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剣の葉と名の花

 零哉たちが一夜を過ごしたあの隠れ家は、どうしてもの場合――例えば、今回のようにそこが最寄りの隠れ家であるとき――のための場所だった。

 無所属が夜に一番警戒すべきは奇襲だ。各地に基地を点在させておけば、どこにいてもある程度安全に夜を越せる。

 

「まああそこはあんまり使わないから、物全然ないんだけどねー」

 

 元は紗奈が使っていた場所らしい。前回の巡も少人数の部隊に所属していた紗奈が、目をつけていたという。

 

 『願いの時計』を獲得した者が現れその願いを叶えると、争いのない空白の期間が訪れる。そういうときは、できるだけ部隊の移動などはしない。

 だが、その巡で『願いの時計』を得たのは紗奈の所属していた部隊の隊長だった。よって部隊は解散、紗奈はごく短い間だったがその基地を拠点にしていた。

 

「で、零哉。これからどーするのー?」

「んー、まだ決めてねぇな」

 

 ちらりと後ろを歩く夕月を見てから、辺りを見回して零哉は続ける。

 

「作戦会議でもできたらいいんだけどな。でも、この辺りには基地がねーからなぁ。夕月、お前は? どっかに基地あるか?」

「ううん。ぼくは持ってない」

「へえー! すごいね夕月くん。じゃあ今まではどうしてたの?」

 

 夕月のように単独行動をする無所属の者ほど、目立たず見つかりにくい隠れ家を、数多く持つのが流巡での定石だ。

 そうでなくとも、たいていの者はどこかの軍に所属することが多い。そうまでして叶えたい願い、帰りたい理由でもない限り、ただ自分の身を守りつついつか帰れる時間を待つにはそれが楽だからだ。

 そんな定石から外れた行動をとる者には、必ず叶えたい願いや流巡で勝ちたい理由がある。

 

「能力を使ってた。まわりに茨があれば、誰も近づけないから」

「ああ、なるほどー。強くて便利なんだね、夕月くんの『バラ』って」

 

 バラを横から覗き込んだ紗奈が、感心したように頷く。夕月の左手首から肘にかけて巻きつく花は、鮮やかな紅い色をしていた。

 

「それも、普通の能力じゃないのかな? 種里ちゃんの『シャムロック』と同じで」

「あたしの、特別?」

「うん、そうだね。ぼくのもたぶん、特別なんじゃないかな。他の人の能力から見たら」

 

 強い相手に差し向けるなら、強い相手。領土を数多く持っているのならなおさらだ。相手と交渉するにしても戦うにしても、より実力のある者でなくては話にならない。

 だから無所属とはいえ、零哉たちや夕月のような実力ある者に対しては、軍の能力持ちが相手になることが多い。

 

「止まれ」

 

 ふと先頭を行く零哉が立ち止まって、警戒するように辺りの様子をうかがった。ある一点に視線を留め、武器の脇差を構える。

 

 銀の光を反射する何かを持った誰かが、零哉に向かってきた。

 上から降り下ろされたのは剣で、素早く間合いを詰めた見慣れない人物が、零哉に攻撃を防がれたらしい。

 

「さすがだ」

 

 後方に下がり体勢を整えた彼が、何の感情の色も見えない声で呟く。手首にあるのはグラジオラスの花だ。

 

「夏陽 シズさん。宙也くんの夏陽軍で、グラジオラス部隊の隊長。能力を考えなかったら、たぶんあの人が流巡で今一番強い人だよ」

 

 花から出した短刀を両手に持ちつつ、紗奈は零哉とシズが戦っている場所へと一歩踏み出す。

 

「種里ちゃんと夕月くんは、後ろお願い!」

「わかった!」

「任せて。紗奈ちゃんも気をつけて!」

 

 駆け出す紗奈の背中に、種里と夕月はそれぞれ声をかける。

 

 シズが武器で攻撃してくるなら、応戦するにはこちらも武器だ。能力が主な戦闘力の夕月や、まだ戦闘に慣れていない種里では、隙ができない限り相手をできない。

 

「あたしも相手だよっ!」

「山吹 紗奈か」

 

 後ろからの紗奈の攻撃を難なく防いだシズは、返す刀で零哉にも攻撃を仕掛ける。

 だが二対一。総合的な戦闘力が上回っていて、息も合っている零哉と紗奈の方が押している。零哉たちの雷鳴部隊は能力の面でこそ他に劣るが、直接剣を交えた戦闘ではかなりの強さを誇っている。

 

「おっと。盛り上ってるじゃないっすか」

「ヒロヤ……!」

「夏陽軍の隊長……。零哉たちの邪魔はさせないよ」

 

 にっと挑発的に笑った宙也が、近くにある廃墟の屋根から飛び降りて種里と夕月の前に立つ。

 

「あっれー? 零哉の部隊、また新人さんが入ったんすね。でも、お二人さんの相手は俺じゃなく、俺の部隊っすよ!」

 

 宙也の声に応じて、隠れていた場所から手に武器を持った向日葵部隊の隊員たちが現れる。

 流巡でも素早さに重きを置いた部隊である向日葵部隊たちが、一斉に種里たちに迫ってくる。その場を隊員たちに任せ、宙也は零哉たちの交戦している場所へと向かった。

 

「種里ちゃん、ぼくから離れないで!」

「うん!」

 

 夕月の『バラ』の蔦が、向日葵部隊の面々の攻撃を防ぎ、武器を弾き飛ばす。銀の小ぶりの銃で、種里は援護にまわる。

 

「……『グラジオラス』」

 

 戦況が混乱を極める最中、さして大きくもないその声は種里の耳にやけにはっきり届いた。

 

「っ! 退けぇっ!」

 

 零哉の言ったことを理解し行動に移すには、あまりにも時間は短かった。それでも、夕月がかろうじて作り出した茨の防御壁は夕月と種里を守った。

 おそるおそる種里が顔を出すと、向日葵部隊やシズはその姿を消していた。

 

「茨、ボロボロ」

「うん、あの能力すごいよ。『グラジオラス』、聞いたことはあったけど……」

「おう、二人とも平気か?」

 

 こちらも隠れていたらしい陰から出てきた零哉がそう問いかける。退避が間に合わなかったようで、左腕あたりの服はかまいたちにでもあったかのように細かい裂け目が数多くできていた。


「シズさんの『グラジオラス』は、範囲内の相手を斬るんだよ。味方にも当たるから、リスクは高いけど強力なんだよねー」

 

 同じくひょっこり現れた紗奈も会話に加わる。ダメージを負った者はいないようだ。

 

「グラジオラスってのは、剣って言葉が由来らしいからな。葉が剣みたいなんだと。んで、被害は?」

「とりあえず、私はなし。種里ちゃんと夕月くんは?」

「ぼくも大丈夫。種里ちゃんは……」

 

 ふと夕月の視線を追うと、種里の左手首にあるクローバーの葉が欠けているものがあった。

 

「……ごめん」

「俺もだ。掠った」

 

 動ける程度ではあるが、花に攻撃を受けたからには領土は奪われる。

 今回は、零哉たちの負けだった。

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