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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第五章
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不可思議な生活

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。翼ある黒龍・応龍を操る力を得る。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

晃耀コウヨウ……峰国の若き国王。玉髄の幼馴染み。

女茄ジョカ……玉髄に仕える召使い。青玉の世話係。

 数週間ぶりに、玉髄(ギョクズイ)は文官の服に身を包み、侍従として参内した。すぐさま国王から、二人きりで会いたいとお召しがかかった。

「玉髄、お帰り!」

晃耀(コウヨウ)……?」

「ほら、このあいだは言えなかったし」

 御前に参上したとたん、幼馴染が笑顔で出迎えてくれた。

 ふとそれに懐かしさを思い出し、玉髄は思わず涙を目に浮かべそうになった。

「昨日会ったときは、あのまま倒れるんじゃないかと思ったよ……。騎龍の調練は、辛かった?」

「うん、すごく辛かった。でも……」

 敬語もなしに、玉髄は答えた。晃耀にいらぬ心配はかけたくない。玉髄は、辛かった事実をあっさり認めて、そして笑った。

「僕は、もっともっと頑張るよ。頑張って、この国のために戦える者になる」

 玉髄の笑顔に、晃耀も微笑んだ。

「なんだか、すごく逞しくなった。見違えたよ」

「そうかな?」

「うん。これからは、玉髄が護ってくれるんだね」

「僕はまだ未熟だよ。自分をどうにかするだけで、精一杯さ」

 玉髄は苦笑した。

「そうだ、晃曜。大事な話がある」

「なあに?」

「……あの、青い髪の仙女を、僕の屋敷に迎えたんだ」

「青い髪の仙女って……あの、龍師!? 本当なの!?」

「本当は、朱将軍のところにいたほうがよかったのかもしれないけど……ついてきちゃって。仕方ないから、いまは僕の屋敷から出ないよう言いつけてあるよ」

 玉髄は真剣な表情で、だが内心ドキドキしながら報告する。どんなお咎めがあるか、それが心配だった。

「彼女の目的も聞き出した。覚えてる? 断京を消滅させた、あの虎符のこと」

「ああ。あの金色の光を出した、割符だね」

 晃耀は怒りもせず、玉髄の報告を冷静に聞く。王者の鷹揚さだ。

「あの子が断京のもとにいたのは、彼が持っていたその虎符を破壊するため。あれは、本当は琥符(コフ)といい、すべてを破壊する力を秘めているらしい。彼女はいままで、あの琥符の行方を追っていたそうだ」

「確かな話?」

「本人がそう言っていた。たぶん……そうなんだと思う」

 晃耀は、その話を聞き終わると、キッと表情を引き締めた。

「玉髄、軍師やほかの者とも相談しなければならないけれど……彼女に特赦を出せるようにしよう」

「晃耀、それは……!」

「彼女は、この国に必要な人だ。罪には落とせない」

 少女の顔が、王になっている。年は若くとも、その風格があふれていた。

「ありがとう、我が君」

「だけど玉髄、特赦を出せる時まで、しっかりその仙女の身柄を預かっておいて。誰に何を言われようとも」

「御意」

 玉髄は臣下として、覚悟をこめて、しっかりと拱手(きょうしゅ)したのだった。



「玉髄様、お帰りなさいませ」

 屋敷に帰ると、若い侍女が玉髄を出迎えた。

 女茄(ジョカ)という名で、ぽっちゃりした体つきの侍女だ。容貌も十人並み(ごくふつう)で、けっして美人とは言えない。しかし変に気を張らないで済む。

 玉髄にとって、よい家人だった。

「それ、夕食の?」

「はい」

 侍女は、食事の用意の途中だったのだろう。手には、生きた魚の入った水桶を抱えている。

「青玉は?」

「いまは、お寝みになっておられます」

 家人たちのほとんどは、青玉を畏れていた。多分、気味悪がってもいるだろう。

 そんな中で、玉髄はこの女茄に、青玉の世話を頼み込んだ。彼女は快くそれを受けてくれたが、心中では相当迷惑しているのかもしれない。

「すまない、無理言って」

「玉髄様は、無理など仰らない方ですわ」

「いや、でも……青玉のことはさ、気が張るだろう?」

「いいえ!」

 女茄は、強い調子で否定した。その顔が笑っている。

「女茄は、平気です! それどころか、ワクワクします!」

「わ、ワクワク?」

 急に意気が上がった侍女に、玉髄は思わず呆気に取られた。

「青と白は、神聖な色! その二色を具えた龍をお持ちの、青き仙女様! これはもう、峰国と玉髄様にきことの起こる前触れですわ!」

 瞳にキラキラと星をきらめかせて、若い侍女は力説する。

「ああ……女茄は、この幻想的な運命に立ち会えるのですね。嬉しゅうございます~」

 うっとりした口調で言いながら、侍女は両手を頬に当て、乙女全開のポーズをする。微笑ましい気はするのだが、容姿が容姿なのであまり似合っていない。

 玉髄は、口元に引きつった笑みを浮かべた。

 この侍女が、伝説や幻想的なことが好きなのは知っていたが、ここまで狂信的だったとは。頭を抱えそうになる。

「お腹すいた……」

 ぽや~っとした声がした。青玉がぼーっとした顔で佇んでいる。寝起きはいつもそうなのだろうか、フラリフラリと玉髄たちのほうに歩いてくる。

「青玉様! よくお休みになられましたか?」

「うん」

「よろしゅうございました。お食事の用意、いたしますわね」

 女茄が桶を軽く上げて、示した。魚が、生きもよく跳ね上がった。

「それ……」

「今晩の食材ですよ。生きがいいでしょう?」

 女茄は桶を地面に下ろした。澄んだ水の中で、魚の鱗が銀色に光る。よく見れば、底の方には蟹もいるようだった。

「これっ、食べていいの?」

 青玉は急に目を光らせた。まるで子供だ。

「うん、今夜の晩ごはんだよ。いま調理させるから――って、もう食べてるーッ!?」

 玉髄は、思わず悲鳴を上げた。青玉が桶に手を突っ込んだかと思うと、次の瞬間には魚を頭から貪っていたのだ。ボリボリと容赦無い音が響いてくる。

「駄目だよ! 僕たちの分もあるんだから――って、言ってるそばから蟹を殻ごと食べないの!」

 モリモリ食う、とはまさにこのこと。硬いはずの甲殻はたやすく噛み砕かれ、青玉の喉がゴクリと鳴る。

「青玉! おあずけ!」

「ええー?」

「ええーじゃない! はしたないとは思わないの!?」

 犬から餌を取り上げるように、玉髄は桶を持ち上げた。そして中をのぞいたが、被害は魚一匹、蟹一匹で済んだようだ。玉髄は呆れながら揺れる桶の水を見ていたが、ふとなにかを思いついたように青玉に尋ねた。

「ねぇ、青玉。もしかして、なんでも食べられるの?」

「うん」

「丸ごと?」

「うん」

 とどこおりなく返事が返ってくる。玉髄の眉が大きく寄った。

「ま、まさか……人を食べたりはしないよね?」

「あはは、まさか」

 青玉はコロコロと笑う。

 一方の玉髄は、ふーっと息をついた。

「ちゃんと、人も食べられるよ」

 その瞬間、玉髄は前につんのめり、危うく桶の中身をひっくり返しそうになった。

「青玉! サラッと怖いこと言わないで!」

「聞いたのは玉髄でしょー?」

 玉髄がまた悲鳴のような声で怒鳴るなか、青玉は悪びれた様子もなく返す。

「言っとくけど、それは可能か不可能かで言った時よ。玉髄を食べたりはしないよ?」

「ああそう……」

「それに、お肉より、わたしは果物の方が好きだよ?」

「それ、口のまわり血みどろにして言っても説得力ないから……」

「さすが仙女様! 俗世のわたしたちとは、違いますね~!」

「女茄……それ違うと思う……なんか違うと思う……」

 生きる世界が、違いすぎている。その感覚に適応している侍女も侍女だ。

 玉髄は、るるーと涙を流したくなった。

初出:2010年庚寅06月18日

修正:2013年癸巳08月10日

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