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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第二章
8/39

侍従の仕事

<登場人物>

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。

峯晃曜ホウ コウヨウ……峰王国の若き国王。玉髄の幼馴染み。

至英凱シ エイガイ……峰王国軍後衛将軍。龍を操る力を持つ。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国軍前衛将軍。龍を操る力を持つ。

 王国軍は、ようやく王都に帰還した。

 危機があったとはいえ、勝利は勝利。国王の徳を(たた)える声が、世間に満ちていた。だが、(いくさ)の傷はすぐには癒えない。王宮に戻ってきても、あわただしい日が続いた。


 夕刻。

 ようやく公務が終わり、国王とその侍従は一息ついた。

玉髄(ギョクズイ)……結構、手ひどくやられたんだね」

「あの子が、(バツ)軍の龍師(リュウシ)なんだろ? 方士が武術に長けてるなんて、聞いたことないよ」

 玉髄はアザのできた胸を撫でて、ふてくされていた。

「軍師も手こずるだろうな……」

 つぶやいた玉髄の口調は、友と一緒にいるときのそれだった。やるべきことを終えたあと、晃曜(コウヨウ)と玉髄はただの友人同士であれる。

「玉髄が嫌でなければ、あの女の子の世話、お前に任せていいかな?」

 晃曜が、そう提案をした。

 玉髄はきょとんとして、尋ね返す。

「え? しかし、軍師が……」

「許可は取ったよ。お前は優しいから、なにか聞きだせるかも」

「まあ、軍師と我が君がおっしゃるなら」

 玉髄は、軽い口調で請け負った。

 晃曜が微笑んだ。しかしすぐに真顔に戻る。

「軍師たちは、焦ってる。いくら我が国が小さくとも、あっというまに花白(カハク)も陥落させられたんだ。国を護るための課題が、山積みになってしまった」

 若い国王は、ふうっとため息をついた。

「跋軍の強さは、断京(ダンケイ)騎龍(キリュウ)だったというだけじゃない。それに、断京が消えてしまったのはなぜか、あの虎符(こふ)はなにか。そもそもあの少女は何者なのか……軍師たちは、すべて聞き出すつもりらしい」

「とは言っても……しゃべるのかな、あの子」

「なにも話さないらしい。なにを聞いても、だんまりだそうだ」

「そこで、僕が世話をしても……あんまりお望みの結果は、期待できないかもよ。だって、いきなり僕を蹴っ飛ばした子なんだよ?」

「そうだったね」

 玉髄のふてくされも気にせず、晃曜は微笑んだ。

「だから、仲直りも兼ねてさ」

「はいはい」

 肩をすくめて、そして玉髄は拱手した。その顔は、笑っていた。


「よっ、話は聞いたよ」

()将軍……それに、(シュ)将軍も」

 あくる日、王宮の廊下で、玉髄は呼び止められた。

 後衛将軍・至英凱(シエイガイ)と、前衛将軍・朱剛鋭(シュゴウエイ)だ。

「ま、いかつい武人に問い詰められるより、君みたいな優男のほうがいいかもねぇ」

 自身も相当な優男である英凱(エイガイ)が、笑いながら言う。

「ずいぶんと、綺麗なおチビちゃんだったしね」

「ハン、薄気味悪い」

 英凱は、涼やかな切れ目をさらに細くした。

 反対に、剛鋭(ゴウエイ)が苦々しげに吐き出す。

「で? これから会いにいくの?」

「はい。食事の時間ですから」

 玉髄の手には、粗末な食事を乗せた(ぜん)がある。虜囚(りょしゅう)の食事だった。

「頑張ってきなよー」

 やや無責任な響きのある声に後押しされて、玉髄は牢へと向かった。

初出:2009年己丑09月07日

修正:2013年癸巳04月29日

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