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悠久の世界は月のために  作者: 鳴海
第4章
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6 その意志は理想に届かず

「私たちです」


 月宮とミゼットの間に巨大な鉄塊が降り落ちてきた。小さな地響きと衝撃で、二人は倒れ込んだ。ミゼットは腕を使って身体を支えたが、月宮はそれすらできずに倒れた。


 右手から零れ落ちた宝石が宙を舞う。


 それを掴んだのは、ミゼットではない。


「いっちゃん、もっとやり方があったでしょ!」


 宝石を掴み、月宮の前に立ったのは如月だった。呼吸は乱れ、髪もまた乱れていた。


「ありません」と長月はミゼットの身体を押さえていた。俯せの状態で、両腕を背中に回されている。


「なんでお前たちがここにいるんだ」


 と月宮。


「つっきーがピンチなら、私たちは星の裏側にだって助けに行くよ。たかが二、三十キロなんて大した距離じゃないのさ」


「久しぶりの全力疾走で疲れました」


 長月が言う。彼女は正直だ。


 月宮は如月に身体を起こしてもらい、肩を借りた。それでも立ち上がることはできなかった。まだ足に力が入らない。


「どうやって」


 月宮はそこで呼吸を整えた。


「知ったかを訊いてるんだ」


「まあ、今はいいじゃん。無事に? 終わったんだし?」


「疑問形だらけじゃないですか……」


「姫ノ宮学園の制服だと……。生き残りがいたのか。全滅したと聞いていたが」


 ふいにミゼットが言葉を発した。彼にはもう抵抗の意思がないようだ。そもそも抵抗もしていない。復讐をしていただけだ。魔術師の、あるいは全人類の願望を阻止されたための復讐を。


 如月と長月は視線を交わして、ほくそ笑んだ。


 遠くから充垣の声が響いてくる。充垣の声が大きいのか、はたまた姫ノ宮学園が静かすぎるのか。


 充垣たちとも無事に合流を果たした。ただ月宮は彼らが無事で帰れないとは微塵も思っていなかったため、これは当然といえば当然の結果だった。問題はあくまで月宮が生き残れるかどうかだったのだから。


 月宮とは違い、二人の格好は到着時と同じ汚れ一つない。ただ目立っていないだけ、と考えられないのはやはり琴音の白いローブのせいだろう。いつかの白剣のごとく純白すぎるそれは、小さな汚れでも充分に気付ける。


「なんか増えてんな」


「気配くらい感じ取れるようになれば?」


 琴音が言った。


「お前と一緒にすんな。俺だってできないことはないが、お前は感じ取れる範囲が広すぎんだよ」


 琴音は充垣を無視して、ミゼットに近づいた。彼は長月により縄で腕と腕を縛られていた。どうしてそんなものを持っているのか、月宮には不思議でならなかったが聞かないでいた。


 その場にいた全員が黙り込んだ。琴音がこの場では実質的なリーダーだ。これからのことは彼女が決める。


「あなたが“精霊”を呼んだの?」


「……完全に呼んだわけじゃない。欠片を紡ぎ合わせただけだ」


 あれで完全じゃない、月宮は呆れてなにも言えなかった。完全体とはどれだけの力を持つのか。それがただただ恐ろしかった。


「そうね。本来の精霊の力なら、月宮ごとこの街を消すことができた。世界だって滅ぼせたでしょうね。ただそれにはあなたの魔力があまりにも足らない」


「そのとおりだ」


「あなたが、他の仲間に魔術を教えたの?」


「どうしてそんなことを――ああ、なるほど。一人だけな。そいつは筋がよかっ――」


 言い終える前に、ミゼットは「ミゼット」でなくなった。一つの生命が終わり、肉体だけが頭部を失って世界に残った。終幕とはあっさりしているもの――ミゼットの言葉を、月宮は思い出していた。


 誰も悲鳴を上げない。


 誰も同情はしない。


「おいおい、こいつまで殺してよかったのかよ」


 充垣が呆れ調子に言った。彼はこうなることをわかっていたのだろう。


「問題ない」


「上にはどう報告すんだ」


「魔術の副作用で頭部が破裂して死んだでも、精霊の一撃に巻き込まれたでもなんでもいい」


 琴音は明後日の方向を向いた。その先には姫ノ宮学園の校舎しかない。


「ま、報告するのはオレじゃないからいいけど」


 月宮は気が重くなりそうだった。嘘の報告を、記憶を探れる相手にしなければならないのだ。本当の戦いは、ある意味ではこれからなのかもしれない。


 夜空はまだ広がっている。


 夜明けが来るのはいつになるだろう。

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