第三十話
ハヤト、ルシア、ユウジ、レイケツの四人は土日に温泉へ行くこととなった。
レイケツの運転する車の中で会話するハヤトたち。
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「しかし、いくらなんでも急すぎやしないか? 当日誘うなんてどうかしてるよ」
「どうせ暇してたんだろ? ならいいじゃん。ルシアちゃんだって、ハヤトの家でのんびりオンラインゲームばっかりじゃ飽きちゃうだろ」
ユウジは助手席からちらちらと後ろを見ながらそう言ってきた。
確かにゲームばかりなのは問題だな。
ルシアも何をしたいかもう少し言ってくれればいいのに。
他人任せにしてる俺のせいでもある、か。
俺が男らしく誘ってやるべきだったのだろうか。
「ふふ、ユウジったら本当はハヤトの妹が目当てだったのよ? 忙しくてこれないみたいだけど」
「あー、なんだそっちが本命かよ。ユズは早くに友達とどこかに遊びに行ったぞ、残念だったな」
なんだよ、ユウジのやつまだ妹のことを諦めてなかったのか。
ユズは別にユウジのことを何とも思ってないのにな。
いや、まだ安心するのは早いか。
ユウジがレイケツの子ってことは、当然手が早いかもしれん。
兄として妹をしっかりと守ってやらねば。
「ところで、温泉ってなんですか?」
「え、異世界には温泉ないの? でっかい天然のお風呂みたいなもんだよ」
ルシアが首をかしげながら聞いてきた。
はて、異世界には温泉がないのだろうか?
それともルシアが箱入り娘だから知らないだけ?
「あら、異世界って何のことかしら?」
「え、あ、そ、それは……」
あ、しまった。
レイケツもいたのについ。
「ふふ、冗談よ。話は全部ユウジから聞いてるわ。安心しなさい、ネッケツには言わないから」
このクソ教師がああああ!
いちいち俺をからかうんじゃねえよ!
そういやルシアが来た初日もからかってきたな。
あの思わせぶりの発言のせいで、どれだけ胃を痛めたことか。
「にしてもお金は本当にいいのか? 俺今月は無一文だぜ?」
「ふふ、そのくらいは私が面倒を見てあげるわ、口止め料ってところかしらね?」
ユウジのことをばらすなってことなのか。
今月はルシアの服を買って金欠だったから助かるけども。
そういえば、ルシアはあの時買った服だな。
うんうん、すごいよく似合ってる。
「ところでハヤトはもう少しマシな服なかったのか? ルシアちゃんに比べて見劣りするぞ?」
「ほっとけ」
対して自分の服は安物しか持ってない。
デートとかそういうの全然想定してなかったし。
あれ? 今日のは、別にデートではないよな?
ユウジやレイケツだっているわけだし。
まあでも楽しみだな。温泉なんていつ以来だろう?
中学のころに親が離婚してから、家族旅行なんてしてなかったしなあ。
おっと、そんな暗い過去のことは今はなしにしよう。
せっかくの温泉旅行だ、楽しんでいこうじゃないか。




