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特別編1

20話記念ということで特別編、ハヤトが高校一年生の頃の出来事です。

いつもより少し長めですが、よろしければどうぞ。

 ハヤトが高校一年生の時の出来事。


---



 あー、憂鬱だ。

 今日は2月14日、そうバレンタインデーだ。

 誰がこんな日を決めたんだよ、全くもって迷惑な話だ。


 ――朝、学校についた。

 机の中を軽くチェックするがそれらしきものはない。

 まあ当然だろう。

 べ、別に期待してたわけじゃねーから!


「よお! ハヤト。今日はなんだかそわそわしてるな?」

「はあ? そわそわなんてしてねえよ。大体なんで俺がそわそわなんてしないといけないんだよ」


 あーあー、ユウジのやつは余裕でいいよなあ。

 どうせ何個もチョコもらえるんだろ?

 モテるやつにモテない俺の気持ちなんてわかるわけはないんだ。


「なんでって、今日は何の日か知ってるんだろ? どっちが多くもらえるか賭けようぜ!」

「アホか、そんな負けるとわかってる勝負に誰が乗るんだよ」


 こいつめ、俺がもらえないとわかってていってんのか?

 憎たらしい。リア充爆発しろ!


「なんだよ、自信ないのか? そういやハヤトが女子と話してるとこなんて見たことないなあ」

「ふ、わかってないなユウジ。女子はクールな男のほうが好きなんだぜ? だから言い出せないだけで俺のことを好きな子はいっぱいいるんだよ」


 なんだかわからないが見栄を張りたくなった。

 くそう、俺だって、俺だってあの中学時代のトラウマさえなければ今頃は……。

 そうだ、ケイコが俺にチョコをくれる可能性もあるじゃないか!

 それにほら、同じ委員会のナツキだって義理でくれるかもしれない。


「ほえー、なら勝負するか? 負けたほうは明日の学食でおごるってのはどうだ?」

「ああ、わかった。後で後悔しても知らないからな?」


 ぐああ、俺のばかやろう! ユウジに勝てるわけないだろうがああ。

 はあ、何やってんだろう俺――。


 ――そして、案の定一個もチョコをもらえないまま昼休みになってしまう。


「おう、ハヤト調子はどうだ?」

「ま、まあぼちぼちだな。そっちはどうなんだよ」


 さすがに一個ももらえてないなんて言えねえ。

 あーもう負け確定なのはわかってんだよ。クソ。

 学食で昼を食べながらもテンションはだだ下がりだった。

 ギブミーチョコレート!


「んー、まあまだ三個だなあ。しかも全部義理チョコだぜ、参っちゃうよな」

「だ、だよな、義理なんかより本命がほしいよな……」


 そういって、もらったチョコを見せびらかすユウジ。

 いつの間に三個ももらってやがったんだコイツ。

 しかも見た感じ義理とは思えない豪華なやつもある。

 義理すらもらえない俺はどうしたらいいんだ……。


 ――そして、とうとう一個ももらえないまま放課後となってしまうのだった。


「おう、ハヤト! まだ帰ってなかったのか。俺は結局五個だけだったぜ」

「はいはい、わかったわかった。俺の負けだよ、明日はおごってやるからもうその話はやめようぜ……」


 最後の望みをかけていつもよりのんびり帰り支度をしてたんだが、無駄な足掻きだったようだ。

 はあ、もらえない気はしてたが実際本当にもらえないとショックが大きい。

 しかもユウジが大量にもらっているという事実が俺にトドメを刺した。

 もう俺のHP(ライフ)は0よ。これ以上やめてくれえええ。


「あー、ユウジー! ちょうどよかった。これ余ったからあげるー」

「おー、サンキュー」


 隣のクラスの女子がマッチ売りの少女かっていうくらい大きなカゴを持って登場した。

 どうやらユウジの知り合いのようだ。

 さらに差を広げる気かコイツめ。


「まだあるからユウジのお友達もどうぞー?」

「え、あ、ありがとう……」


 そういって俺にも一個手作りと思しきチョコを差し出してきた。

 名前も知らないその子からもらったチョコの味はとても甘く美味しく感じたのだった。


「しかし、マメだなあ。クラスの男子全員にあげたのか?」

「うん、そうだよー、お菓子作り好きだし。あ、もういかなきゃ、そいじゃまたねー」


 そういって俺にチョコをくれた天使は颯爽とその場を去って行った。

 俺は去っていくその子をいつまでも眺めていた。


「ん? なにぼーっとしてんだハヤト。チョコもらえたのがそんなに嬉しかったのか?」

「……え! あ、いやそんなんじゃねえよ、名前も知らない子だったから誰かなーって思っただけだ」


 なんていうか、これが一目惚れっていうやつなのか、とそう思った。


「今のやつのことならアカネだぞ。俺は中学が一緒だったんだよ。普段は大人しいけど、こういうイベントとか結構好きなタイプなんじゃねえかなあ」

「アカネさん……か」


 その頃から、俺はアカネのことが好きになったのだった。

 こんなんで好きになるのもどうかと思うが、普段会話すらしない俺には十分すぎるくらい衝撃的だったのだ。


 そして、心を弾ませながら下駄箱に行くと何やらチョコらしきものを発見する。

 こ、これは……。

 あわててチョコを鞄に隠し、人がいないことを確認してからチェックする。

 ほ、本物だ! ついに俺にも本命チョコがきた!

 いや、本命かどうかなんてわからないけどな。


 あれ、でも誰からか書いてないな。

 ケイコからか? んなわけねーか。

 も、もしかしてただのイタズラの可能性も。

 ユウジが俺に気を使って適当に自分のもらったやつを一個入れてとかもあり得る。


 ま、いいか。もらえるものはもらっておこう。


 ――そして、そのまま上機嫌で帰宅する。


「はい、お兄ちゃんコレ。どうせ今日も誰からももらえなかったんでしょ? しょうがないからあたしがあげるよ。べ、別にお兄ちゃんのために用意したわけじゃないからね! 余ったからあげるだけなんだから!」

「はいはい、ありがとさん」


 なんだかんだいって毎年必ず妹はチョコをくれる。

 俺がチョコをもらえるはずないと思ってるんだろうな。

 気を使ってるだけなんだろうけど、こういうとこはなんか可愛い。

 ま、まあバレンタインも悪くない……かもな?

 アカネとも出会えたし。


 こうして俺がアカネに恋をするキッカケともなったバレンタインが静かに終わりを迎えるのだった。



 ――と思いきやその夜。

 

「ぐあああ、なんだこれめっちゃ辛えええええ!」


 ユズのほうを見るとしてやったりという顔でこっちをみている。

 さてはチョコに唐辛子でもいれやがったな?

 そ、そういえば去年もワサビと塩昆布が入ってたような……。


 全く学習しない俺なのであった。

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