普通ではない者たちの解明
三話目です
国家機密特別診察室3階、霧崎拓真と姫倉瑠奈は目の前で繰り広げられている痴話喧嘩に巻き込まれていた。
何でも、付き合っていた彼氏の浮気が発覚したとかで。
「何で他の女の人といっしょにいるのか説明して!」
「いや、その~なんていうか・・・」
おいおい彼氏、そんな態度だとこいつのことだから・・・
「なんでそんなあいまいな態度なの」
あ~あ、怒りモードに入っちまった。
「あなた、言ったわよね。『僕は、あなたのことが世界一好きなんです。だから、僕と付き合ってください』って。」
「た、確かに言ったけど・・・」
「『けど』とか『だから』とかはもういいの。問題は、あなたがなぜ他の女の人と一緒にいるのかが問題なだけであって・・・」
仕方ない、助け舟を出してやるか。
「おい、それぐらいにしてやれって、焔」
すると、焔と呼ばれた彼女は顔を真っ赤にして
「な~ま~え~よ~び~は・・・」
「まずっ」
「彼氏にだけだ!!」
焔の渾身の右ストレート!!
霧崎拓真は紙一重でかわした!!
しかし、次に繰り出された膝蹴りに霧崎拓真は反応できず、天井に埋まった。
普通ではない者でも反応できないスピードで膝蹴りを出すって・・・。
霧崎拓真は埋もれながらそんなことを考えていた。
一方、彼氏と姫倉瑠奈は唖然としていた。
き、霧崎さんが埋まってしまいました・・・。どうしたらいいのでしょうか。
まじかよ、天井を突き破るほどの威力を持ってたのか。って、今はそんな場合じゃない!
「さて、あなたの処罰はどうしましょうか」
そう、彼氏の目の前には鬼神と化した焔がいるのだ。
焔は、少し考える仕草をした後に真っ黒な笑顔で
「じゃあ、今すぐここから出て行ってもらいましょうか♪」
彼氏には死刑宣告が言い渡された。
「そこのお嬢ちゃん、その男の後ろの窓開けてくれる?」
瑠奈は、言われるがまま窓を開けた。
「今後一切、目の前に現れないようにし・て・ね♪」
「ま、まさか・・!」
彼氏は驚愕の表情を浮かべる。
それに対し焔の顔はさらに笑顔になっていく。
「新しい彼女さんとよろしくやってね。出来ればだけど・・」
右手を握り締め、叫ぶ。
「煉獄・爆炎魔!」
右手からおびただしいほどの炎が生まれ、形を変えていく。
形を変えた炎が身を包んでいき鬼と化したとき、彼氏と新しい彼女の元に瞬間的に移動し、
最後は、満面の笑みで右手を振るった。
その時に起こった事を姫倉瑠奈はこう語る。
「焔さんが右手を振るった後に、彼氏さんと新しい彼女さんは、私が空けた窓から爆風と共に跳んでいきました」
拓真は、天井から抜けた後、姫倉から聞いて相変わらずだと思っていた。
痴話喧嘩が収まってから30分後、ようやく話しをすることができた。
「じゃあ、まずは自己紹介からだな。水無瀬からで」
「さっきは見苦しいところを見せちゃってごめんね」
「私は、国家機密特別診察室の室長の水無瀬焔といいます。焔でいいからね」
「はい、焔さん」
「じゃあ、次、姫倉」
「はい。私は私立高裁学園の中等部二年の姫倉瑠奈といいます、よろしくお願いします」
高裁学園?どっかで聞いたことのある学校だなと思っていると、水無瀬がジト目でこちらを見ていた。
「なんだよ」
俺は、不機嫌そうにたずねてみた。すると、
「もしかしてだけど、自分の通っている学校の名前を忘れたわけじゃないわよね」
自分の通ってる学校って・・・
「ああっ!」
「忘れてたのね」
水無瀬はハアッ、とため息をついた。
姫倉は、いまだ状況が読み込めていないという顔をしている。
「どうかしたのですか?」
姫倉からの質問に俺は答える。
「くわしく自己紹介をしていなかったな、俺は私立高裁学園高等部一年生なんだ」
「えっ」
「ちなみに、私も高裁学園高等部一年よ」
「ええっ」
姫倉はそれを聞くとかしこまった態度がさらにかしこまってしまった。
「そんなにかしこまらなくていいぞ、俺たちもそうだから」
「俺たちの中に私を含めないで」
「じゃあ、ちがうっていうのか」
「そうゆうわけじゃないけど・・・」
俺たちが話しで盛り上がってしまっていると、姫倉は何を思ったのか顔を赤らめていた。
「どうした、姫倉」
「あ、いえっ、そのっ」
「何かあったか」
少し考える素振りを見せてから意を決したような顔になり
「霧崎さんと焔さんって恋人どうしみたいです・・・」
と、爆弾を投下してきた。まあ、すぐに爆発するけど・・・。
「な、なななな何を、言って、るの、よ」
どうやら今回は後輩がいることでいつものようなことにはならなかったようだな、と安心した。
それから少しの間、沈黙が続いた。
しかし、このまま沈黙しているわけにはいかない。
「あー、水無瀬。こんなときにすまんが、例の件をそろそろ頼みたいのだが」
すると、さっきまでの赤くなっていた顔が一瞬で元に戻った。いわゆる仕事のときの顔というものだ。
「そうだったわね。瑠奈ちゃん、ちょっとこっちに来てもらえるかな」
姫倉と水無瀬は、検査室に入っていった。
検査室に入ってから30分ぐらいして姫倉が出てきた。さすがに疲れたのだろう、すごいぐったりした顔だった。
「お疲れ」
「ちょっと、疲れてしまいました」
「まあ、検査結果が出るまで時間がかかるからな、ゆっくりしてろ」
「そうします」
姫倉は近くのソファまでいき、横になっていた。
余程疲れたのだろう、すぐに寝てしまった。
それから15分後、水無瀬が検査室から出てきた。
「どうだった」
単刀直入に聞いてみた。
すると、水無瀬は信じられないような顔をしてこう告げた。
「検査結果から、彼女はストレス性の憑依型と診断されたわ。こんなの滅多にないケースよ」
「ストレス性か・・・。確かに今では滅多にいないな」
そう、この世界にはストレス性の普通ではない者たちが全世界でごくわずかしかいない。
なぜなら、俺が生まれる少し前に誰が何のために行ったかは定かではないが、ストレス性の普通ではない者たちが一人で国家を襲撃した。その際の被害は国家にいる普通ではない者たちの約七割にも及んだらしい。
それからというもの、ストレス性の普通ではない者たちを増やさないためにさまざまな取り組みを行ったそうだ。
その努力が功を奏したのか、ストレス性の普通ではない者たちは激減した。
そして、今の世界。ストレス性の普通ではない者たちは希少な存在になった。
「俺の先天的と同じぐらい希少だもんな」
「希少になっていてもここに三人も集まるんだからそれほどでもないんじゃない」
「まあ、そうかもな」
と、話していると姫倉が起きた。
「起きたか、姫倉」
起き上がってもまだ眠いのか、眼を閉じたまま静止している。
眠気を覚ましてやろうと思い、肩を揺さぶろうとした瞬間、
『貴様、あのときの小童か』
姫倉の声ではないと分かったと同時に瞬時に後退した。
「お前は、誰だ」
姫倉の体を借りた何かに問いかける。
『妾か?妾は黄泉。それ以外の何者でもない」
黄泉と名乗る者は少し笑ったような顔で答えた。
「何故、姫倉に憑依した」
すると、何を言っているのか分からないような顔をして、
『何を言っておるのじゃ、こやつが呼び寄せたに決まっておろう』
俺は、驚愕した。まさか、姫倉自らが呼んでいたなんて・・・。
『まあ理由はともかくとして、妾がこやつの中にいるのは気に入ったというのも一理あるがの』
黄泉は、高らかに笑っていた。
『そろそろ時間のようじゃ。またの、霧崎拓真、水無瀬焔』
姫倉の体は力を失ったように倒れた。
俺たちは、姫倉が再び起き上がるまで、金縛りにあったように動けなかった。
その後は、水無瀬に礼を言って診察室を後にし、姫倉を家に送り届けた後、無事に家に帰宅することが出来た。
水無瀬との別れ際に言われたことを頭の中で考えながら。
『今、普通ではない者たちが色々なところで争いを始めてるそうだから気を付けなさい』
『念のために言っておくけど、瑠奈ちゃんをしっかり守ってやるのよ』