失ったもの。Ⅱ
嶺緒は真っ暗な世界で目を覚ました。
「まだこんな時間か…。」
いまは夜中の2時、変な夢を見て起きてしまった。それは、不思議な夢。真っ暗で音もない。自分が誰かも分からなかった。でもなにか、どう表現すれば伝わるだろう…言葉が、滲んできた。
‘‘ずっとお前が好きだよ。’’
そんな言葉が…滲んできたのだ。音はない。なにも見えないから、誰かもわからない。だけどそれは嶺緒にとってなぜか懐かしい、優しい‘‘声’’だった。そう感じるとともに、なぜかすごく切なくて。気が付けば涙が溢れていた。
「あれ…っ?なんで…」
涙が止まらなかった。わけもわからないまま、しばらく泣きじゃくった。落ち着いたあと、静かに目を閉じて眠った。そして朝になり、学校へ行く時間がきた。家を出ると加穂留が待っていた。
「おはよ、嶺緒!」
加穂留は嶺緒の1番の友達だった。中学も一緒で、高校も同じところに行くことができた。今日は高校にあがって初の登校日。どんな人がいるかなー、とかそんな話をしながら学校へ行った。クラスは別れていた。
初日なのでクラスではまだみんなほとんどがひとりで嶺緒もそうだった。暇だったので加穂留を誘って校内探検でもしようと教室を出たとき、誰かにぶつかってしまった。
「わ…っ」
「おっ…と、ごめん、大丈夫?」
ぶつかった人は男子だったようでこけかけた嶺緒を受け止めてくれた。
「あ、ごめんね。ありがと…」
そういって見上げた途端。
「涼…?」
自分が口にした言葉に驚いた。涼とは誰だろう。
この人とは会ったことがない…はずなのに。なぜか、すごく会いたかったような気がする。ずっと恋い焦がれていた…そんな気がする。
「…っ!人違いだと、思うけど…、オレは雅だよ」
嶺緒はその‘‘声’’を聞いたことがあった。それはあの夢の‘‘声’’。優しい、懐かしい‘‘声’’。そう認識した瞬間嶺緒の頬に一筋の涙が伝った。それをみてびっくりしていた雅が嶺緒の手を引いた。
「…ちょっと、こっちに来て」
そうして雅に連れられてふたりきりになった。雅は前から涼としての記憶を持っていた。なぜだかはわからない。ただ、いま嶺緒をみた瞬間記憶の中にある少女、凛だと思った。直感もあるが、そっくりだった。それに自分を涼と呼ぶ人間なんて凛しかいない。そう思った。
「凛、ずっと会いたかった…!」
そう言って嶺緒を抱き締めた。嶺緒はすべてを悟った。身体の中に誰かの記憶が流れ込んできたから。病気で目が見えなくなったこと。その後耳も聞こえなくなったこと。好きな人がいたこと。その人の名前が涼だったこと。いつも涼がそばにいてくれたこと。死ぬ直前、涼に‘‘ずっとお前が好きだよ。’’と言われたこと。全てが嶺緒の中で輝いていた。あの夢のことも理解し、それを受け入れた。嶺緒も雅を抱き締めた。幸せだった、あの頃にもう一度戻った気がした。そしてあのときのままの笑顔で嶺緒は言った。
「涼…また、会えたね」
またも終わりかた半端でした。
ですが、もう続きはないのでご安心を。
感想とかばんばんお願いします。