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あさくら!  作者: なる。
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06 いざ突入!

 緊急会議が開かれた同日、午後九時。

 当然辺りは真っ暗で、街灯こそ立っているが十分な光量は得られていない。人の顔を判別するくらいなら問題は無いが、本を読もうとすれば難しいだろう。いや、この状況で本を読み出すヤツもいないだろうが。

 それにしても、いざ夜の学園を目の前にしてみるとなかなか雰囲気があるものだ。

 久野々木学園の周囲には田畑や林、あとは道路があるだけでほとんど人気が無く、とてもではないが昼間には大勢の生徒で溢れていた場所だとは思えない。日常を過ごしているはずの場所が、夜というシチュエーションになっただけでこうも変わるとは知らなかった。

 ルウの手配によって開け放たれている校門も夜の闇の中では不気味なオブジェとしか捉えられず、独特の雰囲気を形作る一因となっている。なるほど、紅橋先輩があれほど怖がっていた気持ちも少しは理解できるかもしれない。


 そんなわけで、久野々木学園正門前に集まったアサシン倶楽部の面々。集合時間に遅れたヤツは一人もいなかった。別に遅れたところで罰があるわけでもないというのに、律儀なものだ。

 通常の登校ではないので制服を着る必要は無かったのだが、一応これも部活動の一環ということでルウから制服で来るよう言われていたため全員制服姿である。時間が時間だし、もしも警察官などに見つかった場合のリスクを考えると制服姿はマズイだろうということは一応ルウには伝えるだけ伝えたのだが、何やらこだわりがあるらしく頑として譲ってくれなかった。

 まあ、こんな人気の無い場所で誰かに見つかるも何も無いとは思うが……果たしてどうなることやら。



 「さてと! それじゃあ全員揃ってるし、時間もちょうど九時になったし、これより『アサシン倶楽部以外の七不思議は本当なのかどうかな? ドキドキワクワク大探索、みんなは仲良し虹色ドーナッツ作戦』を開始するよー!」


 「……作戦名変わってね? より酷くなってね?」


 「え、ダメ? 会議の時に言ったやつは少しダサかったかなーって思ったから改良してみたんだけど」


 「お前は改良って言葉に謝れ」


 「何で!? あたしそんなに変なこと言ってないよね!? ね、みんな!?」



 そう言ってルウは部員のみんなへと同意を求める視線を向けるが、無言で目を逸らす部員たち。その気持ちは推して量るまでもない。

 しかしテンション最高潮のルウはこの程度ではへこたれなかった。

 コホンと咳払いをして今の話を無かったことにし、本来予定していたらしい流れへと戻す。



 「え、えーっとそれじゃあ早速学園に侵入していくんだけど、今回は二つのチームに分かれて探索をしましょう!」


 「……あれ、全員で一つ一つ回るんじゃなかったのか?」


 「初めはその予定だったんだけど、明日も授業あるじゃない。だったらあまり夜遅くなるわけにもいかないし、二手に分かれて調査したほうが効率的でしょ?」


 「そりゃ効率的っちゃ効率的だけどよ……マズイだろ、色々」


 「え、何がマズイの? ミソラがいないから三人ずつのチームにはできなかったけど、ベストな案だと思ったんだけど。……あ、もしかしてジン、いざ夜の学校を目の前にして怖くなっちゃったとか?」


 「んなわけねえだろ。その、ほら……」



 言葉にするのも憚られたので、俺は視線を横へと向け、目でその理由を示してやった。



 「私とジン様を二人のチームにしないと殺しますの私とジン様を二人のチームにしないと殺しますの私とジン様を二人のチームにしないと殺しますの私とジン様を二人のチームにしないと殺しますの私とジン様を二人のチームにしないと殺しますの私とジン様を――」


 「人数は多い方が良いに決まってるというのに五人しかいないメンバーを二つに分けるだなんてとてもじゃないけれど正気の沙汰とは思えないわねいや私が怖いからこういうことを言っているわけではなくてもしもの場合の安全性を考えて発言してるのよ当然でしょ私がこわいわけがないわ幽霊なんていない怪現象なんてありえない世の中には不思議なことなど何も無くすべてが科学で解明できるのよそれ以外にありえないありえないありえないありえないありえないありえない――」



 真っ黒な笑顔で呪詛を吐き出し続ける宇都木と、真っ青な無表情でぶつぶつと自己暗示をかけ続ける紅橋先輩。

 そんな異様な様子の二人を見て、さすがのルウもたじろぐ。



 「怖い、怖いよこの二人! 七不思議とかよりよっぽど怖いよ! で、でもチーム分けしないと時間がかかるし……あたしどうすればいいの!?」


 「落ち着けよ。チーム分けはどんな方法でするつもりだったんだ?」


 「え、くじ引きだけど……」


 「それじゃダメだろ。この荒らぶる二人を見てランダムなチーム分けなんてできるか? だからな、ここはこういうチームで行ったほうが良いと思うんだ――」



 ルウに任せていると何やら後悔するような事態になるような気がしてたまらなかった俺は、問題児二人を抱えたこの状況でベストなチーム分けを考案し、ルウに進言してやった。

 するとルウもその案に大いに賛成してくれるということで、二つのチームのメンバーが決定される。

 このチーム分けならば誰からも文句は上がるまい。考え得る限り全員の希望を取り入れることのできた最高の案のはずだ。

 もし文句を言うヤツがいるとすれば――



 「な……な……何でですの!? どうしてですの!? 何故私はジン様と二人のチームではなく、鳴神先輩と二人のチームなんですの!? いえ二人きりでなくともジン様と一緒のチームですらないとはいったいどういうことなんですのー!?」



 ――やはり宇都木が騒ぎ出したか。

 その疑問には発案者である俺が答えるべきだろうと思い、憤怒の表情で今にもルウへと飛び掛りそうな宇都木へと説明をする。



 「宇都木、憤る気持ちはわかるが我慢してくれないか。これが現時点で考えられ得る、全員の希望を取り入れることのできた最良のチーム分けなんだ」


 「し、しかしジン様、全員の希望を取り入れたと仰りましたが私の希望はどうなりましたの!? 私は鳴神先輩と二人のチームなんて希望していませんでしたの!」


 「ああ、残念ながら俺の希望である『宇都木と二人のチームだけは絶対に嫌だ』との兼ね合いが難しかったから棄却された」


 「そんなバカなですのー!?」


 「まあまあ宇都木ちゃん、君がどれだけジンくんを好きなのかは周知の事実だけどさ、僕の美しさを間近で見られるんだからそんな寂しさなんてすぐに吹き飛――」


 「うるさいですの黙れですの話しかけないでくださいですの近づかないでくださいですの」


 「ねえ僕ってずっとこんな扱いなのかい!? いくら美しすぎるからといってそんな邪険にすることないじゃないかあ!」



 確かに、若干不憫ではある。

 しかし鳴神、俺の第二希望は『鳴神とも絶対に同じチームになりたくない』だったんだ、すまない。そしてそれは恐らく全部員共通の希望だったと思われる。

 やはりこのチーム分けが最良だったのだ。

 ……俺にとって。

 


 「じゃあ時間も時間だし、チームも決まったところで早速出発だよ! あたしたち三人のチームが比較的七不思議の多い東校舎を、宇都木たち二人のチームが西校舎と体育館を担当ね!」


 「ちょ、ちょっと待ってくださいですの!? 本当にこのチームで行かなきゃいけないんですの!? まだ私は納得してな――」


 「調査が終わったらここに集合ね! さあレッツゴー!」


 「あ、ちょ、浅倉さん――!?」



 そうして宇都木の抗議の声を背に受けながらも、ルウに手を引かれて俺と紅橋先輩の三人は夜の校舎へと向かって駆け出した。

 ……何故だろか、若干の嫌な予感を抱えながら。



 そんなわけで、七不思議編が始まっちゃいます。



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