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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第一章
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唐突な幕引き

<登場人物>

虹玉髄コウ ギョクズイ……物語の主人公。国王付き侍従。

峯晃曜ホウ コウヨウ……峰王国の若き国王。玉髄の幼馴染み。

知登紀チ トウキ……峰王国の女軍師。全軍の指揮をとる。

至英凱シ エイガイ……峰王国後衛将軍。龍を操る力を持つ。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国前衛将軍。龍を操る力を持つ。

跋断京バツ ダンケイ……西方に住む異民族のリーダー。峰王国に侵攻する。

「――以上の作戦を、展開します」

「うむ」

 登紀(トウキ)が明日からの戦略を説き、晃曜(コウヨウ)がうなずいたとき、突如として叫び声が上がった。幕舎の中に、玉髄(ギョクズイ)が走り込んでくる。

「玉髄、どうした?」

「り、龍です! 敵の騎龍(キリュウ)が!」

「なんだと!」

 一同が外へと注意を向けた瞬間、強い衝撃が大地を叩いた。敵の攻撃を受けていることは、容易に感じとれた。

「我が君をお護りせよ!」

 軍師が叫んだ。前衛・右衛・左衛将軍が幕舎を飛び出し、即座に龍を呼び出す。

「玉髄、我が君を」

「はい」

 呆然となりかける晃曜の肩を抱き、玉髄は幕舎を出る。

 物陰に隠れるように移動し、国王に馬に乗るよう促した。騎馬の近衛兵たちが晃曜のまわりを取り囲んで、混乱する陣から脱出する。後衛将軍・至英凱(シエイガイ)も護衛についた。

「まさか直接、殴りこんでくるとはね!」

 うしろで、ひときわ大きな叫びが上がった。騎龍たちを振り払った断京(ダンケイ)の龍が、こちらに向かってくる。

「追いついてきやがった!」

英凱(エイガイ)!」

「我が君、振り返らずにお逃げを!」

 次の瞬間、英凱は馬の上から飛んだ。

 強い光が闇を貫き、紫の鱗を持った龍が現出する。藍色の輝きを帯びた(たま)を放ち、迫り来る断京の赤龍を牽制する。

 しかし、それも一瞬の防御だった。昼間と同じ、黄金の光があたりを貫く。

「わああああっ!」

 襲いくる衝撃波に、誰も彼も馬ごと吹き飛ばされる。玉髄もまた、地面に叩きつけられた。

「つっ……!」

 玉髄は一瞬顔をしかめたが、即座に体勢を立てなおす。

 見れば、同じく地面に投げだされた晃曜の目前に、あの赤い龍が迫っていた。

「貴様の首を取り、今宵から我がこの国の王よ!」

 断京が、残酷な笑みを浮かべる。彼の龍が(よだれ)を垂らしながら、若い国王を睨んでいた。

「あ……ああ……」

「晃曜!」

 玉髄は剣を抜き放ち、晃曜をかばって立ちはだかった。しかし、そんなことで断京はひるまない。

「死ねえィィッ!」

 牙を向いて、圧倒的な力が迫り来る。玉髄は、ギリッと奥歯を噛み締めた。

 ――静寂。

 しかし、殺戮の瞬間は、訪れなかった。

「う、お、オ……?」

 呆然とした声に、玉髄は恐怖を忘れた。いや、正確には目の前の光景に釘付けになったのだ。

 龍の上に立つ断京の体を、黄金の光が刺し貫いていた。

「おオ、おおオオオオ!」

「……なんだ?」

 思わず剣を下ろして、玉髄は目の前の光景に唖然とした。

 幾本もの槍に貫かれたように、光の柱が何本も、断京の体を突き抜けている。槍のようだった光は、時間を追うごとに太くなり、ひとつになり――光の塊となった。断京は叫び続けている。

 やがて、光の塊は断京よりも大きくなった。目を刺すような光が、闇夜を切り裂く。

 断京の上げる叫びは、獣の咆える声に似ていた。やがてそれは、無機質な響きに変わっていく。

 光は、断京のすべて覆ったのち、ゆっくりと収束する。そして、人の拳のほどの大きさに変わると、光は消え去ってしまった。

 キン、と高い音がして、地面になにかが転がった。それっきり――断京の姿は跡形もなく消滅した。同時に、龍の姿も雲散霧消し、暗い赤色の玉が地面に落ちる。

「これは……?」

 玉髄は、先ほど地に落ちたものに、視線を落とした。それは、深い緑色の、虎の形を模した割符(わりふ)だった。

 おそるおそる、剣を伸ばした。切っ先でつつく。なんの反応もない。晃曜や近衛兵たちの見守る中、玉髄は思い切って、その虎符を手に取った。

「玉髄、なんともない?」

「ええ」

 その符は、(ぎょく)でできているのだろうか。ずっしりとした重さが、玉髄の手にかかる。

「我が君ー!」

「我が君はいずこー!」

 兵士たちの声が聞こえる。

「我が君はご無事です!」

 玉髄は声を張り上げた。剣を鞘に戻し、晃曜を助け起こす。

「断京は! 断京の野郎はどうなった!?」

 剛鋭(ゴウエイ)が龍を飛ばし、そして玉髄の前に降り立った。

「わかりません。突然、消えてしまって――あとに、これが」

「なんだこりゃ……割符?」

「さわらないで!」

 玉髄の差し出した符に剛鋭が触れようとしたとき、登紀がそれを制止した。

「とても、大きな波動を感じます。正体が判明するまで、触れてはなりません」

「こいつはいいのか?」

 剛鋭が、玉髄を指す。

「ええ――影響は、されてないようですしね」

 得体の知れないもの。玉髄はたまたま、触れても平気だった。それを見て、登紀は玉髄に言った。

「玉髄、それはあなたがしっかりと持っていてください。あとでしかるべき処置をしますが、それまでは」

()軍師……。わかりました」

 玉髄はうなずき、虎符(コフ)を懐へと仕舞った。

初出:2009年己丑09月01日

修正:2013年癸巳04月26日

なかなか主人公が活躍しない…(汗)

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