」
「……うん」
気づかれないよう、先程した打ち合わせ通りに隠れていた種里が、紗奈の呼びかけに応じて後ろから現れる。
「おっと、動かないでね。三対一だってこと、お忘れなく」
相手が素人だと踏んだらしい少女の動きを、紗奈が封じる。普段こそおどけてはいるが、紗奈はかなりの実力者だ。少女はそれを感じたようで、抵抗をあきらめた。
「……『季節は巡る。いつでもない色に』」
領土を奪うときには、所属によって違いのあるこの決まり文句と共に花を切り落とせばいい。そうすれば領土が勝者に移り、奪われた者は一定の範囲外での行動ができない状態となる。
「相手が初心者でも、恨みっこなしだよ? わかってると思うけど」
ばいばい、といたずらっぽく手を振った紗奈が、零哉と種里の元へと駆けていった。




