普通ではない者たちの戦闘
とても長くなってしまいました。
中央通りに入ってから少し経った頃に学園長からの通信が入った。俺はみんなに止まれという合図を送り、通信に出た。
『もしも~し、聞こえてる~』
「聞こえてるぞ」
『それは良かった。実はね、装備を転送していなかったから今から送ろうと思って』
「なら早く送ってくれ。もう戦場の中にいるから」
『そうだったか、じゃあ送るね~』
マイペースというかなんというか。少しため息を吐きながら転送魔法で送られてきた装備を確認した。
「わ、私の分まであります」
『おっと、姫倉ちゃんは初めてだから説明しておくね』
『まず、今回の目的は争いの沈静化だ。これは説明したね。能力の使い方は拓真君に説明を頼んだけれど、拓真君のことだから説明のタイミングを逃しただろうね。』
「聞こえてるぞ」
見透かしたように言いやがって。
『これは失礼。実は能力の使い方については少し説明させてもらったよ』
「こうなることを見越してだろう」
「学園長様の能力は予知能力でしたね」
『あくまで断片的なものだよ。と、話しが逸れてしまったね。えっと、どこまで話したかな。ああ、そうそう思い出した。次は装備の使い方についてだ。その装備には物理耐性、魔法耐性、身体能力の向上の魔法がかかっている。といっても、あくまでそれは軽減できる程度。基本的にはかわすか、自分の能力で防いでほしい。その装備の装着の仕方は『レイド』と言うだけだよ。装備にも色々あるけど今回はそれで勘弁してね。じゃあ、さっそくやってみよう』
「れ、『レイド』」
姫倉は指示される通りに装着呪文を言った。
「じゃあ、姫倉が指導を受けている間に俺たちも用意しておくか」
「そうね」
「そうですね」
「『バースト』」
「『フェアリー』」
「『ファントム』」
装着呪文の後、俺たちの体には装備が装着されていた。俺の装備は物理攻撃の威力上昇、魔法耐性、能力抑制の魔法がかかっている。月姫は、装備品に日本刀が付属されている。効果は、全速度UP、飛行能力、魔法耐性。黒宮は、装備品にブレスレットが付属されている。効果は認識阻害、魔力開放、魔法耐性。ちなみに、俺には付属品はない。必要としないからだ。
『全員、準備が整ったようだね』
「ああ」
「ええ」
「はい」
「は、はい」
『こっちからもバックアップはするから。あと姫倉ちゃん、戦闘中の約束を忘れないでね』
「はい」
戦闘中の約束ってなんだ?
『それじゃあ、今の状況を説明しておくね』
『今、君たちのいる場所よりもうちょっと先でグループ同士の争いが起こっている。グループ名は、シェルとサード。シェルのリーダーは八畑 鎌勝、能力は完璧掌理。サードのリーダーは白石修哉、能力は神白光臨。どちらを気をつければいいかといえば』
「間違いなく『神白光臨』だろうな」
『分かっているのなら大丈夫だね。くれぐれも無茶はしないでおくれよ』
「はいはい」
『それじゃあ、またあとで』
学園長からの通信が終わって、俺たちは再び歩き出した。
歩きだしてから5分ぐらい経った頃、グループの下っ端と思われる奴らに遭遇した。俺たちはすぐに物陰に隠れた。生憎と争っているのでこちらには気づいてはいない。黒宮に奇襲を頼んだ。こうゆうときに黒宮の能力は便利だと思う。黒宮は自身の能力である『絶対影装』を発動し、下っ端を全て飲み込んだ。
『絶対影装・夢幻』
瘴気で作られた結界の中で永遠と夢を見続ける。黒宮が死ぬか、黒宮が解かない限り解かれることが無いと言われている。俺も一度受けたことがあるが、もう二度と受けたくは無いと思うほどだった。
下っ端は何が起きたか分からないだろう。自分が眠りについたことすら知らず、夢の中で戦っているのだろうな。結界内は外から見える。奇襲を受けた下っ端は全員が眠っていて、うなされている。
物陰から出て、さらに奥へと進んだ。途中、何度か下っ端に出くわしたが最初と同じようにして奥へと進んだ。
中央通り最深部、ここでようやくリーダー達を発見した。八畑の武器は鎌、白石の武器は能力で作ったであろう剣だった。
お互い油断も隙もない攻防を繰り返していた。八畑が横に一振りすると、白石はそれを紙一重でかわす。かわしたと同時に切り上げを行っていたが、八畑はそれを鎌の重さを利用して後ろにかわす。リーダーだけあってなかなか一筋縄ではいかないようだった。
だが、俺たちに決着を待つ必要は無い。これまでどおりに終わりにしようと黒宮に言おうとした瞬間、今まで戦っていたはずの二人がこちらに向かって魔法を繰り出してきた。
魔法を使えるなんて聞いてないぞ。くそっ。
俺たちは、物陰から飛び出して回避した。その時に黒宮と月姫、俺と姫倉に分断されてしまった。
「大丈夫か、姫倉」
「はい。なんとか」
姫倉の無事を確認してホッとしたのも束の間、すぐに次の魔法が飛んできた。俺はそれを蹴り飛ばした。
「へえ、魔法を蹴り飛ばせるのか。僕の遊び相手としてはちょうどいい」
「お前は、白石修哉」
よりによってこいつかよ。
白石はおもしろい物を見つけたような顔をしていた。
「名前を知っているのか、それなら話しは早い」
白石は持っていた剣を消して背中から白い羽を出現させ、空に浮かび上がった。
「退屈させるなよ」
手から出現させたのは弓だった。
『神弓』
『降り続ける雨』
それは、雨のように降り続ける矢の攻撃だった。
俺は、姫倉を抱えて降って来る矢を避けていた。しかし、能力を抑制されている状態で避け続けるのにも限界があった。
とうとう、矢の一本が足の太ももに刺さった。俺はその場に膝をついた。姫倉が心配そうに俺に声をかけ続けてくれている。刺さった矢を引っこ抜いて、すぐに止血をした。
この程度の傷ならすぐ治るはずなのになかなか治らない。
「なんだ、あっけないな。そこの少女も戦えないみたいだし、終わりにしよう」
もうすぐ2発目が来る。今の俺に出来ることは姫倉を逃がしてやることだけ。
「姫倉、もうすぐ2発目が来る。その前に逃げろ。このままだとやられるぞ」
「でも、霧崎さんが・・」
「俺のことはどうでもいい。早く逃げろ。そして、月姫たちにこのことを伝えろ。これは、命令だ」
「だからって、霧崎さんを・・・」
「いい加減にしろ!!ここは戦場なんだ。お前には能力を使いこなしてもらおうとしたが、事情が変わったんだ。分かったら、さっさと逃げろ!!」
ここまで言ったんだ。おとなしく逃げてくれるだろう。そう思った俺は次にくる言葉は予想していなかった。
「ごめんなさい。霧崎さんの命令には従えません」
はっ?
「それと、霧崎さんと学園長さんには謝らなければならないことがあります」
「それは、私が最初から能力を使えたことです」
姫倉が俺の顔を見る。姫倉の瞳の色が緋色へと変わっていくのが分かる。
「今度は、私が霧崎さんを守ります」
立ち上がった姫倉は、白石から俺を守るように立ちふさがった。
『降り続ける雨』
白石の放った矢が雨のように降って来る。
「黄泉さん、お願いしますね。『人格転移、身体転移、発動』」
姫倉の全身が紫色の霧に包まれ、姿を変えていく。
霧が突如として霧散し、現れたのは、
『待たせたのう、小童』
和服姿の黄泉だった。
黄泉は飛んでくる矢を何もせず全て打ち落とした。ついでといった感じで白石も打ち落としていた。
一方、黒宮と月姫の前には八畑鎌勝が立っていた。
「お前らだな。戦いを邪魔したのは」
八畑は鬼の形相をしながら怒っていた。
「絶対に許さねぇ、ぶっ殺してやる」
その言葉と同時に私は能力を発動した。
『絶対影装・針球』
体から放出される瘴気を細い針のように変え、全方位から襲った。
しかし、八畑は避ける素振りを見せずに立っているだけだった。あと少しで刺さるという所で全ての針が止まった。
そして、針は向きを変えて私の方へ飛んできた。
少しの動揺が動きを鈍らせた。
マズイ当たる、と思ったとき横から襲った凄まじい剣戟が針を弾いた。
「ありがとうございます、油断してしました」
「いえ、礼には及びませんよ。黒宮」
針を弾いたのは緋桐様。いつ見てもすごいと思ってしまいますね。
それにしても、私の『絶対影装・針球』を跳ね返すとは意外と厄介な能力ですね。
あいつ、今ので俺の能力を見破りやがったのか。八畑は驚いていた。
『絶対掌理』
相手の能力を掌握し理解及び利用するというもの。内容的には簡易なものだが、黒宮のような能力者には相性が悪い。
へっ、あいつの能力は見切った。あとはもう一人の方だが・・・、意外と美人だよなぁ。そうだなぁ、あいつを倒したら俺のものにしよう。ぐへへ。
な、なぜかしら・・・、今、一瞬背筋が凍ったような・・・
月姫は目の前にいる男がニヤニヤしているのを見て、原因が分かったような気がした。
顔が青ざめていくのが分かる。すぐさま私は黒宮に命令した。
「黒宮。この男を始末なさい」
青ざめている緋桐様の顔とニヤニヤしている八畑の表情から察するに、目の前にいるこのゴミが緋桐様を手に入れようとしていることが分かった。
「かしこまりました」
能力が使えないというのは少々辛いですが、問題はありません。
本来の力を使うのですから。
私は、少し息を吐き、力を解放した。
『これより、段階的に魔力を解放。それに伴い能力を一時的に封印。第一段階開放。これにより闇魔法が使用可能となります。戦闘開始』
自分に重力緩和、転移の魔法をかけ緋桐様に魔法障壁を展開。八畑の後ろ上空に転移した。
八畑は突然消えたことに少し驚いているようだったが、関係ありません。
すぐさま次の魔法を発動。この間、わずか0.5秒。
『闇魔法・黒矢』(ブラックアロー)
魔法陣から無数の矢が放たれた。八畑は攻撃されたことを直感的に認識しなんとか避けている。
全てを避けきった八畑はどうにか形成を立て直そうとしていますが、ここで終わらせるつもりはありません。
『闇魔法・円陣』(リングポジュション)
八畑のいる場所を中心として円陣が形成され、その範囲から逃げられないようにした。
必死に抵抗しているのが見えますが、あなたの能力では無意味ですよ。
『第二段階開放。これにより土魔法の使用が可能となります。』
いつ聞いても機械のようですね。ですが今回は闇魔法だけで事足りそうです。
『闇魔法・黒箱』(ブラックボックス)
未だ抵抗をやめない八畑の周りに壁を形成する。八幡は円陣から抜け出そうとしていて気づいていない。壁が完成したときにようやく気がついたようですが、時すでに遅しですよ。
全ての壁を接合させ、抜け出せないようにした。
箱の中では、未だに抵抗し続けているのが分かる。
ここまでのことをして許されるとは思っていませんがひとまず謝っておきましょう。
私は、箱の近くまで降り謝罪した。反応は、予想通り。
「ぜってぇ許さねぇ。今すぐここから抜け出してお前を倒して、女を俺のものにするんだぁ」
「そうですか。しかし、緋桐様には婚約者の方がいるので遠慮して欲しいのですが・・・」
「はぁ?そんなこと知るかよ。あの女は俺のもんだ」
ああ、もう手遅れですね。
「本当にそんなことが出来るとお思いですか」
「簡単だね。その婚約者よりも先に既成事実をつくりゃぁ・・・」
「黙れ、ゴミが」
「あぁん、今なんて言った」
「聞こえませんでしたか。ゴミと言ったのですよ。ゴミと」
「ふざけんじゃねえぞ。って、おいっ、聞いて・・・」
こんな方とお話しすることはもうありませんね。
「では、死んでください。緋桐様のために」
「は?お前、何を」
『闇魔法・霧消』
四角形の箱は一瞬にして消えた。
さて、あちらはどうなっているでしょうか。
黄泉が現れてすぐに重力によって地上に叩き落とされた白石は、怒りの表情を浮かべながら立ち上がった。
「貴様っ、よくも地上に這いずり降ろしてくれたなぁ」
再び能力を発動しようとした白石だが、それを許すわけもなく再び重力の餌食となった。
『なぁ、小童。あの者は殺してもよいのか』
黄泉は淡々と言った。生命を殺すのに躊躇いがないのか。
「いや、だめだ」
今回の目的は争いの沈静化だ。命まで奪う必要はない。
それに、向こうのリーダーは黒宮に敗北したみたいだからな。
これで、沈静化は完了か。そう思い、気を抜いた瞬間に白石からおびただしい程の光が発生した。
突然の光に目が使えなくなり目を押さえながら悶えていると胸の中心に穴が開いたような感覚が襲ってきた。
少しの間、何が起きたのかが分からなかった。ようやく目が使えるようになって何が起きたのかが分かった。
目の前には白石がいて、俺の胸に白石の腕が貫通していたのだ。
現状を理解した途端に力が抜けていくのが分かる。
黄泉を見てみると、驚いたような顔をしていた。
「がはっ」
貫通した腕が胸から引き戻された為にその場に崩れ落ちた。
白石の笑い声が聞こえる。黄泉の俺を呼ぶ声が聞こえる。だが、次第にそれは消えゆく意識の中で小さくなっていく。
ああ、このまま死ぬのか。今更ながら短い人生だったなぁ。まだまだ言いたいことたくさんあったなぁ。月姫にまだ何もしてやれていなかったなぁ。って、後悔しかないのかよ。自分で笑えてしまう。
最後くらいしっかりやれよ。俺・・・。
そこで、意識は途切れた。
文章がおかしくなっているところがあるかもしれません。この度は、最後まで読んでいただきありがとうございます。