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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第二章
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夢と現

<登場人物>

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。龍を操る力を得たようだが、代償としてある能力を失う。

峯晃耀ホウ コウヨウ……峰国の若き国王。玉髄の幼馴染み。

知登紀チ トウキ……峰国の女軍師。他人の能力を見ることができる。

至英凱シ エイガイ……峰王国後衛将軍。龍を操る力を持つ。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国前衛将軍。龍を操る力を持つ。

(ちちうえー)


 ぼんやりと、玉髄は夢を見ていた。

 夢の中で、子供のころの、記憶をたどる。

 花と光の満ちた庭で、父親といる。母親が、笑っている。

 花に止まる蝶を追って、玉髄は駆ける。蝶は空高く舞い上がり、玉髄の手の届かないところに行ってしまった。


(あー……行っちゃった)

(逃げられたか。蝶は飛べるから、しょうがないな)

(父上も、お空を飛べるんでしょ? 僕も、父上みたいなきりゅうになりたいです!)

(ははは、残念だが、それは無理だ)

(なんでですか?)


 父親は、玉髄の頭を撫でた。


(お前は、私のただひとりの子だ。(コウ)家を継ぐ、ただひとりの者。それを忘れないでおくれ)

(ただひとりだと、きりゅうになれないのですか?)

(そうだな。お前に、弟か妹がいれば――いや、せんないことだ)


 父親はそう言って苦笑した。まだ若い父が諦めたようにため息をついた、その意味を、玉髄はまだよく理解できなかった。



「う……うう……」

 玉髄は目覚めた。

 どこかの部屋の寝台に寝かされていた。もう夕暮れ時なのだろうか。淡い金色を増した光が、部屋に射しこんでいる。

「よかった、気づいたんだね」

(コウ)……いや、我が君」

 目を開けてまず見えたのは、晃耀(コウヨウ)だった。玉髄は一瞬、友の顔に安心しかけたが、周囲に軍師や将軍たちがいるのを見て、飛び起きた。

「玉髄、起きちゃ駄目だよ!」

「で、ですが」

「まあまあ……とりあえず、その手を開いてみなよ?」

 英凱(エイガイ)に言われて、玉髄は初めて、自分の左手を見た。皮膚が白くなるほどに、強く握っている。感覚がほとんどない。

 玉髄は一瞬ギョッとした。だがいつまでもそうしてはいられないので、右手でゆっくりと左手を揉みほぐす。そうしてやっと手が開いた。

 黒く、ヒビ割れた不格好な石が、握られていた。

「君は騎龍になった。もう、後戻りはできないよ」

「僕が、騎龍……?」

 玉髄は記憶をたどる。

 刑場で、あの少女が龍たちを操ったのは覚えている。そして彼女は、自分の持っていた(ギョク)を、龍に変えた。そして自分は、あの龍を――。

「なんてこった。虹家は、これで終わりだな」

剛鋭(ゴウエイ)!」

 剛鋭の小さなつぶやきを、軍師が鋭くとがめた。ごく小さな声だったが、玉髄にも聞こえた。

「終わりって、なんですか……?」

「あー……」

 英凱が、じとっとした視線で剛鋭を睨んだ。

 剛鋭もまずいことを言った自覚があるのだろう。苦々しげな表情で、目を伏せている。

「もうすこし、落ちついてからのほうがいいと思うんだけど、聞きたい?」

「……はい」

「騎龍はね、どこの家でも嫡子(あとつぎ)や当主がなってはならないものなんだ。アタシも剛鋭も、二男坊、三男坊さ」

「え、でも、父は騎龍でしたが……」

「知らないの? (さきの)大将軍が騎龍になったのは、君が生まれたあと。逆に言えば、大将軍は、君が生まれるまで、騎龍になるのを先延ばしにしていたんだ。君が生まれるまで、大将軍は普通の人間だったんだ」

「そういえば……しかし、なぜ――」

 なぜ、と尋ねかけて、玉髄はハッと表情を凍らせた。

「騎龍になる教育、というか心構えを教わってない君に言うには、(こく)だけどね」

 英凱が、言い辛そうに口元を歪ませる。

「騎龍になるとね……んー……子供を作る力が、なくなってしまうんだ」

「え……」

「もし、自分の龍が死んだり、如意珠(ニョイジュ)の力を放棄すれば、戻るらしいけどね。龍は丈夫だから、めったに死んだりしない。人間の寿命が尽きて死ぬ方が先のことが多い。そして、せっかく得た龍の力を放棄する馬鹿もいない。もっとも、放棄する(すべ)なんて、誰も知らないけど」

「つまり……僕は……」

 玉髄は言葉を継げずに、口をパクパクと動かすだけだった。

 虹家の血を継ぐ者は、自分しかいない。その自分が子供を作る術を失った。当然、虹家をその血統で存続させることが、不可能になったのだ。

 青玉の言葉が、父親の苦笑が、頭をぐるぐると回る。


『好きな子はいる?』


(弟か妹がいれば――いや、せんないことだ)


『子供を作りたいと、思えるような人』


「そ……そ……そういう……ことか……!」

 玉髄の頭の中で、なにかが急速に膨らんでいく。そしてそれは弾けた。

「うそだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 玉髄は叫んだ。怒りと悲しみと不条理への戸惑いが、ないまぜになって混乱を引き起こす。おばけに驚かされた子供のように、悲鳴を上げる。

「まずい、恐慌(きょうこう)を起こした!」

「落ち着かせろ! 薬師(やくし)を!」

「玉髄、気を確かに!」

 少年の狂ったような叫びと、周囲の大人たちの声が、しばし響いていた。

初出:2009年己丑10月16日

修正:2013年癸巳05月12日

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