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これが噂のシンデレニャンストーリー?  作者: ねこ丸船
始まりの夜
4/11

初めての夜、すなわち…?

 ◎


 とは言え、もう疲れているだろうということで、私はすぐに大きな部屋へ連れていかれた。

 水色を基調とした可愛らしい部屋で、壁には小さな水色の花が何個も描かれている。ふかふかのベッドに、ふかふかのソファ、白いレースのカーテンからは、街の明りが柔らかい色を放って夜の闇を明るく染めていた。


 これからここが私の部屋になるらしい。隙間風の入らない部屋で眠ることが出来るなんて考えてもみなかった…。

 騎士になる気も、魔力供給やる気も、ましてやオーロラ姫の婚約者になる気もないけど、少しだけこの時間を堪能しても良いよね?

 

 私は頬が勝手に緩むのを感じながら、ゆっくりとベッドへ近付いた。

 

 手で軽く触れてみる。

 はずみの良い弾力が、私の手をふわりと押し返した。



「うわぁ…!」



 今までに触ったことのない感覚!

 こ、これは、



「飛び込むしかない…!」



 キリュウ大将が側にいないのを良いことに(大事な会議があるとかですぐにいなくなった)、私は決死の覚悟を決めた。

 フワフワの布団にダイブするっていう夢が叶うなんて…!!


 3、2、1、



「えいっ!」



  モフッ

 


「わわっ!すごい!」



 全然痛くない!これが本物のベッドなのね!

 柔らかくて気持ちが良い…。


 吸い付くような感覚に、私の体はもう起き上がることができなくなった…。

 ウトウトとまぶたが閉じてきて、心地の良い眠りが私を誘う――。


 ――…よく考えてみれば、今日はすっごく疲れたわ。

 なんせ四日間ずっと旅をしてきて、やっと城に着いたのは今日の夕方…。それからお風呂に入り、服を着替え、髪を整え…と三時間くらい準備して…。

 ついに謁見かと思えば、騎士とか魔精石とか――婚約者だとか…、かなり精神的にきつかった。

 

 

「ほんと…疲…れた―…わ――…。」

 





―――――――――――――――…

――――――――――…

―――――…


 

「すぅーすぅー、」



 大きな高級ベッドの上で、少女が一人、掛け布団もかけずに寝息を立てている。

 美しいラベンダー色のロングヘアが一束、布団の下へするりと落ちていった。

 

 閉じられた瞼の先には長い睫毛、そして、アメジストの色を持つ瞳に、透き通るような白い肌と桃色の頬、赤く色づいた唇。それはもう美少女と言うべき美しい少女は、自分が思っている以上に非平凡的存在だった。


 ただし彼女はそんなこと、これっぽっちも思っていない。


 それは今まで送ってきたド貧乏生活のせい、いや、おかげというべきかもしれない。

 すぐに借金をつくってくる父のせいで、彼女は学校にも行かず一生懸命働き、いつも髪はボサボサで着る物はボロボロだった。そのためか、近所の誰もが彼女を遠巻きにし、薄汚い格好のせいもあって、その美しさは秘められたままだったのだ。

 

 それが今、美しい姿に生まれ変わっている。

 国王への謁見ということもあって、これでもかと身だしなみを整えられたためである。

 

 しかし彼女はそんなこと、ちっともお構いなしなのである。


 美に無頓着な少女ココル=アニアスは、メイクも落とさずドレスのまま、一人幸せそうな顔で深い眠りについたのだった。


 

「ん、」



 ごろりと寝返りを打ち、うつ伏せだった体が扉の方を向いた。

 規則正しい吐息が漏れる。

 そんな時、


  コンコン


 ドアを叩く音が聞こえた。

 しかし、部屋の主であるココルは、「ごはんもっと~…むにゃむにゃ」と幸せそうな夢を見たまま、覚めそうにない。

 再びドアの叩く音がした。


  コンコン――――…カチッ


 扉の開いた音がした。外の光が一瞬だけ部屋を照らし、すぐに暗闇に戻る。

 何者かが部屋の中へ入り、ベッドへと静かに近付いていった。

 ポツリと呟く。


 

「寝てる…か。」



 ココルの枕元まで歩いてきたのは金髪の長い髪を無造作に腰まで垂らした少年、フラウジア=レーベルだった。

 普段はオーロラ姫として職務をこなし、見た目も女性らしく化粧やフワフワした可愛らしい服を着ているが、今は全身を白色のネグリジェで包み込み、もちろんズボンを履いている。

 化粧っ気のない切れ長の瞳をココルに向け、フラウジアは「はぁ。」とため息をついた。



「――…あのイカれた国王のせいで、僕がどんな気持ちでここに来たかも知らないだろう。」



 眉を顰めながら小さな声で呟いたフラウジアは、そのままココルの髪へ手を伸ばす。



「これがあの…。」



 ベッドから落ちていた一束の髪をすくい上げ、美しい色を放つ髪の毛を目に焼き付けた。すぐに髪をベッドの上へ落とすと、フラウジアはココルの枕元で膝立ちになり、こちらを向いている少女の頬に手を伸ばした。



「君には申し訳ないけど…。」



 そのままココルの口元へ顔を近づけると、その柔らかな赤い唇にそっと花を落としたのだった。

 

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