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No.11

これで本当に書き溜めが尽きました……

 さて。俺の持っていたアイテムを説明するには、このゲームのクリア条件やストーリーから解説しなければならない。


 まず、この《Brave Worlds Online》のクリア条件は第二十四エリア、『サタンキャッスル』を攻略することである。

 サタンと言うからには、このゲームには魔王が居る。昔々、ゲームの舞台となっている《イーディレト大陸》へと攻め入ってきた悪い魔王だ。その魔王は現れた勇者によって封印されたのだが、現在その魔王が復活し、次々と《イーディレト》の様々なエリアに侵攻、人間はピンチになっている状況というわけ。それがこの物語の大まかなストーリーとなっている。

 そして各エリアにも何か所か、ストーリーが存在している場所がある。ついこの間攻略されたらしい『モスアゲートヴィレッジ』がその内の一か所である。


 第十三エリア、『モスアゲートヴィレッジ』。山間部に一部開けた盆地、其処にこのエリアは有る。雰囲気としては静かな農村というべきだろうか、小さな家がポツポツと立っている、緑豊かな地域である。ただこの村は、とてつもなく広い。村全体で一つのエリアになってしまうほどに。

 そんなこの村はこの度の魔王軍の侵攻によって壊滅した。モンスター達の破壊の限りを尽くした蹂躙に住民達は為す術無く、一人残らず息絶えてしまったのだ。……しかし話はこれで終わらない。何と魔王軍は、殺した住民達を改造し、モンスターとしたのだ。

 ある者は歩く死体であるゾンビに、またある者は動く骸骨……スケルトンに。またある者は体の全てを改造しつくされて未知の化け物と成ったり。魔王軍はそれらを村だった場所に放ち、人間が『サタンキャッスル』へと攻め返してくるのを防がんとしているのだ。


 魔王軍によって一日中薄暗くなった村のその最深部に、ボスである「怪骨王 キメラアンデッド」は居る。コイツは元々普通のスケルトンだったが、突然変異だったのか『吸収』することを覚えた。それによって仲間であるはずのゾンビやスケルトン、化け物、様々な鉱石や武器などを『吸収』し、馬鹿デカいボスモンスターと成り果てたのだ。

 特徴は3mほどある骨の巨体と、12本の腕。その全部に武器を装備し、連続攻撃を仕掛けて来る。硬い鉱石を吸収している所為か防御力が普通の骸骨よりも高く、さらに骨だけなのでデカブツのくせに素早い。加えて驚くべきことに、骨だけでHPが少ないと思いきや、コイツは一回蘇り、攻撃力を増して再攻撃してくるのだ。

 この情報を教えてくれたウィストによると、最初に対決した《攻略組》もこれは流石に予想できていなかったらしく、再攻撃によって二人が死亡したという。それでも、《進む者(アドバンス)》の《炎天》や《天攻剋色(てんこうこくしょく)》の《光騎士(ライトナイト)》などの二つ名持ちが中心となり、その化け骸骨を倒して攻略を完了させたという。


 そして、俺の持つこのアイテムだ。


 アイテム:『怪骨王の奇骨』:様々な鉱石が取り込まれており、非常に硬く、そして軽い真っ白な骨。

 アイテム:『怪骨王の額水晶』:様々な物を取り込み、真っ黒に変色した水晶。禍々しいオーラを放っており、非常に希少価値が高い。


 まず、『怪骨王』と名に付いている時点でキメラアンデッドがドロップするアイテムであることは確定であるうえに、『額水晶』の方は説明文からして希少品(レアドロップ)。それが50個ずつ押し込まれていたというのだから、『ワンステップ』のメンバーが驚くのも無理はない。

 そして今目の前に居るカーラも、そんな貴重な品が大量にある今の光景にごくりと喉を鳴らさずにはいられないようだった。




「……」


 嫌な沈黙が続く。カーラは俺の目をじっと見たまま動かないし、俺はと言えばその女性らしからぬ威圧感と言うか、そんな感じの物に気圧されて動けない。泉希は……あぁ、オロオロしてる。

 鍛冶屋にこの二つを持っていこうとした時点で、こうなるのは承知の上だった。そりゃ、『ついこの前』攻略されたばかりのエリアのボスモンスターが落とす『レアアイテム』を『大量』に持っていたら、幾ら人が良くとも疑われるに決まっている。

 それでも俺がカーラへとこの材料を渡したのは、『ワンステップ』御用達で、全メンバーと交友があるから。此処は『ワンステップ』の名に免じて――こう言うのも心苦しいのだが――只武器と防具を作ってくれと心の中で祈っていた。


「……はぁ。『キメラ』の骨と、水晶かー……」


 その眼で何かを見たのか、はたまたただ単に凝視が疲れただけなのか。カーラはため息をつきながらカウンターに出された二つのアイテムへと手を伸ばしてそう呟いた。……やがて彼女は頬杖を止め、此方へと視線を向けた。……強気な笑顔だ。


「良いぜ。……ま、ウィストが拾った奴に悪い奴は居ねーからな。それにアタシも、久々にレア武器作れるかも知れねーチャンスだし」


 カーラのその言葉に泉希の表情がパッと明るくなった。自分の武器を作ってくれるわけでもないのにカーラに向かって、ありがとうございます! と何回も言っている。でも、正直俺も嬉しい。武器を作ってくれるのもそうだが、カーラが俺を信用してくれたのも一因だ。

 俺がアイテムボックスから骨を十本と水晶を十個程取り出すとカーラは、もう少しのその骨と水晶と、何か毛の素材が有れば防具も作れると言ってきた。……骨は潤沢にある。だが、毛の素材と言っても、俺はそんなモンスターを倒したり、アイテムを貰った覚えは無かった。


「……んー……あ、ヒカルさん? そういえばモンスターハウスでクラウダを狩ってたんじゃないんですか?」


 泉希の言葉に、パッと閃いた。クラウダを狩っている時に、何かアイテムを取得したはずだ。そう思ってアイテムボックスの中身を改めてよく見てみると……あった。確かにクラウダは如何にもふわふわな外見だったが、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。


 アイテム:『雲毛(くもう)』:雲の様に軽い毛糸。衣料品にはとても良い素材となる。


 カーラに見せると、ちょうど良いと言ってきた。『奇骨』は元になっている『キメラアンデッド』が防御力が高かったらしいし、説明文にもとても硬いなんて書いてあったので、防具にしても敵の攻撃をしっかりと防いでくれるはずだ。少なくとも、初期装備よりはマシだろう。

 まずは大量の『雲毛』と、余分に『奇骨』。これで両手剣と防具が作れるらしい。RPGを長年やってきた俺にとって、素材を集めて何か新しいアイテムを作ると言うのはかなりワクワクするものだった。合成とか融合とか、それらは俺にとって、何が出来るのかが堪らなく魅力的な物なのだ。


「じゃ、出来たらメッセ飛ばすから忘れずに来いよ!」


 そんな気持ちを胸に抱いたまま、カーラにそんな声をかけられながら『ヴァルカン』を後にした。どうやら出来るには6時間ほど掛かるらしく、出来たら連絡すると言って俺とカーラの間でフレンド登録をした。お代は出来てからで良いらしい。出来た物を《職人の目》で見てレア度を判定し、価格を決めるとカーラは言った。

 平均価格みたいなものは分らないが、『額水晶』は相当な金になってくれるだろうし、カーラも『ワンステップ』のメンバーである俺からボッタクリはしないだろう。こう言うと少し卑屈な気がするが、運営の下に俺が居る以上、効率的に生きていかなければならないのも事実だ。

 別に皆を騙している訳でもないし、騙す気も無い。縁が出来たなら『ワンステップ』のメンバーやカーラとは仲良くしていきたいのは俺の本心だ。けどやはり、俺の目標は第一に考えていきたい。大切な人が奪われた以上、絶対に。





「ん、美味しいな、これ」


「ですよね! 此処のフルーツ白玉クリームあんみつはゲームの中では最高だと思いますよ!」


 甘いみつ豆とあんこ、酸味のあるみかん、そしてもちもちとした白玉とバニラアイスクリーム。スプーンで一気に掬って口へ運ぶと、冷たさや甘さ、酸味が混じり合った何とも言えない美味しさが口の中へ広がる。

 日中を《シトリンクラウド》『タウン』内の散歩に使い切った俺と泉希は、時間もおやつ時と言う事でとある喫茶店へと入り、甘味を堪能していた。名前は『コスモオーラ』。泉希は此処の常連らしく、おすすめされたそのスイーツを注文したのだがこれが美味い事限りない。

 ゲームの中では料理など二の次な俺だが、それは大抵のゲームに《Brave Worlds Online》のような空腹機能などなく、料理など食べなくとも進めていくことが出来るからだ。現実世界ともなればちゃんと食事は取るし、少し料理もかじっている。あと、甘いものは大好物だ。

 少し女々しい気もするが、牡丹に連れられて人気のアイスクリーム屋とかコーヒーショップとかドーナツ店に行ったのがそれの始まりだ。このゲームの中に支店が無いのがちょっと残念だが、有ったら有ったでゲームの雰囲気に有っていない。……まぁ、中世ヨーロッパの街並みを見てクリームあんみつを食べているのもどうかと思うが。


「……ヒカルさんは、このゲームは好きですか?」


 そんなどうでも良い事を考えながら頂上に(そび)え立つアイスクリームの半分を口に入れた所で、唐突に泉希からそんな事を聞かれた。……何でこのタイミングにそんな事を聞くのかは、この際黙っておこう。言われるがまま、思うがまま、俺はあまり考えずにその問いに答える。


「……嫌いだよ。早く攻略して終わらせたい。……PKを殺し尽してから、な」


 何気なく言った筈だった。けどその時の俺の顔は、怒った表情こそしていないものの、とても怖いそれだったのだろう。このゲームを好きかと問われ、好きだと言う人間は少ないだろう。PKによって一体何人の人間が殺されたかは知らないが、このゲームにここまでの憎悪を持っている人間は少ないんじゃないかと俺は思う。

 大切な人間が殺されただけじゃない。『不死者(アンデッド)』の力を貰ったとはいえ、その大切な人間を殺した人間を殺すチャンスを得たとはいえ、大嫌いなPKが居る世界へと蘇ってきたのだ。一刻も早くPKを全員殺して現実世界に帰らなければ、俺は何時か、本当に発狂してしまうかもしれない。

 泉希は俺の言葉とその表情に、少しだけ顔を俯かせた。そうですかと言うだけの泉希に、俺はまずい事を言ってしまったかと一瞬思う。けど、俺の思いは泉希も承知のはずだ。それなら、泉希はこの世界が好きなのか。思い切って、そう聞いてみることにした。


「……私は……」



「――――ダメだなぁ、ヒカル君は」


 泉希が何かを言い掛けたその時、俺の耳元で誰かが囁いた。聞き覚えの無い、男の声。唐突に聞こえたその声は、別に異様にトーンが高かったわけではないし大声だったわけでもない。しかし俺はそれ(・・)に、確かに身震いがして、鳥肌が立った気がした。まるで、誰かに命を狙われているような感覚だった。

 慌てて首をその方向に振れば、そこには一人、俺の知らない人間が立っていた。一番先に目に入ったのは真っ黒の帽子、そして同じく真っ黒のコート……だろうか。ズボンも黒く、兎に角黒づくめの男だった。顔は俺より少し年上、二十中盤位だろうか。そして、彼は笑っていた。まるではしゃぎ過ぎた子供を(たしな)める母親のような、そんな笑顔だった。


「ダメだよ。この世界で出来た友情もあるだろう? この泉希君のように。その友情を作ったこのゲームを、みすみす手放しちゃいけない」


 誰だと思うより、コイツは何を言っているんだと思う方が早かった。確かに俺は蘇った俺を助けてくれた『ワンステップ』のメンバーに感謝していて、とても大事な物だと思っている。そして、このゲームが無ければそれは生まれなかった。

 だけど、それが《Brave Worlds Online》を手放してはいけない原因になるとは思えない。PKによって多くの人が殺されているであろうこのゲームは、一部の人間を除くプレイヤー全員にとって、クリアすることが最重要目標のはずだ。なら、コイツは―――――。


「……あっ!? あ、貴方は……」


 そこまで考えて、泉希が驚きの声を上げた。……彼女は、コイツを知っているのだろうか。その彼はいつの間にか、四人席で二席空いていた俺と泉希が座るテーブルの一席に座り、呑気にコーヒーを注文していた。先ほどとは、全く雰囲気が違った。


「いやぁ、お忍びで《シトリン》に来て偶然この喫茶店に入ったら泉希君が知らない男といちゃついてるから、思わず聞き耳を立ててしまったよ、ごめんね」


 手を軽く合わせて頭を下げるその男は、やはり泉希と知り合いのようだった。……というより、いちゃついてるって。ただクリームあんみつを食べていただけなのに、他人の目からはそう見られてしまっているのだろうか……。当の泉希もそんな言葉を聞いて軽く混乱しているようで少し頬を染めて恥ずかしそうだが、すぐに立ち直った。


「え、えと、ど、どうしてこの人がヒカルさんって名前だと……」


 ……どうやら、まだ完全には立ち直っていないようだった。それでも泉希が呈した疑問に、彼は届いたコーヒーに、ミルクと砂糖をこれでもかと言うほど入れながらさらりと答えた。


「聞き耳立ててたら泉希君が言っていたからね。彼の名前らしき言葉。合ってるんでしょ? ヒカル君」


「……誰ですか、貴方は」


 確かに、泉希は俺の名を言っていたが……この男、少し馴れ馴れしい。……いや、少しと言う程度ではないだろう。知り合いであろう泉希にはともかく、初対面の俺に対してもその口調なら、普通の人間ならいやでも怪訝な顔になってしまう。実際、今の俺の顔がそれだろう。

 何時まで経っても名乗らない物だからこっちから質問すると、彼は最早甘い牛乳のコーヒー入りと形容する方が正しいような液体を難なく飲みながら、これもまたさらりと答えた。その淡々とした言葉が、かえって不気味だった。



「あぁ、言い忘れてたよ。僕はケイオス。皆からは、《道化師(クラウン)》なんて呼ばれてるけどね」



 その単語には聞き覚えが有った。昨日泉希が俺に語った二つ名持ち。俺と《道化師(クラウン)》、初めての邂逅だった。

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