[美少年と国王のとある一コマ]
◎
「一体どういうことですか!!」
少し低めの少年の声が部屋いっぱいに響き渡り、大きな腰かけに座っていた中年男性は両手で軽く耳を塞いだ。
鬼のような顔で睨みつける少年の様子に、これは本気で怒っているなと心の中で悟る。
「どういうことも何も、さっき言った通りじゃないか。」
やれやれと両手を振る男の頭には、黄金に輝く王冠がこれ見よがしに座っている。国王は「はぁ、」と溜息をつくと、目の前にあった紅茶に手を伸ばした。
少年の怒りを解こうという気は全くない。
「オーロラ姫よ、婚約がそんなに嫌なら其方が魔精石に魔力供給すれば良い。」
「…っ!」
「私は其方の事を大切に思っておる。しかしだ。次世代のオーロラ姫まで魔力供給力が皆無とあらば、またココル=アニアスの様な者を連行する必要がある。それは少々――…面倒だ。」
紅茶を啜りながら、国王はオーロラ姫、いや、フラウジア=レーベルに目を向けた。
「まぁ良いではないか。運良くココル=アニアスは美しい女性だ。お前は自身より美しい女性でなければ夫婦となるのは嫌だと言っていたが、その言い訳はもう役に立つまい。」
静かに話す国王の言葉に、フラウジアは唇を噛み締めた。
しかしそれを見て見ぬふりか、国王はなおも話を続ける。
「薄紫色の髪と瞳は非常に珍しく、神秘的で美しい。五千年前、古代ウォンド帝国の時代に繁栄したウォンディアという種族が同じ色素を持っていたが、過去の大戦ですでに滅亡し、葬られた宝石だと言われてきた。それを今もなお受け継ぐ者が存在したとはな…。石に選定されたのも納得がいく。」
「それに……、」と言葉を続けた国王の瞳には何処か意地悪そうな色を含み、フラウジアを見つめながらニヤリと笑った。
「薄紫色が際立つほどの白い肌、血色の良い頬と唇、しかも大きな瞳と小柄な身体…。――…何とも庇護欲をそそるではないか。」
そうだろう?とフラウジアに同意を求めた国王の顔には、もはや一国の王としての威厳は無く、唯の下種なエロ親父と化している。
フラウジアはそんな国王に冷たい視線をお見舞いした。
「気持ち悪いですわ。クソ国王様?」
「嫉妬だなんて可愛いではないか。」
「はぁ?死にさらせカス国王。」
「ハッハッハ。私は素の其方も好きであるぞ!」
全く訳の分からないことを言い出した国王に、フラウジアはチッと舌打ちをし、話を戻そうと一歩国王に近付いた。
――こんな男とくだらない会話をしていても、一生埒が明かない。
「確かに魔精石へ魔力供給が出来ないことは私の非であると認めます。しかし私はまだ十六で、彼女も十五だ!婚約者だと一言で決められて、はいそうですか。と納得できる訳がない!」
国王に噛み付くように顔を前に出し、矢継ぎ早に言ったフラウジアは、真剣な眼差しをしている。
一瞬場が静まり返った。
しかしすぐに国王が口を開き、おどけたように話しかける。フラウジアの真剣な言葉を聞き、しかし正面から受け止めようとしないのが、コルバド国の現王セーレマニット=コルバドなのであった。
「もしかして…――怖いのか?」
「は…?」
「なぁに、怖がることはない。それとも練習が必要であるならば女を連れて来よう。お前に抱かれたいという奴は山ほど居るからな。」
「な…!?」
クックッと喉を鳴らして笑う国王はとても楽しそうで、紅茶を持っていない方の手でフラウジアの右手を不意に掴んだ。
「何なら、――…私が相手してやろうか。」