表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

夜明けの三日月

「なあ。お前さ、オレらの仲間になんねえ?」

 

 何の前置きもなく出てきた零哉のその台詞に、夕月はもちろん種里もおどろく。紗奈だけはそんなことだと思った、と苦笑いをした。

 

「仲間?」

「ああ。オレがかなり領土持ってるのは知ってんだろ? だったら、オレらと組めば有利になる」

 

 無所属で人数も少ない部隊とはいえ、零哉たちの雷鳴部隊は領土が多いことで比較的有名だ。それは夕月も知っているだろう。

 同時に、珍しい能力を持っているということも名を知られる理由になる。そんな人物が一人で行動していたとしたら、倒して領土を奪おうとするより、仲間にしようと交渉することもある。その方が利になるからだ。

 単純に言えば、利害の一致による関係となるということだ。

 

「雷鳴部隊は、能力の面で見たら強さに欠ける。でもお前の能力はすげえよ」

「……知ってる」

「『願いの時計』で叶えられる願いは一回につき三つ。オレらの願いは二つだ。まだ空きがある」

 

 部隊に所属することの理由の一つに、同じ願いを持っているということがある。それは、一度に叶えられる願いの数に制限があるからだ。

 零哉に従って行動を共にしている紗奈も種里も、自分が叶えたい願いはない。だから回数に余裕がある。

 

「お前が一人でいるのは何でだ?」

「ぼくは……」

 

 ミルクティ色の髪を揺らして、夕月は下を向く。膝の上に置かれた両手にきゅっと力が込められた。

 

「ぼくは……。……あ、れ?」

 

 ぐらりとその身体がかしいで、ぼすんとベッドに落ちる。

 

「無理すんなよ。信用してくれっつっても難しいだろうけど、今日はここに泊まってけよ」

「どうして……?」

「お前の目に、覚悟が見えたからじゃねえの? どんな手段を使ってでも、願い、叶えたいんだろ?」

 

 零哉の目もまた強い光を宿してどこか遠くを見つめ、そんな零哉から紗奈は顔を背けた。零哉が強くなりたがっている理由の片鱗を話した、あの時とよく似た表情で。

 種里には踏み込めない領域。零哉と紗奈だけの場所だ。

 

 いつの間にか外は陽が暮れかけていて、オレンジ色の眩しい光が、流巡の廃墟たちを照らしていた。

 そんな光が当たる窓際、ベッドの近くで種里は膝を抱えて床に座っている。外は静かで何の音も聞こえない。辺りに潜んでいる敵もいなさそうだ。

 

「なあ種里。お前、なんで夕月がいるってわかったんだ?」

 

 離れた壁際に寄りかかった零哉が聞いてくる。

 

「あ、私も知りたい。種里ちゃん、全然迷ってなかったよね?」

 

 かと言って、そこに誰かがいることは知っていても、それが夕月であるということまでは知らない様子だった。

 人の気配を辿ったとは考えられない。種里よりも、零哉や紗奈の方が気配には聡い。二人が気づかないのに、種里にわかったはずがないのだ。

 

「声が、聴こえたの」

 

 そろって疑問符を浮かべた二人に、種里は続ける。

 

「誰の……なのかな? よくわかんないけど、普通の声じゃない声が聴こえた」

 

 陽が沈む直前の煌めくオレンジの光に、種里の緑の目が透き通るほどに輝いた。宝石にも似ていて、見る者にどこか作り物のような印象を与える色だった。

 

「あれは、きっと…………だから」

「種里ちゃん?」

 

 夢見心地のまま小さく呟いた種里は、紗奈の呼びかけに答えることはなかった。こてんと自分の腕に突っ伏して眠ったらしい。

 

「零哉」

「いい。種里はもう仲間だ」

「零哉って、意外とお人好しだよね。私はそれに助けられたり、困ったりしてるんだ」

「苦労かけて悪いな。でも、お前がついてきてくれてるから、オレはここまで来れた」

 

 紗奈から目を逸らした零哉の頬が赤くなっていたのは、きっと夕陽のせいだけではない。慣れないことを言って、照れているのだろう。

 昔からそうだった。零哉は一度信じたら貫き通すし、友達想いで相手の欲しい言葉をくれる。それを知っている人は多くない。けれど紗奈はその数少ない内の一人だ。

 だから、この巡は零哉についていくと決めたのだ。例えその先に、何も待っていなくとも。

 

「おやすみ、零哉」

 

 踏み出した先が、目を閉じた時のような暗闇に包まれているとしても。

 

 

           *

 

 

 まわりが高い建物に囲まれているせいで、朝陽は零哉たちの隠れ家であるここには届かない。だがまわりが明るくなっていることで、朝だとわかる。

 

「おう、起きたか種里。オレは見回り行ってくっから、留守番頼んだぜ」

「はあい」

 

 半ば寝ぼけた声で、種里は答える。

 姿が見えないので、紗奈も敵がいないか見回りに行っているのだろう。夕月はまだベッドの上だ。この隠れ家にはベッドは一つしかない。まだ仲間ではない相手に対して、零哉は優しい。

 

「ここ、は……?」

「あ、ユヅキ。おはよう」

 

 零哉が出ていって、しばらく経った頃。

 ぼんやりした目で夕月がきょろきょろ辺りを見回した。種里の方を向いて、こてんと首を傾げる。次いで、自分の左手にあるバラが無事だと確認し、さらに不思議そうな顔になる。

 

「なんで? 隙なんか、いくらでもあったはずなのに……」

「ユヅキと仲間になりたいから。レイヤも同じ。話、レイヤたち帰ってきたらしてくれる?」

「…………。うん、いいよ」

「ありがとう、ユヅキ」

 

 ふわりと、花が咲くような表情で種里が笑う。つられたように、夕月の顔も先程までより少し柔らかいものになる。

 

 それから数分が過ぎ、零哉と紗奈が見回りを終え帰ってきた。近くに敵がいたらしく、二人は領土をれたと言っていた。

 

「で、だ。はっきり言うぞ。夕月、オレらと仲間になる気はあるか? 無理にとは言わねぇけどよ」

「……条件が、一つある。君が昨日言ってくれたことと、もう一つ分。いい、かな?」

「その答えは、聞いてからだな」

 

 言おうとして口を開くも、夕月の声は音になる前に消えた。

 

「役に立つ、から……捨てないで……」

 

 何度か目、ようやく小さな声でそうとだけ言った。うつむいた顔が、耳まで真っ赤になっている。

 

「んなことするはずねえだろ。じゃあ、ほら」

「え……。うん」

 

 伸ばされた零哉の手に戸惑って、ぱちぱちとまばたきをする様子はどこか幼い印象だ。そのまま、おそるおそるその手をとる。

 握った手を零哉が引くと、夕月の方からも力を込め返す。座っていた椅子から立ち上がり、零哉の足下に跪く。

 

「ぼくは君に、鳴神 零哉に従います。交わした約束のため、戦います」

「そ、そこまですることねぇって! 仲間なんだから、対等だろ。な?」

「わかったよ。でも、この後君がぼくとの約束を守ってくれたら、ぼくは君のために戦うからね?」

「オレはな、約束だけは破らねえって決めてんだ。安心してくれ」

「うん、よろしく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ