女の全力でぶつかり男を完膚なきまでにやっつけた話
札幌駅のホームは、夕方のラッシュで黒い人波が渦を巻いていた。
冷たい風がコンクリートの隙間を抜け、吐く息が白く凍る。
私は大学生、佐藤あかり、21歳。
講義を終えてバイトに向かう途中、いつものようにこのホームに立っていた。
今日は少しだけ女の子らしくしたかった。
赤いカーディガンに、白いフレアスカート。
鏡の前で「可愛いかな」と呟いたときの軽い照れが、まだ胸に残っていた。
最近、この街に「ぶつかり男」が現れていた。
30歳くらいの男。
いつも黒い服にマスクとキャップで顔を隠し、若い女性だけを狙って肩をぶつける。
転ばせて、痛がる姿を見てくすくす笑う。
私は正直、最初は他人事だと思っていた。
自分は背が高いし、歩くのも速いから、「自分は狙われないだろう」と安心していた。
でも、友人がぶつけられて捻挫したとき、
許さない!って心から感じるようになった。
SNSを見てみると多くの被害者の声…
いつか私もターゲットにされるのかなと感じていた。
その日も、いつものように電車を待っていた。
赤いカーディガンが人混みの中で少し目立つ。
この日は、いつも以上に風が冷たくて、カーディガンをぎゅっと抱きしめていた。
突然、遠くで小さな悲鳴が上がった。
黒い影が女の子に肩をぶつけて転ばせている。
次の瞬間、また別の女の子が同じ目に遭う。
全身黒づくめの男はにやにやしながら、次から次へと女性を狙っていく。
そして、男の視線が私に止まった。
男の口角が上がる。
赤いカーディガンの女の子らしい格好の私を見て、獲物を見つけたような笑み。
黒い肩を前に突き出し、男が一直線に加速してくる。
距離、5メートル。3メートル。1メートル――
その瞬間、私の中で怒りが爆発した。
今まで見てきた全ての被害が、一気に頭の中で燃え上がった。
みんなの仇を取らなきゃ!
私は逃げなかった。
右足を大きく踏み込み、全身の力を右肩に集めた。
「負けてたまるか!」
赤いカーディガンが風を切り裂く。
――ドガァンッ!!
最初の激突。
私の赤い肩が、男の黒い胸板に正面からぶつかる。
赤と黒がぶつかり合う瞬間、鈍い衝撃が体を貫いた。
男の体が少し浮き、目が見開く。
「…!?」
男の突進は止まらない。
向きを変えてわざとらしく私にぶつかってくる。
「てぇぇぇい!」
左足で地面を強く蹴り、左肩をフルスイング。
赤い袖が翻り、再び黒い体に叩きつける。
――ガキィィンッ!!
金属のような衝撃音。
「ぐぉぉぉぉ、、、」
男の体が横に大きく傾く。
よろめいた瞬間、男が両手を伸ばして私を押しのけようとする。
私はその手を無視して、腰を低く落とし、体全体をバネのように縮めた。
赤いカーディガンがぴんと張り、スカートがわずかに揺れる。
そして、一気に相手に全体重をぶつける!
――ドゴォォン!!!
三度目の激突。
赤と黒が正面からぶつかり合った。
私の肩が男の胸に深くめり込み、男の体が2メートル以上後ろに吹っ飛ばすことができた。
ホームの端。階段の降り口。
男はよろめきながらも、怒りに燃えて再び突進してきた。
歯を剥き出し、唸り声を上げながら。
「てめぇぇぇ!!」
「女のくせに!絶対に許さん!」
その声が聞こえた瞬間、私は最後の力を振り絞った。
右足を地面に強く叩きつけ、体を45度捻る。
肩から肘、腰、足先まで一本の線にして。
息を吸い、吐きながら、魂の全てを込めて――
「女の全力を喰らえ!!」
「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
あたしの高い声が激突とともに響きわたる。
――バキィィィィン!!!
骨が軋み、砕けるような嫌な音が響く。
最後のぶつかり合いの結果は「赤」の圧勝だった!
ぶつかった瞬間に男の体が大きく仰け反る。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ、、」
「おっ男の俺が、、、こんな女に、、」
勢いそのままに足が階段の段差に引っかかった。
そして
ゴロゴロゴロゴロゴロ……!!
男の体が階段を転げ落ちていく。
「しっしまったぁぁぁぁぁぁぁ」
響きわたる低い声とともにさらに転げ落ちていく。
最下段で――ドンッ!
頭からコンクリートに叩きつけられた。
男はうつ伏せに倒れたまま、激痛で体を激しく痙攣させた。
倒れた瞬間、男の口から絶望的な悲鳴が飛び出した。
「ぎょぇぇぇぇ……! 助けてくれー……!!」
男の目からは、涙が溢れ出している。
いつも若い女性を弱いものとして舐め、転ばせて笑っていた大人の男
今、女の子らしい格好の女子大生に何度もぶつかり返され、階段に転がり、泣き叫んでいる。
「なんで……俺が……こんな若い女に……」
遅すぎる後悔が、顔を激しく歪め、涙を止めどなく溢れさせた。
私は階段の上から見下ろし、息を荒げながら、魂を込めて叫んだ。
「あんたのこと、絶対に許さないから!」
「2度と女を舐めんなよ!!」
その声が、ホーム全体に轟いた。
一瞬の静寂の後――
「よくやったね!!」
「ありがとう!!」
「私もあんたを許さない!!」
周りの女性たちが私の声に応えてくれた。
拍手が爆発する。
涙を浮かべた女性、拳を握った女性、スマホを構えて撮影する女性。
女性の強い結束を感じた。
すぐに駅員が駆け寄り、男を拘束した。
男は担架に載せられながら、涙を流し続け、体を小さく震わせていた。
痛みと後悔に、男の黒い体が小さく縮こまっていた。
赤いカーディガンの袖をつまみながら、女として最低男をやっつけたことをひしひしと実感した。
黒を吹き飛ばしたこの赤が、なんだか誇らしい。
今日は赤を選んで本当に良かった。
事件から三日後。
大学の講義が終わった後、私はいつものカフェで待ち合わせをしていた。
あの時の赤いカーディガンにもう一度袖を通した。
「あかり、ほんとにあんただったの!?」
友人の美咲が、目を輝かせて駆け寄ってきた。
彼女は先月、ぶつかり男に肩をぶつけられて捻挫した子だ。
「ニュースで見た瞬間、絶対あかりだって思った! 赤いカーディガンの女子大生が友人の仇で反撃したって書いてあって……」
周りのテーブルに座っていた女子学生たちも、スマホを片手にこちらを見ている。
「すごいよ」
「怖くなかった?」
「私も同じ目に遭ったことある……」
次々と声がかかる。
私は少し照れながらコーヒーをかき混ぜた。
「正直、めちゃくちゃ怖かったよ。
でも、あの瞬間、美咲や女性のみんなの顔が浮かんで……もう我慢できなかったんだ。」
美咲が目を潤ませながら言った。
「ありがとう。あかりがやってくれたおかげで、駅に行くのが少し楽になった。
他の子たちももう大丈夫って言ってるよ。」
その夜、自宅の部屋でスマホを開くと、SNSではまだ話題が続いていた。
「赤いカーディガンの女子大生、かっこよすぎる」
「女の子らしい格好で堂々と立ち向かう姿に勇気もらった」
「ぶつかり男、逮捕されたらしいね。二度と現れないといいけど」
私はベッドに横になりながら、小さく微笑んだ。
あの男は今、どうしているだろう。
痛みと後悔に震えながら、担架の上で泣いていた顔が、ふと頭に浮かんだ。
可哀想だと思う気持ちと、でも「当然の報いだった」という気持ちが、胸の中で混ざる。
私はカーディガンの袖をそっと握った。
もう、誰かが同じ思いをする必要はない。
女の子らしい格好をしていても、女であることを理由に舐められる必要はない。
赤いカーディガンを着たまま、私は静かに呟いた。
「女は、強いんだよ」
窓の外では、札幌の夜の灯りが優しく揺れていた。
最後にひとこと!
ぶつかり男は滅んでしまえ!




