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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第二章
12/39

思いどおりには

<登場人物>

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。峰国王づき侍従。

・少女……異民族・跋族の中で「青娘」と呼ばれていた謎の少女。

知登紀チ トウキ……峰王国の女軍師。黒い巻き髪の美女。

朱剛鋭シュ ゴウエイ……峰王国前衛将軍。豪傑だが短気な性格。

「どうしたの? 元気ないね」

 牢に入り、食事を済まさせたあと――少女は、そう尋ねてきた。

「君がなにも話してくれないから」

 返事が思わず皮肉になる。これでは八つ当たりだ。玉髄(ギョクズイ)は、未熟な自分にため息をついた。

「なにか、あったんだね?」

 青い瞳が、真剣な色になる。玉髄はかえって気まずく思った。

「皆、せっかちなんだ。もっとゆっくりの方が、君はいいんでしょ?」

「ゆっくり?」

「時が、来るまでさ」

「……わたしが話さないから、玉髄は怒られたの?」

「…………」

 玉髄は返事を返さなかった。

 少女の青い目が、すこしだけ悲しそうな色を帯びた。

「ごめんね」

「あ、謝らないで」

「でも、迷惑をかけた」

 玉髄が次の言葉を継ごうとした時、獄吏(ごくり)が彼らのもとまでやってきた。

「軍師殿がお呼びだ。出ろ!」

 もう尋問の時間か。数人の獄吏が少女をひきだす準備に入る。

 それを横目に見ながら、玉髄はそそくさと膳を回収した。

「また明日」

 少女がすこしだけ笑った。



 少女は、軍師の前にひきだされた。王国軍の将軍たちも、その場にいる。(バツ)軍の龍師――そう目される者に、高官たちの注目が集まっていた。

 巻き髪の軍師・知登紀(チトウキ)が、穏やかな口調で尋ねる。

「跋軍のあの強さ、なにか秘密があるのでしょう? 話していただければ、あなたの罪は問いません」

 答えなければ、罪に罰が与えられる――軍師は、暗にそう脅していた。

断京(ダンケイ)如意珠(ニョイジュ)を与えたのは、あなたですか?」

「…………」

「では、あの虎符はなんなのですか?」

「…………」

 少女は目を閉じたまま黙っていた。その様子はまるで眠っているかのようだ。答える気配は微塵もない。

「では――」

「…………」

 その時、小さく、少女の唇が開いた。なにを言うのか。周囲の緊張が高まる。そして、その紅の唇が、息を吸って――。

「ふあぁぁぁ……」

 緊迫した空気をブチ破る、間の抜けた大あくびだった。峰国の高官たちは、一瞬呆気にとられる。

 少女はそれを気にする様子もなく、今度は眠そうに、前方に戒められた手で何度か目をこすった。

「こ……っの、クソガキ! いい加減にしやがれ!」

剛鋭(ゴウエイ)、落ちついて落ちついて!」

「こんなヤツが龍師なワケねぇだろう! とっとと処刑しちまえ!」

 いきりたつ者やそれをなだめる者、呆れたようにため息をつく者で、騒然となる。

 それからも、なだめたり脅したり――あらゆる方法で答えさせようとさせながら、質問が繰り返される。

 しかし、ついに少女はなにも話さなかった。



(コウ)侍従」

 その日の夕方。

 牢獄へ、粗末な膳を持って歩いていた玉髄に、声がかかった。振り返ると、ゆるやかな巻き髪の軍師が立っている。その美しい容貌は、鮮やかな王国軍の指揮にふさわしい。気性の荒い将軍たちでさえ、彼女の前にはやわらげられる。

()軍師。おつとめ、お疲れ様です」

 玉髄もにこやかな顔で応じた。国王のところで何度も顔を合わせている。将軍たちと対峙するよりは、気が楽だった。

「あの少女のところへ、行くのですね?」

「はい」

「……その少女の、ことなのですが」

 女軍師の声が、低く悲しそうな色を帯びた。


「……彼女を処刑する、ですって?」


「残念ですが、そうせざるを得ないでしょう」

 軍師は表情を変えなかった。あの少女を処刑する。それが決まったそうだ。

「我が国が受けた脅威を考えれば、彼女を解放することは到底できません。帰順もしないならば、やはり……」

「そんな! 彼女はまだ、時じゃないと!」

 玉髄は思わず膳を取り落として詰め寄りそうになった。出そうになる手をぐっと抑え、なんとか言葉だけで抗議する。

「時?」

「牢で、何度か話をしました。自分の名も名乗ってはくれませんが、彼女は……まだその時ではないと、何度も」

 強い口調で、玉髄は訴えた。それは、あの少女への信頼からくる感情だった。

「時が来れば、きっと話してくれるはずです!」

「いつ、その時がくるのでしょう? そしてそれは、なんのための時なのでしょう?」

「それは……」

 答えられない。玉髄はくやしそうに眉をしかめた。

「明日の朝、刑場にて斬首に処します。それから――方士を滅する方法で処分します」

「――!」

 方士を滅する方法――それを聞いて、玉髄は立ちすくむしかなかった。その残酷な方法を、彼は知っていた。膳を持つ手が小さく震えている。

 そうしているうちに、軍師は話を切り上げた。踵を返し、ゆっくりと立ち去ってゆく。

 それを止めることもできずに、玉髄はしばし呆然としていた。

初出:2009年己丑09月14日

修正:2013年癸巳05月09日

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