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これが噂のシンデレニャンストーリー?  作者: ねこ丸船
二日目の朝は監禁から
10/11

逃げるが負け

 ◎


「お願いですからお休み下さい…!」


 馬に跨ったまま、馬車の窓を強引に開いたのは、銀色の鎧を纏ったキリュウ大将。そんな大将に、フラウジアは柔らかな微笑みを向けた。


「まだ二時間しか経っていませんよ。キリュウ大将。」

(だからそのむさ苦しい顔を早く退けろ)


 と、心の中で思っていることは一切表に出さず、ただただ美しい微笑をキリュウ大将に向けていた。それがこの男には一番有効なのである。


「な、なんと…お美しい…!じゃなかった。しかしお休みされなければ、姫様が倒れてしまいますぞ!」

「まだ短時間ですもの、大丈夫ですわ。それにカシオもいますし。」

「そうですよキリュウ大将!俺の治癒魔法舐めんな☆(ウィンク)」


 そう言ったのは、真っ白な服を纏い、肩までの金髪をオールバックにした派手な男。はっきりとした男前な顔立ちで、少し垂れた瞳に愛嬌がある。がしかし、そこはかとなく馬鹿そうな雰囲気を醸し出していた。


「それが上司に向かってする態度かーー!!!大体お前は好かんのだ!!治癒魔法がちょっと使えるからと、S級魔道士になりよって!!まさかとは思うが、姫様にまでそんな態度では無かろうな。」

「まぁ、俺とオーロランは心と心が通じ合った友だからね!そりゃあいつもこんな感じ―…」

「ならば切る。お前を地獄の果てに送ってやるぞ!!!」

「う、うわ!俺あんまり攻撃魔法使えねぇのに、キリュウ大将ひどすぎっ!」

「死ねぇーー!!!」

「この人本気で切りにきてんだけどっ!ちょっとモルルン助け―…うわっ!」


「自業自得。それにモルルンって呼ばないで。気持ち悪い。死ね。」


 カシオに冷ややかな視線を送った少年は、黒いローブの横から長い木の杖を取り出し、カシオに向けた。


「えっ!嘘でしょっ!今の状況見えてる?キリュウ大将から絶賛攻撃受け中なんだけど!っていうか攻撃特化魔道士が、俺みたいなか弱い治癒魔道士に攻撃するなんて犯罪だよね!法を犯してるよね!」

「大丈夫。君の生きてきた痕跡を消すから。この世にカシオ=ニペアがいたという事実自体を抹消してあげるから。」

「ちょちょちょっ待って!一回話し合おう!モルルンは俺の親友でしょ?友達はあだ名で呼び合う、これ常識!俺のこともカシオーレで良いから!これでプラマイゼロだぜ☆」

「……良い死の旅路を。」


  ズドオオォォォォーーーン


 今まで歩いてきた山道がモール=ドールによって放たれた雷砲で破壊され、鬱蒼うっそうと茂っていたはずの木々が一瞬にして真っ黒になった。焦げ臭い煙が辺り一面に漂う。

 しかし攻撃の的になっていたカシオは、元いた場所から十メートルほど右へ移動しており、何とか無事だったらしい。キラキラと光る金髪を撫でながら再びモールの側へ馬を進めた。


「モルルン危ないじゃん!死ぬとこだったじゃんっ!」

「あれ?おかしいな。生きてたの?」

「おいっ!愛の裏返しだろうけどこれはやりすぎだろ!」


 そこへキリュウ大将が参戦する。


「モール、これはやり過ぎだろう。」

「っち。なぁーに、おじさん?」

「…………どうやらおぬしも指導せねばならぬようだな。」

「正直言ってヨボヨボのおじいさんに負ける気がしないんだけどぉ?」

「なっなんじゃとぉぉぉおおお!!!!」

「おお!!もしかしてモルルンってば俺のためにキリュウ大将を挑発してる!?くそっ!惚れそうだぜ☆」

「そこの馬鹿は黙ってて。いや、むしろ僕が黙らせてあげる。」

「よそ見とはいい度胸をしておるなーーー!!!」


 と、外で騒がしく行われている喧嘩に、フラウジアは「はぁ。」と額に手を当て、溜息をついた。まだ目的地まで数日かかる。それなのにすでにこの体たらく。後ろの若い甲冑騎士達も困惑しているようだ。


 フラウジアは仕方なく御者ぎょしゃに馬を止めるよう指示を出した。そして馬車の扉を開け、三人に向かって凛とした大きな声を出した。


「お静かに!これは遠足では無いのですよ!分かっていますか!」


 先程まで騒がしかった場が一転、フラウジアの鶴の一声で静寂が訪れた。


「キリュウ大将!あなたはこの中で一番の年長者。あなたがこの隊を纏めなくてどうするのですか!」

「も、申し訳ございません…!」


「カシオ!あなたは少しお黙りなさい!今回の仕事では一切モールのことを“モルルン”と呼ばないこと!」

「え!?まじ!?…まぁオーロランの頼みなら仕方ないぜ…。」


「そしてモール!森を傷つけるなんて言語道断!今日からコルバドチーズはお預けです!カシオ、代わりにこの森を出来る限り回復させておいてください。」

「え!?ご、ごめん!だからチーズだけは…。」


 しゅんと小さくなったキリュウ大将とモールの後ろで、カシオは魔法陣を地面に描き、木々や草に治癒魔法かけてゆく。

 白い光の粒が森を舞い、十秒ほどで元ある姿に戻った。


「ありがとうカシオ。」

「お安い御用☆それより…」


 魔法陣を足で消し、フラウジアの近くに来たカシオは、スッと彼の胸元にある石を指差した。


「通信石が光ってるぜ!」


 その指摘にフラウジアも今気付いたらしい。下を向いたフラウジアは「あっ」と小さく声を上げ、通信石を手に取った。


 すると同時に石からまばゆい光が溢れ出し、人型の姿が宙に浮かび上がる。はじめはゆらゆらと映像が揺れていたが、だんだん鮮明になり、ついにはアルトレイトの姿をくっきりと映し出した。


「皆さんお疲れ様です。」


 その言葉に反応するように、フラウジア以外の者達は一斉に片膝を地面に付けた。


「おっと、顔を上げて下さい。色々分かったことがあったので報告しようと思ったのですが、その状態では聞きにくいでしょう?」

「はっ!ありがたきお言葉!」


 キリュウ大将の言葉を合図に、キリュウ大将、カシオ、モールの三人は顔を上げた。一方、後方に控える甲冑騎士達は、項垂れたままである。その様子に、アルトレイトは苦笑いを少し零したが、再び柔らかな笑みに戻った。


 そのやり取りが終わった瞬間、待ちきれないように、


「犯人がわかったのですか!?」


 フラウジアは噛り付くように問いただした。その顔には焦りの色が見える。

 そんなフラウジアを落ち着かせるため、アルトレイトはわざとゆっくり答えた。


「――…それも含め、皆さんにお伝えしなければいけないことが三つあるのです。」


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