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No.8

説明回……みたいなポジションです。

修正し続けていたらいつの間にか7000文字弱に……

 精巧に作られた《Brave Worlds Online》内の景色は、現実世界のそれと見間違う程だとβ版から評判だった。勿論空も例外ではなく、晴天の時もあれば雲が出てくることもあるし、雨だって降ることもある。夜になれば星空が出てくる時さえあるのだ。それも、ただ単に光を散りばめたものではなく、現実の星空とリンクしていると言うのだから驚きである。


「……はぁ」


 ため息を吐きながら、俺は《ワンステップ》のホーム内にある一室のベッドに横になり、その満天の夜空を窓から眺めていた。唯でさえ雲の上にあるこのエリアは、星空観賞にはピッタリだ。俺が目覚めた時と同じ部屋の同じベッドの上で、高校の時にちょっとだけかじった星座の位置を思い出すと、視界の中央に居座るのが「ペガススの大四辺形」という事が分った。


 ……それより、何故《ワンステップ》のメンバーでもない俺がこの部屋で寝ているのか。……まぁ、言うまでも無くウィストのお蔭である。ご飯も食べたのだから、せっかくならお風呂も入って、部屋が一つ空いてるからそこで寝ていきなさい……なんて言われて。俺としてはもう迷惑は掛けたくないと思ったのだが、お金も無い。ありがたく、ご好意に甘えることにしたわけだ。


「……『ワンステップ』、かぁ」


 このギルドのメンバーは、皆優しい。ちょっと癖が有るが、それが気にならない位に。俺も思ったように、ウィストはギルドメンバーの事を『家族』と言った。『家族』。互いが互いに信頼しあってこそ出来るその関係がとても良い物だというのは馬鹿でも分るだろう。そして、とても手に入れたい物だという事も。現実世界から切り離されたこのゲームの中でなら、特に。


 ……俺もあの輪の中に入りたいという欲求が生まれた。けど、ダメだと即座に否定する。あんなに硬い『家族』の絆。よそ者の俺が勝手に入ってきて、あの絆を断ち切ってしまったら。そう考えると、胸が張り裂けそうになる。関係を断ち切られる事がどんなに辛い事かを、俺は蘇った直後から味わっていたのだから。だから、俺は一人で生きていかなければならない。この険しい道のりを。

 その為には、まず一年半分の情報を集めなければいけない。……幸運にも、その情報を知るチャンスは数時間前に訪れていた。ウィストが料理を作っている最中。あの空白時間は勿論皆無言だったわけでは無く、『ワンステップ』のメンバーが、俺へとこの世界の事を大まかに教えてくれていたのだった。









「――――ヒカルさんは、ゲーム内の事を知ってますか?」


 ウィストが料理の為に席を立った直後、唐突に尋ねられた。首を動かせば、視界に泉希が入る。俺が質問の意図を理解しかねて泉希を見つめながら?マークを出していると、泉希は急に頬を赤らめ始めた。


「え、え、えっと、えっとですね……今日生き返ったって聞いたので、まずはゲームの中の現状を知らないと……って思って……あとそんなに見ないでくださいっ」


 見つめていたことに気付いて、慌てて目線を逸らす。周囲から何か視線が飛んできた気がするが、今は置いといて……、確かに情報と言うのは大事だ。今を生きているのだから、周囲を取り巻く環境について知っておくことは損じゃない。俺と同じように生きているこの六人は、現状について少なくとも俺よりは詳しいはずだ。全く知らない、と答えると、勢い良く手を挙げたのはしぇうりーだった。


「はいはーい! じゃあこの優しい優しいしぇうりーちゃんが、《Brave Worlds Online》内の現状について教えちゃうよー! ……さて、先ずはヒカル氏。現在どのエリアまで攻略が進んでいるか知っているかね?」


 可愛らしくウィンクしながらそう言ったかと思えば、何処から出したのか眼鏡を装着していきなりキリリとし出すこの少女。相変わらず、良く分らない子だなぁ……と言うのはともかく、その質問については首を横に振るしかなかった。そういえば《クリスタルキャッスル》からのエリア転送画面で攻略されていたエリアが出ていた気がするが、よく見ていなかったなと思い出す。


「正解は、25エリア中13エリア……《モスアゲートヴィレッジ》まで。第14エリアの《アンバーデザート》は今《攻略組》の人が頑張って攻略してるってわけだぬー。あと、《攻略組》の殆どの人のレベルは50後半かなー」


「……《攻略組》と言えば、攻略ギルドの事も知らなくちゃな。規模第一位の『進む者(アドバンス)』と第二位の『天攻剋色(てんこうこくしょく)』は必須だ。何てったって、二つ名持ちがゾロゾロ居るからな」


 しぇうりーは何処からかホワイトボードを持ってくると、そこにペンで二十五個の丸を書いて、その内十三個を繋げる。どうやら攻略したエリアを表しているようで、十四個目の丸の近くには人の形を書いて、「50~60」と付け足した。


 彼女に続いて、さんぽが口を開いた。確かに攻略ギルドは、今から生きていく中で関わることもあるかもしれない。知っておいた方が良いだろう。『進む者』に『天攻剋色』。この二つが二大ギルド。そう覚えた所で、さんぽの言葉に何か引っかかりを感じた。俺もその単語自体は知っていたが、β版では聞いた事が無かった。


「……二つ名(・・・)? そんな機能、実装されたんですか?」


「いや、違うよ。二つ名は、時々行われるイベントで活躍した人達に付けられる物で、誰からとも無くそう呼ばれるんだ」


 β版でも、イベントって有ったでしょ? と付け足した赤行。イベントで活躍するという事は強さが一般プレイヤーよりも一歩抜け出ているということか。俺が時々読むライトノベルにもそんな物が有ったっけ……と思った所で、次に声を出したのはキタミだった。


「特に、『進む者』のギルドマスターでプレイヤー最強と言われとる《炎天(えんてん)》と、『天攻剋色』のギルマス、《光騎士(ライトナイト)》は覚えといた方がええやろ。二人とも、イベントで凄まじい強さ発揮しとったから……」


 と、その時の事を思い出しているのであろうキタミの言葉が止まる。理由は単純だ。その背後にあるキッチンから、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!! と物凄い量の『殺気』が此方側に向けて流れ出しているのだ。キタミが何かに気づいた時にはもう手遅れだったようで、一室全体が負のオーラに包まれていた。明るいしぇうりーでさえ、体がガッチガチに固まっている。


 ……なんだ、この空気は……、とは思ったが、何か、誰かに聞いたらヤバい気がする。今キッチンに居るウィストと、その二つ名持ちである《炎天》、《光騎士》のどちらか、または両方に関する事であることは明白なのだが、俺はこの雰囲気でわざわざ特攻して自爆する気にはならなかった。スルー安定だな、うん。


「……え、あ、えっと……二つ名持ちの人はその二人の他に沢山居ますよ。《拳鬼》さんはギルドに入っていないソロプレイヤーの中で一番強い方ですし、《道化師(クラウン)》さんはとても面白い方です。ナイフの使い手なんですよ!」


 取り繕うように慌てて泉希が声を出すと、殺気はピタリと止んだ。……流石高レベル。殺気で相手を威圧させるなんてスキルが有るのか無いのかは知らないが、こんな事も出来るなんて。とりあえず、ウィストの前では二人の話題を出すのはヤバいという事が分っただけ収穫か。

 ……そして、俺としては聞いておきたいことがもう一つあった。いや、聞いておきたいじゃない。聞かなければならないことだ。


「……《疵物(キズモノ)》……いや、PKギルドについて教えてもらいたいです。今分っているだけでも良いですから」


 《疵物》は、一年半前の時点で人数を集めていた。今何人になっているかは知らないが、確実にギルドにはなっているだろう。アイツらだけは、確実に潰す。どんな手段を使ってでも、殲滅するのだ。……そして、他に《疵物》のようなギルドが有るならば、ソイツらも壊滅させる。あの日の出来事を脳裏に浮かべながら、五人に尋ねた。


「……PK達は二つのギルドに集まって活動してんだよねー。一つは《血糊人形(マリオネット)》って言って、大した特徴も無いからPKか一般プレイヤーなのかの判別が難しいんだよー。……で、もう一つは……」


 口調はそのままに、しぇうりーの目が先ほどまでののほほんとしたキャラでは無く、何処か真剣なそれになっていた。やはりPKはVRに関わらずMMORPG内では恐怖の対象であるし、彼女にも思う所が有るのかもしれない。そして、もう一つのギルド名はしぇうりーでは無く、六人目のメンバーが言う事になった。



「《疵物(キズモノ)》……ヒカル君やお友達を殺した、傷付きの仮面が特徴のPK集団。彼らも、PK二大ギルドの一つなのさ。殺された人数は……数えきれないだろうね。……さて」



 キッチンから出てきたウィストは、良い香りが漂う大鍋を持って此方へとやってきた。テーブルの中央にその鍋を置くと、一層香りが強くなる。彼女はもう一度手をパンと叩いて俺達に言った。その柔和な笑みで、もう暗い話はおしまいだと言っているようだった。



「今日は肉じゃがだよ。一杯食べてね」










 時刻は午前一時。既に皆は寝ているようで物音一つ聞こえてこないが、俺は昼間から激しい運動(せんとう)をして寝て(きぜつして)いたので、瞼が重くなって来ない。……《Brave Worlds Online》内の『睡眠』と言うのはとても大事なシステムだ。寝ている間は自然にHPやMPが回復して、精神的にも元気になる。二日間寝なければ状態異常『睡眠不足』になり、全ステータスが低下する。

 俺は二日どころか半日前に寝ているし、美味しいご飯や綺麗な夜空のお蔭か、気分もそんなに悪くない。今晩は寝なくても大丈夫だろうが、明日にはここを出て行かなければならない。まずは何をしよう。適当なエリアに行って、金を稼ごう。PKを殲滅することが目標だが、それには先立つものが必要だ。金でもあるし、ステータスの事でもある。


「……ステータス……そういや、見てなかったな」


「ペガススの大四辺形」は位置を少しずつ変え、また天上には違う星座が瞬いていた。残念ながら、俺はその星座の事を知らなかった。

 ステータス画面。顔写真、名前、性別、HPSP、そして各種能力値や使用武器、称号。これさえ見ればその人の事が分ると言っても過言ではないそれを、蘇ってから一度も見ていなかった事に今更気づいた俺。空中にステータス画面を表示させると、最初に目に入ったのは画面の右上に表示される、見知った俺の顔だった。相変わらず、澄ました顔だった。


 ……いや、見るべきはそこじゃない。能力値(パラメータ)の欄。Lv(レベル)から始まって、筋力……STRや防御力のVIT、素早さはAGIで、魔法を使うのに必要不可欠な知力のINTと器用さのDEX。そして、精神力はMNT。この六つの能力値が個人の戦闘力を決定づけている。

 MNTは状態異常などに陥った際の回復の速さなどを決定する。刻々と変化し、その値はレベルが上がっても変化しない。言うなれば、脳波メーターのようなものだ。



「なんだこれ……」



 強くなっていると自覚はあったものの、凄まじいものとなっていた目の前にある俺の能力値に言葉を失ってしまう。まずはレベル。昨日……一年半前……まで7だったレベルが67にまで上昇している。各能力値も、《攻略組》の平均を10ほど上回るそのレベルに見合ったものになっているのだろう。殺される前の俺とは何十倍も違う。特にAGIとMNTはずば抜けて高かった。

 ……赤行が言った、ゲーム内のバグ。勝手にステータスが変動したり、アイテムが入ったり消えたりなどの小さなものはよく見るが、勝手にレベルが上がったり、ステータスが勝手に割り振られたりするものは初めてだ。ましてや、死亡したプレイヤーが勝手に生き返るなど致命的な欠陥だろう。……俺に降りかかったバグが意図的だったんじゃないかと思えるほどに。



 次々に見ていくと、装備、称号はそれぞれこうなっていた。



 使用武器:両手剣《始まりの両手剣》:初めに支給される、振りやすい両手剣。


 使用防具:《冒険者のジャケット》:初めに支給される、動きやすい服装。

       《冒険者のズボン》:初めに支給される、動きやすい服装。



 まぁ、これは当たり前か。一回も防具や武器は変えていない訳だし、変えようにも金が無い。戦っていくためには強い武器が必要不可欠だろうから、これも今後の課題となりそうだった。

 ……そういえば、先ほど「冒険者の服じゃ寝にくいだろうから」とウィストに渡された服を忘れていた。良い機会だし、試しに《冒険者の服》を脱いで渡された服を装備してみると、使用防具が《シンプルウェア》と《シンプルパンツ》になった。緑色のラインが入っただけのものだったが、「冒険者の服」よりは軽く、心地が良くなった気がした。



 称号:『復讐者(リベンジャー)』:対PK時、ステータスが上昇する。


 称号:『不死鳥(フェニックス)』:HPが危険域(レッドゾーン)時、ステータスが上昇し、攻撃がLv8の炎属性を帯びる。


 称号:『雲魔殺し(クラウダキラー)』:AGIが上昇する。



 昨日の《疵物》戦で発揮された三つの称号。まぁ、まだ『復讐者』や『雲魔殺し』は良い。問題は『不死鳥』の方だ。


『属性』は主に魔法などでよく見かける、炎、水、風、地、そして光と闇の六つの力の事だ。杖使い……魔法使いは、この属性魔法を上手く使って戦闘していくことになる。そしてβ版では、武器自体に属性が付与されている「属性武器(エレメントウェポン)」と言われるものが有った。恐らく正式版にも実装されている。

 だが、『不死鳥』は違う。説明文からして、武器だけではなく攻撃そのものに炎属性が付加されるのだろう。つまり素手で殴ったとしても、拳は炎を纏って相手に重大な火傷を負わせることができる。昼間の戦闘で絡みついた蔦を一瞬で燃やしてしまったのも、多分蔦から逃れようとしたのを『不死鳥』が攻撃と判断したのだろう。

 そして、料理スキルにも有ったように、属性にもLvがある。最大がLv10だという事を考えれば、Lv8の炎属性と言うのはかなり強力な力だ。どれ位強いのかは、ナックルの白仮面が回避しようとした剣筋がそのまま炎となり、白仮面の全身を走っているのを思い出すと良く分る。


 絡まった蔦を消し炭にしたり、剣筋が炎になって襲い掛かる。強いのを通り越して、怖い位だ。しかもこれでLv8。上のレベルは……正直考えたくない。


 ……しかし、バグにしてはやはり狙いすぎな部分が有る……とは思うものの、真相はまだ闇の中だ。有難く、この力は使わせて貰おう。全PKの殺害は、俺に与えられた使命なんだから。

 でもって。一番気になるのが――――。




 種族:『不死者(アンデッド)』:死亡時、MNT次第でHPが1回復する。




 種族。β版には無かったその表示は、ステータス画面で俺の名前の下に確かに書かれている。正式版で初めて実装されたのか? と思ったが、それならば何らかの手段で情報が伝わってくるはずだ。さらに、俺が今日出会った人々の中で、ウサ耳着けてる人やら全身緑色だったりとか、そんな奴は見なかった……と思う。ならば……これも、バグが?

 非常に強い……というか、チートの域だろ、これ。MNT次第で死なない。つまり、MNTが一定以上有れば死亡を免れるということか。これは、デスゲームと化しているこの《Brave Worlds Online》の中ではこれ以上無い程に心強い。特にPKならば。……俺の場合、PKKと言うのが正しいのだろうが。



 さて、俺自身の事は調べ終えたか。あとは――――――――。




「……ヒカル君? 起きてるかい?」


 コンコン、と軽いノックの音がしたかと思えば、それに続くのはウィストの声。

 ……こんな夜中に何だろう。もしかして、夜這……とかいう冗談はやめておいて、あまり眠たくもないし、恩人に堂々と嘘をつく事は出来ないし。俺はベッドから飛び降りて、はーいと軽く返事をしながら鍵を開け、ドアノブを捻った。こんな時間だ、夜這いはまだしも「今すぐ出てけ」とか言われるのが、妙に現実味が有って怖い。


 だが、見えたウィストの姿は俺の予想を真正面からぶち破る。髪色に合った水色のワンピース――透ける素材らしく、下着が見えている――を着けた彼女は、まるで……先ほど切り捨てたはずの俺の冗談が現実になるような、そんな恰好をしていた。彼女はスレンダーな体をしていて、見たところ、豊か過ぎでも貧し過ぎでもなかった。





「……ちょっと、良いかな?」





 ……え、マジで? いつの間にか俺の胸は、張り裂けそうなくらいに高鳴っていた。

《Brave Worlds Online》内の料理は、ゲーム内のモンスターから取れる食材から作られています。

肉じゃがのジャガイモも肉も、何のモンスターから取れたんでしょうね。


一文の文字数は多いでしょうか?

多くて読みづらい! と思われる方も丁度良いよ! と言う方も、はたまたこれこれこういうのが悪い! って方も、アドバイスを感想欄にお願いいたします。

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