表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第三章
17/39

四衛将軍

<登場人物>

至英凱シ エイガイ……峰王国軍の後衛将軍。龍を操る力を持つ。

天泰壱テン タイイツ……峰王国軍の左衛将軍。英凱と同じく龍を操る力を持つ。

風加羅フウカラ……峰王国軍の右衛将軍。同じく龍を操る力を持つ。

 数日ののち。

 王宮の一室。

 後衛将軍・至英凱(シエイガイ)は、左衛将軍・天泰壱(テンタイイツ)の部屋を訪ねていた。

「おや、風加羅(フウカラ)も来てたのか」

王都みやこの茶は、しばらく飲めぬからな」

 泰壱(タイイツ)の部屋には先客がいた。右衛将軍・風加羅である。峰国西方の異民族出身であるこの将軍は、寡黙な雰囲気をまとっている。だが実際は派手好きで、先鋒をつとめる剛鋭(ゴウエイ)とよく張り合っていたものだ。

「ああ、英凱(エイガイ)、いらっしゃい。」

「剛鋭は? ここのところ、姿が見えないけど」

「本日より、蟠湖(ハンコ)にて調練に入ったはずだ」

「ああ、そうか。もうすぐなんだね、玉髄(ギョクズイ)君の命運が決まるのは」

 英凱はその予定を思い出し、心得顔になる。

 泰壱が茶を持ってきた。この将軍は、四衛将軍の中でいちばん年上だ。だが、背の低さと童顔があいまって、とてもそうには見えない。

「はーい、どうぞ。風加羅、西方の復興、頑張ってきてねー」

 呑気な口調で言いながら、泰壱は器を差し出した。風加羅が受け取ると、泰壱はひらひらと手を振った。

「あーそうだ。剛鋭のことだけど、ついでだからウチのところの子もお任せしましたよぉ」

「同じく」

 風加羅も同調した。

「なんだいなんだい。二人とも、ちゃっかり剛鋭に押しつけたのかよ? アタシもやりゃよかった」

 英凱は腰に手を当てて、口を尖らせた。

 彼らが言っているのは、新米騎龍の調練のことだ。左右の将軍は、この機に乗じて、新人の訓練を剛鋭に託したらしい。

「仕方がない。我はこれから、軍師とともに西方に戻らねばならぬ」

 風加羅が、抑揚のすくない口調でそう言った。

 王国軍は帰還したが、戦の爪痕は予想以上に深かった。復興のためには、西方の諸侯らだけでは、手が足りていない。その支援のため、軍師・知登紀チトウキと風加羅は、再び王都を発つことが決まっていた。

「あー……そうだけど、泰壱は居残りだろう? 預ける必要はないんじゃない?」

「だって、剛鋭は玉髄君の調練をするんだろう? すごい見物だよ。ウチの子には、いろんなことを見ておいてほしくってねぇ。あ、これ英凱の分」

 童顔の将軍は、へらへら笑いながら、英凱に茶を出した。

 英凱は釈然としない表情で、それを受け取る。

「あの黒い龍を、見習いに見せて、見分でも広めさせようっての?」

「それもあるけど。剛鋭はなんだかんだ言って、面倒を見るのがうまいからねー」

(たま)の扱いも、うまい」

 それは、剛鋭が優秀な騎龍であることのあらわれでもあった。優秀な騎龍がいれば、素直に尊敬する。それが騎龍たちの性格だ。

「まぁそうか。一度にいろんなことを学ぼうと思ったら、剛鋭が適任かねぇ」

 英凱は、ふうとため息をついた。

「それにしても、玉髄君のあの龍……鱗の境すら見えぬ、美しい黒だった」

 わずかに高揚した口調で、英凱は記憶をたどった。

 思い出すのは、侍従の少年が得た、黒い龍。龍は、その鱗の色が濃いほど、高い武力を秘めていると言われる。漆黒の龍はまさにその極みだった。

「いったい、どれだけの力を秘めているのだろう……」

「だが、危険な力だ」

 風加羅が低い声で言う。

 誰も反論しなかった。

「もし、あの子が龍を使いこなせないなら」

「死んでもらうことになりますねぇ」

 泰壱は丸っこい眼を動かさず、そして口調も変えずに続けた。それが当然だと言うように。

 英凱は、ふうっと大きくため息をついた。

「あーあー、とことん貧乏くじだね、剛鋭は。我が君のご不興を買うことになるかも」

「だが、我が君の私情では、なんともならぬ」

「そうそう。我らの軍師様だって、僕たちと同じ考えですもの」

 背の低い左衛将軍は、ふっと目を細めた。

「不相応な力を持つ騎龍には――死を」

 騎龍には、騎龍の矜持がある。誰も彼も、龍を乗りこなし彈を操ること、それをやってのける自分に誇りを持っている。そして、自分たち以上にそれができる者へ、魂の底から憧憬(あこがれ)(いだ)く。

 裏を返せば、龍を操るに力足りぬ者への嫌悪となる。不相応な力を持たせるくらいなら、その騎龍を殺し、如意珠にふさわしい者へと継がせるべきだ。峰国の騎龍たちには、多かれすくなかれ、その想いが共通認識としてあるのだ。

 そして玉髄は、試されている。あまりに強い龍を得た、にわか騎龍。

 その彼がこの調練で結果を出せなければ――剛鋭が、彼を処分する。

「よい結果が出るといいねぇ。この国のために」

 誰の幸運を祈るのか。それがわからない言葉で、英凱はつぶやいた。

初出:2009年己丑10月16日

修正:2013年癸巳05月18日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ