1 「太陽を隠そう」としていたビル・ゲイツ氏
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は気候変動(地球温暖化)に対して尽力してきた実業家で慈善家のビル・ゲイツ氏が従来の環境保護活動から「転換」することについてと、「気候変動ビジネス」、そしてゲイツ氏の「次の目標」について語っていこうと思います。
質問者:
ビル・ゲイツさんと言えばマイクロソフトの共同創業者として有名ですけど……そんなに環境保護活動に取り組まれていたのですか?
筆者:
ゲイツ氏はファンドやプログラムを合わせて累計数8000億円ほど投資していると言われています。
最も大きなプロジェクトとしてあったのは『気候工学』です。
これは1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火した際には、15か月後に世界気温が0.6度低くなったというデータから「太陽を隠すことで気温を下げることができるのではないか?」という発想をもとに始まったプロジェクトです。
そのために「太陽ブロックプロジェクト」とも呼ばれていました。
具体的には「成層圏」と呼ばれる高度10キロ~50キロとジェット機が飛ぶよりも高いところへ微粒子を注入する方法を検討していたようです。
質問者:
えっ……そんな大胆な方法で地球の気温を下げようとしていたとは……。
筆者:
2021年6月に、スウェーデンでゲイツ氏が出資した気候工学による大規模実験が始められようとしていました。
ところがスウェーデンの先住民の団体や環境団体か
「実際に物質を撒かなくても、潜在的に危険で、予測不能で、管理不能な技術の使用に向けた最初のステップになる可能性がある」
「自然と調和したゼロカーボン社会を目指すという、今すべきことに反している」
「オゾン層破壊などのリスクもある」
といった反対の主張をしてゲイツ氏の計画を頓挫させました。
ゲイツ氏はこのように目立った成果を挙げることは出来てはいなかったようですが、精力的に気候変動対策のための活動や発信を続けていたのは間違いなさそうです。
質問者:
そのビル・ゲイツさんがどのように方針転換したのでしょうか?
筆者:
『ビル・ゲイツ氏、気候変動対策について驚くべき主張を展開』
という、CNN日本語版の10月29日の記事から抜粋しますと、
『米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏は28日、気候変動対策への資源投入をめぐり転換を主張するエッセーを発表した。炭素排出削減の代表的な提唱者であるゲイツ氏の主張は、気候変動がもたらす終末論を唱える活動家らに対する驚くべき重大な反論として注目を集めている。
ゲイツ氏によれば、世界の慈善家たちは、病気や飢餓の予防に向けた取り組みへの投資を増やすべきだという。
気候変動は人類を滅ぼすものではなく、炭素排出ゼロを目指した過去の取り組みは実際に進展を遂げてきたとゲイツ氏は主張する。しかし、気候変動対策に向けられたこれまでの投資は見当違いであり、高額で疑問の余地のある取り組みに投じられた資金はあまりにも巨額だったという。
気候変動対策への投資は継続すべきだとしながらも、ゲイツ氏はトランプ大統領による国際開発局(USAID)の廃止は、より緊急性の高い問題を脅かすと訴える。世界中の飢餓や予防可能な病気との闘いに、取り返しのつかない損害を与える恐れがあるという。
トランプ政権の資金削減によって、放棄された取り組みを支援するための投資と資源についてただちに、かつ今まで以上に重点を置く必要がでてきた。ゲイツ氏はそう主張する。
「気候変動は深刻な影響を及ぼすだろう。最貧国の人々にとってはなおさらだ。ただし人類の滅亡にはつながらない」「これは、排出量や気温変化よりもさらに重視すべき指標、つまり生活の向上に再び焦点を当てる機会だ。私たちの最大の目標は、最貧国で過酷な状況にある人々の苦しみを阻止することであるべきだ」(ゲイツ氏)
ゲイツ氏の衝撃的なエッセーは、来月予定されている気候変動会議(COP30)に先立ち発表された。
ゲイツ氏は、今回の新たな立場について、過去の立場からの転換を示すものではないとしている。エッセーの中で同氏は、炭素排出ゼロに向けたこれまでの努力は引き続き支援されるべきだと述べている。』
と、「気候変動対策に向けられたこれまでの投資は見当違い」や「温暖化への取り組みは依然として重要だが、気候変動が人類の滅亡につながることはない」との見解を明らかにし、「資源が限られている以上、最優先課題の貧困と疾病撲滅に資源を振り向けるべき」としたのです。
質問者:
なんと……気候変動に尽力してきたのは「地球の危機」だからではなかったのですか?
個人では最もお金を出してきたでしょうに「投資は見当違い」って……。
筆者:
そもそもゲイツ氏はプライベートジェットで1日1度以上の頻度で移動していること、
6000平米の自宅に加え、いくつかの大豪邸を保有していることも自身が行っている温暖化対策に逆行していると非難の対象になっていました。
またゲイツ氏が代表となっているゲイツ財団は石油、石炭会社の株式を保有し、多くの化石燃料関係企業に投資している投資家ウォーレン・バフェットが持つバークシャー・ハサウェイの大株主とも報道されているために「偽善ではないか?」ということも言われてきました。
他の理由もあるのではないかと後にも考察しますが、こういった批判をかわすためや、気候変動対策に力を入れていたUSAIDなどをトランプ政権が解体したことから、軌道修正を行ったのではないかと推察されます。
質問者:
あれほどお金持ちで有名人ですと一挙手一投足が注目されますからね。
トランプさんは政治的な敵に対して厳しそうですから、このタイミングが「損切り」と判断されたのかもしれませんね……。
筆者:
大規模プロジェクト以外でお金を得ているかもしれませんから、損をしたかどうかまでは分かりませんけどね。
次の項目からはゲイツ氏が指摘していたように「現状行われている気候変動対策がいかに見当違いか」について考えていこうと思います。




