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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第四章
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再会

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。龍を操る力をにわかに得たため、訓練を受けることになる。

青玉セイギョク……あらゆる龍を操る能力を持つ少女。青い髪と瞳をしている。

解賢歩カイ ケンホ……峰王国司龍。龍に関する全般を把握・管理する立場にある。天才と名高い。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国軍前衛将軍。龍を操る力を持つ。

炎亮季エン リョウキ……左衛将軍・天泰壱テンタイイツの配下。騎龍見習い。

甘喜玲カン キレイ……右衛将軍・風加羅フウカラの配下。騎龍見習い。

 水際は、なぎ倒された葦の原になっていた。

 少年と少女は、おたがい地上に下り立ち、龍を玉に戻す。

 見知った顔だった。青い髪の少女――青玉(セイギョク)は屈託のない笑顔で、玉髄(ギョクズイ)のそばにやってきた。

「久しぶり、玉髄。無事でなによりだわ」

「あ……え、と……青玉、どうしてここに?」

 玉髄には、まだ状況が呑みこめていない。

 いまの牛はなんだったのか。

 さっきの光は彼女のものなのか。そもそも、なぜここにいま彼女はやってきたのか。

 混乱が混乱を呼び、少年の頭をぐらんぐらんと揺らす。

 そこに剛鋭(ゴウエイ)が走ってきた。剣を抜いた兵士を、何人も連れている。

 玉髄は蒼くなった。

 以前、剛鋭は青玉に動きを封じられ、完敗している。雪辱とばかり、いきなり斬り合いが始まってもおかしくない。

「……手前、なにしに来やがった? 自分の身分が、わかっているのか?」

 剛鋭が青玉に尋ねる。彼の声はいつもより低かった。いまにも怒鳴り声が飛び出しそうだ。だが、どこか呆気にとられている感もあった。

「剛鋭サン、ちょっと待って! この人は?」

 そこに、賢歩(ケンホ)が割って入った。

「俺に聞くな」

 剛鋭が、むすっとした声で答えた。

 賢歩は自身の視線を、青玉に滑らせた。青玉の青い髪、青い目、白い異国風の衣を見て――そして、目を見張る。

「あなたは……仙人なのですね」

「わかるのね。賢い人」

 青玉が、にっこりと微笑んだ。

 その笑みに、賢歩は姿勢を正した。まるで王者に対するかのように、両足をそろえ、真剣な眼差しを捧げる。

「ボクは峰国司龍・解賢歩(カイケンホ)と申します。霊力(ちから)ある龍師とお見受けしました。よろしければ、御名をお教えください」

「丁寧にありがとう。わたしの名は、青玉。かつて、この地上に龍をもたらせし者」

 その言葉に、賢歩はハッと目を見張る。その唇から、詩の一節が零れる。

「青き仙女が舞い踊り、白き龍が神を導く……」

「そう。信じる、信じないは、あなた次第」

 目だけを細めて、青玉は笑った。そして彼女は、剛鋭に向き直る。

「紅き龍の主人、わたしを不審がるあなたの気持ちも、至極もっともなことよ?」

 青玉の背は、それほど高くない。獅子のような剛鋭とでは、かなり差がある。いきおい、彼女は剛鋭を見上げるようにして、首をかしげた。

「でも、あまり邪険にされると哀しいな……」

 青玉の青い瞳が、すこし哀しそうに、じっと剛鋭を見つめた。

 剛鋭は魅入られたように言葉を失っている。硬派で鳴らした将軍の頬が、なんと紅くなっている。

「わたしは、この国を護る戦士たちのために、ここに来たの。いいかしら?」

「あ、ああ……」

 なんと、剛鋭は反論しなかった。彼らしからぬ生返事を返し、ぼうっと彼女を見つめている。珍しいというよりも不可解な光景だった。

「あなたたちは見習いね。よい眼をしているわ」

 青い視線が、騎龍たちの上をすべる。今度は、喜玲(キレイ)亮季(リョウキ)に、だ。

「あ……」

 喜玲が、思わずため息のような声を漏らす。にっこりと笑う青玉に、見惚れたようだった。

「せ、青玉?」

「なに? 玉髄」

「皆に、何かした?」

「ううん。どうして?」

「いや、その……」

 玉髄は釈然としない表情を隠すことができなかった。

 音に聞く騎龍たちが、腑抜けたように呆けている。青玉が何もしていないはずはない。だが、青玉はケロリとしたものである。

「そうだ。さっきの蜚牛(ひぎゅう)、土の上で殺した分がまだ残ってたわね。ちょっと調べさせてもらうわ」

 青玉は、くるんと踵を返した。両足の金環が軽い音を鳴らす。そのまま彼女は、土の上で死んでいる牛のもとへと歩いていった。

「お、おいっ、待て! 勝手なことはするな!」

 我に返った剛鋭が、あわてて青玉のあとを追う。だが怒鳴り声もいまひとつ弱い。そのまま彼らは、騒ぎをむこうへと持っていった。

「いやぁ……すごい人が来ちゃったね」

 残った賢歩がため息をついた。

「あの、彼女がなにかしたのですか?」

「玉髄クンは、感じなかったの?」

「な、なにがですか?」

 玉髄は当惑するばかりである。

「なんか……すごく、不思議な人だったなぁ」

 喜玲が、うっとりとつぶやいた。

「こう、ほわ~っていうの? 見つめられたら、すごく幸せな気分になっちゃって……」

「そうだよなぁ……」

 亮季までも、ふわふわとした表情だ。

 玉髄だけが怪訝な顔をしたまま、青い髪の少女を見つめていた。

初出:2010年庚寅02月09日

修正:2013年癸巳07月23日

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