Ⅰ
あの日、あの場所で、あなたがわたしにしたあの顔を、わたしはいつまでも忘れないだろう。
その表情に名前をつけるなら、『絶望』
あなたをその表情にしたのは、間違いなく、わたしだった。
「ふー。洗濯おわったー。ねぇー洗濯おわったよー!もうお買いもの行けるよって…、寝てるし」
ある晴れた日の午後。春の気候は、なぜこうにも人の心を穏やかにするのか。そんな疑問を抱かざるを得ないほど穏やかなわたしの心と、わたしの家。
洗濯ものを干し終わり、約束していたお買い物へ行こうと部屋の中へ入ると、そこには気持ちよさそうにソファーですやすや眠るわたしの愛しい家族の姿があった。
「ふふ。可愛い寝顔」
今日は家族みんなで寝坊してしまって、洗濯ものを干すのが遅くなり、午前中から予定していた買い物も午後からということになったのだけれど、わたしの家族はまだまだ寝たりなかったらしい。
「起こすのも可哀想だよね」
今日は買い物は中止かな。
そんなことを思いながら、わたしも空いていたソファーの隙間に座る。
家族が起きるまで待ってようとテーブルの上にあった小説を手に取る。
…幸せだ。
ふと、思った。
そして、こうも思った。
この幸せは、あの人とでは、つかめなかったと。