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英雄

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。龍を操る力をにわかに得る。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国軍前衛将軍。龍を操る力を持つ。

炎亮季エン リョウキ……左衛将軍・天泰壱テンタイイツの配下。騎龍見習い。

甘喜玲カン キレイ……右衛将軍・風加羅フウカラの配下。騎龍見習い。

 青と緑、その二つの光が消えたとき、そこにはもう脅威はいなかった。

 ただ、少年が少女を片手に抱え、黒い翼を広げ、浮かんでいる。

 やがて、玉髄の黒い翼が、急速に消えていった。彼の体が大きく均衡を崩す。少女とともに、墜ちていく。

「墜ちるぞ!」

 わっと、騎龍たちが飛ぶ。落ちゆく英雄を止めようと、速度を上げる。その中で、一番速かった紅い龍――剛鋭(ゴウエイ)が、彼らを抱きとめた。

 歓声が上がった。

「まったく、未熟者のくせに無茶をする」

「そうね、でも……龍をあんな風にして、彈も使えてる」

 剛鋭の言葉に、青玉(セイギョク)が答えた。

「手前がそうさせたんじゃないのか? わざと鵬に喰われてまで」

「違う。これは、玉髄の力」

 わずかに散った羽根や蟲も、ほぼ焼き尽くされた。

 大気が、さざめく。

 龍と騎龍たちの、勝鬨の声だ。胸のすくような、綺麗な風が吹いている。

 その流れに髪をまかせ、青玉はつぶやいていた。

玉髄(ギョクズイ)……あなたには、才がある」

 青く澄んだ瞳が、空を見渡していた。その視線の先を、無数の龍たちが飛んでゆく。

 英雄を、讃えている。玉髄の実力を、認めたのだ。

「手前も、すさまじい霊力を持っていやがる」

 嫌悪でも怒りでもなく、羨望のような響きが混じっている。

「いったい、何者だ?」

「わたしは龍を統べる者。古詩の青き仙女よ」

「……すこしは、信じてやるよ」

 剛鋭はため息をつきながらそう言った。青玉はただ、いたずらっぽく笑っただけだった。

「……っつ」

「玉髄、気をしっかり」

 玉髄はすぐに意識を取り戻した。ただ、大きな力を使ったあとだ。かなり消耗しているには違いない。

「玉髄君、やったわね!」

 声がして、黄色い龍が迫ってきた。その上に乗っていた喜玲(キレイ)が、感極まったように玉髄に飛びついた。

 玉髄は状況が呑みこめず、目を白黒させている。

「あっ、おい、乗んな! 重い!」

 剛鋭が怒鳴る。四人も乗せると、さすがの龍も負担が大きいらしい。

「そうだぜ、喜玲。自分の龍に戻れよ」

 蒼灰色(そうかいしょく)の龍がそばに浮かぶ。亮季(リョウキ)だった。喜玲から解放された玉髄は、申し訳なさそうにうなだれた。

「ごめん、亮季の剣……壊してしまった」

「いいって。俺の剣で倒したんだぜ。へへっ、ほかの奴らに自慢してやろ」

 気持ちのいい笑顔を浮かべて、亮季が笑う。玉髄もつられて笑った。

「赤龍の主人、ありがとう」

「あ、おい!」

 青玉がいきなり玉髄を抱えたかと思うと、剛鋭の龍から飛び降りた。同時に、青玉の白い龍が彼らを受け止める。

 騎龍たち、龍たちの歓声を受けて、白い龍は上空へと遊ぶ。龍たちの中でいちばん高い場所で、龍は止まった。空中で静止し、(ひげ)とたてがみだけがなびく。

「さて、玉髄」

 かなり高いところまで飛んだ。そして彼らの真下を、一千の龍がわだかまるように飛ぶ。いきおい、ほかの騎龍は彼らに近づけない。二人きりだ。

「あ、ああ……何?」

「それ」

 青玉は、玉髄の手の中にある琥符を指差した。真っ二つに割れて、もう符としての形は保っていない。深く澄んだ緑色は、翡翠というより碧玉のようでもある。

「こんなものが……すべてを、破壊しようとしていたのか?」

「ええ。たいした知能もない鵬が喰ったのは、悲劇だった。鵬はただ琥符に操られるままに、力の集まる地を目指しただけ」

 そして青玉は、玉髄の隣に寄り添った。

「玉髄、それ持って、わたしに喰べさせて」

「へっ!?」

「早く」

 青玉はアン、と口を開けた。玉髄は青玉と琥符とを見比べて、困り果てたように眉を寄せた。

「む、無理だよ。こんな堅い石」

「わたしなら、無理じゃない」

 彼女は、何でも食べることができる。だがこの呪わしい力を持った琥符まで、喰らおうと言うのか。

「これは、この世に置いていけないものだから。永遠に、わたしの血肉となればいい」

 青玉はすり、と玉髄に体を寄せ、ねだる。

「喰べさせて」

「でも、だったら君が自分で」

「ダメよ、わたしがさわったら、また咒縛されちゃうかも」

 まだ力が残っているみたいだし、と青玉は言った。確かに、ごく弱くだが、いまだ金色の光を放っている――ようにも見える。よくわからない。

「修復できないまでに壊してしまえば、その力も消える。琥符は、道具。道具は形を失えば、その力を失うもの」

「でも、君が触れたら、咒縛されるかもって……だったら、食べても駄目じゃ」

「早くしないと、あなたの手ごと喰べるわよ」

 青玉はさらりと、玉髄を脅した。そしてニッと歯を剥く。

「わ、わかったよ」

 自分の手の惜しさに、玉髄は割れた琥符の片方を差し出した。

 深い緑色の符に、青玉がかじりつく。白い歯が、堅い石に食い込む。ガリ、と厭な音がした。青玉は琥符の一部を噛み砕き、口の奥に含んだ。まるで菓子でも食べるように、もごもごと口を動かす。

「ん……っ」

 彼女の白い喉から、黄金の光が透けて見える。頬が赤らむ。

「青玉、大丈夫!?」

 玉髄が不安げに尋ねると、青玉はニコリと笑った。そして光は彼女の胸のあたりまで落ちて、スッと消えた。

「ふー……」

 青玉が、大きくため息をついた。どうやら、完全に琥符の力は消えたらしい。

「さ、次も」

 青玉は、ゆっくり琥符を噛み砕いて、呑みこんでいく。そして最後のかけらを口に含もうとしたとき、玉髄の指先も唇にはさんだ。

「わっ」

 玉髄はあわてて指を引く。柔らかく潤った唇の感触が、指先に残る。

「大丈夫。喰べたりしないわ」

 青玉が笑う。ごくり、と彼女の喉が鳴り、琥符はすべて彼女の腹に収まった。

 戦いは、終わった。

初出:2010年庚寅07月26日

修正:2013年癸巳08月28日

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