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悠久の世界は月のために  作者: 鳴海
第3章
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2 災いの口

「なんか変な感じがするな」


 月宮は右耳に付けたインカムを弄った。耳になにか装着することがほとんどないため落ち着かない。


「まあまあ。そこは我慢してよ」


 と、如月の声が聞こえてきた。耳元で話されているようで、これもまた落ち着かなかった。


「こっちで調べたことを伝えやすいんだからさ」


「ケータイで充分だろ」


「つっきーのタイプは有線でインカムを付けないといけないから動き辛くなると思うし、付けないんだとしたら若干のラグが出るから、それもまた惜しいんだよね」


 状況の変化を逐一で伝達される。それは月宮たちにとってはこの上ない魅力だった。先手と後手の奪い合い、一手先を読める材料は、なくて困るものだし、あって損はないものだ。


 パソコンを入手し、インターネットで世界と繋がった如月は、事務所の利益になりそうなシステムを拝借していた。今では街に設置された監視カメラも当然のように、あの大きなディスプレイに表示されている。


 今や監視カメラは如月の目である。現代の千里眼はこうして生まれるのだろう、と言った月宮に対し、彼女は「じゃあ次は衛星に侵入していかないとね」と半分冗談、半分本気でそう返したのだ。


 魔術も扱え、機械にも強い。


 才能と知的欲求によって得た力が、「神の力」よりも恐ろしいと月宮は思った。人間が扱うべくして生まれた技術をいかんなく駆使する彼女は人間の中の人間だ。そのうち新たな技術を作り出しそうでもあった。


「そのうち慣れますから、我慢くらいしてください」


 隣を走る長月が呆れ調子で言った。『我慢』の前に『男なんだから』といった定型句が隠れているようだった。


「とはいえ、聴覚が奪われているわけだし若干の不自由さは否めないよな」


「もう片耳があるでしょう。それくらいリーダーなんですから瞬時に慣れてください。今適応してください」


「無茶言うな……」


 人通りの少ない道を選び、できるだけ目立たずに対象と接触をする。月宮の能力を世間の目にさらすわけにはいかない。事務所員が暴れている姿だけならば、知っている人は知っているため大衆の目も気にならない。


 仕事の際は姫ノ宮学園の制服を着ている長月にも、念のために服装を改めさせた。ショートパンツにTシャツと、彼女らしいようで彼女らしくないその格好は、なんでも日神ハルから借りたものらしい。動きやすく、大衆に紛れられるのならどんな格好でもよかったため、月宮はそのことについて口を出すことはなかった。


「そろそろ目標とご対面だね」


「今どこにいるんだ」


「都市警察の支部の近く。ここは第何支部だったかなあ」


「十五支部だろ」


「まあ、どこだっていいよ。うん? あれ、素通りしちゃったよ。ここを狙うと思ってたけど、別にそんなこともないのかな?」


 暇なのか、あるいはサポート役としての使命を果たしているのかわからないが、如月はいつも以上に饒舌である。目標の状況を教えてくれるのは構わないのだが、どこか喧しい。


「まあいいか。いっちゃん、人払いの魔術の準備はできてる?」


「いつでも構いません」


「んじゃ、今やっとこ」


「了解です」


 周囲の空気が、一瞬にして切り替わった。あまり好ましくない――言ってしまえば気持ち悪い空気だ。身体に纏わりつくようで、そしてどこか生ぬるい。夏の空気よりもずっとしつこく離れない。


 月宮たちは大通りに出た。周囲をすぐに確認し、目標が向かって来ていることを把握した。二人いた。褐色肌の女と、茜奈だ。


 褐色肌の女の方は、すぐに月宮たちに気付いた。しかし敵意を向けてはこない。まだ敵として認識されていないようだ。ただそのか弱そうな身体からは想像もつかない力を彼女からは感じ取れた。おそらく《欠片持ち》だろう。先日の都市警察上層部の一人を、その一家もろとも殺害したのは彼女だ。茜奈と共に行動していることで、それは確信になっていた。


 やがて茜奈も月宮たちに気付き、不敵な笑みを浮かべた。三日月のように姿を変えた口から言葉が生まれる。


「今日は月が綺麗だね――月宮くん」



     ※



 茜奈の掌には“口”があった。


 ぽっかりと黒い穴が空いていることもあれば、人の口のように唇まであるときもあり、それがどんな要因で切り替わっているのかは定かではない。知る由もない。


 知ったところで、なにかが変わるわけでもない。


 言葉を紡ぎ出すことも、呼吸をすることもないそれは、ただ単純に「喰う」ことだけに特化していた。それだけを目的にしていた。


 生まれたときからあり、その不気味さは子供好きの両親の心を粉々に砕いた。すべての子供が等しく愛されるべきだと思っていた彼らの範疇外に茜奈はいた。


 だから捨てられた。


 父方の祖父母はすでに他界しており、母方のもとへ預けられた。それは茜奈が三歳のころのことだ。両親も三年間はその不気味さに耐えたのだ。世間にこのことを知られるわけにもいかず、ひっそりと育児に励んだが、しかしやはり茜奈を愛することが彼らにはできなかった。


 この子が世間に知られれば、きっと慰み者になる。化物と言われるのはもちろんのこと。悪魔と呼称されでも当然のこと。


 子供が慰み者になるということは、その両親もまた同様に扱われる。


 世間とは、大衆とはそういうものだ。


 だから彼らは三年間を耐え忍ぶことができた。自分たちの環境を崩さないように、もしかしたらいずれその口が消えるかもしれないと期待を胸に生き、茜奈を育てた。


 だが、結局は三年だけ――三年で、彼らの期待は不安に呑まれ、希望などまやかしに過ぎなかったことに気付いた。


 気付かされた。


 まるで変化のないその掌の口が気付かせたのだ。


 それほどに茜奈は――茜奈の掌にある口は不気味で、人の心を揺さぶるものだった。


 茜奈を生んだことは彼らにとって不幸だったのだろうが、しかし彼らは今もどこかで生きている点でいえば幸福だった。


 母方の祖父母に預けられてしばらくして、掌の口は覚醒した。それまではその形を歪に変化させるだけだったのに、ある日突然その口を開いたのだ。


 それは茜奈が祖母の肩を揉もうとしたときだった。肩に触れた瞬間、祖母は衣服だけを残してその場から消えた。まるで夢だったかのように、妄想だったかのように、幻だったかのように霧散よりもずっと瞬間的な消失だった。


 茜奈は祖父のもとへと走り、目の前で起きたことを説明しようとした。祖母が消えてしまった、と子供の戯言のような発言でも、祖父なら信じてくれるだろう、とその一心で走った。


 祖父の部屋に向かい、そして飛び掛かるように祖父を抱きしめようとした。


 両親とは違い、祖父母は茜奈を抱きしめることに抵抗をしなかった。いつも優しく、温かく包んでくれた。彼らの匂いが好きだった茜奈は抱きしめることで、安心を得ようとした。


 けれど、それは叶わなかった。


 祖父もまた消えた。


 抱きしめた――と感じるはずの瞬間に消えた。


 優しさも、温かさも、安心も、匂いも。


 すべてが消えた。


 茜奈は手に疼きを感じ、掌を見た。


 掌の口が三日月のような形になっていた。


 今にでも笑い声が聞こえそうで、茜奈は蓋をするように握り拳を作り、掌の口を隠した。


 救急箱を探し出し、包帯を手に巻いた。なんでも喰ってしまいそうなその口は、不思議なことに包帯を消すことはなかった。


 後日、両親のもとへと戻った茜奈は、一日も経たない間に孤児院の前に捨てられる。茜奈もわかっていた。自分が他の人間とは違っていることを。忌み嫌われてしまう存在なのだと。


 優しさも、温かさも与えてもらえないのだと。


「貰えないなら奪っちまえよ」


 優しさも、温かさも与えてもらえない。


 なら奪ってしまえばいい。


 優しさも、温かさも持った人間から。


 その人間ごと喰ってしまえばいい。


 そうすることで人並みの幸福を得られるのなら、それは茜奈が生きていく上で行わなければならない、いわば呼吸と同じことなのだ。


 だから喰おう。


 幸せを得るために。


 幸せを持った人から。


 奪ってしまおう。


 そして今回も――いや、今回は幸せを得るためではなく生き長らえるために、の掌の口を開こう。


 茜奈は指抜きグローブを右手から取り外した。いろんなものを喰らってきたことで、掌の捕食をある程度制御することはできるようになった。もし今の自分が、祖父母のもとに預けられたときにあったのなら、こんな場所には立っていなかっただろう。


 隣にいるウィンクも冷静に、臨戦態勢に入っていた。やはり彼女の目から見えても、彼は異質なのだろう。月宮という男の力量は計り知れない。


 その身に宿しているものは、おそらくは掌の口と似た力だろう。彼ならば正体を知っているかもしれない。


 あのとき――腕を掴まれたとき、月宮から異様なものを感じた。掌の口を直視したときのようでもあったが、しかし同種ではあっても同列ではないものを。


 それでも、というべきか。


 だからこそ、というべきか。


 月宮には理解してもらえるかもしれないと思い、月宮を理解できるかもしれないとも思う。違う場所に立っていようとも、そこは枠の外側というかぎりでは同じことだからだ。


「これはまた厄介そうなのに目を付けられちゃったねえ」


 ウィンクは彼らを見据えたまま話す。


「実物を見たのは初めてだけど、これほどとは聞いてないよ」


「知ってるのか?」


「え? うん、まあそれとなくね」


 なぜかはわからないが、口を濁すウィンク。


 話すことも憚れるような組織に所属しているのだろうか。


「いや、まあこの街の二大組織であるところの事務所の一員だよね、彼らは。ぶっちゃけ、都市警察より面倒な相手――あっ、面倒といっても、複数戦のときだから。一対一ならそれはもう楽しいこと間違いないだろうね」


「どうにか相手を分断できないか?」


 連携などという言葉からほど遠い茜奈とウィンクにとって、現状はとても好ましくなかった。仲間のことを考えながら行動するなど、それこそ彼女たちの役割ではない。茜夏とシグナルが今まで担っていたことだ。


 適材適所があり、ここで下手に統率のとることができない自分たちがチームワークなどというものを発揮しようものなら、やはり迎えるのは敗北だ。


 茜奈はまずは生き残る術を導き出そうとしていた。彼らが不意打ちや闇討ちをしてこなかったというのは、つまりまだ排除すべき対象として認められていないということだ。


 二大組織といえども、都市警察とは違うようだ。


 ならば彼らはなんのために現れたのだろうか。


「分断してもいいけど、それこそ二対一になって終わりだよね」


「私の心配をしてくれるのか。優しいな」


「まっさか~。私が死にたくないだけ。私としては、どうやってトリックを狙わせようか――そのことについて珍しく頭を使ってるからもうクラクラで、ほんっとやめてほしい」


 バカみたいに正直に生き残りたいというウィンクには、もちろん反論などない。『生き残りたい』という点では利害は一致している。


 だからといってこの状況がどうにかなるわけでもないが。


「用があるのは茜奈だけだ」


 ようやく月宮が告げたその言葉に、ウィンクが飛んで喜んだ。ぴょんぴょんと跳ね、小さく結ったポニーテールが可愛らしく揺れている。茜奈はそれを見逃さなかった。


「やったねっ。あー、死ぬかと思った……。もうこりごりなんだよ、こんな緊張感」


 言いながらウィンクは踵を返した。


「じゃあね。生き残れたらまた明日」


 本当に彼女は帰っていった。おそらく本当に帰っただろう。どこに住処があるのかはわからないが、そこに戻り、シャワーでも浴びるに違いない。あの口ぶりでは気持ちが萎えてしまい、都市警察に手を出しに行かないと思われた。


「白枝畔をやったのはお前だな」


 月宮はなんの脈絡もなく切り出した。それは問いというよりは確認だった。彼の中では答が出ていて、形式的に訊いているだけに過ぎない――そんな印象。


(返答次第では終わるか……?)


 彼の中に潜む力の塊の正体もわからない以上、いつものように飛び出していくこともできない。《欠片持ち》程度ならば、屈させることができるのだが、月宮からはその余裕を許さないなにかを感じる。


 一方、隣にいるさながら日本人形のような造形をした少女からは特に脅威を感じ取ることはない。普通の人間とは違うことはわかるのだが、その正体は掴めない。彼女を見ても、掌の口が疼かないということは、月宮と同等というわけではなさそうだ。


 そうか、と茜奈は思い出した。


 あの少女は秋雨美空と一緒にいた少女の一人だ。ショートパンツにTシャツとラフな以前の彼女からは想像もつかないラフな格好だから気付かなかったのだ。どうにも綺麗系の女子の顔を憶えることが苦手だ、と茜奈は脱線した思考に区切りをつけた。


 その彼女も今では茜奈の前に立ち塞がっている。


「私がやった」


「なんのために」


「そういう……」


 言ってもいいのか躊躇われたが、背に腹は代えられない。


「仕事をしていて、そういう依頼がきたからだ」


「都市警察を狙えと?」


 そう訊いたのは、月宮の横にいた少女だった。その澄んだ声に聴き惚れてしまった。想像どおりの声だ。彼女から冷たい印象を受けていた。表情があまり出ないタイプであり、おそらくは普段から誰にでも敬語を使う。そう推測をした。


「そのとおり。だからやった。ついでに言えば、白枝畔を狙ったのは、都市警察に所属する《欠片持ち》の中で彼女が一番扱いやすいと思ったからだ」


 嘘も言わず、さらに本当の言葉で相手を先回りして、本当に隠しておきたいことを言わずにおく。これで多少なり信用を買えるものだ。こちらが情報を開示する姿勢を見せれば、それも訊いてもいないことを話せば、相手も追求をしてこないだろう――そう踏んでいた。


 そしてそれは成功した。月宮は反論をしなかった。追及もしてこない。茜奈一人で白枝畔を相手したと思い込んだだろう。


「次は私の番だ」


 月宮たちが口を挟んでこないため肯定ととり、続けた。


「どうして私の前に現れた」


 返答次第では月宮たちを喰うしかない。彼の喉元に刃を突きたてようものならば、ここで喰い止める。どんな脅威であろうと、それが確定したときは自分の身の安全よりも、彼の――茜夏の安全が最優先だ。


「お前がこれからどうするかについて訊きたかった」


「これから?」


「白枝畔やそれまでに消失させた奴らのことはどうでもいい。終わってしまったことだから仕方がない。お前がどういう基準で消す奴を選んでいるのか」


 それが問題だ、と月宮は告げた。


 彼にも守りたいものがある。それを脅かされたくはないのだ。茜奈が茜夏に抱いている気持ちと同じように、なにを犠牲にしても守りたいものが彼にはある。


 茜奈が月宮を脅威と感じているように、月宮もまた茜奈を脅威に感じている。


 お互いがお互いに。


 大切なものに届き得るかも知れない刃だと。


 そう思っている。


 もしここでお互いに「大切なものに手を出さない」と約束をすれば、この場を治めることは簡単だ。茜奈も月宮も未知の力を持っているが故に早計な判断をできず、簡単に自分の手の内を明かすわけにもいかなかった。


 大切なものがあるということを知られることは、人質を取られたのと同義だ。簡単に歩み寄ることはできない。


 ただしかし彼の失敗は、それを悟られてしまったことだ。茜奈はまだ茜夏の存在を明かしてはいない。彼のことを月宮たちが知っていても、茜奈の心を覗いたわけでもないため、大切なものかどうかの判断はできないだろう。


 そしてなにより、茜奈は月宮の“大切なもの”の存在を知っている。これは大きなメリットになるはずだ。このカードを上手く切れば、この場を脱することができる。


「基準は、まあ私の好み、としか言いようがない。男でも女でも、私が『喰える』と思ったのなら『喰う』――それだけだ」


「似たようなこと言ってたな」


「もし月宮くんが私の行動に興味があり、それに危機を感じているというのなら、きみに連絡をし、誰をこれから『喰う』のかを伝えてもいい。それできみがダメだと判断を下すのなら、私はその相手を今後一生『喰う』ことはない」


 どうだ、と茜奈は持ちかけた。


「悪くない提案だな」


 月宮はそう言ったが、隣にいた少女はなにか言いたそうにして、結局呆れるように瞼を閉じた。上司と部下、と言ったところだろうか。


 茜奈は徐々に緊張を解いていった。あまり精神的な疲労は好みではない。できるだけ早く、緊張状態を解きたい。


「まあそれはいい」


 月宮は言う。


 次に投げかけられた言葉は、茜奈を再び緊張状態に戻した。それもこの拮抗した場面を崩してしまいそうなほど、心を揺さぶる一言だった。


「それで、お前の裏には誰がいる」


 と、鋭い視線を向けて言い放った。


「お前と交わした言葉は多くはない。けれど、お前が進んで人を殺すことを命令する組織に所属するとは思えない。誰かがお前にそうするように言ったんだろ――そいつは誰だ」


「……そんなことを聞いてどうする」


「お前はそいつに逆らない。依存しているのかもしれない。とにかく、そいつが『やれ』といえばお前は『やる』んだ。『喰え』と言われれば『喰う』」


 恐怖を通り越し、驚愕しかなかった。月宮の言っていたとおり交わした言葉は数えるほどだ。それなのに、この男は茜夏の存在に気付き、茜奈と茜夏の関係性も見透かしている。


 依存。


 それはきっと正しい。


 茜奈自身、彼と関わって当初から気付いていたことだ。


「そいつを教えろ」


「教えてどうなる」


「事と次第によっては」


 始末する、と月宮ははっきりと言った。


 見誤っていた――茜奈は思っていた。お互いに大切なものを傷つける刃であることに気付いていながら、茜奈はまだ大丈夫だと悠長な考えをしていた。彼ならば、話せばわかってくれるかもしれないなどと甘い考えを抱いていた。


 すでに茜夏の喉元にはその刃が迫ってきているのだ。


 初めから。


 この場で出会ったときにはすでに。


 月宮の中で答が出ていたのは白枝畔のことだけではなく、茜奈という一個人についてだったのだ。確認作業をしているだけ――茜奈の意思の所在を確かめている。


 十中八九、それは終わっていると言っていい。


 あとは茜奈が茜夏の存在を隠すかどうかで。


 そんな茜奈の心境を悟ってか、月宮は言う。


「お前にあるのは、その誰かを俺の前に差し出すか、あるいはここで終わるかのどちらかだ」


 選択を与えてくれるだけ優しいというものだろうか。


 以前に出会ったときの彼と今の彼では雰囲気がまったく違う。優しさなど微塵も感じとることができない。ただ冷静に、冷酷に茜奈を見据えるばかりだ。


「それはまた……とんでもない選択肢もあったものだ」


 だが、当然第三の選択肢がある。


 茜奈が月宮をここで喰ってしまえばいい。


 今までのように、そしてこれからのように、祖父母を喰ったときと同じように、孤児院にいた人間を全員喰ったときのように、終わらせてしまえばいい。


 二対一は好まない状況だが、もう形振なりふりを構っていられない。


 茜奈が覚悟を決めた。


 そのときだった。


「裏切り者には制裁を――ってね」


 背後から聞こえた声に振り返ると、視界いっぱいに石ころがあった。山なりに投げられたと思われる軌道で、重力に従って落下していくそれらは、まるで爆弾のように大きな音を立てて爆発した。

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