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No.6

 


「ハアアアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」



 一年半前と変わっている事は、白いローブを着けているという事だけだろうか。でも、その白仮面は忘れもしないあの時の奴に、奴らに酷似していた。ソイツらを殺すべき対象とした瞬間に俺の中で何かが千切れ、システムメッセージが表示された。

復讐者(リベンジャー)』……死んだときのシステムメッセージに表示されていたアレは、称号だったのか。……今のこの状況、正にその通りじゃないか。その称号の効果か、力が漲ってくる気がした。それはつまり『()れ』と言われているのと同じであって、気付けば俺は《ステップ》で白仮面の内の一人へと接近し、その首に向かって剣を斜めに振り下ろしていた。


 クラウダ達とは違った感触があって、その後奴の首が飛んだ。光の粒子が散る。


 奴らは仲間の唐突な死に対し、まだ対処しきれないようだった。だが、俺がたった今殺したソイツの隣に居た奴に斬りかかり、咄嗟にガードした腕ごと首を刎ね飛ばした事で漸く事態を把握したらしかった。二人が死んだ事で見えた、奴らに囲まれていた少女に向いていた武器の切っ先が俺へと向く。丁度良い。全員ぶっ殺してやる。俺がそう思うと同時、左右に居た短剣使いと槍使いが同時に俺へと攻撃を開始した。

 短剣使いが投擲したナイフ、槍使いが突き出した確実に射程圏内に入っているだろうスピア。……そのどちらもが、俺にヒットする事無く空を切った。


(おせ)ぇッ!!!」


 体を屈めてナイフを、そして短剣使い側へと《ステップ》することでスピアを回避した俺は勢いに任せて短剣使いへとダッシュする。どうやら女のようだったが、容赦などしなかった。『復讐者』によって強化されているらしい俺の体はソイツがナイフを補充(リロード)する前に目の前へと到達し、叩き斬るように剣を振り抜く。その途中、ソイツは寸ででナイフを補充し終え、自棄(ヤケ)になったように俺の肩へとナイフを突き刺したが、そのダメージと剣筋のブレは微々たるもの。ソイツの顎付近がバッサリと斬られて吹き飛んだ。


「……何やってんだ!! 早くやっちまえ!!」


 リーダーらしき大斧の白仮面が初めて声を出し、PK達を叱咤する。蘇ってから初めて会った三叉槍(トライデント)の男、あかしのような野太い声だ。言われるまでも無いと俺に殺到してくるソイツらだったが、残念ながら早く殺られちまうのはお前らの方だ。殺す。殺してやる。コウタと牡丹を殺したお前らを、許す訳にはいかない。


 前方から向ってきた両手剣を持つ白仮面には、俺を殺した奴のそれとは違う模様が刻まれていた。……まぁ、今となってはソイツが俺を殺した奴でもどっちでも構わない。コイツらを全滅させれば良い話だ。正面から打ち合い、腕力で押し勝った俺はソイツを突き飛ばして《ステップ》で距離を詰め、斜めに首を切り落とした。




 ……楽しい。


 人を殺すのは―――いや、罪無き人を殺す殺人鬼達を殺すのはこんなに楽しいのか。そうか。だから俺は強くなって蘇ってきたのか。楽しい楽しい鬼殺しをするために、《Brave Worlds Online》内の全ての鬼共を殺すために。自然と、笑みが零れてくる。全ての鬼を蹂躙する俺。良いじゃん。良いじゃんか。



「アハハハッ!!!」




 後は、ざっと四人程。その内比較的近くに居た杖の奴を視認した俺は、感情のままにソイツを殺そうと体の方向を変えた。その時、背中に「あの感覚」が伝わる。




「……ッ!!」


「……ハハ、ァッ!?」




 反射的に剣だけを後ろに差し出してしまった俺は、背後から迫っていたナックルダスターを装備した白仮面に両手剣を吹っ飛ばされる。幾ら強くなっていようと、剣だけ相手の方向を向いた不自然な体勢では相手を攻撃を耐えることは不可能だった。カラカラと、ふわふわした見た目の地面に似つかわしくない音を立てながら遠くへと滑っていく俺の剣。ナックルの白仮面の方へ体を向けたが、武器が無い。―――それなら、こうするしかない。《Brave Worlds Online》で何も武器を装備せずに戦う場合、その武器は『素手』だ。

 普段ならば、それは対したダメージにもならない。だが、俺の場合……ステータスが底上げされている場合ならば。現実世界で武道やらボクシングやらを習っていなかった俺だって、ナックルの攻撃を避け、その隙に相手の鳩尾付近へと拳を突き立てる事は可能だった。僅かに体を浮かせ、地面へとダイブするナックルの白仮面。



 僅かに時間が出来た。両手剣を取り戻そうと剣が滑って行った方へと走り、剣まであと一歩と言った所。そんな所で、ガクンと擬音が付く程に動きが止まり、体が言う事を聞かなくる。『何かに足を束縛されている』と気づいた時にはもう遅く、俺は立ち上がっていたナックルに強烈な拳を貰い、地面へ強く叩き付けられた。


「あぶねーな……」


 俺と地面を繋ぎ止めたのは、さっき狙った杖の白仮面の魔法だったらしい。β版でも見たことが有る、モンスターの動きを止めるのに使う魔法だ。足元を見るとツタが絡みついているので、地属性の魔法らしい。早く気付かなかったことに後悔しながらも、何とかあと数㎝と言うところにある剣へと必死で手を伸ばそうとする。



 だがそんな苦労も無駄だったのか、伸ばしていた右腕が大斧の白仮面の声と共に鋭い物に叩き斬られ、何処かに飛んでいった。






「――――――――……!!!!!  ―――!!!!! ……!!!!!!」






 ……想像を絶する痛み。ショックで死んでしまいそうな、と言うよりいっそ此処で死んでしまった方が楽だと思わせるほどだった。


「あっが……ぐ、あ……」


 最初は悲鳴すら出なかった俺だが、正常の呼吸も出来ない為にそんなくぐもった声が漏れる。大斧持ちの白仮面の顔を見ようと後ろを向けば、ナックルの白仮面に頬を殴られて強制的に首の位置を戻された。先ほどの腕切断で大幅に減った俺のHPがさらに減る。

 大斧、ナックル、杖。そしてあと一人、片手剣を持った白仮面は俺の背中を執拗に斬り付ける。薄く、細かく。その度に鋭い痛みが走り、声さえ出なかった。『復讐者(リベンジャー)』のお蔭かHPは中々減らないが、痛みが無限に襲い来る今ではその存在が憎かった。早く死んでしまいたい。一瞬、そんな思考が生まれた。




「……お? ……お前、一年半くらい前にリーダーが殺した奴に似てんな」




 唐突に、俺の髪を掴みながら俺の顔を見た大斧の白仮面が言った。一年半前? リーダー? 何の事だと言いたくなったが、口が動かない。……しかし、ダメージの所為で揺らいでいる視界の中でソイツの着けている仮面を間近で見たとき、急速に一年半前の出来事が……俺が殺されたあの時の事が鮮明に鮮明に思い出された。


 コイツの仮面の傷は、左目の下にある三角の傷。……そうだ、あの時俺が見た白仮面の中に、コイツは居たのだ。武器は変わっているが、仮面の傷は変わっていない。間違いない。



 ……そうか。つまり、コイツは俺が殺された現場に居たのか。


 そして奴は、コウタと牡丹を殺したのか。



 結局大斧の白仮面が言ったのはそれだけで、掴んでいた髪を離して立ち上がった。そして影が動いていることから、俺を殺そうと大斧を振りかぶっている事が分った。……先ほどまでの俺なら、早く死にたいと思ったまま死んでいただろう。実際まだ魔法での拘束は続いているし、回復薬なんかも無いから腕を再生することもできない。はっきり言って、絶望的だった。

 だけど、ソイツがコウタと牡丹を殺した……いや、殺したかはわからないが、それを見届けていたと知った時点で俺の気持ちは変わっていた。






 こんな奴に殺される? 馬鹿言うな。



 俺は生きる。生きてお前らを、殺し尽すんだ。だから、こんな所で、俺は死ねない。







「死ね、ない……」


 俺の言葉は辛うじて大斧の白仮面に届いたようだが、何を言ってもその腕の動きは止まらなかった。あの重量感のある大斧の事だ。どうやっても俺の首は体から切り離されるだろう。そうすれば即死。二度目の死を迎える。

 ……だが俺は、まるで死ぬ気がしなかった。何故だろうか。答えはすぐに出た。死にたくない、死ねないと思ったから。コイツがどう大斧を操ろうと、俺を殺す事は出来ない。例え他三人がどう攻撃しようとも、俺に死を与える事は出来ない。

 そう思った瞬間、斧の刃が俺の首を刎ねた。


 その直後、俺の脳内には二つのシステムメッセージが表示された。二つとも、俺が一年半前に殺された際に表示されたそれだった。

 一つは名前だけ、もう一つはもやが掛かっていて名前さえ表示されないままあの時俺は死んだのだが、今度はもやも掛からず、またそれが何なのかを、はっきりと表示していた。
















 ――――――――――――種族:《不死者(アンデッド)》の効果を発動します。





 ――――――――――――称号:《不死鳥(フェニックス)》の効果を発動します。
















 不思議な事が起きた。首を刎ね飛ばされたと思われた俺の首が繋がっていた。いや、あれは確実に俺の首を飛ばした。僅かに刎ねられた後の景色が見えたから確実だろう。だけど、現に俺の首は繋がっている。……白仮面の四人は、俺を殺したと思って視界から俺の死体を消しているようだった。まだ死んでいないのに。

 ……いや、仕方ないのかもしれない。首を切断すればどんなにHPが有っても一撃死だ。乱入者の俺に興味が湧かないのも、無理はないかもしれない。だったら、チャンスだ。左手で剣を掴もうとして、未だ邪魔をする蔦を振り払おうとすれば、その蔦が俺から生じた炎(・・・・・・・)に燃やされて消滅した。


 四人が振り返るが、その時既に俺は剣を携えて立ち上がっている。右腕は首と同じように再生しなかったが、左手一本で十分だと確信した。何故なら、先ほどよりも更にステータスが上がっていたから。腕を失うとバランスが取れなくなると聞いたことが有るがそんな事は無く、二歩でかなり遠めになっていたナックルの白仮面との距離を詰めると、唐竹割りよろしく真上から剣を振り下ろす。

 ナックルと言う武器は使用者の動きをあまり阻害する事は無い。俺の復活に驚愕していた白仮面も、流石の機動力で《ステップ》か何かで後ろへと俺の攻撃を避けた。ように見えた。


 しかし俺の剣が白仮面の正面を通過した瞬間、俺の剣が赤く光り出した。そしてそれが合図だと言わんばかりに、その剣の軌跡から煌々と燃える炎が噴き出してナックルの白仮面に襲い掛かったのだ。直撃を受けて炎に巻かれ、HPがどんどんと減っていくナックルの白仮面。当然そんな状況で攻撃など出来るはずも無く、隙だらけになったソイツの首は、すぐさま切り落としてやった。


 残りは三人。目を付けたのは、俺の背中を何度も何度も切ってくれやがった片手剣の白仮面。俺が目を付けた瞬間に逃げようとしたのだろうか背を向けたが、俺の素早さから逃れる事は出来ず、まずは背中に一撃。本当ならばあと何回、何十回、何百回と切り刻みたい所だが、ソイツがよろけた所で首を刎ねる程度で許してやった。



 あと二人、と思われたが、見渡してもあの杖の白仮面が居なかった。上手い事逃げたらしい。まぁ良いや。どうせ皆殺しだ。一人くらい今殺せなくても、何の問題も無い。そう思って俺の視線は、「あの野郎逃げやがったな!」とか喚いている大斧の白仮面に向いた。最後の一人だ。リーダーっぽいコイツには、聞きたい事もある。



 距離を一瞬で詰め、ソイツに襲い掛かる俺の剣。対して大斧の白仮面は、その得物を横に思い切り薙ぎ、俺の剣もろとも俺を吹っ飛ばすつもりだったらしい。パワー自慢そうな外見は伊達では無かったらしく、その速度はかなり速い部類なのだろう。俺など、ヒットすれば何mも吹っ飛ばされるどころか、体の一部がもげてしまうことは確実だ。……ただし、俺が強くなってなかったら、の話だが。


「――――……く、おっ!?」


 自分でも驚くような高度に到達したジャンプで、俺はソイツの凶刃を避けきった。驚きの声を上げるソイツの顔へと峰打ちを叩き込み、倒れた所へ未だ赤く輝く剣を突きつけた。


「――――……お前らは何だ」


 剣は熱を放ち、白仮面の首筋をジリジリと焼いている。一種の拷問、とも呼べるだろう。こんな声、自分が出せたのかと思うような低く、唸るような声で俺は問う。一年半前、俺とコウタと牡丹を殺したクソったれなソイツらの名前を。白仮面は死への恐怖からか、我を忘れた様に喋りだした。



「お、俺達は《疵物(キズモノ)》だ! だ、だけど! 俺はもうこんな事はしない! 信じてくれ! 他の奴らの潜伏場所だって教える! だから!!」



 《疵物(キズモノ)》。俺の殺した六芒星の白仮面は居なかったが、何処かで生きているような気がした。そして、「達」と言うのは此処で殺した奴らよりも多くのメンバーが居るのだろう。それならば、ギルドになっているのか。それだけ聞けば、もう何にも情報は要らなかった。本当は潜伏場所とかも聞きたかったが、実を言えば精神的に限界だった。出来て、あと白仮面に一言言って首を斬るくらいか。漫画によくある、助けると見せかけて殺すシーン。コイツらへの侮蔑も兼ねてやっておきたかったところだが、その力は既に無くなっていた。





「じゃあ死ね」





 それだけ言って、白仮面が光の粒子になって空気へ溶けるのを見届けた俺の意識は、そのままパタリと落ちた。俺が蘇った意味を噛み締めながら。でも、仕留め損ねた杖の白仮面の他に誰か忘れているような気を残したまま。

戦闘シーンは難しいです

スピード感と言うか、なんというか

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