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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第五章
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雲の城

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。龍を操る力をにわかに得たため、訓練を受けることになる。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

解賢歩カイ ケンホ……峰王国司龍。龍に関する全般を把握・管理する立場にある。天才と名高い。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国軍前衛将軍。龍を操る力を持つ。

炎亮季エン リョウキ……左衛将軍・天泰壱テンタイイツの配下。騎龍見習い。

甘喜玲カン キレイ……右衛将軍・風加羅フウカラの配下。騎龍見習い。

 剛鋭(ゴウエイ)玉髄(ギョクズイ)たちは、湖の(みぎわ)まで出てきていた。

 青玉(セイギョク)の言葉を確かめるため、いま空を覆っている雲の上まで飛ぼうというのだ。

「雲の上へ行くって? 危ないよ!」

 心配する賢歩(ケンホ)をよそに、騎龍たちは空へ飛ぶために精神を鎮め、呼吸を整える。

 空は濃い雲におおわれて、いまにも雨が降り出しそうだ。

「天気の悪い時は、熟練の騎龍でも集中力を乱して落ちることがあるんだから!」

「承知の上だ」

 剛鋭が、賢歩に答えた。賢歩はむうっと口を尖らせる。

「危ないのに……、なにも見習いの彼らじゃなくてもいいでしょ?」

「手前、言ったろ。こいつらは、普通の騎龍とは違う使い方ができる、と」

 剛鋭はニッと笑った。

「そいつを試してみる。ちょいとキツいのは、乗り越えてもらうぜ」

「もぉぉ……無茶はさせないでよー。死なせちゃったら、意味がないんだから」

 剛鋭は笑ったまま、手を振って応えた。そして、やや離れた場所で精神を整えていた見習い騎龍たちの前に行く。

「準備できたか、見習いども!」

「はい!」

「見ての通り、天気が悪い。途中で雨になるかもな」

 剛鋭は親指で、天をさした。

「だが、顔や体に水がかかった程度であわてるな。龍の現出には、俺たちの意識が大きく影響する。雨程度で乱されるような集中力だと、最悪、龍が消えて墜落することもある」

 三人は、神妙な面持ちで剛鋭の言葉を聞く。

「ここが手前らの腕の見せ所だ! おのれの騎龍の力、見せてみろ!」

「はい!」

 三人の若い騎龍たちの声が唱和する。そして、それぞれに距離を取って浅瀬に立ち、おのれの体の中に呼びかけた。四色の鮮やかな光が、あたりを彩る。四人の瞳がそれぞれの色に変化し、喉元に光る逆鱗が現れる。

「来い、我が龍よ!」

 そして、如意珠の(あな)から龍が現出する。

 騎龍たちはその背に跳躍し、大地という戒めから解き放たれた。龍の浮力を感じながら、騎龍たちは上空を目指す。

「いいか! あの雲を一気に突き昇り、その上を見に行く!」

 剛鋭の瞳が、その龍の瞳と同じ、血紅色に輝いている。その迫力をもって下される指示は、聞かずにはいられない。

「雲に入るまでに十分に速度を上げろ! そしてためらわず雲に入れ! 中では、ただ一方向に向かって飛べ! わかったか!!」

「はい!」

「いくぞ!!」

 十二分に引き絞られた弓から、矢が放たれるように。龍が大気を貫いて飛んでいく。

 騎龍たちは龍頭の上にしゃがみ、風の抵抗を避ける。その体が龍から落ちないのは、龍の玄妙な力によるところだろうか。

 玉髄も応龍の角に両手をかけ、身をさらに低くした。風の抵抗が減って、息苦しさが消える。

 そして龍たちは速度を落とさずに、分厚い雲の中に突入した。

「うわっぷぷ!」

 水滴と風が、顔面を襲う。思わず失速しそうになる龍を抑え、若い騎龍たちは方向を変えず飛ぶ。ここで上下の感覚を失えば、息もできないこの雲の中で遭難することになる。

 玉髄の龍が、風の抵抗を受けない程度に翼を広げ、亮季(リョウキ)たちの龍の前に入った。押し寄せる風が翼によって流れ、亮季たちの上昇をすこしだけ助ける。

「ぷあ!」

 突如、嵐の闇が途切れた。呼吸が一気に楽になり、そして心地よい冷気が彼らを撫でた。

「ここが……」

「雲の上……」

 若い騎龍たちは、目を奪われた。見渡すかぎりの雲海は、その中の激しさなど嘘のように、凪いだ湖のようである。白く、柔らかくゆったりとしたその平原は、足をつければ歩けそうだった。

「涼しいんだなぁ、雲の上って」

 吹き抜ける風が、水晶のように冷たい。雲を抜けてきたせいで、多少湿ってしまった服と鎧が、その風に乾かされる。

「あんな中を通ったんだから、もっとびしょびしょになりそうなものだけど。服も顔も、あんまり濡れてないわね」

「これも龍の力のせいなんだろうか?」

 三人は改めて、世界と龍の不思議をしみじみと感じた。

「おい! 見習いども! 早く来い!」

「は、はい!」

 だが長く感慨に浸っている場合ではない。

 剛鋭の怒鳴り声に、三人はあわててそちらへ飛んだ。

「来たか。上を見ろ」

 剛鋭の示した先を見上げる。はるか上空、そこに巨大な雲の塊が見える。黒く厚く、見るからに嵐を孕んでいそうだ。

「雲の城だ……」

 亮季がつぶやく。喜玲(キレイ)が剛鋭に尋ねた。

「動いてるんですか? あれ」

「ごくゆっくりだがな。西へ動いてる」

 玉髄も目をこらした。黒い雲の塊。パッと見ただけでは動いているようには見えない。もっとよく見ようと、玉髄は目を細める。と、あの雲の端に、雷電が閃いた――ように見えた。

「――!」

 玉髄は、胸元を押さえた。心臓が大きく打った気がしたのだ。

「どうした」

「厭な、感じがした気がして……」

「ふむ」

 剛鋭が眉を寄せた。

「しかし……まずいな」

 小さなつぶやきが、風に流れる。

「よし、戻るぞ。またあの女に聞くことがある」

 赤龍が身をひるがえし、それに残りの三匹も従った。

 降りる時のほうが、玉髄らを消耗させた。それでもなんとか雲の下に出た時、すでにそこも雨が降っていた。玉髄たちは濡れ鼠になりながら、兵舎へと戻った。


「飛んだのね」

 青玉が薄く笑って、小さな鼻をクン、と鳴らした。

「大空の匂いがする」

「余計なことは言うな。また牢にブチ込むぞ」

 青玉はその言葉を恐れもせず、ただ微笑んだだけだった。

「時が来れば、いずれわかるわ」

「……俺の気は短いぞ?」

 剛鋭が目を細めると、まわりを固めている兵士たちが剣の柄に手をかける。普通の人間ならすくみあがってしまうだろう。しかし、少女は軽く肩をすくめただけだった。

「あれには、意思がある」

 そして、青玉はその知るところを言葉に紡ぐ。託宣をする(みこ)のように。

「とても単純な意思。多分、これからも方角は変えない」

「と、なると――」

「王都を、守った方がいい」

 剛鋭はふと、青玉の目を見て――ハッと目を見張った。

 青玉の瞳から、温度が失われている。太陽に照らされた、空の色ではない。月光に浮かぶ、氷の青だ。冗談めかした態度は、そこにない。

「蜚牛がここに降ったのは幸い。災厄のひとつは予想できる」

「また、同じようなことが起きるのか」

「蜚牛が落ちたのは、この湖が初めてだった」

「なぜだ?」

「力は、力に惹かれるから、かしら」

 少女の答えは、どこか漠然としている。

「ある物事の発展する場所には、それなりに理由がある。大きな湖も、大きな城も、そこに力が集まっているから」

「王都には、あの雲の城を、バケモノどもを惹きつける力があるというのか」

 青玉は黙ってうなずいた。

 獅子のように剛鋭はうなる。

 彼の緊張が周囲の兵にも伝わり――玉髄たちも、息を呑んだ。

初出:2010年庚寅04月25日

修正:2013年癸巳08月03日

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