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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第五章
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迫るもの

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。龍を操る力をにわかに得たため、訓練を受けることになる。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

解賢歩カイ ケンホ……峰王国司龍。龍に関する全般を把握・管理する立場にある。天才と名高い。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国軍前衛将軍。龍を操る力を持つ。

炎亮季エン リョウキ……左衛将軍・天泰壱テンタイイツの配下。騎龍見習い。

甘喜玲カン キレイ……右衛将軍・風加羅フウカラの配下。騎龍見習い。

 翌朝。

 朝食を済ませた新人騎龍たちは、なんとなく集まって談笑していた。調練が始まるまでの時間つぶしだ。しかし、周囲の大人たちは彼らには目もくれず、忙しそうに走り回っている。

「なんか、ものものしいね」

「軍の施設が襲われたんだ。もう大騒ぎ。俺らの調練どころじゃねーや」

 亮季(リョウキ)がため息をつく。

 如意珠を授かり騎龍となった者は、見習いとして一定の期間、調練を受けることが定められているそうだ。それを経ねば、王国軍の戦士としては認められないのだ。

「このままじゃ、俺たちの残りの調練は延期かもな。また青山(セイザン)に戻らされるかも」

「ええー」

 喜玲(キレイ)もまた、がっくりと肩を落とす。王国軍の騎龍となれば、王都でつとめる機会もある。長く東方の山にいた彼らには、それが楽しみだったのだろう。

「見習いども、ここにいたか」

 背の高い将軍と、幼い司龍が連れだってやってくる。

 若い騎龍たちは愚痴を中断し、敬礼した。

(シュ)将軍、(カイ)司龍おはようございます!」

「はーい、おはよー」

 剛鋭(ゴウエイ)は厳然としたものだが、賢歩(ケンホ)はまだ眠り足りないのか、目がしょぼしょぼと揺らいでいる。

 玉髄(ギョクズイ)は思い切って、尋ねてみた。

「あの、朱将軍……青玉(セイギョク)は、いま、どうしてます?」

「あ? 見張りをつけてある。勝手なことはさせん」

「昨日の夜、変なことはしてませんでしたか?」

「いや? そんな報告は受けてねぇな」

 内心ほっとする。青玉が抜け出していたことは、悟られていないらしい。

「そんなことより、これからのお前たちのことだ」

 剛鋭は、若者たちがいちばん気にしている話題を持ち出した。

「亮季、喜玲、玉髄。手前らは俺の補佐に回れ。それで調練の代替にする」

「ええっ、それでいいのですか!?」

「昨日の戦いぶりを見た。基本的なことは、もういいだろう。それよりも優先すべき事項がある。あのバケモノどもは、空から来た。そいつを調べに行く。きちんとついてこいよ」

「はい!」

 三人は姿勢を正した。その瞳には、強い光があった。


「まずは、あの食えない小娘からだ」

 剛鋭は玉髄たちを連れ、兵舎の一室に向かった。

「手前らは余計なことを言うな。俺が質問する」

「はい」

 そこは、青玉が閉じ込められている部屋だった。彼女は椅子に座らされ、周囲には武器を持った兵士が控えている。

「あら、今日は玉髄たちも一緒なのね」

 剣を突きつけられても不思議ではない状況だが、青玉は余裕しゃくしゃくだ。無理もない。彼女には緊縛も武器も効かない。軍人たちの腰の剣では、彼女のあくびを妨げることもできないだろう。

「ねぇ、ここから出してくれない?」

「ならん。手前は俺たちの質問に答えりゃいいんだ」

 剛鋭は青玉から視線を逸らす。彼女の瞳には、騎龍たちを誘惑する色がある。それを見ないようにしているのだ。

「あの蜚牛の件だ。手前なら知っているだろう」

 青玉はすこしうつむいた。なにかを考えているような表情だ。

「あの雲の上には、もっと大きな雲がある」

 そして出た答えは、どこか呑気なものだった。

「どういうことだ?」

「そのままの意味。まるで城のような雲。それがゆっくり、東から西へと進んでいる」

 青玉は、すいっと手を宙に彷徨(さまよ)わせた。

琥符(コフ)の行方を見失って困っていたら、あれを見つけた。調べようと思ったんだけど、雲までの高度がありすぎて、とてもじゃないけどそこまで飛べなかった。

 仕方ないから、下層の雲の上で見張ってたんだけど。そしたら、蜚牛の塊が、その雲から落ちてきたの」

「……そうか」

 剛鋭はむすっとした表情で、ほかの兵士に指示を出した。しばしして、大きな卓が運び込まれ、その上に地図が広げられる。

「すごい。結構、精巧なのね」

 その地図は、峰国全土の地図だった。他国のほとんど妄想で書かれたような地図とちがい、街道の曲がり具合、湖の形、城の面積、深山幽谷の地形、どれをとっても正確さが違う。その技術はひとえに、騎龍の飛行能力を最大限生かした結果だ。

「で、どのあたりからその雲の城とやらを追ってきた?」

「このあたりからずっと」

 その詳細な地図の上に、青玉はぽんと駒を置いた。本来なら、軍兵の位置を示すための駒だ。そしてその上から指をさし、すっと線を描く。

「間違いないな?」

「ええ」

 青玉が手で描いた線は、直線だった。雲はある一点に向かって、まっすぐ進んでいるのだ。その先にあるのは――。

「……このまま行くと、王都の上を通るな」

 その場にいた者の空気が、ピシリと張りつめた。

「蜚牛があの雲から落ちてきたのは、間違いないな?」

「ええ。わたしの龍たちに誓って」

 剛鋭がすこし驚いたように目を見張り、思わず少女の方を見る。おのれの龍に誓う――それは、騎龍にとって、最も神聖な誓いだ。

「本当なんだな?」

「信じられないなら、見てくれば? あなたの龍なら、できないはずはない」

 焚きつけるような言葉に、剛鋭は眉を寄せた。

「……行くぞ、見習いども。ほかの奴は、そこを片付けておけ」

 剛鋭は亮季たちに指示すると、部屋を出る。

「青玉、おとなしくしててね」

「うん」

 部屋を出るまぎわ、玉髄がそう言うと、青玉は素直にうなずいた。剛鋭が玉髄を睨む。玉髄はあわてて、同輩らとともに出ていった。

初出:2010年庚寅04月25日

修正:2013年癸巳08月02日

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