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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第五章
30/39

少年

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。翼ある黒龍・応龍を操る力を得る。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

晃耀コウヨウ……峰国の若き国王。玉髄の幼馴染み。

女茄ジョカ……玉髄に仕える召使い。青玉の世話係。

 夕餉はなんとか平穏に済ませ、玉髄(ギョクズイ)青玉(セイギョク)に割り当てた部屋にまで、彼女を連れていく。

 二つの部屋が続いた造りで、奥の()の方に寝台がある。

「ここで過ごせばいいのよね?」

「ああ。中のものは好きに使って。隣に女茄(ジョカ)を控えさせてるから、用事があったら、必ず彼女を通してね」

「玉髄は、ひとりなの?」

「……うん。父はもう亡くなったし。母は、東の領地のほうで暮らしてる。親戚もあまりいないから、使用人を除いたら僕ひとりだね」

「そう」

「青玉、夜中に抜け出したりしないでよ。一応、君は……まだ罪人なんだからね」

「うん」

 玉髄は、内心苦笑した。まるで口うるさい母親だ。

「じゃ、おやすみ」

 玉髄は奥の間を出て、控えていた女茄に小さく声をかける。

「女茄、よろしく頼む。変なところで、子供みたいな人だから」

「玉髄様は、あの方を拡小評価しすぎだと思います! あの方は、仙女様ですよ?」

「はいはい。君が世話をしてくれて、助かるよ」

 肩をすくめて、玉髄は興奮する侍女をなだめた。

 自室に戻り、玉髄は別の家人に命じて、風呂の準備をさせた。いろいろなことが起こりすぎて、体も心も疲れている。それを洗い流したかった。

「若様、湯の準備が整いました」

「ああ」

 家人たちの多くは、玉髄を「若様」と呼ぶ。この家の当主はすでに玉髄であるのに、「旦那様」とは呼ばない。だが仕方のないことだ――玉髄はそう思っていた。先代、つまり彼の父が、偉大すぎた。家人たちとって「旦那様」とは、いまだに玉髄の父のことを指すのだ。

(その方が……僕のほうも、しっくりくるけどな)

 髪を解く。腰まである長い髪だ。男のものとは言え、長くなると自重で大人しく垂れ下がる。その乾いた髪が腰の辺りに触れる感触は、くすぐったい。女の指で、かすかに触れられたなら、こんな感じがするだろうか。

 玉髄は、湯気に満たされた浴室に入った。

 広い浴室は、亡き父が母のためを考えて作ったものだ。貴族の箱入り娘であった母には、いつも世話役の侍女がついていた。水はけのよい洗い場が広いのは、数人が一度に入ってもゆとりがあるように作っているのだ。

「はあ……」

 湯につかって、玉髄は息を漏らした。嘆息ではない。久々に緊張がとけた気がした。

(青玉……か)

 立ちのぼる湯気を見ながら、あの少女のことを考える。

『――あの方は、仙女様ですよ?』

 女茄の言葉が蘇る。そうだ。彼女は、自分たちのような人間ではない。感覚がズレていると思い知らされるときが多い。生きている世界が違う。それは、繰り返し、感じていることだ。

 彼女は、それをわかっているのだろうか。

(そうだよなぁ……)

 とらえどころがない。それは、玉髄も感じている。けれども、会話を重ねれば、それほど警戒する気持ちもわいてこない。

 それに、眼と髪の色を考えなければ――とびきりの、美少女だ。全身の肌は白く、唇や頬は薄紅色(うすべにいろ)を帯びている。いつも垂らした髪は、夜でも艶を保つ。

(……いや、色さえも……彼女の美しさだ)

 そこまで考えて、玉髄は飛び起きた。

(僕は……いま、なにを考えて!?)

 湯が大きな音を立てる。大雑把な水泡が、わきあがって消えた。

(いや、違う! 綺麗だけど、そういうことじゃなくて!)

 支離滅裂な思考で悶える。バシャバシャと水が派手な音を立てた。

「あのー若様、どうなされましたー?」

 外で火の番をしていた下男が、いぶかしげに尋ねてくる。玉髄はハッと我に返った。

「いや、なんでもない! 虫が来て驚いたんだ」

 苦しい言い訳をして、玉髄は口元まで湯につかった。

(いやな予感がする……)

 明日からはどんな騒ぎが待っているのだろう。そう思うと、玉髄は口元から盛大に泡を吐きだした。そしてその間抜けなため息に、顔を赤くしたのだった。



 次の日も玉髄が参内すると、晃耀は別の侍従から、西方からの報告を受けていた。

登紀(トウキ)が、戻ってくるそうだ」

「呼び戻されたのですか」

「いや、相談の書簡を送ったら、戻ってくると言ってね。西方のこともあるのに。これじゃ予が頼りないみたいだ」

 まだ若い国王は、ふてくされたように頬杖をついた。

「登紀も、気負ってるのかな。父上が予のことを頼んだから」

 先王は、その臨終の真際に、臣下たちに晃耀(コウヨウ)のことをねんごろに頼んだ。軍師も、将軍らも、そして畏れ多くも玉髄までもが間近に呼ばれ、託された。その様子は、守護神とまで言われた先王が見せた、人の親らしい一面だった。

 それは、長い戦をともに戦ってきた臣下たちに、忠心と人情を植えつけた。

「軍師殿は、臣下としてのつとめを全うされたいだけですよ」

「わかってる」

 晃耀が笑った。ふてくされた態度はわざとだったらしい。

「そうだ、玉髄。登紀から、君宛ての書状も来ている」

 晃耀は、別の侍従に指示をして、一通の書簡を持ってこさせた。それを玉髄に手渡す。

 その中身を見て、玉髄はしばし固まった。

初出:2010年庚寅06月18日

修正:2013年癸巳08月11日

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